第1話:資格狂い、異世界で目を覚ます
第1話:資格狂い、異世界で目を覚ます
父親は鼻で笑った。
「資格なんざ取ってどうすんだ」
テーブルの上には、俺の合格通知が置いてある。国家資格。何ヶ月も仕事の後に勉強して、ようやく取ったものだ。
「履歴書に書ける。転職にも有利だし――」
「くだらねえ」
即座に切り捨てられる。
「仕事ってのはな、一つの場所で長く続ける奴が信用されるんだ。資格ばっか集めてる奴は腰が落ち着かねえ」
胸の奥がざらついた。
「時代が違うよ」
思わず言い返す。
父親の目が細くなる。
「勉強して賢くなったつもりか?」
低い声だった。
「親父の人生、否定してえのか」
言葉に詰まる。
そんなつもりじゃない。ただ――
認めてほしかった。
合格通知を見せても、父親は一度も「すごい」と言わなかった。
「資格なんざ飾りだ」
その一言で終わりだった。
だから俺は次を取った。また次を取った。
履歴書の資格欄が埋まるほど、心は空っぽになっていった。
欲しかったのは、たった一言だったのに。
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目を開けると、知らない天井があった。
木造の粗い板。隙間から朝の光が差し込んでいる。
「……は?」
体を起こす。
狭い部屋。見慣れない家具。見慣れない服を着ている自分。
頭の奥に、別の記憶が流れ込んできた。
平民の家。貧しい生活。十六歳の少年――ユウ。
そして理解する。
「……転生、かよ」
思わず笑いが漏れた。
冗談みたいな状況なのに、不思議と混乱はなかった。前世の記憶が鮮明すぎるせいだ。
外から怒鳴り声が聞こえる。
「ユウ! 起きてるなら水を汲んできな!」
女性の声。たぶん、この体の母親だ。
「今行く!」
返事をして外へ出る。
町は活気があったが、どこか息苦しい空気が漂っていた。人々の服は質素で、表情は疲れている。
井戸の前で列に並びながら、周囲の会話が耳に入る。
「学院の試験、また落ちたってさ」
「平民が受かるわけないだろ」
「資格持ちは別世界の人間だよ」
資格。
その単語に反応する。
記憶が繋がった。
この世界では、“資格”はそのまま“スキル”になる。
戦闘、商業、治療――あらゆる能力は資格として管理され、試験に合格した者だけが使える。
そして試験を受けるには、莫大な金と教育が必要だ。
結果、資格は貴族が独占している。
平民は一生、底辺のまま。
「……露骨すぎるだろ」
呟く。
努力が、制度で封じられている世界。
その瞬間、胸の奥で何かが燃えた。
部屋に戻り、拳を握る。
「……結局、俺は変わってないな」
苦笑する。
理解してしまった。
俺は資格に狂っていたんじゃない。
認められたかっただけだ。
努力が価値になる世界を求めていた。
そして今、俺はその世界にいる。
この世界では、資格は現実の力だ。持つ者と持たざる者の人生を、はっきり分ける。
なら――
「それでも、俺は取る」
言葉が自然に落ちた。
「全部だ。取れる資格は、全部取る」
今度は父親のためじゃない。
誰かに認められるためでもない。
俺が選んだ生き方として。
その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。
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《固有スキル:資格狂い》が覚醒しました
試験構造解析:有効
最適学習経路:算出可能
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思わず笑う。
「……最高だな」
この世界は理不尽だ。
だが同時に、単純でもある。
ルールがあるなら、攻略できる。
俺は窓の外を見る。
貧しい町。希望の少ない景色。
「全部、ひっくり返してやる」
小さく呟いた。
それが、この世界での最初の誓いだった。
⸻
(第1話 終)




