さよならじゃないよ
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そうして、再びキッと友理は滴を睨み付ける。
その時だった。
「待ってください……!」
なにやら黒と白のボールが、3人の間に転がり込んできたのだ。よく見ると、それは、行方不明になっていたスノーとアンバーであった。
スノーとアンバーは立ち止まると耳をピンと立て、友理の方に向き直る。
「……な、何故です……!? あなた達は、わたしの……」
仲間でしょ、と友理は小さく呟く。
「ええ、先ほどまではです。私とアンバーを騙しておいて、仲間なんてよく言えますね?」
「大量の人参に釣られる訳ねーだろ?」
「……いや、釣られてましたよね……」
「……つ、釣られてなんかない」
そんなやり取りをした後、アンバーが滴たちに叫んだ。
「おい、テメェーら、今のうちに逃げちまえ! そこに元の世界に戻るための穴を用意しておいた。今なら帰れるっからな!」
滴は、突然現れたアンバーの言葉に一瞬呆然とする。
戻れるということは、ここの世界から出られると言うことだ。
アンバーが指差す方向には、確かに黒い穴があった。光を一切感じられない黒い穴だ。それが、空中に浮かんでいる。
「皆、行こう!」
滴はそう言ってから5人をみて、目を見開いた。まだ寝ていたのだ。急いで起こそうとするが、何故か5人は、目を覚ます気配がない。
「お、起きて!」
滴が慌てて叫ぶと、五人はうっすらと目を覚ました。
「あ、滴……。どうしたの……?」
未だに寝ぼけている5人に、滴は黒い穴を指差し、説明した。つまり、あそこから帰ることができるのだと。
五人は、状況に頭がついていけず、しばらく唖然としていたが、少し経って、ようやく状況を理解したようだ。
「あれに入れば、帰れるってことなのっ!? じゃあ、早く戻ろうよ、私たちの本当の世界にさっ」
紗季は、嬉しそうに黒い穴に向かって駆け出していく。他の4人もそうだった。
だが、入る直前、波がふっと口を開いたのだった。
「……こ、これって、元の世界に戻ったら、私たち、もう会えないんだよね……」
「……」
「そっか……。そんなの、愛、嫌だよ……」
そうなのだ。皆住んでいる場所はバラバラである。会える確率は限りなく低いだろう。愛は、語尾伸ばしを忘れて悲壮な声を漏らした。
「だ、大丈夫だよ、きっと。だって、会えなくたって住んでる世界は一緒でしょ? 私たち、もう心友でしょ? だったら、同じ世界にいるって思うだけで、十分だよ。皆の事、大好きだもん!」
プリちゃんが、くしゃりと顔を歪ませて笑う。
「そうだな……、同じ世界に住んでるんだからな」
「……うん! 愛も大好き!」
そうして、滴たちは手を繋ぎ、笑顔で黒い穴へと向ったのだった。
目を覚ますと、そこはベットの中だった。
窓を見ると、外は雪が降っていて真っ白である。
自分の部屋から出て、滴は母の元へと行った。
「あら、滴、おはよう」
母の手には、原稿用紙の束がある。どうやら、年末の片付けの途中のようだ。題名は「嘘の嘘 本当の本当」
母の膝の上のアルバムの表紙には「胡桃 ~高校~」
よく見ると、母の高校時代の写真の中に、あの5人にそっくりな少女がいる。
「お母さんね、謝りたい人がいるの」
読んで下さりありがとうございました。少し謎を残してですが、ここで最終回とさせて頂きます。もう一話と思っていましたが、今回でそうさせてもらいました。
今まで応援して下さった方々、本当にありがとうございました!




