恋とはなんぞや? ~リチャードとセレネの恋模様?~ 13
今話はリチャードとセレネの目線?の二つで話が進みます。
~ リチャード ~
セレネは溜め息をついた。
「もしかして、このプロポーズって、それを考えついたから」
うん。怒ってない。怒ってはいないが、あれ?
もしかしてまずかったか。
「いや。先に隊長から許可をもらってて」
「はぁあ~?なんなのそれ」
あれ、これもやばい?
「だからな、隊長にセレネのことを頼まれた時に言われたんだよ」
「へ~、なんて言われたのかしら」
心なしかいい笑顔でセレネが聞いてくる。
俺はベイグリッツ隊長に言われた言葉を思い出す。
たしか・・・
「俺は隊長に呼ばれてそばにいって、隊長は人払いをして俺と二人きりになった。そして自分には娘がいて妻も2年前に亡くしているから、自分が死んだら一人になる。だから、娘の事を頼みたい。もし気付けたなら娘をお前にやろう。そして娘を守って欲しい。頼めるのはお前だけだ」
だったよな。それ以外何か言われたっけ。
「ふぅ~ん。そんなこと言われたんだ。じゃあ義務感から結婚しようとしてくれたんだ」
えっ?あれ、怒らせちゃったか?
というか声に出してたか?
まずい。ひじょーにまずい。背中を冷汗が伝うのがわかる。
これだから女性は苦手なんだ。
「そんなことあるわけないだろう」
「じゃあ、何?やっぱりロリコンなわけ」
「だから俺はロリコンじゃないと何度言えばわかってくれるんだ」
「だっておかしいじゃない。こんな小娘に本気になるなんて思えないわ。あなたなら女性をよりどりみどりでしょ」
「いや、よりどりみどりしてないし」
「本当はもう誰かに子供を産ませてたりするんじゃないの」
「そんなことするか。俺は自分の立場はわかってる。下手なことをして子供を作るわけないだろう」
「ふん、どうだか。女性に人気なようだし」
「やめてくれ。俺は女は苦手なんだ」
思わず叫んだら、セレネの動きが止まった。
「えっ?」
「俺は今まで好きになった奴はいないし、女を抱いたこともない」
「あの、何を言い出すの」
「セレネには悪いけど、プロポーズの意味はさっき話した理由が大きい。だけど、政略結婚じゃないんだから、俺だって少しは好ましい相手と結婚したい。セレネはかわいいし、助けてあげたいし、守りたいと思ったんだ」
「あの、あの」
セレネは俺の言葉に真っ赤になっている。
俺は一度目を瞑ると言葉を続ける。
「おれは、・・・俺は、人としてどこか欠けているんだ。今まで誰に会っても恋しい気持ちや愛しい気持ちを持ったことがない。もちろん家族や友人は大切だと思う。だけどそれだけなんだ。俺はバカなことをしたクロフォードがうらやましいと思う。そこまで人を恋しいと思えないから」
目を開けてセレネを見る。
「だから俺は結婚しても浮気はしない。俺にはセレネがいればいい。セレネが擬態を解いたときに光輝く赤銅色の髪がとてもきれいだと思ったんだ」
セレネの手を握る。
「さっき話したのは俺の勝手な思いだ。一番いい手を考えたつもりだが、セレネに無理させるのは変わりない。嫌なら言ってくれ」
そっと胸元に抱き寄せた。
セレネは俺を見上げて来た。
「・・・ねえ。本当に私のことかわいいと思ってくれてるの」
「もちろんだ」
「私の髪の色って好きな色なの」
俺は上着の隠しからあの箱を取り出す。蓋を開けてセレネに見せた。
「これって・・・」
「タラウアカ王家の石だよ。セレネの髪の色と同じ色」
セレネは箱の中の指輪をじっと見ている。
顔をあげると真剣な顔をして俺に問いかけてきた。
「ねえ、リチャード。あなた、もしかしたら、前世の記憶持ちじゃないの」
俺はハッとした。そして、セレネの目を見つめる。
セレネも俺の目を見返している。
「なんでそう思ったんだ」
「そうね。あなたと話してて違和感があったの。特に感じたのはフォングラム公爵家の初代とアデリーナ姫の話のときね。まるで当事者のように話していたわ」
あれ。誤魔化せたとおもったけど、誤魔化せなかったのか。
「私の気のせいかと思ったのよ。でもね、リチャード。あなた、この指輪を見せた時すごく愛おしそうに見つめたのよ。私の髪の色の話をしたときもそう。あなたは、フォングラム公爵家の初代、ミルフォードではないの」
俺はこの時どんな顔をしていたのだろう。
セレネの言葉に、少し震えながら言うその姿に、俺の頭の中にある可能性が浮かぶ。
ありえないと思いながら心が期待に震えるのを止められなかった。
~ セレネ ~
昨日、早くに目が覚めた私は、リチャードの腕の中で彼の顔を見ていたの。
擬態をしているから、髪の色は私の好きなあの色じゃない。
顔も私が知っている、あの顔とはちょっと違うわ。
でも、やはりあの人の面影がところどころにあるの。
ねえ、私本当に驚いたのよ。まさか本当にもう一度出会えるなんて。
私ね。セレネに転生するのを決めた時に諦めていたのよ。
だってそうでしょ。私は亡国のタラウアカの王女なのよ。
もう少し大きくなったら私を旗印に戦を起こすはずだったのだもの。
あなたと出会うことはありえないと思っていたわ。
私ね。死んだあと、輪廻の輪を外れて女神様の所にいたの。
魂だけになった私に女神様は謝ってくれたの。辛い思いをさせたって、呪いを解いてあげられなくてごめんなさいって。でも、この時にはわからなかったの。不思議そうな顔をする私に女神様はいつかわかるときが来るから、この言葉を覚えていてね、と言ってくれたの。
それから、女神様のそばで満ち足りた時を過ごしたわ。
女神様に訊けばあなたのことや子供達、その子供たちのことを教えてもらえるから、始めは気付かなかったのよ。あなたも、輪廻の輪を外れたことに。いいえ、違うわね。あなたは転生していたもの。
まさか、女神様にお願いして、記憶をもったまま直ぐに生まれ変わっていたなんて思わなかったのよ。
私はあなたも死んだらここに来て再会できるものだと思っていたの。
それにね、あそこにいるとこちらと時間の流れが違うみたいなのよね。
気がついたら女神様がとても厳しい顔をしていらっしゃったのよ。
誰かと話しているのを盗み聞いて、私の祖国タラウアカ国がなくなってしまったことを知ったわ。
私はそれを聞いて何かしたかったの。
女神様の話しぶりで、私は守られていたことがわかったから。
百年近くただ守られていただけなんて。私は覚えていない何かのためにとても傷つけられたから、その傷が癒えるまで女神様のところにいさせられたと知ったから。
だから、女神様にお願いしたの。私をタラウアカ王家の最後の姫であるクリシュナ王女の子供に転生させてほしいと。女神様は反対したのよ。
でも、私は祖国のために何かしたかった。
ううん。何かしなければと思ったの。
女神様は私の説得に渋々折れて、そしてあなたのことを話してくれたの。
あなたが、記憶を持ったまま、転生していることを。
そして、もし、私があの世界に生まれたとしても、あなたと出会うことはできないだろうと。
それでもいいと思ったの。
クリシュナ王女を助けるのは私の意思だから、それであなたと一緒にいられる人生は諦めたの。
女神様は私に祝福を授けてくれてこの世界に送り出してくれたわ。
私ね、セレネとして生まれてきて幸せだったのよ。
父が騎士になって王都に行ってしまって、滅多に会えなくなっても、病気で母が死んで、王家の義務を引き継ぐことになったけど、それでもね、幸せだったの。
でも、今回のことで父を亡くして、どうしていいかわからなくなってね。
最初はあなただと気付かなかったわ。
あなたは父の死を伝えに来た不吉な使者だった。
そして、王都で行われる父の葬儀のために住み慣れた村を旅立った。
でも、たった3時間ですべてが変わってしまった。
あなたに擬態を解かれ、魔法での攻防の最中に言われた言葉。
そして、擬態を解いたあなた。
思わず魔封じの耳飾りのことを言ってしまったけど、本当は心臓が止まるかと思うくらいに驚いたのよ。
濃いブロンドの髪にラピスラズリの瞳。瞳には王家の証の赤い星。
まさかと思ったわ。あなたなのって。
でも、訊くわけにはいかないの。あなただとわかっても隣にいくわけにはいかないから。
それからあなたと話をして、村に戻って、村の危機を救って・・・。
あの短時間で状況はめまぐるしく変わったわ。
あなたと侍従の彼との会話についていくのはやっとだったのよ。
そして、村を追い出されて、侍従にいわれた街にたどり着いて。
このころには思考が麻痺していたのよね。ううん、麻痺していたのは感情の方だったわ。
自分がどういう状態なのか分かっていなかったし。
宿の女将さんや食堂にいた人が私のことを見ていたのは、騎士につれられた子供が珍しいのだろうとおもっていたから。
一昨日は移動に一日費やしたわ。そして、休憩の度にあなたが話してくれる話を聞いたの。
そのおかげで、私は全てを思い出せたわ。
あなたがどんな思いで転生をしたのかわかったから、私は何も言えなかったの。
私に気付かせないようにいろいろしてくれたのよね。
そして、今も。
それにね。私思い出したの。あの時のこと。
あなたとお父様が戦争を終わらせるために奔走していた時のこと。
私ね、あなたと初めて会った時、あなたに一目惚れしたのよ。3歳の子供がなにをって思うかもしれないけど、本当なのよ。だから、講和のためにあなたと結婚することになったときにはうれしかったの。
でもね、自分はまだ3歳の子供でしょ。あなたとは釣り合わないと思ったの。
だから、神官の言葉に耳を傾けてしまったの。あなたと釣り合うのなら何でもすると。
その結果がああいうことだったのね。
ごめんなさい。辛い思いをさせたわね。それなのに、私は忘れて守られて。
だからね。あなたは幸せになってね。
私はあなたの幸せを願っているから。
そう思ったのに。これは夢じゃないのね。
あなたが私にプロポーズしてくれるなんて。
タラウアカ王家のバラを渡してくれるなんて。
理由はちょっとひどいけど、でも、それで、私達を苦しめた奴の裏を掻けるなら、お安い御用よ。
そう思ったんだけど、今のあなたもかっこいいから、誰かいい女性がいるのじゃないかと勘ぐってしまったわ。つい、詰ったら。あら、まあ。
そして、私の指輪をもってくるのですもの。
言わないつもりのことまで言ってしまったじゃない。
ねえ、気がついてくれたかしら。
~ リチャード ~
俺は唾をゴクリと飲み込んでから浮かんだ考えを口にする。
「君は、セレネは、アデリーナなのかい」
「あら、私の問いに答えてくれないの?」
お互いの目を見つめ合う。
「そうだよ。俺はフォングラム公爵家初代当主ミルフォードだ」
「私はフォングラム公爵家初代当主夫人のアデリーナよ」
俺は、セレネを抱きしめて口づけをした。
唇を離すともう一度強く抱きしめる。
腕の中の温もりを確かめるように、強く、強く。
「痛いわ、ミル。もう少し緩めてよ」
「ああ、すまないアディ。本当に君なんだね。どうして・・・いや、また会えてうれしいよ」
そう言って笑ったのだが、おかしいな。なんで、セレネの顔がぼやけてんだ。
「もう、泣かないでよ。ミル」
「あ、れ?本当だ。なんで涙が・・・」
「うん。その、ごめんね」
「何で、アディがあやまるんだ。あやまるようなことはしてないだろう」
「でも、あなたの涙はわたしのせいだから」
「そんなことはないよ。ところでなんでアディはここにいるんだ。女神様の所にいたんじゃないのか」
「うん。話すから聞いてくれる」
そうして、彼女からどうして転生したのかを聞いたのだった。
「だからね、私にも手伝わせてよね。私だって許せないんだから。そいつの裏を掻けるのなら子供の1人や2人産んでやろうじゃないの」
勇ましく彼女は宣言したのだった。
その言葉に今まで、心に重くのしかかっていたものが消えていく。
そうか、アディは守られるだけじゃなく、共に戦おうとしてくれてるんだな。
「あっ、でもね、ミル。アディと呼ぶのは今日だけにしてね。私はセレネなんだから」
「そうだな。俺も今はリチャードだもんな」
「ええ」
セレネの輝くような笑顔に俺は口づけを落とすと、彼女を抱き上げた。
セレネは俺の首に腕を回すと、耳元で囁いた。
「愛してるわ。ミルフォードである、リチャード」
「俺も。愛してるよ。アデリーナである、セレネ」
恋とはなんぞや?13話です。
やった~。終わりました。
読んでみていかがでしたでしょうか?
リチャードが初代ミルフォードで、セレネがアデリーナ姫だったのですが、この13話を読む前に分かった方がいたらすごいです。
さて、散々質問は最後まで読んでからといいましたが、これで終わりですので、分からないことがあればご質問ください。
もちろん感想もお待ちしています。
えーと、なんかあったかな?
あっ、リチャードにロリコン疑惑があったけど、ロリコンじゃないよね。
ん? やっぱりロリコンかな。
あーと、リチャードが「俺は、人としてどこか欠けている。ーーー」のところ。彼はこれで2回目の転生です。もちろん前の記憶があります。前も美男子でした。女性に取り囲まれたりしました。ですが、アデリーナ姫以上に思える女性に出会えませんでした。もちろん結婚して子供は残しましたが。なので、今回も好ましい女性と会えていないことを揶揄しています。
今回セレネにひかれたのは、アデリーナ姫と同じ髪色で、アデリーナ姫の血をひいているからです。
あれ、結構ひどい?もしかして軽いヤンデレ?
違うよ。ヤンデレじゃないよ。
アデリーナ姫のことは年の差もあり、父親のような、兄のような気持ちで成長を待つつもりでした。それをあんなことになって、25歳の若さで亡くして。
その理不尽さが赦せなくて、女神様と取引をして記憶を持ったまま転生しました。
それから、バラの花のことですが、この世界のバラには色々な色があります。もちろん幻の青いバラもありますし、某漫画に出てくる紫のバラもあります。それで、聖王家にはそれぞれその王家の特徴のバラがあります。リングスタットはラピスラズリの色で、タラウアカは赤銅色(銅線のような色でわかるかな?)です。
さて、これで最強(最凶)夫婦の誕生です。参謀のユーリックも交え、ちょっかいを掛けている神との闘いです。といっても頭脳戦ですが。
まあ、それは別の話になるので、要望があった場合に考えますね。
それでは、ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。