恋とはなんぞや? ~リチャードとセレネの恋模様?~ 3
この世界の成り立ちに関わる話なのに、セレネはよくついてきていると思う。
俺だってちゃんと理解するようになったのは16歳の時なのに。
「ここまではいいか」
「ええ、なんとか」
「まあ、また、詳しいことは後で教えるから。それで、タラウアカの名の意味については訊いているのか?」
「たしか・・・豊饒の地とか・・・」
「そうだ。タラウアカは正確にはタラ・ウ・アカ。神の言葉だから人間には発音しにくいな。この国は今はリングスタットと云っているが、もともとは、ラシェンドリットと云って、神々の盾ということらしい」
「ラシェンドリット・・・7番目の聖王家の名前」
「何だ、知ってたのか」
「いつの間にかなくなってしまったって母さんが言ってたわ」
ああ、知識の元は第3王女か。
まあ、隠したことはうちの王家しか知らされてないからな。
「詳しく話すには時間が足りないから省くけど、女神の指示でラシェンドリットからリングスタットに改名したから、王家の加護は持っているんだ」
「女神の指示・・・」
「で、こっちの事情は、リングスタット王家にも魔の手が伸びてきているってことだな」
「はぁ?」
「世継ぎの王子がいて何人か子供がいれば、普通は考えないことなんだろうが、リングスタット王家にはこの3代、男子は1人しか生まれていない」
それがなんだという顔をしているな。
タラウアカ王家は生まれた順に王位継承権がついたからな。
「リングスタット王家は男子のみが王位に就けるんだ。もし、男児が産まれなかった場合は王女と結婚したものが仮の王位につく。そして、その子、男児が成人したら、王位をその子に返上することになっている。もし、王に子供が生まれなかった場合はその時に一番王家に血の近い公爵家から王を排出することになっている」
「ええっと・・・」
「一番近い血というのは、この国の公爵家に一代につき一人王女が降嫁するからだ」
セレネは何か言おうと口を開けたが、言葉が見つからないのか黙ってしまった。
「だが、今の王までに3代、男児は一人のみ。そうすると、王位継承権は王子、王の姉妹が嫁いだ家の子供、王の叔母が嫁いだ家の子供と孫、という順になっている」
ここで、一度言葉を切っておく。
セレネがゴクンと唾を飲み込んだ。
「今の王の妹が嫁いだのが、フォングラム公爵家で、その子である俺は、第2王位継承権をもつことになるな」
セレネは口をパクパク開けた。
だが、意味のある言葉はでてこない。
「ユーゲリック・ベイグリッツ隊長は王国軍に所属している間にこの国のことを調べていたんだろうな。本当なら、俺はあの戦いに参加するはずじゃなかったのだが、何かの作為が働いてな。勅命として俺の参加が決まってしまって行かざるえなかった。そして」
「まっ、待って」
「ん。どうした」
「あなたは、王位継承権第2位って・・・なんでこんなところにいるのよ」
「あー。ベイグリッツ隊長に頼まれたのと、王命だから」
「いや、おかしいでしょ。なんで1人なの。護衛は? なんでいないわけ?」
「必要ないから」
「必要ないって・・。普通隠れてでも1人か2人はつくものでしょうが」
「だから、ランスについてこれる馬はいないから」
「それにしたって・・・」
セレネは頭を抱えてうなりだした。
これ以上は話を聞いても理解出来ないだろうな。
「じゃあ、とりあえず話はここまでにするか」
「えっ。あっ、そう・・・ね」
セレネは頷いたが混乱しているのか、視線があっちこっちに行っている。
結界を解き、ランスを呼んで、セレネを乗せ、俺も彼女の後ろに跨った。
そして、ランスを来た方向に駆けさせた。
セレネが慌てたようにこちらを向く。
「方向が違うわよ」
俺はランスのスピードを落とし、話しをするために歩かせた。
「こっちであってる。村に戻って話を聞こう」
「なんで。王命でしょ。急いでいたのじゃないの」
「あー、それは・・・悪い。確かに王命なんだけど、そこまで急ぎじゃない。というか、遠征軍は馬車を抱えているからそんなに早く移動できないから、もう少し余裕があるんだ。」
「・・・じゃあ、なんであんなことをしたの」
「村単位で隠し事をしているのがわかったから、ちょっと揺さぶりをかけたんだ。しっぽを掴む前に、セレネに引き離されたけど」
「・・・なんて人なの」
「それは、セレネの方だろう。・・・だけどなぁ~。う~ん」
「なんなの。はっきり言ってよ」
「う~ん。そのな、な~んかやばい気がするんだよな」
「やばいって、何が」
「さっきも言っただろ。今回の魔物の討伐に俺は参加するはずじゃなかったと」
「ええ、訊いたわ。それと何が関係してるの」
「そうさせたものが、セレネの一番の守りになる隊長を排除したのかもしれなくてな」
「それって、考えすぎじゃないの」
「不安要素は取り除くに限るだろう。それに、あそこは、うちの領地なんだよなぁ~」
「えっ。そうなの?今までそんな話を聞いたことないわ」
「そうなんだよなぁ~。俺も今回ここに来て驚いたんだけどな。・・・ということは、やはりなんかあるな。次の休憩までちょっと急ぐぞ」
「わかったわ。じゃあ、魔法を使ってもいいかしら」
「ん?なんの魔法だ」
「うちの秘伝で重さを感じさせなくするものよ」
「それって、どういう魔法なんだ」
「言葉のとおりよ。私達の体を浮かせて馬の負担をなくすのよ。かれが感じるのは鞍の重さくらいね」
「それはすごいな。じゃあ、なんでさっき使わなかったんだ」
「使えるわけないでしょう」
「そりゃ、そうか」
そうして、本気でランスを駆けさせて、行きの半分の時間で村に戻ったのだった。
戻ってきた俺たちに村人が集まってきた。
「セレネ、どうしたんだ。何か忘れものか」
「村長、みんなを集めてください。話があります」
「みんなを・・・。わかった、集会所に集まるように言ってくれ」
村長のオラクル・スタンリーは村人に指示を出し各家を回らせると、俺たちを集会所に案内してくれた。
中に入るとセレネの隣の家の女性がカップに水を入れて持ってきてくれた。
セレネが何か言いたげに俺を見たが、気が付かない振りをしてお礼を言ってカップを持ち、中の水を飲みほした。
その間にも村人が集まってきていた。
俺は腕組みをして壁にもたれ掛かりそれを見ていた。
セレネは村人に囲まれて、次々に話しかけられている。
お悔やみを言われているようだ。
その後、村人は俺の方に視線を向けてくる。
だが、俺に近づいてくる村人はいなかった。
集まった村人は58人。もちろん子供や赤んぼを入れての人数だ。
思った通り少ない。それに年齢が偏りすぎている。
老人と呼べる年齢の者が少なすぎる。
やはり何かがあったと見た方がいいだろう。
彼女が俺の様子を伺っている。
周りに気付かれないように伺っているようだが、俺に気付かれたんじゃ、何かあるって言ってるようなもんだぞ。
さて、どうしたもんか。
休憩の時にセレネと打ち合わせたけど、彼らが素直に話してくれるかどうか。
セレネがみんなの前に立った。
「皆さん、忙しい中集まってくれてありがとうございます。もう、お聞きになったと思いますが、父が今回の魔物の討伐で命を落としました。魔物は・・・駆逐できたそうです」
セレネはここで言葉を切り、顔をゆがませうつむいた。
周りには父の死を悼んで、必死に耐えているように見えるだろう。
セレネは顔をあげると続きを話し始めた。
「午前にこちらの騎士様が知らせに来てくれて、父の功績を讃えて国葬をしてくれることになりました。私も遺族として参加することになります」
また、言葉を切ると両手をギュッと握り締めた。その手ははっきりとわかるように震えている。
「一度この村を出発しましたが、私、知らない人ばかりなのは、その、やはり、怖くて・・・」
「セレネ。私がついて行くわ」
セレネの言葉に隣の家の女性、カリッサがすかさず声をあげた。
セレネは彼女を見た。微かに失望の色が瞳に浮かぶ。
「カリッサさん」
彼女、カリッサがセレネに近づいてきた。
それと同時に5人の男がさりげなくゆっくりと立ち上がる。
うち2人は扉の方に向かい3人が前に向かってくる。
はぁ~。どうしてこう、分かりやすいかな。
こんな簡単につり出されるなよ。
まあ、そっちも時間がないから仕方ないのか。
そっと耳の飾りに触れて魔封じ機能だけを切る。
そうして、少しずつ魔力を開放していく。
村の入り口にいるランスから、近づいてくる集団がいることを伝えてくる。
「セレネ」
カリッサがセレネに触ろうとして、シールドにはじかれた。
「なっ、なんなの」
俺はセレネのそばに行きセレネを庇うように間に入る。
「もう、やめておいた方がいいぜ。あんたたちの目論見はわかってんだからな」
カリッサの顔色が変わる。
お~い、カリッサさんや。そんなんじゃ間諜には向かないぞ。
「なんのことよ。私はただセレネを慰めようとしただけよ」
「ふ~ん。じゃあ、その左手に持っている針はなんなんだ」
カリッサが右手で左手を包み込み、俺から隠そうとする。
3人の男たちがカリッサに並び、彼女の腕を取った。
「カリッサ、残念だよ」
「おっと、あんたたちもおとなしくした方が身のためだぜ」
何か言おうとした男の言葉をさえぎってやる。
たぶんこいつらは、カリッサの仲間だろう。カリッサが失敗した時の代替え要員。
いや、こいつらが本命か。
「それと一応言っておくが、さっき飲み物に何か仕込んだようだけどきかないからな」
俺の言葉に男たちは短剣を取り出した。
「おーお、短絡的だねぇ」
俺はセレネを隠しながら男たちと対峙する。
こいつらは俺に神経を集中しているから、セレネが何をしているのか気がついていないようだ。
奴らの後ろで、村人が動いている。女子供を中心に男たちが周りを囲むように集まっているようだ。
「あんたたちにもう一度いうけど、無駄な抵抗はやめておとなしくしたほうが身のためだぞ」
村長を見ながら言ったら、何かに気がついたのか、こちらに移動しようとした男たちを止めてくれた。
それに軽く頷いたとき、セレネの声が聞こえた。
「お待たせ。もういいよ」
「オッケー。うちの領民に手えだそうなんて、いい度胸してんな。外の奴らも含めてたっぷり後悔させてやらぁ~」
そう言って俺は魔法を放った。俺が得意の雷の魔法。
加減を間違えて殺さないように、細心の注意をはらう。
カーン
金属を打ち鳴らしたような音が辺りに響く。
雷が当たった8人は倒れ伏した。
8人からは呻き声が聞こえるから、死んじゃあいないはずだ。
しばらくは痺れて動けないだろう。
あーあ、もう一人女性が混じってたか。
「しばらくこいつらは動けないと思うけど、縛っといてくれ。外の奴らを片付けてくるからさ」
セレネにそう言って俺は集会所を出て行く。
村の入り口に着くと武装した一団がいた。
ひ~ふ~み~よ・・・と。ふう~ん、20人ね。
あいつらを入れて28人か。
まあ、こんくらいの村を制圧するなら、妥当な人数だな。
だけどなぁ~、ランスに睨まれて動けないようじゃ程度がしれるな。
それとも、ランスの特異性を見抜けたというのなら、考えをあらためて・・・ないな。
まじビビりしてんじゃん。
「おい。そこの。お前はこの村のものか」
しらけた気分で考えていたら、先頭にいた男が居丈高に怒鳴ってきた。
「はぁ~、そうですね」
「何だ、その態度は。俺はこの村があるフォングラム公爵領の領主の命できたのだ。こいつをどかして我らを村の中に入れろ」
いま、なんと言いやがった。
身分詐称するにしても、相手を見て言いやがれ。
そうか、今回のことはフォングラム領主の命令ってことにして村人虐殺って筋書きか。
少し遊んでやろうと思ったけど、や~めた。
あいつらが来るまでの時間稼ぎなんてする必要ねぇや。
「てめえら、誰に向かってそれ言ってるか、わかってんだよな。じゃあ、俺に何されても文句は言えねえなぁ~」
そう言って俺は雷の魔法を放った。もちろん加減をしてやる。
カッ、カカーン
金属を打ち鳴らしたような音が辺りに響く。
1人を除いて武装集団は倒れ伏したのだった。
恋とはなんぞや? 第3話です。
え~と、説明?補足?
前話で補足し忘れました。
本編のセリアちゃんを守るための厳戒体制の理由の一部が出てきました。
おばあさまこと、セレネは聖王家のタラウアカ王国の末裔です。
その血を引くフォングラム公爵家はこの世界で重要なポジションにいます。
本編ではまだ、そこまでいってないので、この話をだすのは早いのですが、二人の結婚の理由に関わるので、ここで入ります。
それから、リングスタット王家。
本編のレイフォード王の様子から、リングスタット王家がラシェンドリット聖王家であった事を知らない可能性があります。
というより、何かの作為の黒幕に気付かれないために、フォングラム公爵家が動いているというか・・・。
それから、王家の血を濃く継いでいる二人は無詠唱で魔法を使えます。
なので、間諜達を捕まえる時に、セレネが守りの魔法を、リチャードもピンポイントで雷の魔法を使いました。
それと、リチャードが魔力を少しずつ開放したのは、セレネが魔法を使うのを周りに気付かせないためでした。
で、本編では魔法についても、間違った知識が広まってます。
これはセリアちゃんが何とかしてくれるはずです。
あと、なんで敵が見分けられたかは、後の話で語ってくれるはずです。
語らなかったら、補足します。
それでは、次で会いましょう。
あっ、前話で入れ忘れた突っ込みを!
リチャードが擬態を解いたときに、セレネは彼の容姿ではなく、魔封じの耳飾りについて反応しました。書いていておもわず「そこかい!」と突っ込んでしまいました。