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街の風景  作者: イスコ
4/5

谷間の村と、風を聞く午後

ここは渓谷の村──ノイエ。

高い崖と崖の間にへばりつくように家々が並び、空は細く切り取られた青。


谷の朝は、風の音で始まる。

「ヒューッ」と鳴るのは、崖の上から落ちてくる風が岩肌をかすめる音。

それを聞いて、村人たちは「ああ、今日も崖は機嫌がいい」と言う。


朝一番の仕事は、崖の草刈り。

傾斜のきつい岩に生える薬草は、谷の貴重な資源。

村の少年ルッカは、今日も腰にロープを巻いて斜面にぶら下がる。


「ルッカー、崖下からヤギが見てるぞー」


下から叫ぶのは村の少女ミレイ。彼女はいつも谷底で小さなヤギを放牧している。

ヤギたちは断崖絶壁を歩くのが得意。なのに、よく帰り道を忘れてミレイに連れられて戻る。


昼になると、谷に陽が差し込む。

短いその時間に、村人たちは広場に集まる。


谷の中心に吊るされた風鈴たちが、風を受けて澄んだ音を鳴らす。

それを聞きながら、誰かが作ったキノコスープをすする。

渓谷のキノコは岩の影で育ち、香りが強くて栄養満点。


「ここの谷風で育ったキノコは、他のと味が違うのよ」

と、村の年長者が言う。


午後は各々が好きに過ごす。


ルッカは自分で作った風の羽で崖の上を目指す。風をつかまえ、少し浮いた……ような気がして、またすぐ落ちる。


ミレイはヤギに笛を吹いている。ヤギは音に合わせて首を振るだけで、踊っているわけではない。

でも、それでいい。ここではそれが“踊り”だ。


夕方、谷に陽が落ちると、一気に気温が下がる。


その合図で、みんな家に戻る。

小さな家には風除けの布が張られ、岩塩のランプが灯る。


そして誰かが言う。

「今日も、風は優しかった」


そうして谷は眠る。


ノイエの暮らしは、冒険も戦争もない。

でも、風と岩とヤギと、きのこのスープがある。


そんな静かな日々こそが、この谷の宝物だ。

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