恋とはなんぞや? ~リチャードとセレネの恋模様?~ 10
次の休憩の時には魔法について聞かれた。
「あなたの魔法って私が知っているのと違うわよね」
「う~ん?そうか」
「だって、あなたに教えてもらったシールド。あれって属性がないじゃない。雷の魔法もそうよ。ピンポイントであてられるって何?他にも、えっと、嘘ついてるのがわかるとか、人が近づいてくるのがわかるとか、訊いたことないんだけど。それから、覗くとかいってたけど、まさか人の頭の中が覗けるんじゃないでしょうね。あと、糸を強化したんだっけ。強化の魔法って何。それにあなたが普通に言ってた幻惑の魔法。意味はわかるけどそれも属性が特定できないわ」
ああ、確かにそうだろう。セレネの言い方もパニック寸前のヒステリー気味だもんな。
「えっとなぁ~。まず、魔法に関する考え方が違ってるんだ」
「魔法に関する考え方って、魔法を使うのに属性が関係してるのでしょう」
「それがな、属性は関係ないんだ」
「なんで、おかしくない?それじゃあ」
「待った。ちゃんと説明するから。俺たちは『人は魔力を持って生まれてきて、魔力の強さには個人差があり、魔力量や使える属性もそれぞれ違う。属性は髪や目の色に出やすく、相性のいい属性を判断するのに役立つけど、それ以外の属性が使えない訳ではない。中には全属性を使える人もいたりするけど、滅多にいない。普通は一般の人で1種類、貴族で2種類から、3種類。属性は火・水・風・地・雷・冷気・光・闇がある』って教わるよな」
「ええ、そうよ」
「まず、そこが間違ってるんだ」
「間違ってるって・・・」
「俺も魔法のことを習った時には素直に信じてたんだけど、魔法を無詠唱で使ったあたりからなんかおかしいなとおもったんだよ」
「えっ?無詠唱って普通じゃないの」
おいおい、セレネさんや。そこを知らないのか。
あのまま何事もなく成長してたら・・・よそう。怖くなってきた。
「あーの、なあ。魔法を使うときに使うための呪文を唱えるって、最初に習わなかったか?」
「えーと、母さんから、どういう魔法を使いたいかイメージしなさいって。それで魔力を込めれば発動するって言われたわ」
はぁ~、さいでっか。王家のチート能力、甘く見てたわ。
まあ、あの暮らしならクリシュナ王女が教えるしかなかったんだろうがな。だがな・・・。
「確かにその通りだが、ざっくりしすぎだろう」
「そうなの?」
セレネが首をひねっている。
「ああ。それでな、魔法を使うには呪文を唱えるんだが、唱える呪文に決まったものはないんだ。クリシュナ王女が言ったイメージのほうが大事ってのはあってるがな。例えば、火の魔法を使うとして、薪に火を点けるのと、魔物を焼き尽くすつもりで放つのと違うよな」
「どんな例えよ。でも言いたいことはわかるわ」
「それでな、そのイメージを形にするのは具現化する力じゃないのかと、ユーリックがいいだしてな」
「具現化する力?」
「ああ、なんでも、あいつの記憶の中に魔法が出てくるゲームのことがあって、この世界の魔法は属性に縛られてないと言い出してな」
「属性に縛られてない?」
「俺も最初は何のことかとおもったぜ。だがな、話を聞くと納得したんだ。あいつがやったことがあるゲームには魔法が出てくるものがいくつかあって、魔法を使うのに縛りがあったそうだ」
「しばり?」
「ん~、条件って言ったほうがわかるか?ある職業につくとこの魔法が覚えられるとか、ある人物のみにしか使えないものとか」
「えーと、ある職業っていうと、神官とか?」
「そう。神聖魔法は神官にならないと覚えられないんだと」
「神聖魔法って何?」
「魔を滅する魔法だってさ」
「その魔法はこの世界にあるの」
「さあ?聞いたことないな。近いものは光魔法にあるけど」
「えっ、あるの?」
「ああ、だがこれは広範囲に使うから、魔力量が多くないと使えないぞ」
「そうなんだ」
「それで、属性って言ってるけど、それは系統じゃないかっていいだしてな」
「属性じゃなくて、系統?」
「属性持ちだとその属性しか使えないはずなのに、全属性使える奴がいるだろう。そこが矛盾してるんだと」
セレネが口元に拳を当てて考え込んだ。
「確かにそうね。全属性を使えるのならその人が持っていないとおかしいわ。でも、全属性を持っているなんて話は聞いたことがないもの」
「だろ。系統だったら説明がつくだろ。系統をわけるとまず大雑把に攻撃系と回復系。それと補助系だな」
「補助系って?」
「身体を強化したりする魔法」
「あっ!糸もそれで強化したのね」
「ご名答。他にも周りの気配を探るとかな」
「それって補助系なの?」
「攻撃系と回復系以外は補助系なんだとさ」
「・・・一応分類って思えばいいかしら」
「まあ、そんなもんだな」
「じゃああなたが言った覗くというのは?」
「う~ん、言葉のうえだと覗くだけど、本当は感覚の糸を伸ばして相手の反応を見てる。かな」
「?」
「感情って顔だけじゃなくて体全体に出るから、それを感じ取っているんだ」
「じゃあ、本当に考えていることが見えるわけではないのね」
「そうだぜ。そんな便利な魔法があるなら、こんなことにはなってないだろう」
「そうだけど。うちの秘伝みたいにフォンブルク家に伝わるものがあるのかと」
「そんなもんねえよ。それに浮遊魔法なら俺にも使えると思うぜ」
「うそ。知ってた・・わけじゃないのよね」
「知らなかったけど何回も見たし、感じたからな。イメージは掴んだからできるだろ」
「あっ、それがイメージしなさい。なのね」
「まあな」
「はぁ~」
「どうした、ため息なんて吐いて」
「・・・目からウロコよ。今までの常識を引っくり返されたんだから」
「どうする?もう少し話すか」
「いいえ。もう、行きましょう。休憩は十分とれたし。それにあなたにできるか試してみましょう」
「おっ。俺がやってみていいのか」
「ええ。そうすれば実証できるでしょ」
俺たちはランスに乗った。そして浮遊の魔法をかけてみた。
「どうだ?ちゃんとかかったか?」
「・・・ほんと、あなたってチートなのね」
「じゃあ、上手くいったんだな」
「ええ」
「それならいくぞ。途中何もなければフォンブルクまで休憩なしだからな」
「わかったわ」
俺は抵抗を弱めるためにシールドをランスごと張った。ランスもわかったのか一声嘶くとすごい勢いで走り出した。
おかげで日が落ちる前にフォンブルクに着いた。街に入るのに行列ができている。俺たちも列の最後に並ぶ。セレネがランスから降りたがったから、今は手綱を持って並んでいる。
セレネが息を吐きだしたと思ったら、小さな声でぼそりと言った。
「あんなとこ通ると思わなかったわ」
「仕方ないだろ。あそこからここまで道が曲がって遠回りになんだよ」
「だからって草原を突っ切るなんて。先に言っておいてよ」
よく見るとセレネの目にうっすらと涙が浮かんでいる。
あー、また、やっちまったか。
予告なしで、草原や丘を猛スピードで駆けていきゃあ怖いわな。
突然目の前に野生の牛やヤギ、猪なんかがあらわれりゃ胆をつぶすよな。
一応シールドは張ったし、ランスならよけられるし、もし向かってきたのがいてもランスなら一蹴りだし。
それでも駄目なら俺の出番・・・って、今更言っても遅いか。
「悪かった。シールド張ったし大丈夫だと思ったんだよ」
「・・・もう、知らない」
セレネはプイっと横を向いた。その様子が年相応に見えて目元がゆるむ。
しばらく待っていたら俺たちの番になった。
フォンブルクは城壁に囲まれた街だ。フォングラム公爵家の館があることもあり、守りに重点をおいた作りになっている。街に入るには4か所ある門から入らなくてはならない。門には門番がいる。彼らは不審人物が街に入らないようにチェックしているのだ。
「リチャード様。お早いお着きですね」
「あれ。そんなに早かったか?」
「はい。討伐隊は今日は一つ前の街で泊まるそうです」
「ありゃ、追い抜いちまったか」
「そのようですね。これからどうなさいますか」
「ああ、屋敷に向かうつもりだ」
「わかりました。ところでこちらのお嬢さんは?」
「ベイグリッツ隊長の娘さんだ」
「それは・・・」
「んじゃ、行くわ」
「はっ」
門番や警固の兵士たちが敬礼をした。
俺たちは門を抜けて中に入るとランスに乗った。
「あなたってえらい人だったのよね」
「・・・いや、あれは俺にじゃなくて、セレネにしたんだよ」
「私に?私は何もしてないわよ」
「ああ。だが、救国の英雄ベイグリッツ隊長の娘だ」
俺の言葉にセレネは身体を固くした。前を向いているから表情は見えない。
「父さんは英雄なの」
「ああ。俺を救うというのはそういうことだ」
「そう・・・」
それっきりセレネは黙ってしまった。
館に着いた俺たちを使用人たちが総出で出迎えてくれた。
セレネのことを侍女長に任せると俺は自室に行って風呂に入った。
ちゃんとした風呂に入るのは・・・3ヶ月ぶりか?
魔法で湯を出して身体を拭いたり水浴びはしていたが、石鹸を使って体を洗えるのはいいよな。
サッパリとしたあと、侍従に傷薬を塗ってもらい包帯も新しいものを巻いてもらう。そして楽な服に着替えて廊下に出た。
この館の執事長のエルンスト・アッカマーがそばに来た。
「リチャード様、夕食の準備が整いました」
「急で悪かったな」
「いえ。討伐が済み王都に戻られる時にお寄りになられるとご連絡はいただいておりましたから。それにリチャード様が先にいらしてくれたので、討伐隊の受け入れについてご相談ができますし」
「そうだな。食事の後でいいか」
「はい。もちろんでございます」
「ところでセレネはどうしてる」
「マリベルたちが喜んでお世話しております」
「あーあ」
喜んでね。ははっ。悪いことしたかな。
「もう少ししたらお支度ができると思います」
「じゃあ、待っている間に溜まった書類なんかあればみるから」
「はい。すぐお持ちします」
食堂に入りいつもの席に座る。すぐに書類を持ってきてくれた。読んだものを3種類に分けていく。
全部を読み終わり執務室に運んでおくように指示をしたら、セレネが食堂に入ってきた。
妹のアリシアが小さいときに着ていた水色のドレスを着ている。あの時アリシアは10歳だったような・・・。
「こちらにどうぞ」
執事のウォーレンが椅子を引いてセレネを座らせる。
丁度、俺の向かいの席。戸惑いながらも座るセレネ。
まず、前菜として野菜をゆでた物にレモン果汁を使ったソースをかけたものが出てきた。
セレネが困ったように俺を見た。
「気にしないで好きに食べていいよ」
「でも・・・」
俺はセレネに見せるようにナイフとフォークを使って野菜を食べやすい大きさにカットして食べてみせた。
セレネも同じように野菜をカットして食べる。
次はスープ。千切りにした野菜が入っている。スプーンを使って口に運ぶ。
メインは牛肉のソテー。パンは最初からテーブルに置かれていた。
セレネは俺の様子を見て、一生懸命まねをしていた。
最後にデザートに果物がいくつかでてきた。
セレネはそれを美味しそうに食べていた。
食べ終わったセレネに俺は言った。
「今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」
セレネは何か言いたげに俺を見たが、何も言わずに頷いた。
俺は執務室に行くとさっき分けた書類に署名したり指示を書いたりして、それぞれに渡すように言った。
それから、明日フォンブルクに到着する討伐隊の受け入れに関する話を、エルンストと詰めていく。大体は用意して準備を進めていたようだが、討伐隊の様子を話したら変更箇所がいくつか出てきた。その手配を任せて執務室を出ると、今度はマリベル侍女長が待っていた。
「様子はどうだ」
俺の問いかけにマリベルは痛ましい顔をする。
「落ち着いていらっしゃいますが、リチャード様。どうにかなりませんか」
「どうにかとは」
「わかっていらっしゃいますのに。あれでは体にもよくありません」
「言いたいことはわかるがな。普通にしようと頑張ってるんだぞ」
「ですが、あんな小さい子が感情を押し殺してるなんて」
いや、あれは押し殺しているというより麻痺してるんだとおもうんだがな。
そう思ったが、口には出さずに聞いてみる。
「それで、俺にどうしろと?」
「リチャード様がどうにかしてください」
それは・・・丸投げか?
まあ、俺しかいないよな。
「んじゃあ、泣かすぞ」
「はい。思い切り泣かせてあげてください」
よし、許可が出た。と!
10話です。
前話の後書きに書いた魔法の説明の回です。
あと、フォンブルクの館に着きました。
あと、おかしくないよね。
庶民の暮らしをしてれば、食事のマナーに戸惑うよね。
さて、次回の予告が最後に入ったね。
今まで、宿の女将さんや常連さんがセレネを気にかけていた理由。
次回セレネちゃんを泣かします。
で、補足。 魔法のこと。
私もゲームをやるのでゲームからの知識です。いや、知識じゃないか。
属性持ちだとそれしか覚えられないもんね。
特に「クロノ・XXガー」がそうでした。前にセーブできずに戦いの途中で離れたら、戻った時にある属性の子だけ生き残ってました。・・・ちょっとショックでした。
他にも「ドラXエ」とか「FF]とかもやっていて職業で覚えられるものが違うのはいいけど、武器でも違うってのは・・・。
なので、属性は無しにしました。
あと、話しの中には出てきませんが、ユーリックは魔力量は多くないですが使える魔法は多彩です。ゲームの知識を生かして、色々な魔法を考案しました。その一つが幻惑の魔法です。他にもありますが、彼が考案した魔法はフォングラム公爵家の者に見せて使える人間を増やしました。
こんなものですかね。
もし、気になることがあれば、ご質問ください。
では、次話で。




