表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話:資格狂い、異世界で目を覚ます

第1話:資格狂い、異世界で目を覚ます


 父親は鼻で笑った。


「資格なんざ取ってどうすんだ」


 テーブルの上には、俺の合格通知が置いてある。国家資格。何ヶ月も仕事の後に勉強して、ようやく取ったものだ。


「履歴書に書ける。転職にも有利だし――」


「くだらねえ」


 即座に切り捨てられる。


「仕事ってのはな、一つの場所で長く続ける奴が信用されるんだ。資格ばっか集めてる奴は腰が落ち着かねえ」


 胸の奥がざらついた。


「時代が違うよ」


 思わず言い返す。


 父親の目が細くなる。


「勉強して賢くなったつもりか?」


 低い声だった。


「親父の人生、否定してえのか」


 言葉に詰まる。


 そんなつもりじゃない。ただ――


 認めてほしかった。


 合格通知を見せても、父親は一度も「すごい」と言わなかった。


「資格なんざ飾りだ」


 その一言で終わりだった。


 だから俺は次を取った。また次を取った。


 履歴書の資格欄が埋まるほど、心は空っぽになっていった。


 欲しかったのは、たった一言だったのに。



 目を開けると、知らない天井があった。


 木造の粗い板。隙間から朝の光が差し込んでいる。


「……は?」


 体を起こす。


 狭い部屋。見慣れない家具。見慣れない服を着ている自分。


 頭の奥に、別の記憶が流れ込んできた。


 平民の家。貧しい生活。十六歳の少年――ユウ。


 そして理解する。


「……転生、かよ」


 思わず笑いが漏れた。


 冗談みたいな状況なのに、不思議と混乱はなかった。前世の記憶が鮮明すぎるせいだ。


 外から怒鳴り声が聞こえる。


「ユウ! 起きてるなら水を汲んできな!」


 女性の声。たぶん、この体の母親だ。


「今行く!」


 返事をして外へ出る。


 町は活気があったが、どこか息苦しい空気が漂っていた。人々の服は質素で、表情は疲れている。


 井戸の前で列に並びながら、周囲の会話が耳に入る。


「学院の試験、また落ちたってさ」


「平民が受かるわけないだろ」


「資格持ちは別世界の人間だよ」


 資格。


 その単語に反応する。


 記憶が繋がった。


 この世界では、“資格”はそのまま“スキル”になる。


 戦闘、商業、治療――あらゆる能力は資格として管理され、試験に合格した者だけが使える。


 そして試験を受けるには、莫大な金と教育が必要だ。


 結果、資格は貴族が独占している。


 平民は一生、底辺のまま。


「……露骨すぎるだろ」


 呟く。


 努力が、制度で封じられている世界。


 その瞬間、胸の奥で何かが燃えた。


 部屋に戻り、拳を握る。


「……結局、俺は変わってないな」


 苦笑する。


 理解してしまった。


 俺は資格に狂っていたんじゃない。


 認められたかっただけだ。


 努力が価値になる世界を求めていた。


 そして今、俺はその世界にいる。


 この世界では、資格は現実の力だ。持つ者と持たざる者の人生を、はっきり分ける。


 なら――


「それでも、俺は取る」


 言葉が自然に落ちた。


「全部だ。取れる資格は、全部取る」


 今度は父親のためじゃない。


 誰かに認められるためでもない。


 俺が選んだ生き方として。


 その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。



《固有スキル:資格狂い》が覚醒しました

試験構造解析:有効

最適学習経路:算出可能



 思わず笑う。


「……最高だな」


 この世界は理不尽だ。


 だが同時に、単純でもある。


 ルールがあるなら、攻略できる。


 俺は窓の外を見る。


 貧しい町。希望の少ない景色。


「全部、ひっくり返してやる」


 小さく呟いた。


 それが、この世界での最初の誓いだった。



(第1話 終)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ