恋とはなんぞや? ~リチャードとセレネの恋模様?~ 15
まあ、ユーリックが言うことはもっともだから、マリベルとエゴンは言われたことをやりに部屋を出て行った。2人が出て行くとユーリックは表情を引き締めた。
「さて、リチャード様、セレネ様。あまり時間はありませんが、キュベリックに向かった彼らのことを話してもよろしいでしょうか」
「ああ。何か分かったか」
「何のことなの?」
「死人になった奴らの中に、敵に繋がっている奴がいるんだろ」
「お分かりになりましたか」
「あの時誰が死人になるのを決めたあと探ったら、違和感がある奴が3人いたんだ」
「それは・・・できれば先に伝えていただけると助かったのですが」
「任せろっていったのはユーリックだろ」
「まあ、そうですが。では、その3人とは誰かお聞きしても」
「副官と演技ができないと言った一番若い奴と、赤茶の髪の男」
「そこまでわかっていたのなら・・・。あっ、泳がせているの」
セレネの言葉に俺はユーリックをチラリと見る。
ユーリックは軽く目を瞠り、俺を見てきた。
「セレネ様はすごいですね。そういうこととは無縁の生活をされていたと思うのですが、お分かりになられるとは。本当におしいです。あなたが女王に収まればキュベリックは安泰でしょうに」
「セレネはキュベリックにはやらん。俺の嫁だからな」
「わかっておりますから、威嚇しないでください。それで、昨日その中の1人が動いたと連絡がきました」
「ホー、なんと?」
「彼らは一昨日キュベリックに入りました。昨日の夜中にそいつが皆から離れようとしたのを副官と若い彼とフーゴが捕らえたそうです」
「やっぱり間者が紛れ込んでいたか」
「はい。ただ、そいつには連絡手段がなかったようで、それで皆から離れて連絡をしようとしたそうです。なので、そいつはこちらに戻すことになりました。ゲーリーがオオカミと共に国境沿いまで行ってくれたので、受け取りを頼みました」
「ふう~ん。それはよかったな。それで、副官の正体は?」
「それは・・・」
「ディンガー公爵の子飼いの者か」
「まだ、はっきりとは申してないそうですが、その可能性が一番高いですね」
「なんと言ったって」
「あるお方の命令で、彼らの動向を探っていたと。生き残りにも3人仲間がいるそうです」
俺は口元が緩むのを止められなかった。俺たちの、いや、ミルフォードとアデリーナ姫の血筋はバカじゃなかったんだ。
「それなら、ちょうどいい。彼らの主と俺が会いたいと言っていると伝えさせろ。そうだな。2ヶ月後ならどうだ」
「それは、王都の出方次第でしょう。3ヶ月をみておいた方がいいのではないのですか」
「いや、それじゃあ遅い。2ヶ月だ。俺が出向くと伝えてくれ」
「そうですか。まあ、あちらの反応次第ですしね。わかりました。一応そう伝えさせます。日にちが伸びても構わないと言っておきましょう」
「ああ、頼む」
「では、私も少し失礼します」
そう言ってユーリックが出ていった。
セレネが俺の顔を見上げてきた。
「連絡が早くない?」
「遠話の魔道具って知ってるか」
「何、それ?」
「グレスエッジに現れたアラクラーダの神子が伝えたものだ」
「どういったものなの」
「同じ魔石を持つ者同士が遠くに離れていても話しができる道具」
「そんな便利なものがあるの」
「あるんだが、ユーリックがあれじゃ満足できなくて改良したんだ」
「?何を」
「遠話の魔道具は持ち運べなくてな。いや、持ち運べないこともないが、持ち運ぶには大きすぎる。それじゃ不便だからと手に収まる大きさのものを作ったんだ。といってもまだまだ改良の余地があるみたいで試行錯誤してる。多分試験を兼ねて持たせたんじゃないかな」
「・・・ユーリックさんて・・・」
呆然とするセレネをギュッと抱きしめる。
俺を見上げる様子が可愛くて顎に手をかけて上を向かせてキスをしようとしたら、口に手を当てられて遮られてしまった。
「ダメって言われたよね」
「いいじゃんキスぐらい」
「その先に進まない自信があるならいいけど」
ウッ。
そうなんだよ。昨日も、一昨日も抱きしめてるだけだったから。
もう~、気を紛らわすのが大変で。
今日も生殺しの一夜かと思うと・・・泣けてくる。
そんなことユーリックに知られたら、手を出すのを王都まで待てなかった俺が悪いっていうに決まってるし(泣)
いいじゃんかよー。俺の嫁だぞ。
このままだと、あと12日は生殺しか~。
俺の様子を見ていたセレネがそっと囁くように言った。
「もう、そんな顔しないで。やさしくしてくれるならいいわよ」
「ほんとか、セレネ」
「ただし、1回だけよ」
「そんな~」
「今は旅の途中でしょ。周りに配慮しなければならないのでしょうが」
「でも、結界で声を聞こえなくするから」
「じゃあ、ダメ」
「いいっていったじゃん」
「あなたね、自分の立場を考えてよ」
「・・・わかった。2人で先に行こう。そして邪魔者がいないところで思いっきり愛し合おう」
「こら、リチャード。いい加減にしなさいよ」
「そうです。いい加減にしないとセレネ様に手出しできないように簀巻きにしますよ」
チェッ。もう、戻ってきやがった。
分かってるよ。王都に着くまで手は出さねぇよ。
そして、マリベルとエゴンが戻ってきて、セレネとマリベルが隣の部屋にいって眠りにつき、夜中にセレネの悲鳴で・・・すべて計画通りにいったのだった。
それから2日は順調に王都への旅は続いた。
異変が起こったのは2日後の夜。
もう討伐隊にはセレネのことが伝わり、俺を保護者として見てくれるようになっていた。
まあ、あの泣き方じゃあそう思うわな。
だから堂々と一緒の部屋に入る。
そしてくつろごうとしたとき、石を伝って連絡が来た。
俺から連絡することはあっても、両親からくることはめったにない。
おれは急いで結界を張ると言葉を返す。
「どうしたんだ、親父」
「どうしたもこうしたもない。今、お前はどこまで来た?」
「へっ?予定通りスピカの町だけど」
「明日、軍を離れお前だけ先に帰ってこい」
「何があったんだよ。そんなに急がせるなんて」
「ギルフォード陛下の隠し子が現れた。それも男児だ。それを周りに相談なくアルフォードの奴が認めやがった」
「はぁ~。陛下ってば何してくれちゃってんの」
「とにかく、そういうわけだからさっさと帰ってこい」
「鳥は飛ばしたのか」
「ああ。今夜中には着くだろう」
「わかった」
俺は魔法を解くと部屋に居る、セレネ、ユーリック、マリベル、エゴンを順番に見ていく。
「ということだ。明日俺は先に行くことになったがどうするか」
「・・・私も一緒じゃ駄目かしら」
「そうですね。一緒のほうが安心ですね」
「では、私もご一緒します」
「馬車はどうしますか。急ぐのでしたら馬の方がいいですよね」
話が早いな、おい。
そして、当然のようについてくるんだな、お前ら。
「そうだな。この人数ならランスにファミリーを呼ばせるか」
「ええ、その方がいいでしょう。馬車は荷物がありますので、そのまま王都に向かわせましょう」
「私の代わりに、オイゲンに指揮をさせます」
「わかった。そちらは任せる」
3人は支度や引き継ぎのために部屋を出て行った。
2人になったからセレネを抱きしめようとしたら、拒否された。
そんなに信用ないか、俺。
「リチャード。聞きたいことがあるのだけど」
「ん。何かなセレネ」
「ギルフォード陛下って、先王のことよね」
「ああ。俺の爺様」
「なら、隠し子が見つかったのはいい事ではないの?」
「う~ん、状況がよくわからんが、親父の様子だとあまり歓迎される身分の者じゃないのかもしれないよな」
「じゃあ、現王は何故認めてしまったの」
「そこなんだが、多分王家に男児が産まれないことだろうな」
「・・・ああ、言ってたわね。でも、ウゥン」
やっと捕まえたセレネに口づけをして言葉を奪う。ついでに思考も奪おうと深く口づける。
口づけから解放すると、セレネはグッタリとその身を俺に預けてきた。
すまん。やりすぎたか。だが、思考を奪うのには成功したようだ。
セレネ、これはお前が考えるべきことじゃない。
俺に任せておけばいいからな。
セレネが俺を見上げてきた。涙目になっている。
右手が動いたとおもったら、俺の左頬にあたった。
パチン
音の割にいたくない。
「バカ」
チェッ。やはり気がつくか。
だが、これで許してくれるなんてやさしいよな、セレネは。
ユーリックが戻ってきたとおもったら、また部屋を出て行った。すぐに戻ってきた時には手に縄を持っていた。
おい、まて待てまてぇ~!
まさか、俺を縛る気か?冗談だよな。
「セレネ様、ご安心ください。すぐに抱き枕をご用意しますから。これから王都までは毎晩抱き枕を抱いて、安心して寝れますからね」
「まて、本気で俺を縛る気か。冗談だよな」
「何を言っているのですかリチャード様。私はセレネ様に安全な抱き枕をご用意するだけです。もちろん、リチャード様にはご協力いただけますよね」
「だから、やめろ。俺は何もしないから」
「ほお~、どの口がいいますか。その、セレネ様のご様子で。言い逃れができるとお思いではないですよね」
縄を持って迫るユーリックをかわしていたが、マリベルとエゴンも参戦し会えなく捕まった俺は、動けないようにグルグル巻きにされたのだった。
おい、俺はお前たちの主人だぞとわめいたら、煩いと猿ぐつわまでされてしまった。
「さあ、これで安心して眠れますよ。明日から強行軍になりますので、よくお休みください」
俺をベッドの上に乗せるとユーリックがそう言って3人とも出て行ってしまった。
その間セレネは呆然と見ていただけだった。
セレネは我に返るとベッドの俺のそばにきた。
そのまま、ベッドに入り俺に抱きついてきた。
俺は猿ぐつわのせいでウー、ウーと呻いたら、セレネが肩を震わせだした。
「クスクス。本当にやっちゃうなんて。ウフフフ。やだ、アハハハ~。おかしい~」
ひとしきり笑った後、セレネが猿ぐつわを外してくれた。
「はあ~、苦しかった」
「ユーリックさん達、最高ね」
「お~い、セレネ~。他人事だと思って酷くない」
「だって他人事だもん」
「なあ、これ解いてくれない?」
「どうしようかしら」
「セレネ~」
「ウフフフ、そうね。私抱きつくより抱きしめられる方が好きかも」
「セレネ~!」
「何もしないのなら解いてあげるわよ」
「・・・・・」
「なんてね」
そういうとセレネは縄を解いてくれた。
うー、腕が痺れてやがる。
痺れた腕を振っていたら、セレネが腕をチョンと触ってきた。
俺は声にならない声をあげる。
「あら、本当に痺れていたのね」
「セレネ~」
「ウフフフ」
セレネが楽しそうに笑っているからいいかと思うことにした。
痺れが少し収まったところで、セレネを抱きしめて眠ったのだった。
翌朝早くに討伐隊の総隊長の所にいく。昨夜のうちに届いていた親父からの手紙を見せて、俺たちだけ先に行くことを伝えた。総隊長に後を任せ、手早く朝食を取り支度を済ますとランスを連れて街の外れに行った。
そこにはランスより少し体格が劣るが、それでも他の馬より大きい馬が3頭待っていた。ご丁寧に鞍もつけている。それぞれの荷物を括り付けると、見送りにきたフォングラム公爵軍の指揮官のペイグニクスとオイゲンに後を任せて俺たちは出発した。
街から見えない所まで来ると皆を止める。
「なあ、セレネ。あの魔法は自分が乗っているもの、もしくは触れているものが対象か」
「わからないわ。試したことがないもの」
「何の話でしょうか」
「セレネから教えてもらった魔法があってな、それを掛けると馬に重さを感じさせないようになるんだ」
「そんな魔法があるのですか」
「聞いたことありませんが」
「重力魔法の一種ですか。それとも・・・」
「俺たちの体を浮かせるものだ」
「ああ、浮遊魔法ですか。確かにそれなら馬に私達の体重は伝わりませんね」
「お前たちに教えたいが、時間がないからこちらで掛けてみる。自分たち以外に試したことがないから、掛けられない場合もある。その時は、シールドを張って早駆けだ。いいな」
「「「はい」」」
そして、セレネと俺はユーリック達に魔法をかけてみたのだった。
15話です。
リチャードがちょっとかわいそうかな。自業自得ですが。
セレネ、ダメよ。甘い顔をするとつけあがるわよ。
それから、ユーリック、ほんとにやるのね。
さあ、次は王都に着きますね。あのバカップルとの楽しいやり取りが待ってます。
楽しんでいただけたでしょうか?
それでは、また、次話で!




