パウル君の受難な一日
今日は一日で天国と地獄を味わった気分です。
おっと、失礼しました。
私は王宮医師をしています、パウル・ウルバーンと申します。
まだまだ、若輩者ですが、日々精進しております。
先日、失態・・・をしてしまいました。
フォングラム公爵令嬢を追い詰めて泣かせてしまったのです。
彼女が隠していることを話してもらうためとはいえ、泣かせるつもりはなかったのです。
おかげで、彼女には嫌われてしまったようでした。
夕方の診察に私は来るなと言われました。
それから、王妃様からお小言をいただきました。
先に泣かすなと言われていたのに守れなかったからですね。
ですが、王妃様はまだいいです。
その翌日、フォングラム公爵から言われた言葉が・・・。
お、おそろしい。
私は敵に回してはいけない人を怒らせてしまったようです。
なので、彼女が王宮を辞去して家に帰られた時も、みんなの後ろからそっと見送りました。
彼女にとっては私など王宮医師の一人でしかなかったのです。
落ち込んだ日々が続きました。
ご令嬢がいえに帰られて5日目。
約束通りウェルナー医師長とロンテス医師が往診に行かれました。
戻ってきたウェルナー医師長がうれしいことを伝えてくれました。
なんと、セリアテス嬢が、私のことを気に掛けてくれたというのです。
なので、王宮に来た時に会えるでしょうと伝えたそうです。
もう一度往診に行きますが、その次には王宮に来てもらうことになると、ウェルナー医師長はおっしゃいました。
あと、10日。
それで、また、セリアテス嬢に会えるのです。
私はウキウキ気分で訓練場に向かいました。
訓練場で怪我人が出たというので向かっています。
中庭を歩いていた時に、マイン王女様に会いました。
王女様は私を見るとにこやかに話しかけてきました。
私は頭を下げました。
「こんにちはですの~。ウルバーンいしはどちらにいかれますの~」
「はい。ごきげんうるわしく存じます、マイン王女殿下。私は訓練所に向かう所でございます」
「おしごとごくろうさまですの~」
「はい。では、失礼させていただきます」
私は挨拶をして立ち去りました。
訓練場に着くと激しい打ち合いをしています。
隅の方で顔なじみの兵士が手をあげました。
「おう。すまないな」
「いえいえ、これが私の仕事ですから」
早速仕事に取り掛かります。
全部を治すのではなく、ひどいものだけを治していきます。
そうしないと、自己再生力が落ちてしまうそうです、
「なあ、なんか、いいことでも、あったのか」
「なぜですか」
「そりゃあ、ずいぶん機嫌が良さそうだからな」
おっと、顔に出てましたか。
「まあ、すこしだけですがね」
「それは、よかったな」
あれ、そこまで親しくないですよね。
首をひねっていると、他の兵士に話しているのが耳に入ってきました。
「医師のあんちゃん、元気になったってよ」
「おう、そりゃ、よかったな」
「この世の終わりみたいな暗い顔してたが、もう大丈夫そうだな」
・・・もしかして私は心配をかけていたのでしょうか。
皆さんに肩や背中を叩かれました。
なんか、涙が出そうです。
この時私は気が付きませんでした。
マイン王女様が、物陰からみていることに。
王女様に気が付いた兵士が声をかけていたことも。
王女様が兵士に「カクレオニ」をしているから黙っているように言われたことも。
訓練が終わり、私の治療を必要とするものがいなくなったので、医務室に戻ることにしました。
戻る途中また、中庭を通りました。
その時、突風が吹いて目にゴミが入りました。
目をシパシパさせましたが、取れそうにありません。
手巾を取り出して取ろうとしましたが、上手くいきません。
涙が出てきましたが、涙と一緒に流れ出てくれそうにありません。
目を開けることもできずに困っていると、かわいい声が聞こえてきました。
「どうしたのですの~、ウルバーンいし」
マイン王女様です。
声を頼りにそちらを向き頭を下げます。
「マイン王女殿下。先ほど突風で目にゴミが入りまして、取れないのです」
「まあ~、たいへんですの~。マインがみんなのところにつれていってあげますの~」
「あ、いえ、殿下のお手を煩わせる訳に参りませんので」
断ろうとした私の手に小さな温かい手が触れてきました。
その手はギュッと私の手を握ると引っ張って歩き出しました。
私は恐縮しながら、ついて行きました。
周りが見えない私は気が付きませんでした。
いつもなら、マイン王女様が行動するより先に、お付きの者が私に触れさせないようにすることに。
「申し訳ございません。王女殿下」
「い~え~。こまったときは、おたがいさまですの~」
王女様の言葉に苦笑しながらついて行くと、王女様の口調が少し変わりました。
「そういえば、ウルバーン医師は、今日は機嫌が良さそうですのね」
戸惑いましたが、言葉を返さないわけにいかないので、返事をします。
「そう見えるようですね。訓練所でも言われました」
「まあ~。何か良いことでもありましたの~」
「ええ。小さなことなのですが、フォングラム公爵令嬢が私が診察に伺わなかったことを気に掛けていただいたとききました。彼女に嫌われたと思っておりましたので、うれしく思いました」
その言葉を聞いたマイン王女様は立ち止まりました。
わたしも立ち止まりましたが、どうされたのでしょうか。
声をかけようとしましたら、手が離れました。
「セリアお姉様を泣かせておいて、ちょっと気に掛けてもらったからって、浮かれるなんて。あなたは全然反省してないようですのね。これは自分の立場をわからせるためにも、おしおきが必要のようね。昨日まではあまりに落ち込んでいたから見逃していたのに。まあ、これもあなたのためですものね。悪く思わないでね」
そうして、思い切り王女様がぶつかってきました。
バシャーン
大きな水音がしました。
いつの間にか噴水のそばまできていて、突き落とされました。
水の中に入ったおかげで、目の中のゴミは取れました。
そして、そのおかげで見たくないものまで見えてしまいました。
私と一緒にずぶ濡れのマイン王女様を。
水音に人が集まってきました。
何とか、みんなが集まる前に噴水から出ましたが、集まってきたみんなの目が怖いです。
そして、マイン王女様の侍女がそばに来たら・・・マイン王女様は泣きだされてしまいました。
それも、最悪な言葉を言ってます。
「うわ~ん。ヒック・・・マインね、ウルバーンいしの・・・ヒック、おてつだいを・・・しようと・・・ヒック・・しただけなの・・・目が・・・ヒック・・あかないって・・・ヒック・・いうから・・・てをひいてね、ヒック・・・なのに、ヒック、てを・・ふりはらってね・・・バランスを・・ヒック・・くずしたから・・・たすけようと、ヒック・・・したら・・・ふんすいに・・おちて・・・うわ~ん」
みんなの視線が痛いです。
とにかく着替えをということで、その場は解放されましたが、あとが怖いです。
案の定、王妃様から呼び出されました。
前回の比でないくらい怒られました。
ついでに、王宮に来たセリアテス嬢の診察に立ち会うことは禁止されました。
挨拶をするのだけは許してもらえましたが。
もしかして、一番敵にまわしてはいけないのはマイン王女様なのかもしれません。
番外編 第2段です。
うふふっ。
やられました。
いやー、書いてて、スッキリしました。
マイン様、最高! です。
で、この後も、地味に、嫌がらせは続きます。
どうなるかはまた、機会があれば書きたいと思います。
あ、補足!
マイン様のセリフですが、普通にしゃべっているところの。
あれは、パウル君が聞き取って漢字に変換しています。
マイン様が全部漢字で話しているわけではありません。