第5頁【結】
最終話です。
時は流れて10年。
28歳を迎えた僕はそのフランスの大学院で出会った日本人女性と来月結婚することになった。
皮肉にもそれが6月なのだ。
大学院を卒業した私はその専門性を買われて日本のとある大学の准教授となった。
今はその職場で楽しくやっている。
日本に帰国後、月命日となれば欠かさず墓へ足を運んでは自分の身に起きた出来事を話している。
婚約者の彼女にはしっかりとこの事は話しているし、彼女も了承している。
納得しているかどうかは別だが。
それでも雅と僕を裂こうと彼女が少しでも思っているような素振りを見せていたら婚約などしていなかっただろう。
とにかく、未だに僕は彼女と僕だけの世界がこのお墓といつも線香の隣に供える包み紙から取り出したイチゴミルクキャンディーを介して存在していると信じているのだ。
昨日はまさにその月命日だった。
相も変わらず僕は先月の出来事を話してその後に改まって婚約のことを話した。
その時風が騒いだので「あなたが世界で1番愛しているのは私なのに?」と拗ねているのかもしれないと思った。
だがすぐに5月のそよ風が僕の頬を優しく撫でたので「その女性を幸せにしなさい」と言われたような気がしたのだ。
僕は雅と家の前で別れた時以来、流したことのなかった涙が止めどなく溢れた。
ようやく僕は彼女の死を認めたのだ。
彼女のいない世界はモノクロで、あのキラキラしていた日々が夢幻だったのではないのだろうかと思うことが何度もあった。
彼女のいない世界で自分が生きている意味を問いただし、命を断とうとしたことも何度もあった。
だが、色々な人に出会い、支えてもらって今の僕があることに気づき、必死で生きてきたのだ。
フランスへ渡ったのは彼女の為だと言いながら、ただ彼女との思い出が多すぎる日本を去りたかった口実でエゴだったのだろう。
それでも今は僕をフランスへと背中を押してくれた彼女という存在そのものに感謝をしている。
僕は一通り涙を流したあと、その跡をハンカチで乱暴に拭き取り、新しいイチゴミルクキャンディーを右ポケットから取り出した。
そして包みを開けて、ピンク色の三角形の飴を取り出した。
それをその包みの上に乗せ、いつものように線香の隣に供える。
そして先月供えたキャンディーを手に取った。
いつもならそれを衛生面に気を使って口にすることはないのだが昨日はそれを食べた。
5月はやはり暑いらしい。
ほんの少し底が包み紙に溶けてくっついていたがそれを引き剥がして口に運んだ。
そして僕は思わずあのセリフを口にしていたのだ。
「甘くて美味しい…」
どこかで彼女が笑っている気がした。
ここまでご愛読いただき、ありがとうございました!
私自身、青春は甘いだけではなく、苦いと考えております故このような作品を投稿させていただきました。
不愉快に思われた方がいらっしゃれば申し訳ありません。
しかし、私はこの作品を通して一歩前進したように思います。
それではまた次の作品はあるかどうかわかりませんが、いつか機会があればまた作品上でお会いしましょう!
ありがとうございました!




