第21章
「かつて、危険思想を持つとされた犯罪者を狩ったように、そうしたアンドロイドたちは安全弁を作動させ、強制的に緊急停止することになっている。だが、最近ではアンドロイドにも人権を認めるべきだという声もあり、奇妙なねじれが生じてもきているね。我々はそうした危急の際に最後の防波堤として動く影の機関でもあるのだ……ただ、いつでも優秀な人材が少ない。そこで、セオドア・ミラー、君には我々のそうした機関で働いてもらおうと思ったんだ。『人間そっくりのヒューマノイド当てクイズ』というのは、つまりはそういうことなんだよ」
「では、俺の先ほどの解答はあなたを失望させるものだったでしょうね」
俺は深々と溜息を着いた。もしそうと最初からわかっていたとすれば、もう少しマシな答え方が出来ただろうに。
「いや、そんなことはない。テディ、君の行動力や推理力には答えを聞く前から十分満足していた。まあ、君にとっての一度目の人生はこれからミカエラと結婚し、ジャーナリストとしての生涯をまっとうするというのでもいいだろう……それか、途中で何かあって我々に連絡してくれれば迎えにいくよ。なんにしても僕はね、君のことが気に入ったんだ。まあ、安心してくれたまえ。最初の僕は独身で死んだにせよ、同性愛者ではなかったからね。結婚しなかったというだけで、性向のほうは男性よりも女性のほうが好きだった。だからそういう意味ではないと思って、その点は安心してくれていい」
「その……一度目の人生とか、最初の僕っていうのは……もしかしてクローンのことですか?」
「まあ、本人が希望すればね、そうした方法で復活するやり方もありうる。アダム・フォアマンがメアリー・アンダーソンに約束したのは、クローンではなく、昔の若かった頃の自分としてだ。そしてそれはすでに完成している……今ここにいるのは意識や記憶の移し替えの終わったのちの、ゾンビとしての彼女ということだな。我々の行っていることは、もしかしたら失敗する可能性もあるといったような、不確実な医療行為ではない。クレイグ・ウェリントン博士には会って、すでに色々話したろう?」
「ええ……博士が大変立派な方だということは理解しましたが、もしかしてクレイグ先生もまた、闇やら影やらの機関の一員ということだったりするのですか?」
「まあね。クレイグ先生は弟が交通事故でいわゆる植物人間になってしまったんだ。昔はそうした場合、万にひとつは意識が甦る可能性もあるとして患者は生きているのか死んでいるかもわからぬ状態のまま、延命行為が続けられたらしい。今は医療装置によって意識がどのくらいの残っているのか……という言い方はおかしいかもしれないが、意識が島状にバラバラになっていても統合可能なのかどうか、それは医療の力でどうにか出来るものなのかどうか、判定ができるようになってきている。だが、クレイグ博士の弟さんの場合ちょうど意識がそうした境界線上にあって、色々な意識が戻ってくる治療が施されたけれども、意識があるともないとも言えない状態で、脳幹だけが生きていると判定されていた。クレイグ先生のお母さんは植物状態の息子さんを家に引き取ると、そのまま長く介護を続けたんだね。その後、クレイグ先生は医師となり脳神経外科医になると、弟さんの意識が甦ってくる方法に関する研究に明け暮れた。ほら、アンドレイ・キンスキー博士の禁断の意識データ実験。それがクレイグ・ウェリントンに光明をもたらした。二度と同じ事件が起きないようにと、その意識データ実験のことに関しては色々な人々がその後も詳細に調べて論文を書いていた……また、彼の弟がそうだったように、似たようなことで悩む家族というのはたくさんいたんだね。そして、このまま生きていても息子や娘にしてもつらかろうから、そのような方法でまだ意識が脳の奥に眠っていて生きているのか死んでいるのか、思いきって行ってみてください――という家族が何人もいたわけだ。成功して意識が他に移され、甦ってきたケースもある一方、失敗したというのではなく、おそらくその場合は意識がすでに失われていたのだろうと思われるが確認しようもない。ゆえに、クレイグ・ウェリントンは禁断の医療技術を使って法を犯したとして逮捕され、執行猶予付きの有罪となった。医師免許も取り上げられたわけだが、その後アフリカへ渡り……なんていう話はおそらく、君もすでに聞いたに違いない」
「そうだったんですか。でもその……意識データをクラウドか何かに移された人はその後、どうしたんですか?まさかパソコン内や別のソフトウェア的なものへずっと閉じ込めておくわけにもいかないでしょう?」
「つまり、クレイグ博士は一時的に……その時点で人間にもっともよく似ているとされたアンドロイドに意識を移し替えたのだ。それから今度は本人のクローンか、他の健康な人間のクローンに移し替えることに成功したわけだよ。また、クレイグ先生の弟もまたそのような形で復活を果たした。彼は微かながら意識があっても、自分の意思では指一本動かせなかったそうだ。けれど、母親がいつでも献身的に介護してくれたことは覚えていて……自身のクローンの肉体によって甦ると、その後結婚し、凍結保存してあった精子によって子供も生まれたようだね。孫の誕生を、彼らの母親は殊の外喜んでいたそうだ」
「でも俺は……今の人生の終わり頃にもう一度若くなって生き返りたいとか、現時点ではあまり考えられないんです。というか、人生は一度きりで十分と思ってるというか……」
「まあ、気にしないでくれたまえ。テディ、君も年を取れば考えが変わるかもしれないし、そうした方法もあるということを今は頭の隅のほうにでも覚えて帰ってもらえればそれでいい。君はジャーナリストだから、ここオカドゥグ島で見聞きしたことを記事に書くのではないかと我々が恐れないのかと不思議かもしれない。だが、君がありのままを書いたとしても――誰も信じないというか、編集長といった君の上司がそんな記事を刎ねることだろう。ゆえに我々はそんな心配はしていない」
「そういえば、クリストファー・ランド博士は本当に病死だったんですか?それに、ロドニーが自殺だなんて俺には今もやっぱり信じられないというか……」
「うむ。その大切な話がまだだったね……本当はその前に双子にちなんでフランチェスカ・レイルヴィアンキの話をするつもりだったんだ。だが、もし君の中で優先順位としてはロドニー・ウエストのことが一番高いということなら……ランド博士はそもそも生きているのだよ。俄かには信じがたいことだろうが、彼もまた我々の機関のメンバーだったのだ。そこで、こちらに元の博士の意識データをバックアップし、すでに新しい肉体のほうで目覚め、今はその新しい体のほうを慣れさせているところなんだよ。ゆえに、会うことはまだ出来ないが、もし君に何かあった場合、甦りたいとの希望があって安全性がどの程度のものか不安なら……先に誰かのそうした手順をつぶさに観察してみるといい。ひとりかふたりくらい成功しているのを見ても不安が拭いきれないということなら、何人でも納得するまで見て確認するといい。ロドニーについては……話すと長いが、彼の場合は自殺だ。僕も、彼は自殺するような人物ではないと性格分析的にそう判断していたから――驚いたよ。また、彼の場合は延命して再び蘇らせるなんていうことは、おそらく地獄のような世界に復活させられたというので恨まれるだろうと考えたんだ」
「自殺なんてどうして……確かに弟さんとの確執であるとか、奥さんとうまくいってないとか、そうしたことは聞いてましたよ。でも、離婚してまた他の女性とやり直すとか……ロドニーならいくらでも人生をやり直せたと思うのに……」
「いや、彼は奥さんのレイチェルのことを首を絞めてその手で殺したんだ。一時的な激情に駆られてのことらしいが、『そもそも最初からあなたとではなくシドニーと結ばれていれば、わたしの結婚生活は幸せなものだった』とか、『シドニーに聞いたけど、あなたはシドがわたしを愛していると知っていて、それでわたしに近づいたんでしょ!?憎んでいる弟にあてつけるためだけに』とか、さんざん責められてカッとしてしまったんだな。そしてその後、僕はつい余計なことをしてしまったんだ。僕はね、基本的にスポーツがあまり好きじゃないし、自分でも得意じゃない。でも唯一、テニスとバレーボールだけ好きだった。特にテニスのほうは毎年ウィンブルドンだけは欠かさず絶対に見るといったようなタイプのファンだ。まあ、確かにシドニー・ウエストは素晴らしいテニスプレイヤーだとは思うよ。だけどあんなに顔も良くて爽やかで、一点の曇りもシミもない人間なんて……アンドロイドたちはどう考えるか知らないけど、僕にとって彼はつまらないプレイヤーだった。そこでいつでもシドニー・ウエストが負けることを願いつつ試合を見ていたものだ。その点ロドニー・ウエストはなんとも人間くさくて面白いプレイヤーだったからね……当然、僕と同じシドニーのアンチは声を限りに彼のことを応援したものだ。僕がロドニーのことをこのオカドゥグ島へ招いたのは、大体のところそうした特例的な理由からさ。彼のプライヴェートが暗く下降線を辿りつつあるようだということも知っていたから、ちょっとばかり助けることにしたんだ。今年ここへ招く招待客については前もって身上調査というのを行うんだが、そんな最中にロドニーが奥さんのレイチェルのことを殺害したと知り――ミロスは『彼を招待客のリストから除外しますか?』と聞いてきた。ミロスはなんとも不服そうだったが、僕は『それはならん』として、ロドニーが山中に埋めた死体を連れて来させると、レイチェルのクローンを元の家へ帰した。僕はミロスに『ある種のファンの好意として受け取って欲しい』といったように言わせた。長年テニスプレイによって楽しませてもらったそのお礼なのだと……もちろんわかっているよ。僕にしてもこんなやり方は間違っているということはね。また、こうなるとなんともうさんくさいと感じながらも、ロドニー・ウエストにしてもオカドゥグ島へやって来ざるを得なかったろう。そして彼は最終的に自分で自分を裁いた……そういうことだったのだろうと思っている」
「で、でも……その生き返ってきたレイチェルさんのクローンというのは……今一体どうしてるんですか?」
「たぶん、家で旦那さんの帰りを待ってるんじゃないかな。息子さんや娘さんと一緒にね。元のレイチェルの脳から抽出した意識データには多少細工をして、シドニー・ウエストのことを考えると罪悪感が強まるようにしておいた。これから我々はロドニーの本体についてはこちらで保管し、クローンの死体をイギリス国内のどこかで自殺したか事故に遭ったといったように細工しなければならない。結局のところ、元テニスプレイヤーが妻のことを弟との不倫が原因で扼殺した……なんていうスキャンダルよりは、こちらのほうがふたりのお子さんたちにとっても衝撃が少なくていいのではないだろうか」
「…………………」
「テディ、モーガン・ケリーほどではないが正義感が強く、ジャーナリストとして公平性といったバランス感覚の優れた君にとっては、おそらく僕の判断というのはとんでもないミステイクとしか思えないことだろう。その点については僕も認める……だが、こんなことは滅多に起きないことだと約束できるし、その点においては信頼してほしい。次に、フランチェスカ・レイルヴィアンキについてなんだがね、彼女についてはファンだということもあったが、単にそれだけの私情によって招いたというわけではない。彼女が双子だということを知った時、色々と調べてみて興味深いことがわかったというそのせいだった。モーガンやミカエラの口から、彼女の過去については何か少しくらいは聞いているだろう?フランチェスカの本名はマージ・レイルヴィアンキと言って、妹のほうがマートル・レイルヴィアンキ。彼女たちのママがショービズ業界出身で熱心だったもので、ふたりはピアノやらバレエやら、色々な習い事を小さな頃からやらされていたようだ。ふたりの小さい頃の写真を見るとよくわかるけど、ふたりとも本当にそっくりで、ほとんど見分けがつかないくらいなんだ。そんな中、歌うことにも踊ることにも演技することにも天分のあるマートルと、決して下手というのではないけれど、凡人並みの才能の姉のマージ……母親は妹のマートルの才能に熱中し、マートルはCMやらドラマに子役として出演するやら、どこからも引っ張りだこだった。妹と一緒に家を留守がちにしている母親だったが、マージには母親の尻に敷かれた感じの、気は弱いが優しい父親がいたし、何より大好きな家事ロボットのフランチェスカがいた」
「もしかして、フランチェスカの名前っていうのは……」
「そうだ。彼女は本物の生きた母親よりも、家にずっといて何かと面倒を見てくれる高性能家事アンドロイドのほうを愛した。そしてやがて彼女は耐用年数が二十五年を迎え、不具合によって廃棄処分の決定したフランチェスカの名を名乗るようになり……まあその、ポルノすれすれの芸術的な映画によって有名になった。実の血の繋がった母親のほうは、『そんないやらしい映画に出るような子はうちの娘じゃないっ!!』と怒鳴って、縁を切ったらしい。だから彼女は今もスウェーデンの実家には帰っていないし、エージェントの用意してくれたマンションで暮らしているようだね。妹のマートルのほうは十代と二十代の初めくらいにかけて大人気だったけど、その後人気に影が出始めた頃に結婚して引退した。母親が不妊治療によって彼女たちを生んだように、マートルも不妊治療を受けて双子の女の子を生んでいる。不妊治療を受けて誕生した子供というのは、妊娠しづらいと言われており……また、不妊治療によって生まれる子には一般よりも率として双子の子供が生まれやすい。排卵誘発剤を使用した場合でも、体外受精の場合においても、プロセスにもよるが多胎妊娠の確率が高まるからだね。まあ、人工子宮の研究については我々もまだ成功していないといったことについては、また機会があった時に詳しく話そう。とにかくこの場合大切なのは、マージ・レイルヴィアンキは自分を育ててくれたに等しいママ・アンドロイドのことを愛し、小さな頃からずっと彼女が憧れの対象で、アンドロイドのようになりたがっていたということなんだ」
「大学の心理学の授業で、一応習ったことはあります……家に留守がちな父親や母親よりも、長い時間を一緒に過ごした子育てアンドロイドのほうに子供がなつき、その後もアンドロイド擁護者としてデモへ参加したり、時には過激な社会行動に出ることもあるといったようなことは。でも、奇妙な言い方ですが、フランチェスカは俳優としても社会的に成功していて、自立した素晴らしい女性だ……なんて言ったら彼女は大笑いするでしょうが、今の彼女は何かそう深刻なアイデンティティの問題を抱えているようには見えないというか……」
「このことについて、僕はテディ、『君の目は節穴かい?』とまで言うつもりはないよ。第一、ロドニーのこともあるからね……僕もそうだったが君だって、ロドニーに自殺する兆候などひとつも見られなかったとそう思っていたろう?まったくもって人間の心というものは複雑怪奇なものさ。フランチェスカがモーガンあたりにでもコンプレックスを感じている妹についてや自分のことを何か話したとすれば……おそらくモーガンが死んだ夫のことや、今までバディとなった刑事仲間や部下たちがどんな形で死んだか、そんな話をしたからだろうと思うよ。フランチェスカ・レイルヴィアンキという女性の心の殻のようなものはそのくらい分厚い。だから、君に自分の過去をまったく話さなくても、君に心を許してないとかそうしたことではないんだ。人は自分にとって本当につらいことは、口に出して言うことさえ出来ない。そしてそんな混乱に人を巻き込むだけ巻き込んでも……相手にとっても迷惑だろうという配慮があるからだ。それでも父親とは少しくらいは連絡を取ったりするようだが、母親とマートルとその双子の可愛い姪たちと――フランチェスカはそこに自分の居場所はないとしか感じていないらしい。というのも、マートルの夫になった俳優の男がだね、どうやら姉のマージにも言い寄って関係を持ってたからなんだ。そんな家、フランチェスカが帰りたくなかったとしても無理はないだろう?」
「その……俺はフランチェスカのことが人間として好きですが、それでもひとりの友達としてでは、それもほんの三か月くらい前に知りあったニワカ的な友達というのでは支えるのにも限界があるというか、そんな感じだと思うんです。彼女は百万ドルというお金にはさして興味がなさそうでしたが、その……なんていうか、フランチェスカは自分の望みのものを手に入れられたんですか?」
「まあ、そうだね。彼女のファイナルアンサーは君同様、指摘した人物の名前もそれが何故かの理由も十分ではなかった。だが、フランチェスカの電子口座には百万ドルが振り込まれることになっているし、彼女の人間としての根本的な飢えのようなものは……物質的なものでは到底埋められるものではないと、僕もそう思ってはいる。けれど、そろそろ彼女はとっくに自分は妹に勝利しているのだと、その事実を知ってもいいんじゃないかと思ったものでね。だから、その事実について指摘しておいた。双子っていうのは、小さい頃はよく似てるけど、その後メイクや着ているものがどうこういう以前の問題として――だんだんちょっとした違いが顔に出てくるものだよね。フランチェスカの妹のマートルは、今じゃ姉ほど綺麗ではなくなっている。子育てに追われて幸せ太りしたせいもあるし、そんな蜜月を一度は過ごした夫に対しても、一度浮気してることがわかって以降は疑心暗鬼となり、近ごろは離婚問題で揉めているようだ。おばあちゃんのほうは若い頃から美容に気を遣ってきているから今も若々しいが、孫たちは色々厳しいレッスンをこのババアが課そうとするので煙たく感じているようだし……唯一おじいちゃんひとりだけが、自分の家庭の問題点について熟知しているが、それは多くの家庭でそうであるように『わかっていてもどうにもならないし、どうにも出来ない』といった種類のことなんだね」
「そう聞いてフランチェスカはなんて……?」
「知ってると言ってたよ。というのも、時々連絡してくる父親が、『そういうことだからおまえひとりが家族から除け者にされてる』なんて感じる必要はないし、フランチェスカの双子の姪たちはね、母親の過去の武勇伝なんて大して興味なんかないんだ。今でも時々テレビに出たりすることのあるフランチェスカのほうが――遥かに格好よくてまぶしい存在なのだと、そう教えたようだよ」
「そっか。うまく言えないけど、それなら救いはあるっていうか、何かそうした意味で安心だけど……フォークナー博士、あなたにとってはそうしたフランチェスカの過去が重要な意味を持っていたということなんですか?」
「ありていに言えばそうだね。また、君の恋人になったミカエラ・ヴァネリだが、彼女のことも僕はただ純粋にファンだった。とはいえ、公演のスケジュール的なこともあるし、君の元に送ったのとは多少異なる文面であるとはいえ、薔薇の花束と一緒にそんなものが贈られてきても――彼女は読みもせず捨てる可能性のほうが高いだろうと思っていた。何故といって、ミカエラ・ヴァネリのファンというのはそのくらい数多いわけだしね。なあ、テディ。君は大まかに言って、人間よりも知能の高いAIを搭載したアンドロイドの役割の重要性というのは一体なんだと思うかね?」
「そうですね……人間の面倒な労働の多くを肩代わりしてくれるという意味では労働力の提供、シノブさんのような介護ロボットを見ていると、それぞれその専門性に特化した分野での人間の知性や忍耐力を越えた精神力の提供といったこともあるような気がします。それに、単純なタイプの家事ロボットでも話相手くらいにはなりますし、そうしたセラピー専門のアンドロイドも存在します。でも、あくまで大まかに言うとすれば――大抵のアンドロイドはなんらかの未来予測を自分の仕事にしているところがあるんじゃないですか?」
「たとえば、今ほどAIといったものが進化する昔から行われている株の先物取引とか?だけど、不思議だよね。競馬の予測にAIを使ってもさほど当たらないし、『ライスジンギスカン』という馬の名前や顔つきや毛並みが気に入ったから……なんていう理由で素人が山を張ったほうが案外当たったりするわけだからね。もちろん、その日の馬の調子やジョッキーの体調など、そうしたことまでは情報として与えられないわけだから、それまでの戦績やオッズなんかを参考にするわけだろう?まあ、『天才サッカーチーム』や『天才野球チーム』みたいな話でもあるのかな。サッカーチームで天才が十一人揃っていたり、野球チームで天才が九人揃っていたりするよりも……間に繋ぎになるようなキーマンがどうしても必要になるというね。その点、AIというのは選り抜きの天才を揃えたほうが勝率が高まると考えるから、人間性がどうのという話は二の次ということになる。なんにしても、AIが多くの場合なんらかの未来予測に携わっているという君の意見は正しいと思うよ」
「いや、なんか昔そんな授業を大学で受けたっけなあくらいのぼんやりした情報なんですが……俺たちの見ている現在というのは0.1秒くらい過去なんじゃないかという話だったんです。つまり、俺たちが何か物を認識してすべての情報が脳で総合的にまとまり、『これは椅子だ』とか『テーブルだ』といったように認識するのに0.1秒かかった場合、我々は0.1秒過去のことを現在だと全員が共通して思っており、そのことを不思議にも感じていないということです。俺が思うに、人間とアンドロイドでは時間に対する観念についても感じ方……いえ、考え方が違うだろうという気がします。大抵のアンドロイドが自分の耐用年数は二十五年であるとか、いい雇用主や購入者、ユーザーに当たれば定期的に手入れしてもらって寿命というのか、ようするに耐用年数を伸ばせると知っています。しかし、それは人間の言うところの『死』とは別のものだと思われている。というのも、彼らは人間が『死』というものに恐怖するのとは違い、そこに動物的な本能による『恐怖』や『不安』というものを感じない。ゆえに、記憶データを消去されるという時にも基本的には動揺しない。三十分後にですら何が起きるかわからぬ未来に怯えるのは人間だけなんです。そこで、AIにあらゆる分野において出来るだけ起きる確率の高い物事を予測してもらおうとした。それは何も株といった金儲けに関することだけではありません。なんでも、人間は一日に朝食や三時のおやつに何を食べるか含め、無意識のうちにも三万五千回くらい何かを選択しているとか……バカバカしいような設問ですが、『ヨーグルトとプリン、どっちを食べようかな』と俺がロボットに聞いたら、『あなたの体調から見て、ヨーグルトのほうがいいでしょう』なんて言ったりする。こうしたこともちょっとした未来予測です。『青のスーツと茶のスーツ、どっちにしようかな』とかね。けれど問題なのはいまや、政治の世界でもAIの意見が参考として取り入れられはじめているということではないでしょうか。ただ、唯一人間の心のことだけはAIにも予測が難しい。たとえば、ロドニーが激情に駆られるあまりついカッとして奥さんのことを殺してしまったことや、あなたがバレリーナとして憧れのミカエラ・ヴァネリのことを招待しようとしたのに、やって来た彼女というのは記憶喪失になって踊れなくなった別の女性だった……ということがそうなのではないでしょうか」
「その通りだよ。ミカエラはね、バレエの練習中にリフトで相手の男性のダンサーともども倒れたということだった。最初は軽い脳震盪ではないかという診断だったが、どう考えても様子がおかしいということでね……確かに脳震盪でも一時的に記憶喪失になるということはある。だが、一月経っても二月経ってもミカエラ・ヴァネリは踊れないままで、予定されていた公演はキャンセルされることになった。理由は体調不良ということにされたが、まったく違う理由だということは今君が見ているとおりだよ。今、オペラ座には特に人気のある(というのは言い換えればチケットが売れる)エトワールが、ミカエラ・ヴァネリとマニュエラ・ヴァルトだと言われている。このふたりのバレリーナは対照的でね、ミカエラは天才肌でプライヴェートを明かさない神秘的な女性として知られている。一方マニュエラは努力型でミカエラほどの美貌はなくとも、とても可愛らしい華のある女性だ。また、SNSで自分のプライヴェートを割と明かしていたり、歌番組の司会であるとか、バレエ以外の芸能活動も多少行っているらしくてね。ようするに、前者が非社交的で秘密主義なのに対して、後者は社交的で開けっぴろげというか。もちろん、どちらもいい意味でね」
「……じゃあ、俺が最初思っていた以上に相当ややこしいことになってるってことじゃないですかっ!!ノア博士、あんたさっき言ってたよな!?レイチェルさんの記憶をちょっといじってシドニーに対する罪悪感を強めたみたいなこと。それと同じように、ミカエラだって……」
と言いかけて、俺は喉が詰まったようになった。もしミカエラが元の記憶を取り戻したら、今の彼女は一体どうなってしまうのだろう?それに、彼女が今のままの性格で記憶を取り戻すと同時、バレエのあらゆる演目について踊れるようになるといったようには……俺にはどうしても思えなかった。
「そうなんだ。ロドニーの奥さんのレイチェルの場合は、何分もう死亡してるわけだから、それでそのような処置を行うことも倫理的に許されるというのか、罪悪感が薄まるというのか、僕にはとにかくそんなところがあった。だが、人間の心や意識というものについて、我々はかくも無力で無知なままなんだ。ミカエラ・ヴァネリは元はウクライナで生まれ、その後ロシアの祖母に引き取られ、六歳の時にオペラ座のエトワールだったディアナ・レジェンテの養子になったんだ。確か、ロシアでは極小さな時から子供たちはDNA選別で将来自分がなんの職業に向いているか、AIが診断してそうした方向へ進ませようとする傾向が強いんだね。ミカエラの場合は両親が音楽家で、親戚筋にもバレエダンサーのおばがいたり画家のおじがいたり、芸術的な家系であることがわかっていたようだ。ディアナはロシアへ公演に行き、バレエ学校を巡回して教えることもあったようで、そんな時ミカエラのことを見て『百年に一度の逸材』と見抜き、引き取ることにしたという話だよ」
「お、俺、一体どうしたらいいんでしょうっ。そんなすごい女性と今後、一体どんなふうに暮らしていったらいいのか……」
俺はこの時、自分の無知さ加減を呪いたくなった。俺は今までの人生でバレエなるものに本当の意味で感心や興味のあったことがない。街中にあったバレエ教室の脇を通りかかり、そこでレッスンする子供や女性の姿を見て、(なんて素敵なんだろう)とぼんやり憧れの気持ちを抱いたといった以上のことを何も知らないのだ。
「まあ、僕のアドバイスとしては、なるようになるさとしか言えないかな。何分、彼女はあんなに君に懐いてるんだ。まるで、白鳥のヒナが初めて見た人間をママと思い込んだ時みたいに君に懐いて離れない。ゆえに、ミカエラの育ての親のディアナも、彼女の恋人のエルネスト・アーウィンにしても、この絆を断ち切ることは出来ないはずだと僕は考える。もちろん彼らはこの答えに納得はすまい……だが、精神分析医に今のミカエラのことを見せたところで、捗々しい治療結果のようなものをすぐに得られることはないだろうね。我々にしてもすっかり計算が狂ったものさ。これから君には組織の一員になってもらおうと考えていたんだし、そのために話しあいたいことなど山のようにあったというのに……テディ、君はもう彼女ひとりのことに比べたら、ジェイムズ・ホリスター博士のこともアーサー・ホランド博士のことも、アンダーソン夫妻のこともトム・ジョーンズのことも、最早どうでもよくなってしまったんじゃないかね?」
「す、すみませんっ。というか、俺たち今までなんの話を途中までしてたんでしたっけ。プリンとヨーグルト、どっちが美味しいか……いや、ちがうなっ。というか結局、本物の人間そっくりのヒューマノイドって誰だったんですか?とりあえずその答えだけでも教えていただけるとありがたいんですが……」
確かに、ノア・フォークナー博士の言うとおりだった。俺は結局誰が人間そっくりのヒューマノイドだったのか知りたくもあれば、彼のいう闇だか影の組織についてもっと詳しく知りたかったし、メアリー・アンダーソンは具体的にどうなるのか、あのじいさんふたりがここへ招かれた理由はなんだったのかなど――疑問に思うことであればたくさんある。だが、そうしたすべてとミカエラのことを引き換えにすることは出来なかった。人間とは違い、感情よりも常に理性が勝るアンドロイドの優先順位においては、おそらくミカエラの優先順位はこの場合そう高くはあるまい。けれど、今の俺にとっては彼女が自分の生きる目的のすべてだった。
「アーサー・ホランド博士だよ」
(やれやれ)といったように、フォークナー博士は溜息を着いて言った。俺がもし恋に身を焦がしている最中の人間でなかったら、もっと有益な会話をすることも出来たんだろうにとでも彼は言いたげだった。
「でも、ジェイムズ・ホリスター博士が奇妙なミスリードを行ったようだから、このクイズの結果についてはドローということにしよう。そもそもの種明かしをするとだ、ここのホテルの従業員は全員がアンドロイドだからね。君たちは『招待客以外には人間そっくりのヒューマノイドはいない』と聞かされていたため、ミロスのことなどは特に『アンドロイドくせえな、コイツ』と感じながらもやはり人間と思い込んだままだった。とはいえ、彼はいわゆる<不気味の谷>を越えるひとつ手前のヴァージョンのアンドロイドなのだ。つまり、ハンサムで感じがよく、その時々の状況に応じて言動や顔の表情をうまく制御できたとしても……まあようするに、簡潔にいえばなんか面白くなくてつまらん奴なんだね。ところで、彼の髪の毛が全然伸びないことや爪が伸びないことなんかに気づいたかね?」
「いえ、そこまでのことは……ミロスはいつも身綺麗にしてたから、小まめに爪を切って清潔にしてるとか、そこまであまり注意して見てませんでした。他の招待客について言えば、爪の伸び具合や髪の毛については注意してたつもりなんですが……」
「そうだね。その点、アーサー・ホランド博士は髪の毛が縮れていて、伸びたんだか伸びてないんだか……みたいな感じだものな。だが、普通の人間の一般社会へヒューマノイドを紛れ込まそうと思ったら、案外そうした細かいことっていうのが重要だったりするんだよ。何故かというとね、『あの人、実はカツラなんじゃないかしら?』って敏感に気づく人間がいるように、髪型がいつでも同じで髪の毛が伸びないというのは不自然だからだ。爪のほうはまあ小まめに切ってるとも考えられるが、一緒に暮らしている人間にとってはそうでないかもしれない。つまり、容姿がそっくりというだけである程度のことは乗り越えられるにしても……男性であれば特にヒゲの伸び具合など、家族のことまで長期に渡って騙すには綻びがのちに生じる可能性が高くなることだろう」
「アーサー・ホランド博士かあ。メアリーさんじゃないなら、ヒューかトムのどっちかと思ったのに、これはもう俺の完敗ですね……そういえば、ホランド博士の部屋にはゴッホとゴーギャンの自画像が並んでかけてあったと思うんですが、あれは何か意味があったんですか?」
「そうだね。ファブリツィオ・フォルトナート博士はそもそも、我々の組織側の人間だったのだ。テディ、無論君はホランド博士がなんの研究をしていたか、覚えているね?」
「ええ……細かな専門的なことはわかりませんが、3Dバイオプリンターの開発に成功したことがアーサー・ホランド博士のノーベル賞受賞理由だったと記憶しています」
「そうなんだ。ここからちょっと、場所を変えよう。おそらく、僕が口だけで説明しても君は納得しないような気がする……というのか、僕のことを壮大なホラ話を信じ込んでいる狂人と思うかもしれないからね」
俺はノア・フォークナー博士に続いて図書室から出て行った。ミロスとは違い、彼はこの時廊下を順に光量によって満たしていった。目に見える蛍光灯のようなものはどこにもないのだが、ノア博士が(俺の目には見えない)何かの装置に合図すると、まるで神が「光あれ」と言った時のようにパッと明かりが次々灯っていく。
だが、あとはフォークナー博士が歩くにつれて一歩先に光がついても、俺が通りすぎた後ろはすべて真っ暗闇へと変わっていった。節電ということなのかどうか、それともただのセンサーライトなのか……とにかく俺は、暗闇の中に沈む研究施設を順に眺めては、(これらの奇妙な装置は一体なんのためのものなのだろう?)と不思議に感じた。そして博士がそうしたなんらかの最先端の科学装置の並ぶ研究室の先へ消えると、慌てて彼のことを追いかけたわけだった。
「まあ、こんなものを見ても驚かないでくれたまえ」
そこには同型の、医療カプセルに似たものがいくつも並んでいた。とりあえず、俺が目で確認して数えた数としては、縦と横に四つずつ、計十六個あり、外装の材質はセラミックや鉄、ステンレスなどで出来ているように見えた。
フォークナー博士が、一番左端にある医療カプセルのようなものを操作すると、まるで棺が開かれる時のように、そこにはアーサー・ホランド博士が横になって眠っていた。とはいえ、服のほうは着てなく、全裸だっため、俺は多少罰の悪い思いをしたかもしれない。
「これは、ヒューマノイドとしてのアーサー・ホランド博士だよ。最後に君たちと食堂で別れてのち、クレイグ・ウェリントン博士とこちらへ戻ってきたのだ。3Dバイオプリンターはね、そもそもは我々の組織が造り出したものだった。というより、そのような設計図を最初に引いたのはとにかく僕だ。それだって、一度目の人生の途中でのことだから、結構昔のことになるね……ファブリツィオ・フォルトナート博士の仕事は、もともとはアーサー・ホランド博士に張りついて、そのようなものが完成しないよう見張ることだったんだ。誤解しないで欲しいんだが、我々は今、3Dバイオプリンターによって人間そっくりのヒューマノイドを造っている。つまり、表の世界ではまだ各臓器を造り、それがすべて正常に連動して働くことに成功した――といった段階なのだよ。だがいずれ、ここからはじまって人間の髪の先から足の爪先までを3Dバイオプリンターで製造できる日がやって来るだろう。唯一、人間の脳はただコピーすればいいというものではないのでね、ここを越えるには相当の時間がかかるだろう……ちょうど、我々がそうだったように。だが、これは極めて危険な研究なのだよ。我々はそうした科学技術を自分たちだけで占有し続けたいわけではない。とはいえ、現段階では遅らせるに越したことはないということで結論が出ているんだ。先ほど君とも語り合ったことだが、そうした未来予測の判断で間違いないと、我々人間の諮問機関でもAIの結論としても珍しく完全に一致している決定事項なものでね」
「で、ですが、一体いつからアーサー・ホランド博士はヒューマノイドと入れ替えられていたのですか?ここへプライヴェート・ジェット機でやって来た時からですか。それとも、こちらのホテルのほうで……?」
「そうだね。クレイグ・ウェリントンが同じ医師として魅力的な話を振りまき、彼の自室兼診療室のようになっている場所で毎日のように顔を合わせる間に、だね。だから最初の数日はアーサー・ホランドはすり替えられる前の元のとおりの人物だった。さて、このような横暴が許されていいのかと君は思うかもしれない……だが、彼は殺人者なのだよ。ファブリツィオ・フォルトナートは確かに我々の側の人間でホランド博士のことを見張ってはいたが、それ以外では献身的に彼の研究に協力していたはずだ。ところが、研究成果のほうが捗々しくないある段階において――まあ、簡単にいえば人体実験にも等しいことだが、そのような医師としての倫理にもとる行為を行い、そのような犠牲があってのち彼の3Dバイオプリンターは成功したのだ。そのことをフォルトナート博士も知っていたが、彼は「起きてしまったことは起きてしまったことだ」として目を瞑ることにしたのだよ。だが、ホランド博士はその後疑心暗鬼になったのだろうな。病死であるように見せかけて殺されたのだ。もっとも、ファブリツィオのオリジナルは今も生きている。命の危険を感じる前に意識データをバックアップして取ってあったものでね……元のアーサー・ホランドはおそらく、四度目に結婚した若い妻と楽しくバカンスを過ごす予定だったろうが、彼に届いた招待状というのは『我々はおまえが何をしたかも、本当はノーベル生理医学賞に相応しくない人間であることも知っている』といったことをなるべく遠回しに柔らかい口調で書いたようなものだったから、彼はあらゆる予定をキャンセルしてここオカドゥグ島へやって来ねばならなかったろう」
「ですが、ホランド博士がもし、そのことを誰かにこっそり洩らしていたとしたら……?」
「それはないね」と、フォークナー博士は肩を竦めて言った。「アーサー・ホランド博士の通話記録、その時に話した内容、メールやチャットその他の会話もすべて……我々には筒抜けだからね。一般に市販されているウイルス対策ソフトなどあっても無意味だ。もっと言えば、アメリカや他のどの国の軍部のそれでさえも、我々には赤ん坊みたいなものだからね。それはさておき、ホランド博士はとにかくスキャンダルを恐れたのさ。我々には彼の罪を看過する用意があるし、むしろ博士の素晴らしい研究成果を元に協力していただきたいことがある……といったようにも招待状には書いたし、ミロスにもそのように説明させた。まあ、彼についてはこれからこのまま人間そっくりのヒューマノイドとして元の生活へ戻ってもらい、頃合いを見て自然に亡くなってもらうといったところかな」
「自然にって……まさか、クリストファー・ランド博士と同じように、ということですか?」
「まあね。心臓発作でも構わないし、その時の状況に応じて――最初からそのように血管内に異常な出血が生じるようにしてある。いわゆるナノテクノロジー、ナノメディカル技術の応用だから、誰にもバレる可能性はない」
「…………………」
俺はこの時点で何かが恐ろしくなった。おそらく、ジェイムズ・ホリスター博士も彼らの科学秘密結社のメンバーなのだろう。とはいえ、息子にいつ実権を譲ってもいい用意をしていつつ、まだ会社の看板、『顔』として自分の存在が必要なことから――本当はなるべく早く死んで再び蘇り、様々な実験や研究に没頭したいといったところなのではないだろうか。
メアリー・アンダーソン夫妻やトム・ジョーンズのその後のことや、メアリーは選ばれたらしいのに何故ジュリア・ジョーンズはその範疇ではなかったのかなど、俺にはまだ疑問に感じていることがいくつも残ってはいる。けれど、何かそうしたことはだんだんどうでもいいことのような気がしてきた。何より、俺はジャーナリストなのだ。ようするに、今後何か彼らのことに関して不穏当にして不用意な何かしらの匂わせ記事程度のものでも書こうものなら……おまえにも同じような運命を辿ってもらうよという、これはそうした無言の脅迫を含んでいるのではないのか?
「テディ、君が驚くのも無理はない。ジェイムズ・ホリスター博士もまた我々のメンバーなのだということは、賢い君のことだ、すでに見当がついていることだろう。あんなばあさんじいさんらのことなぞどうでも良い……というのであれば、その説明は省こうとも思うが、どうするかね?」
「いえ、是非お聞かせください。むしろ、その点についても大変興味があります」
>>続く。




