恋とはなんぞや? ~リチャードとセレネの恋模様?~ 4
俺に居丈高に怒鳴ってきた男以外を黙らせると、その男に一歩近づいた。
男は無意識に一歩さがる。
「お前、誰に向かってこんなことしているのか、わかっているのか」
震えた声で言われても全然怖くもなんともないけどな。
俺はニヤリと笑ってやった。
「そっちこそ、間諜とちゃんと連絡取らないと駄目だろう」
「な、なんのことだ」
あーあ、こいつも駄目じゃん。
そんな簡単に動揺しちゃあ。
何か、尋問するだけ無駄かな。
こいつは何も考えずに命令だからと従っただけっぽいな。
「お前、小物だな。そうでなきゃ俺が誰か知ってるはずだ」
「何を訳分かんないことを言ってるんだ」
ダ~メだこりゃ。
「寝てろ」
俺は一言そう言うと、雷の魔法を放った。
それから糸を取り出すと魔法で倒れたやつらの身体に巻き付けていく。
端をランスの鞍に結び付けると、ランスの首筋を軽く叩いた。
「頼むぞ」
ランスは嘶いた。
集会所に戻ろうとしたら、村長と村の男たちが4人こちらに来るところだった。
倒れている集団を見て、驚いている。
「そっちは?」
「はい。彼らは縛り上げて見張らせています」
「そうか」
「あの、そのままでいいのですか」
俺よりも若そうな男が聞いてきた。
「大丈夫だ。糸で縛ってあるから」
「糸ですか」
「特殊な糸だから、簡単には切れないよ。それにランスがいるからこいつらを逃がすことはないから」
「でも、見張ってないと」
「それも大丈夫。もう少ししたらうちの私兵が来るから」
そう言ったら、倒れてる男たちが俺の方を見てきた。
居丈高男じゃない、別の男が声を掛けてきた。
「あ、あんた、何者だ」
「間諜の前で、ちゃんと自己紹介したんだけどな。リチャード・ヴェンデル・フォングラム。現フォングラム公爵家当主、フィリップ・アルフォンス・フォングラムの嫡男だ」
俺に名を聞いた男は驚いた顔をしたあと、顔をしかめて悪態をつきだした。
「だから、嫌だったんだ。こんな奴の下につくのは。こいつの下でなけりゃこんな命令を受けなくて済んだのに」
おや~。こいつはただの下っ端じゃないのか~。
「もしかして、お前さんはこいつの副官だったりするのかな」
その男は一瞬しまったという顔をしたけど、すぐに表情を消した。
おおっ。なんか、出来る奴っぽいじゃん。
「なあ、ちょっと命令の内容教えてくれない。そうしたら悪いようにはしないから」
男は無表情でいようとしているようだが、瞳に表情が現れている。
しばらくして、何かを決意したように俺の目を見る。
「本当に悪いようにしないんだな」
「ああ、もちろん」
「おい、服務規程違反で」
「あんたは及びじゃないから黙ってろ」
居丈高男は俺の一睨みで押し黙った。
「あなたが推測したように私はこの男の副官です。私はどんな処罰でも受けますから、彼らを、部下を助けてください。それを約束していただけるのでしたら、私が知っていることはすべて話します」
「待ってください、副官。あなただけを犠牲にして我々だけ助かりたくありません」
「そうです」
「副官。我々は死など恐れません」
「どうせ、この任務は成功しても失敗しても同じことじゃないですか」
「そうだぞ」
「だけど、お前たちだけでも生きて、生き残ってほしい」
わあわあ騒ぎ出した男たちに、副官の切実な言葉が彼らを黙らせる。
「だけど、失敗がばれた時点で、家族は・・・」
彼らの中で一番若い男が涙をこぼしながらつぶやいた。
その声が聞こえた男たちは一様に辛そうな顔をした。
この遣り取りだけで彼らと家族になにが起こっているか分かろうってものだ。
おや、居丈高男も辛そうな顔をしているってことは・・・。
「おい、まず、これだけは教えろ。お前たちは命令元とどうやって連絡を取っていた。命令の内容は。で、どうなったら失敗認定されるんだ」
居丈高男と副官が目を(ちょうど顔が会う向きで転がっている)見合わす。
「それを聞いてどうするんですか」
静かに居丈高男が訊いてきた。
な~んだ。ちゃんと状況把握できる奴じゃん。
「素直に答えてくれたら、お前たちを正しい主の元に帰してやる」
「はっ?」
副官は何を言っているんだという顔をしている。
だが、居丈高男、隊長は目を瞠った後、俺を真剣な目で見つめてきた。
「本当ですか。あの方に会えるのですか」
「悪いが、それは今は言えない。だが、この命令が不本意なら教えてほしい」
しばらく見つめ合った後、彼は息を吐き出した。
「わかりました。私が知っていることはすべて教えます」
そして、彼らはキュベリック国王アラカタル・クエンサー・キュベリックの命令で、この村の住人のオラクル・スタンリーを捕らえるようにいわれたこと。もし抵抗されたら村民を皆殺しにしてもいいという許可が出ていること。失敗はオラクル・スタンリーを捕らえられない時とこのように捕まった時。連絡の方法は定期的に鳥で作戦経過を送ること。を話した。
「それで、お前たちの家族が人質になっていると」
俺がそういうと彼らは頷いた。
「わかった。悪いようにはしないから。それで、次に連絡の鳥を飛ばすのは何時だ」
「この村に向かう前に飛ばしたので、明日の朝に」
「夜には飛ばさないのか」
「緊急の時以外は飛ばしません」
「予定が変わった場合は」
「その場合は様子を見てから知らせます」
「ふ~ん。さっきは何て送ったんだ」
「今から村に向かうと」
「じゃあ、村に領主が役人を送っていたって、飛ばしてくれないか。今日は作戦決行できないってさあ」
「わかりました」
隊長の拘束を解いて手紙を書かせる。
村長たちが何か言いたげに俺を見ていた。
俺は彼らに見えないように村長たちに声を出さずに口を動かして言葉を伝えた。
彼らは頷くと村長だけ集会所に戻っていった。
手紙を書き終わり彼は笛を取り出して吹いた。その音にひかれて1羽の鳥が彼のもとに来た。
鳥の足に手紙を結び付けると隊長は空に放った。
俺は魔法で糸をほどき彼らを拘束し直す。
糸が彼らから離れた時、誰も逃げようとはしなかった。
隊長と副官だけ村人が持っていた紐で縛り、全員を連れ集会所にいく。
集会所では、拘束された8人が連れてこられた彼らを見て、落胆していた。
全員を前に並べ、懐より魔石を取り出し俺は話し出した。
「私は現フォングラム公爵家当主、フィリップ・アルフォンス・フォングラムが嫡男、リチャード・ヴェンデル・フォングラム。この村は我がフォングラム公爵の領地である。この者たちは武力と奸計でもってこの村を襲おうとした盗賊団だ。村人の協力により捕縛と相成った」
「え、あの、それは」
何か言おうとする隊長に、魔石を持っていない方の手の指を一本口に当て、黙れの合図を送る。
「村人に怪我人はいない。他に酷い被害も受けていない。話を聞けば、彼らは先ほどの魔物の発生により村を襲われ逃げ出してきた者たちとのこと。女子供はここより離れたところで待っているそうだ。この村は数年前に疫病の発生により壊滅状態に追い込まれた村である。子供が生まれて村人が増えたとはいえ、まだまだ最盛期の頃より人口は少ない。よって今まで、税の徴収を免除してきた。だが、村人の同意を得られれば、彼らとその家族をこの村に迎え入れたいとおもっている。以上」
そう言ってから、魔石を懐にしまう。
セレネがそばに来た。
「なーに言ってんの」
「まあ、建前。たてまえ」
とニヤリと笑う。
「何が建前ですか」
集会所の入り口から声がした。
現れた人影に俺は手を振る。
「おう。早かったな、ユーリック」
「早かったなじゃないでしょう、リチャード様。ユーゲリック・ベイグリッツ隊長の娘さんを迎えに行くと、勝手に軍から離れたと思ったらこの村まで来いなんて。いい加減にしてください」
「はは、怒られちゃった」
と、セレネにおどけてみせる。
「リチャード様」
「まあ、怒るな。で、なんかわかったか」
「とりあえず、この村のことはあなたが話したようなことですね。今から25年前に疫病が流行って住人を治療のためにフォングブルクに移動させてます。しばらく廃村としてましたが、17年前に今の住人が移り住んでますね」
「あー、やっぱり、親父たちが絡んでるか」
「はい。そのようです」
「ねえ、何のことなの」
ユーリックに調べさせたことをきいていたらセレネが訊いてきた。
いや、集会所にいる皆が聞き耳を立てている。
俺は頭を掻いた。
さて、どこから話したものか。
「えーと、こいつは俺の侍従でユーリック・コモナーっていうんだ。この村のことを調べさせてた」
「えっ。調べるの早くない」
「あー、その、この村に来る前に頼んだからな」
「はあ~?」
「いや、だから、ベイグリッツ隊長と話していた時にきいたこの村の位置が、どうもフォングラム公爵領っぽいけど、今までそんな村の名前は訊いたことがなかったから調べさせたんだけど、な」
「・・・そんなこと一言も言わなかったじゃない」
「だから、あの時はこんなことになるとは思わなくて、村に戻って聞いた方が早いな~と」
「こんの、ペテン師」
「別に騙すつもりはなかったってば」
「じゃあ詐欺師」
「詐欺ははたらいてないってば」
「・・・うそつき」
「嘘もついてない」
「あの、リチャード様。痴話喧嘩してないでくれますか」
ユーリックが言葉を挟んできた。
「「痴話喧嘩なんてしてない(ぞ)」」
セレネと言葉が重なった。
なんか、周りが呆れたように俺たちを見ていた。
「悪い」
「いえ、こちらこそ。すみません」
一回深呼吸をすると俺は話しだした。
「えー、改めて状況の確認をしていきたいと思う。まずは、そこの襲撃者及び協力者たち。お前たちはキュベリック国民でいいんだよな」
「はい」
「なんのことだ」
村の外から来たやつらは素直に認めたが、村にいたやつらは寝耳に水の話のようだ。
まあ、そうだよな。
だが、時間がおしいので無視することにする。
「それで、国にいる家族を人質に取られていて、無謀な命令に従わざるえなかったと」
襲撃者たちは頷いた。村にいたやつらはそんな奴らを睨んでいる。
「あと、これは俺のカンなんだが、お前たちは前王国のタラウアカ王家に忠誠を誓ってるんじゃないのか。だから、タラウアカ王国の近衛騎士で現在オラクル・スタンリーって偽名で村長をしている彼が、第3王女を殺して逃げたときかされて、敵を討とうとしたと」
「「「なぜ、それを」」」
おーお、見事にはもりましたね。村長に、隊長と、襲撃者たち。
他のみんなも口が開いてますよ、っと。
「襲撃者諸君。結論からいうと、彼、えーと本名が分からないから、村長で。その村長は第3王女クリシュナ様を守って、この国リングスタットのフォングラム公爵家に庇護を求め、今ここにいるんだ」
「うそだ。そいつは嘘をついてるんだ」
村にいた男がわめいている。こいつはこの村にいたのになんで知らないんだ。
俺は隣にいたセレネに小声で訊いてみた。
「もしかして、この村の人全員がセレネのお母さんのこと知ってるわけじゃないのか?」
「そう。国を出た時は近衛騎士数人だけだったってきいてるわ」
はあ~。確かに知ってる人間が少ないにこしたことはないけどな。
それで、擬態した王女のことがわからなかったと・・・。
「バラすけどいい」
「うん」
よし、了承を得たぞ。
「村長。よければタラウアカ国を出た時の話を聞かせてもらってもいいか」
「はい。私の名前はスタン・ベッケンといいます。リチャード様が推察したように近衛騎士をしておりました。あの日私達は国王陛下にクリシュナ王女を連れて逃げるように言われました。そしてフォングラム公爵家を頼るようにと言われたのです。本来ならば第1王女が嫁がれたバレンクルス国に向かうべきでしたが、王命でしたので、リングスタット国に向かいました。その途中で知らせをきいて国に戻られた第1王女も命を落としたことを聞きました。リングスタット国に入るときに追手に追いつかれましてが、ユーゲリック・ベイグリッツこと、ランドルフ・シェリー・パドロフ公爵子息が助けにこられて、無事フォングラム公爵領にたどり着きました」
恋とはなんぞや? 4話です。
さて、リチャード様大活躍です。
う~ん。なんか補足あったかな?
あ~、彼! 彼です。
本編の執事長のユーリック・コモナー氏。
やっと彼の本当の姿が出せる。
本編はまだ、「おかえりなさいませ」辺りしかしゃべってないものね。
まあ、フォングラム公爵家の使用人が使えないわけないですよ。
彼については色々あるので、う~んと7話だったかな?
その回の後書きで補足することがあればします。
他は~、襲撃者たちはまだいいかな。
というか、語ってるよね。
分からなければ質問ください。
それでは、次話で。