恋とはなんぞや? ~リチャードとセレネの恋模様?~ 16
魔法が掛からないかもと危惧したが、あっさりとユーリック達に浮遊魔法がかかった。
と、いうことは馬車にかければ、馬の負担が減らせて、旅程も短くて済むということか。
俺達は、馬で2日かかる距離を1日で駆け抜けた。ついでに、道が曲がっている所は草原などを突っ切って距離の短縮に務めた。ランスのファミリーも疲れた様子を見せなかったので、明日もこのペースで大丈夫そうだった。逆に乗っている人間の方が疲れていた。俺とエゴンは慣れているが、他の3人は宿に着いたときには疲れ切っていた。食事をとると早々に寝てしまったのだ。
俺の無茶によくつき合わされるユーリックでさえそうなのだから、セレネとマリベルの負担は相当なものがあるのだろう。
それでも、翌日も前の日と同じペースで進んでいった。
おかげで5日かかるところを2日で王都まで戻れたのだった。
前の日に今日の夕方に着くと連絡をしておいたからか、屋敷に着いたら父も待っていた。両親と妹たちに出迎えられたのだった。
「思った以上に早かったな。早くても明日になると思っていたのだがな」
「ランスのファミリーに協力してもらったのと、ある魔法のおかげです」
「ある魔法?」
「あなた、それは後にしてくださいな。あなたがセレネね。ようこそ、フォングラム公爵家へ。まずは応接室に移動しましょうか」
「いや、応接室ではだめだ。疲れているところを悪いがついてきてくれ」
「マリベルはセレネ付きになる者と一緒にいてね」
「ユーリックも来てくれ。エゴンは休んでくれてかまわないから」
父が最低限の指示をして歩いていく。着いたところは礼拝堂だった。中に入ると父は魔法陣を作動させた。
「よし、これでいいだろう」
結界の様子を確認して、父がこちらを向いた。俺を軽く抱きしめたあと、セレネと向き合った。そして膝をつき左手を胸にあてる礼をした。
「遠いところをよくいらしてくださいました。セレネフィア・フィーネ・タラウアカ王女。お父上のことは申し訳ありませんでした。私の判断ミスでした」
「顔をあげてください。フォングラム公爵。父のことは、亡くなったのは悲しく思いますが、公爵様のせいではないのです。公爵様にはいろいろと良くしていただいたと村長から聞きました」
セレネは微かに微笑んだ。父は顔をあげてセレネの顔を見てから立ち上がった。
「ありがとうございます。改めまして、私はフィリップ・アルフォンス・フォングラム。現フォングラム公爵家当主です。セレネフィア様にはこれからはここを我が家と思ってお過ごしください」
「セレネフィア、私はフェリシア・ロクサーヌ・フォングラム。リングスタット国王アルフォードの妹ですわ。これからよろしくお願いしますわね」
「私はロデリア・イレーヌ・フォングラム。17歳よ。お姉様と呼んでね」
「じぁあ、私のこともお姉様ね。アリシア・ミレーヌ・フォングラム。15歳よ」
セレネは妹達の名乗りに少したじろいだようだ。
「セレネ・ベイグリッツです。12歳です。セレネフィアの名は今だけでお願いします」
「わかりました」
父がそう言った後、俺の方に目を向けた。
「リチャード。女神様が話しがあると伝えてきた。お前が伝えてくれるか」
「わかりました」
隠し棚から魔石と瑠璃石を取り出し祭壇に設置する。
そして、魔石に魔力を流し瑠璃石に伝えていく。
そこから天に向かうイメージで魔力を誘導していく。
「女神ミュスカリーデよ。我の声にお応えあれ。我は汝の騎士$V#&-*」
すぐに神気が降りてきたのがわかった。
『リチャード。よく戻りました』
俺は祭壇に頭を下げると顔をあげて女神像の顔のあたりを見つめた。
「はい。ご心配をおかけしました」
『あなたが無事で良かったわ。ですが、時間が惜しい。そこにいるのが、セレネフィア・フィーネ・タラウアカですね。顔をあげてこちらに来なさい』
その言葉に離れたところで頭を下げていたセレネが、俺の隣まで来た。
『私の力が及ばなかったばかりに、あなたにも、クリシュナとランドルフにも苦労をかけたわ。もう少し早く私が気付けていればこんな事にはならなかったのに』
「いいえ、ミュスカリーデ様。苦労はしたかもしれませんが、私も両親も幸せでしたから」
『そう。あなたもいい子に育ったのね。・・・リチャードからこの先の計画を聞きましたか。あなたには無理をさせることになるけど、私もその計画が一番気付かれないと思うの』
「はい。母の祖国が救えるのならなんでもいたします」
『・・・よろしく頼むわね。でも、無理をさせるのに変わりはないわ。何か望みはない』
「望みですか?」
『ええ。私に叶えられることなら叶えてあげるわ』
「・・・でしたら、もう少し身長が高くなりたいです」
『あら、その丈も可愛らしいわよ』
「あの、子供を身ごもると身体の成長が止まってしまうと聞いたのです。タラウアカ国の人間はあまり背が高くありませんが、せめてもう10センチ身長が欲しいです。ダメでしょうか」
『そういえばそうね。そこまで考えていなかったわ。幸いまだ子供を身ごもっていないから、リチャード。あと6ヶ月、セレネに手を出すことを禁じます』
「え~、6ヶ月もですか」
『あなたも覚えがあるでしょう。急に身長が伸びた時の体の痛みを。期間を短くするとセレネの体への負担が相当なものになるわよ』
「今のままでもいいのに」
俺がそうつぶやいたら後ろから耳を引っ張られた。
「痛っ、いてててぇ~。お袋耳をひっぱるな」
「あなたね、自分がセレネフィアにどんだけ鬼畜なことをしようとしているか、自覚がないの」
「痛いっ。わかってるよ。だからセレネの許可もとったし」
「なら、少しくらい待ちなさい」
「いてて。わかったから離してくれ」
やっとお袋が手を離してくれた。あー、痛かった。
「失礼しました、ミュスカリーデ様。息子がセレネフィアに手が出せないようにちゃんと見張っておきますので」
『ええ。フェリシア、よろしくお願いするわ』
「ミュスカリーデ様。お願いなどなさる必要はございませんわ。ただ、お命じ下さればいいのです。私たちは第7聖王家の血を引くものとして、女神様の手足となって働きますわ」
『ありがとう。今の私には過ぎた言葉だわ。この世界の創世者であるはずなのに、手を出すことが出来なくて、私の子らであるあなたたちにいらぬ苦労をさせてしまっているわ。でも、あなたたちフォングラム家のおかげでこの世界の秩序は保たれているの。ロデリア、アリシア。あなたたちも無理はしないで。そしてどうか幸せになって。今、私にできるのは祝福を送る事だけね。どうかあなたたちに幸多からんことを』
「ありがとうございます、ミュスカリーデ様。こちらのことはお任せください。これ以上、聖王家を潰されないようにいたします」
『ええ。また、何かあったらいつでも連絡をして頂戴。あなたたちのことをいつも見守っているわ』
その言葉と共に神気が離れていった。
俺は力が抜けてへたりこんでしまった。
セレネが心配そうにのぞき込んできた。
「大丈夫?」
「ああ、まあ、何とか」
そう言って立ち上がるのにユーリックがそばに来て手を貸してくれた。
お前も強行軍でヘロヘロのはずなんだがな。
「今日は食事をしたら休むと言い」
「報告は」
「これだけ早く着いたんだ、明日でいいだろう」
父の言葉にありがたく従うことにした。さすがの俺も2日間の強行軍で疲れていたし、さっきの神おろしで残りの気力を奪われたからな。
・・・まさか、親父。それを狙って俺にやらせたのか?
その後、軽めの食事を取り風呂に入った後、ベッドに横になるとすぐに寝てしまったのだった。
翌日、両親だけでなく妹達も交えて、俺が見聞きしたことを話した。妹達は所々で顔を青くしていたが、最後まで話を聞いていた。これからのことも話したら、妹達から冷たい視線が飛んできた。
「昨日のあの方の話からまさかと思ったけど、本当に産ませる気なの」
「ああ。それが一番いい手だと思っている」
「兄様ってロリコンでしたのね」
「ロリコンいうな」
「どう見てもロリコンでしょ。それにもう、手を出してるみたいだし」
「何でそう思うんだ」
「あの方が言ってたでしょ。兄様が手を出してなければ、あんなことおっしゃらないわよ」
「それとも、人でなしの方がよろしいかしら、お兄様」
口では勝てたためしがないので、降参と手をあげた。
「まあ、いいですわ。それよりも、お兄様。ちゃんと私達の嫁ぎ先を探してくださいましね」
「ええ、そうですわ。容姿についてはあまりどうこう申しませんが、出来ればあまり年が離れていなくて、黒くない方でお願いしますわ」
「南方は嫌か」
「まあ、わかっているくせに」
「そうですわ、兄様。兄様のお眼鏡にかなった方をお願いしますね」
「余り期待するなよ」
「うふふ。期待しておりますわ」
「期待してますわ、に・い・さ・ま」
やはり妹達には勝てないな。他国に嫁がなくてはならないとわかっても、セレネに気を使わせないために軽口を叩いてくれている。セレネも気がついたようだが、黙ってこちらを見ていた。
2日後、俺とセレネは王宮に向かった。もちろん両親、妹達も一緒だ。
昨日のうちに俺とセレネが王都に着いたと連絡をいれたら、報告のためにセレネを伴って登城するように命令が来た。
おいおい。これが本当に昨日着いたのなら、かなりの強行軍なんだぞ。俺はいいが、セレネは普通の女の子で今まで馬に乗ったことがないんだぞ。と、抗議したが、王命で命令書が届きやがった。
花押が押された蜜蝋を丁寧にはがし、命令書を取り出したら、王家の者にしかわからない書き方で、言葉が記されていた。それを読んだ母も王宮に行くと言い出し、妹達にも同行するようにと言って6人で向かうことになったのだ。
謁見の間で大勢の貴族に囲まれて、今回の討伐の報告を行った。その間セレネはおとなしく横に立っていた。隣には母がセレネを気づかうように寄り添っている。
最初、関係のない母が隣にいることに抗議をしようとする者がいたが、陛下に先に断りを入れたので、誰も何も言えなくなった。いや、それ以上にセレネの様子を見た者たちは、隣に付き添う者がいるのは当たり前だと思っただろう。それが王妹の母なら尚更当たり前だと思われたことだろうな。
現に、セレネの村が討ち漏らした魔物に襲われて壊滅状態に追い込まれたことを話した時に、セレネはフラリと倒れ掛かった。それを母が支え倒れずに済んだが、ここにいる者はこれ以上セレネを立ち会わせるのは酷だという顔をして、国王の顔を見つめていた。
だが、陛下は報告が終わるまで何も言わなかった。俺の報告が終わると陛下が始めて口を開いた。
「報告ご苦労だった、リチャード・ヴェンデル・フォングラム。今日、明日はゆっくりと休み、明後日から討伐隊受け入れの支度をするように」
「はっ」
俺は立ったまま胸に左手を当て頭を下げた。
陛下の視線が俺から隣のセレネに移った。
「セレネ・ベイグリッツ」
「はい」
母に支えられたセレネが顔を上げて陛下の顔をみた。
陛下が立ち上がり玉座から降りてきた。陛下の後ろから王妃とクロフォード、王女達も続く。
セレネの前に立った彼らがセレネに頭を下げた。
謁見の間にいる貴族は驚いて動きを止めた。
「セレネ・ベイグリッツ、ユーゲリック・ベイグリッツの替わりにそなたに感謝を。ユーゲリック・ベイグリッツは魔物を倒しただけでなく、この国の未来を救ってくれたのだ」
貴族の何人かは口を開こうとしたが、顔を上げた陛下の表情を見て口を閉ざしたのだった。
まあ、それ以前に公式の場で許可を得ずに勝手に発言するわけにはいかないがな。
セレネは瞳に涙をたたえて陛下を見つめている。
「セレネ・ベイグリッツ。何か望みはないか。我にできることなら叶えるが」
セレネは陛下の言葉に小さく首を振った。
「いいえ。父は役目を全うしたのです。何も、いりません。・・・ですが、もし叶うなら、母が二ナモリ村に眠っています。その隣に父を眠らせてあげたいです」
「分かった。ユーゲリック・ベイグリッツの遺体は二ナモリ村に埋葬することとする」
陛下はそう宣言したのだった。
16話です。
王都に着きました。
そして、リチャードの家族が出てきました。
そして・・・女神様、なぜ出てくる。
いや、100歩譲って女神様はいいわよ。
なんで、王様があんなことするわけ?
おかげで、また話が伸びました。
さっさとバカップルと会話するはずが・・・。
あと2話で終わりますので、そこまでお付き合いいただけたらうれしいです。