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第四話 出会いは剣より鋭い

アレクの旅の相棒の少年の登場回

少年を早目に出すために書き直しました

割を食ったイザベラ御嬢様

出番が減った。

『中央都市サントゥス』。

この都市は王権を持たない中立国として、大陸のあらゆる勢力から独立した特別な地位を保っていた。その中心は聖都ルクス・デア。古の伝承では、聖なる山モンディヴィナに神々が降り立ち、人々に教えを授けたと言われる。


『サントゥス』は人や物が集散する大陸の要衝だ。いかなる立場の旅人であれ、必ず立ち寄る場所である。


アレクもまた、この都市を目指していた。

『サントゥス』への主要な入国ルートは、『西のアルカディ王国』か、『東のローゼリアン王国』を経由する道に限られる。

他の地域との間は、天然の壁ともいえる高い山々に囲まれ、その山越えは困難を極めるからだ。


『東のローゼリアン王国』は数年前に王位継承問題で内戦があったばかり。その不安定さを避けるため、アレクはロペス爺さんの助言通り『西のアルカディ王国』からの道を選んだ。


アレクを乗せた馬車は、活気あふれるローエンの町に到着した。石畳の通りを御者のモリスがゆっくり進み、宿場らしい建物の前で馬車を止める。ここで、モリスとも別れる。


「モリスさん、本当にありがとうございました」


「お前の母親のことだか、まぁ心配するな。俺やロペス爺さんが時々様子を見に行くから」


モリスはそう言って笑い、アレクの肩をポンと叩いた。そして真剣な顔になり、声を潜める。


「いいか、身分証明書はちゃんと上着の内ポケットにしまっておけ。サッチェルに絶対入れるな。旅の途中で、身分を証明するものがなくなるのは命とりだ。それと…」


モリスは懐から小さな皮袋を取り出した。

「これはローエンに着いたら渡してくれとロペス爺さんから頼まれたんだ」


アレクは皮袋の紐を緩め、中を確認した。少額の銅貨だった。


「受け取れません」

アレクは皮袋を返そうとする。


「ロペス爺さんの気持ちだ。受け取ってやってくれ」

これ以上拒むのは好意を無にする行為だと悟り、アレクは素直に受け取った。


モリスは次に胸ポケットから銀のチェーンと、小さな紙片を取り出した。

「それで、これは俺からだ」


チェーンには精巧な彫刻が施され、光を受けて鈍く輝いていた。高価な品だとすぐにわか

る。アレクは恐縮して顔を上げた。


「これは…」


「困ったらそれを売れ。まぁ道具屋より、そっちの紙に書いてある屋敷に行って買い取ってもらった方が安全だろうな」


モリスが手渡した紙には、商業都市ラナハイムのスティル伯爵の館、エレノアという女性の名前が書かれていた。


「あの…この女性は?」


だがモリスはその質問には答えず、ふっと笑った。


「くれぐれも野盗と女には気をつけろよ。特に女の『大丈夫』は全然大丈夫じゃないからな。これは肝に銘じておけ」


そう言い放つと、モリスは御者台に戻り、手綱を握った。


「じゃあなアレク。良い旅を」


アレクはただ立ち尽くし、馬車の後姿を見送る。馬車が小さくなっていくに連れて、故郷の繋がりが一つ、消えていくように感じた。


アレクはサッチェルにロペス爺さんの皮袋とモリスの銀のチェーンと紙片を入れ、言いつけ通りに身分証明書を取り出し、上着の内ポケットにしまった。


国境までは、乗合馬車を乗り継いで行くことになる。アレクは宿場を探し、明朝一番の馬車に乗るため、小さな宿屋に泊まることにした。


翌朝、宿の主人に礼を言って出発したアレクは、乗り合い馬車に乗った。馬車の中には、大きな商売道具を抱えた商人、巡礼らしき修道士、そして小難しい顔をした男が乗り合わせていた。


馬車はゴトゴトと揺れながら、広大な平原を進んでいく。日が傾きかけた頃、馬車は次の乗り換え地となる小さな宿屋に到着した。次の馬車の出発は早朝だ。

アレクは他の乗客達と共に宿に入り、部屋を借りた。夕食は食堂で各自取るようだ。


アレクが席に着くと、隣の修道士が静かに声をかけてきた。

「若者、一人旅か?この先も道は険しくなる。気をつけて行くことだ」


「はい、ありがとうございます」と、アレクは少し緊張しながら答えた。


「旅は一人で進むものだが、助けが必要な時は、素直に助けを求める事も大切だ。誰もが敵だと思い込むのは間違いだよ」

修道士はそれだけ言うと、黙って食事を始めた。


アレクは彼の言葉をかみしめながら、明日からの旅に思いを馳せていた。


食事を終え、部屋に戻ってから、アレクは大事な事を思い出した。サッチェルを食堂に忘れてきたのだ。


慌てて食堂に戻ると、幸いにも、椅子の背にかけたままのサッチェルが見つかった。安堵のため息をつき、部屋に戻る。


サッチェルの中身を確認すると、旅の荷物は全て無事だった。しかし、ロペス爺さんから貰った小さな皮袋と、モリスから貰った銀のチェーンがない。


まさか…。


アレクは全身から血の気が引くのを感じた。盗まれたのだ。


銅貨が入った小さな皮袋と銀のチェーンを盗まれたアレクは、青い顔で一階の受付に向かった。


アレクが窃盗の被害を訴えるも、宿屋の主人は怪訝な顔で協力を拒んだ。アレクを身分の低い旅人と見て、面倒事を避けようとしたのだ。


「ご主人」

受付をしていた少年が口を開く。オレンジ色の髪と青い瞳。その瞳の真っすぐな視線が宿屋の主人を射抜いた。


「宿に泊まる宿泊客の安全と安心も、宿屋の責任ではないのか?」


「い、いや、そうですが…その」


「この宿屋の宿泊人数なんてたかが知れている。今日の泊まり客を全員食堂に集めて話を聞けばいい」


少年の言葉に気圧され、宿屋の主人は渋々従った。


食堂に集められた宿泊客達は不満をあらわにしたが、少年は彼らの不満も気に留めず、にこやかに言った。

「皆さん落ち着いてください。ただお話をうかがって、何か気付いた事があればと思って、集まっていただいたんです。どうです、そこのお嬢さん」


伴を連れた女性が「そういえば」と口を開く。食事を終えて外へでたはずの修道士が、再び食堂に戻って来たのが気になった、と証言した。


その女性の言葉を皮切りに、「修道士が、椅子に掛けていたサッチェルを触っていた」という別の証言も飛び出す。


「それは見間違いだ!私は修道士ですよ、盗みを働くなど神に誓ってあり得ません!」

修道士は声を荒らげた。


「ではあなたの修道服の袖から出ているその銀の光は何ですか?」

皆の視線が修道士の左腕に集中する。修道服の袖口から、確かに銀色の細いチェーンがわずかにのぞいていた。修道士は顔を真っ青にして、慌ててそれを袖に押し込もうとした。


「その銀のチェーンは、彼から盗んだ物ですね。今すぐ返してもらおうか」

少年に詰め寄られ、修道士は観念したかに見えたが、往生際が悪い。


「これは私のものだ!だいたい、これが彼のものだと言う証拠はどこにある?その子が持つには不相応な品ではないのか!」


その言葉に、誰もがハッとした。確かに、年若く裕福そうに見えない旅人が持つには高価すぎる品に見える。


「そこまでいうのなら、改めさせてもらいましょう。ご主人」


少年は宿屋の主人に目配せし、修道士の身体を改めるように促した。


宿屋の主人が修道士の服を探ると、彼のポケットから小さな皮袋も見つかった。

もはや言い逃れができない。それでもまだ「違う」と叫び続ける修道士に、少年は銀のチェーンに刻まれた文字があることを見逃さなかった。


少年はアレクに顔を向けた。

「君の名前は?」

「アレクです」

「これは君のもの?」

「あ…。もらったんです」

「誰から?」

「モリスという僕の剣の師匠です」


少年は、不敵な笑みを浮かべた。

「ご主人、銀のチェーンに文字が刻まれている。皆にも聞こえるように、読んでいただけますか」


宿屋の主人は、はっきりと大きな声で読み上げた。

「TO Morris, with eternal love」


その瞬間、修道士は逃げ出そうとして、数人の男達に取り押さえられた。修道士は悪態をつきながら、最後に少年を見て、「クソ…覚えてろ」と吐き捨てた。


少年は、首をかしげ、「覚えが悪いんでな」と涼しい顔で言い放った。


こうして小さな皮袋と銀のチェーンはアレクの元に戻ってきた。


「良かったな。普通は盗まれた物は戻ってこないもんだ」

宿屋の主人はそう言ってアレクの肩を叩いた。


「ありがとうございます」

アレクは宿屋の主人に礼を言った。


最初、協力を拒んだ相手に言うのはおかしい気がしたが、つい口から出た。


少年はすでに食堂を出て、自分の部屋に戻るため階段を上がっていた。アレクは慌てて彼の後を追う。二階の踊り場で追いつき、改めて礼を言おうとしたその時、少年が口を開いた。


「旅は、一人で進むものだが、助けが必要な時は素直に助けを求める事も大切だ。誰もが敵だと思い込むのは間違いだよ」


それはアレクが夕食時に聞いた、修道士の言葉だった。


「え…。どうして、それを?」


夕食の席に少年はいなかったはずだ。


少年は、愉快そうに「ははは」と笑った。

「バカだね。同じ手口さ。そうやって旅人の警戒心を解いて、あちこちで盗みを働いてたようだ。被害者は大した額でもないし、相手が修道士だから訴えても勝ち目がないと泣き寝入りしてたらしい」


「君は、もしかして最初から犯人の目星がついてたのか?」


「まぁ、そういうことになるかな。…ただ確証がないと、ただの疑いだけではどうしようもないからね」


一体この少年は何者なのだろうか?


「君は一体?」


「ただの商人さ。…そうだ」

少年はソードベルトを外すと、剣ごとアレクに投げ渡した。


「それお前にやるよ。腰に下げてな!」

「え…。でも」

「剣でも下げてれば、変なのが寄ってくるのは多少防げる。何より宿屋の主人に値踏みされて見下される事もないからな」


その言葉で、アレクは、盗難に非協力的だった宿屋の主人の態度を改めて思い出した。


「え、俺、見下されてたんですか?」


「ああ、わからなかったのか?盗難騒ぎ起これば、宿屋の主人は多少の配慮は見せるもんだ。君の姿を見て、配慮する必要はないと判断したんだろうね。面倒だから」


それを聞いて、アレクはさすがに腹が立った。


少年は「それじゃあ」と言って部屋に入ろうとする。


知り合ったばかりの相手に剣を貰うのは気が引ける。それに、世話になったのは自分の方なのだから、礼をしなければいけないのは、自分のほうだ。


「一度やるって言ってやったものを突き返されるのは性に合わない。いらないなら道具屋でも行って売れ!もうやったんだから、それはお前のものだ」


それでも受け取れないとアレクが言ったら、

「あぁもううるせえなぁ!やると言ってるんだから素直に受け取れ!男ならグダグダ言うな」と怒られた。


少年は、部屋に入ってしまった。

結局、アレクは解決してもらった礼も、剣を貰った礼も言い忘れてしまった。


部屋に入ったアレクは、サッチェルと剣を目の前において、明日彼に会ったら礼を言えばいい、とベッドの上で考えを巡らせていた。


しかし次の日、少年は、夜明け前に宿を出発してしまっていた。

結局、お礼を言うことはできなかった。


少年は商人だと言っていた。旅をしていれば、またどこかで出会うかもしれない。アレクは、そう思った。


そして、その予感は…当たるのである。

その時、アレクは少年の秘密を知り驚くことになるのだが、それはまた先の話だ。


『本編を読まなくても分かる『勇盾』簡単物語』


中央都市サントゥスを目指すアレクは、旅の途中で盗難に遭う。宿屋の主人が非協力的な中、正義感の強い少年商人の助けで犯人(修道士)が特定され、盗品が戻る。少年はアレクに剣を与え、翌朝早く去るが、二人は再会を果たす予感が残る。

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