表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街の風景  作者: イスコ
3/5

しめっぽい村とスイレンの朝

ここは湿地の村──ミルド。

川と池と水たまりに囲まれた土地で、地面はいつも柔らかく、靴がすぐぬかるみに沈む。


けれど村人たちは気にしない。というより、誰も靴を履かない。

みんな裸足で、どろりとした泥の上を平然と歩く。

「足の裏で土地の機嫌がわかるのさ」と、村の年寄りは言う。


朝の始まりは、スイレンの開花。


村の広場──という名の浅い池には、毎朝決まってスイレンが咲く。

そのタイミングで子どもたちは「スープ当番だー!」と叫びながら走る。


なぜかというと、スイレンが咲く日はカエルが鳴く。

カエルが鳴くと、湿地のキノコがよく育つ。

だからその日はキノコスープの日になるのだ。


昼になると、ぬかるみが陽を受けて湯気を立てる。

この“湯気の道”をたどっていけば、各家のキッチンにたどり着く。


ミルドでは、においと湯気が地図代わり。

人の家に行くときも、「あのぬかるみを右、ガマの根元を左」

そんな曖昧な案内で十分。


午後は“虫の時間”。


水辺に住む透明な羽の虫たちが舞い始める。

村の少年ニルは、虫たちが作る音をまねるのが得意。

今日も「ピィー、チリリ」と妙な声で虫に返事をしている。


すると、どこからか本物の虫が返事をしてくる。

それを聞いた村の長が、ぽつりとつぶやく。

「こいつ、前世は虫だったんだろうなあ」


夕方になると、湿地は霧に包まれる。


それはまるで村全体が水に沈んだかのような景色。

家々の灯りがぼんやりと揺れ、誰がどこにいるのかも分からない。


だからこそ、ミルドでは「声」が大事。

「おーい、今日は魚が釣れたぞー」

「こっちはドクダミがとれたよー」


見えなくても、声でつながる。


ミルドの暮らしは、ぬるくて、湿っていて、すこし不便。

けれど、足裏で感じる土地のやさしさと、ぬかるみの温もりがある。


それが、この村のしあわせ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ