新しいデザート☆その名は・・・プリン! ~前編~
これは、私ことセリアテスが神殿に聖別の儀を受けに行く前のお話しです。
私は王宮で行われた御前会議の日に、また倒れてしまいました。それも今までと違いかなりの高熱を出しました。そして2日高熱は続いたのです。いえ、すごく熱が高かったのは倒れた日とその翌日です。2日後には微熱くらいまで下がったのですよ。ですが、その日は安静にしているように言われて一日ベッドに寝ていました。翌日は完全に熱は下がったのにベッドから出ることを禁じられたのです。
なんか、過保護にし過ぎです。確かに何度も熱を出したり、体調がすぐれなかったりもしましたが、これはないと思います。ですが、この日はお兄様が1日私のそばにいてくれたので、退屈はしませんでした。
が、その後がひどいです。私が寝込んでいる間に神殿から呼び出しがきたそうです。ですが、私が寝込んでいたために日にちを変更せざるえなかったとか。そして11月1日に神殿に行くことが決まりました。そのため、神殿に行くのにふさわしいドレスを仕立てることになり(私が寝込んでいる間に仮縫い済み)ドレスの試着を何度もさせられました。
・・・いえ、これはいいのです。ひどいのはそのあと。
体調を整えるために無理をしては駄目と言われて、いろいろ規制されました。
まず、屋敷から出ることを禁じられました。庭園にでるのも止められ、刺繍や服作りもこんを詰めすぎると止められました。本も長く読むのは駄目だと30分くらいで取り上げられてしまったのです。1日目は我慢しましたが、ただ部屋にいるだけなのは苦痛です。
今日はお兄様は王宮に行っていませんし、キャバリエ公爵家の方々もおよばれされて出かけていないので、話し相手もいないのです。
なので、お母様と交渉をして屋敷内を見て回る許可を頂きました。最初はお母様がついてこようとしたのですが断りました。私の様子に最後は侍女を連れて行くことを条件に許してくれました。
なので、屋敷内をいろいろ歩き回り・・・たかったのにさせてくれません。少し歩くと、疲れてないですか、休みましょうと、言ってくるのです。もう、いい加減にしてほしいです。
嫌気がさした私は自分の部屋に戻りました。少し寝ると言って寝室に入りました。しばらくベッドに横になっていたら、キュリアさんが入ってきました。私は目を瞑っておとなしくしていました。ベッドのそばに来たキュリアさんは立ったままです。
「キュリア、どう」
「しっ」
サラエさんが部屋の入口の方から声を掛けたのに、キュリアさんが黙るように合図したようです。
サラエさんもベッドのそばに来たようです。
2人は小声で話をしています。
「眠られているようね」
「どうしましょうか。着替えさせる」
「でも、それで目が覚めてしまったら」
「そうね。でも、布団をかけた方がいいわよね」
「起こしてしまわないかしら」
「そっと抱き上げるから、あなたが布団を整えて」
「わかったわ」
私の身体が浮かぶのがわかりました。そして、ベッドに寝かせられて布団を掛けられました。
「よかった。よく寝ていらっしゃるようね」
「これなら少し部屋を外してもいいかしら」
「大丈夫だと思うわ」
「では、急いで片付けてきましょうか」
「ええ、そうしましょう」
そうして部屋の扉が閉まる音がしました。
耳を澄ましていると、微かに隣の居間の扉が閉まる音が聞こえてきました。
私はベッドに起き上がると少し考えました。
それから、急いで衣裳部屋の扉を開けて目的のものを取り出しました。
ベッドにそれ、クッションをいれて人が寝ているように細工します。
それから、そっと衣裳部屋の廊下側の扉を細く開け廊下の様子を伺いました。廊下には誰もいないようです。
私は廊下に出ると普段使わない端の方の階段に向かいました。階段のところで様子を伺うとこちらにも人の気配はありません。階段を下りて1階に行きます。階段のところから廊下の様子を伺いましたがこちらも誰もいません。
廊下に出て最初の扉をそっと開けて中を見てみます。ここは布が畳んで置いてあります。シーツでしょうか?覗いていたら後ろから、話し声が聞こえてきました。慌てて扉の中に入り閉めました。話し声は扉の前を通り過ぎていきました。
ホッと息をついて扉からでます。向かいの扉を開けて覗いてみます。
こちらは食品の貯蔵庫ですか?小麦粉の袋が見えます。中に入り扉を閉めました。
そういえば食材を見るのは初めてです。私は物珍しげに積まれた袋を見ていきます。
ん?この透明な袋は何で出来ているのでしょうか?
あれ?ビニール・・・じゃないですよね?
中に入っているものは・・・干した肉ですか?
こちらは、もしかして、春雨でしょうか。とてもよく似ていますが・・・。
首をひねりながら考えていると、別の扉が開き40代くらいの男の方が入ってきました。その方は私を見つけると動きが止まりました。一回口を大きく開けて私を凝視すると、私の後ろや袋の山に鋭い視線を向けました。そして。
「こんなところで何をしているのですか、お嬢様」
と、いいました。その声を聞いて思い出しました。この方はうちの料理長をしている方です。お名前はイアン・・・・・なんでしたっけ?
と、考えている場合ではないですね。
「えーと、探検?」
私の言葉にまた口をあんぐり開けると、そのあと笑い出しました。
「こんなところを探検しても楽しくないでしょう」
「あら、そんなことないわ。いろいろなものが見れて楽しいもの」
「そうですか。じゃあ、こちらに来ませんか。もっと面白いものがありますよ」
そう言って厨房の方に案内してくれました。
厨房には今は誰もいませんでした。
料理長に視線を向けると、私が訊く前に答えてくれました。
「今は休憩時間なんですよ。だから誰もいません」
「そうなのですね。休憩はどれくらいですか」
「大体昼の片付けが終わった後だから、2時から3時くらいですね」
「あっ、じゃあお邪魔じゃないですか」
「別にかまいませんよ。それにもしよければ伺いたいことがあるのですが」
「なんでしょうか」
会話の間にも料理長は色々なものを台の上に並べてくれました。根菜類に葉物野菜。果物に卵。それからいろいろな瓶を。
「これは?」
瓶を指さして尋ねましたら、
「これは調味料です」
「こんなに。見ていいですか」
「どうぞ」
瓶の中にはいろいろな乾燥した葉っぱが入っています。これは、ローリエ。こっちはタイム。この黒い丸いものはコショウかしら。こちらの棒みたいなのは、微かに香るこの香りはシナモン。彼女が見ていたものがここにあります。
「すごいです。だからフォングラム公爵家の料理はおいしかったのですね」
「そりゃどうも。・・・ん?じゃあ、お嬢様は王宮の料理は口に合わなかったのですか」
「あっ!・・・い、いえ。その、目が覚めてからいただいたスープや肉と野菜が煮込まれたものはおいしかったです。ただ、帰ってくる前の昼食会の味が・・・」
「味が?」
「えーと、塩味ばっかりで、あの、工夫が足りないといいますか、その・・・」
私の言葉に料理長は盛大に吹き出しました。
「あははははは。なんだ、それは。クックッ。そうか、そうか。ははははは~」
しまいには目に涙を浮かべて笑っていました。ようやく笑いを収めると私に訊いてきました。
「その王宮でリンゴの菓子を作ったでしょう。良ければ教えてくれませんか」
「はい。でも、簡単ですよ」
「ああ。一応どんなものか聞きましたが、お嬢様の言葉でもう一度教えてくれませんか」
「はい、わかりました」
そして、リンゴと砂糖と水で作ることや、リンゴの重さを量ってその半分の量の砂糖を入れ、水はリンゴ5個にカップに1杯くらいと言うと、鍋とリンゴを用意して手早く作り始めました。
リンゴを剥き終り砂糖と水を入れて火にかけ、沸騰して火を弱めたら私に訊いてきました。
「ワインうを使うものもあると聞いたが」
私は水の代わりにワインを使うことを告げました。そして王宮で作った作り方を話しました。
「水で作るのとワインで作るのと、なんで加える水分量が違うんだ」
あっ、気がつきましたね。そうなのです。これは実は用途が違うのですよ。
ふふふっ。と笑いながら説明します。
「実は水で作った方は保存を考えて水の量を少なくしてもらったのです」
「保存?日持ちするのか」
「はい。今の冬の季節でしたら作ってから5日はそのままでも傷まずに食べられるはずです。もっと保存向きにするのなら砂糖をリンゴと同じ量にして煮て、少し煮詰めて冷まし、冷めたら水分を切って砂糖をまぶして乾かすといいですよ」
「よく、そんなことを知っているな」
だって、彼女の知識は私の中にありますもの。・・・でも、これは言えないので、曖昧に笑っておきます。
「じゃあ、ワインで煮たやつがそのまま食べる向きか」
「いえ、そうとも言えません」
私の言葉に説明をという顔をしています。
「好みの問題です。甘い方が好きかあっさりした方が好きかです」
「まあ、たしかにそうだな」
料理長は納得したようです。リンゴの匂いにつられたのか、料理人の方たちが厨房に集まってきました。
「料理長何してるのですか」
「自分1人だけ楽しそうなことをしてずるいです」
「セリアテス様が教えてくださる新しい料理を僕も試したいです」
みなさん口々に言っています。
「ああ、悪い。セリアテス様が探検に来られたんで、面白いことができないかと思って話をしてたんだ」
そう言って時計を見て火を止めました。蓋をして台の隅の方に置きます。
「それが噂のコンポートですか」
「ああ。そうだお前たち、休憩がもういいのなら、ちょっと実験につきあわないか」
「何をするんですか」
「今、コンポートの基本とワインで煮る奴と保存用のもののやり方を聞いたんだ。作ってみたいと思わないか」
それを聞いた料理人の方たちは嬉しそうに笑いました。
「ぜひ、お願いします」
それから、大量のリンゴが運び込まれました。一つ一つリンゴを見て分けています。
「何をしているのですか」
「ああ、甘いリンゴと酸っぱいリンゴを分けている」
「見てわかるのですか」
「いや、魔法で甘さを調べているんだ」
「魔法で?」
「ああ。まあな」
魔法にもいろいろあるのですね。
そのあとは甘くない方のリンゴの重さを量ってワイン用と保存用に分け、皮を剥いて切り鍋にいれてそれぞれを煮始めました。
と、廊下の方が騒がしいです。
・・・はっ、やばいです。部屋にいないことがバレたようです。
私は慌てて厨房から出て行こうとしました。それをイアン料理長に止められました。
「待った、セリアテス様。あなたはそこにいてください」
料理長の顔を見るといたずらっぽく笑っています。
私が指示されたところに立つと何か魔法を使われました。
「お前たちいいな」
「はい。料理長」
みなさんいい笑顔で答えます。そしてみなさん動き出しました。
しばらくしたら厨房の扉が開きました。クリスさんが飛び込んできました。
「すみません。こちらにセリアテス様はいらっしゃいませんか」
「なんだ。部屋にいないのか」
料理長が答えました。
「はい。お休みになっていると思っていましたら、その、身代わりを作って部屋を出られたようで」
「身代わり?」
「はい。布団の中に詰め物を置いて、あたかも人が寝ているようにしてあったのです」
「なんだそりゃ」
料理長が呆れたような声を出しました。
「それで、セリアテス様を見ていませんか」
「ああ、さっき会ったぞ」
「いつですか」
「こいつらがきたら気まずそうにしてたな。15分くらい前か」
「どちらに行かれたかは」
「知るわけないだろう。俺は厨房を出てないんだから。お前たちは見てたか」
「さあ?」
「すみません。見てないです」
「そうですか。ところでそれは」
「ああ、さっき教えてもらったものだ。王宮で作ったコンポート。今日の夕食のデザートだ」
「それは楽しみです。では忙しい所を失礼しました」
そう言ってクリスさんは出て行きました。
イアン料理長が私のそばにきてウインクしました。
「なっ、バレなかっただろう」
そうしてニヤリと笑いました。
200話記念のリクエスト、第1弾です。
秋月煉様、リクエストありがとうございました。
料理?の部分を詳しくしたら、何故か3話に別れてしまいました。
前中後編です。
楽しんでいただけたらうれしいです。




