迷子
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その日の夜、それにしても不味かったよねー、とプリちゃんと、滴の部屋で笑い合っていた。
「異物混入してたのかも!」
「絶対そうだって」
あのあと、辛うじてお腹は壊さなかったが、愛と光の喧嘩を止めるのが大変だった。そう、滴が二人を置いてきぼりにしてしまったためである。それについては、滴も反省していた。
「だってあの味は凄いよ?」
滴達の笑い声は絶えることがない。
翌朝、滴達はアナウンスによって目を覚ました。
「おはようございます。昨日は大変楽しくお過ごしになったようですね。羨ましい限りです。そうそう、今日は報告をしに来ました。玄関にドアを、部屋や通路には窓を設置したので、今日は皆でお出掛けされたらどうですか? では、引き続き…」
「──待って」
滴は朝の動かない頭を総動員させて、相手を呼び止めた。一昨日名前を聞くと決めてから、ずっとアナウンスをまっていたのだ。
「あなたの名前を教えて?」
少し威圧感を出しながら低めの声でいう。
「分かりました。でも、あなた達にお教えすることは出来ません。そのうち言うと思うので、それをお待ち下さい」
「……はい」
全くの期待はずれだった。
聞きさえすれば、簡単に教えてくれるものだとおもっていたのだ。
「では、引き続き頑張って下さい」
アナウンスは切れた。
そして朝ごはんの時間、たべながら紗季が外に出ようと提案する。
「いいんじゃないかな?」
滴も賛同した。
ずっと家の中で遊ぶのも嫌なのだ。
「じゃあ、ご飯食べたらすぐ行くよ!」
紗季がニシシと歯を見せて笑った。
「お待たせー!」
荷物を持って玄関に向かうと、滴が最後だった。
「……遅い」
光はお怒りのようだ。
ごめんね、と軽く苦笑いをする。
「んじゃ、早くいこ?」
紗季がドアを開けると、そこには絵にかいたような綺麗な景色が広がっていた。コンクリートやアスファルトの色に慣れた私達現代人にとって、その景色はあまりに美しく見えたのだ。
外は全く舗装されていず、ただ大きな木々と青い空があった。空は向こうの世界よりも明るく青い。
「行こう……!」
ちょっと嬉しそうに波が言う。
「うん」
返事をして、滴達は歩き出す。
しばらく歩いて、プリちゃんが声をあげた。
もうなんだかんだ言って3時間も歩いている。
「ねぇ、ごめん。ちょっと休も?」
「さ、賛成!」
近くにあった大きな岩の近くで足を休める。
「……なぁ、来たは良いけどちゃんと戻れるのか? 地図もないし、他の人も見当たらなくちゃヤバイんじゃないのか?」
光は他の子とは違い、疲れた様子もなく言う。
どこか運動部に入っていたのだろうか。
「さ、探してればなんとかなるさ!」
紗季、そんな言い方したら迷子になったって決定じゃん。まぁ、もう迷子になってるってわかってるけど。
滴は小さくため息をつく。
本当に帰れるのかなぁ……。
小説の主人公達は、このまま歩いて夕方に町を見つけていた。このまま歩いていれば、どうにかなるのだろうか。
「とりあえず歩こう? 町とか見つかるかもしれないし」
小説通りに事が進むとは限らない。けれど、引き返すことももうできない滴達は、進んでいくしかないのだ。
読んで下さってありがとうございます。
今回6人は迷子になってしまいました。そりぁあ、地図も持たずに歩き出したら当たり前です。
今後も宜しければ応援宜しくお願いします!




