木漏れ日と獣たちの森日記
ここは大森林──アルノアの森。
陽の光は木々の隙間をぬってしか届かず、足元には常に枯葉とコケがふかふかに敷き詰められている。
森の朝は、光ではなく、音で始まる。
「ヒュリリリ──」と、森鳥たちの笛のような鳴き声。
「クルルル──」と、何か分からない小さな生き物の呼吸音。
そして、遠くから「おーい、ハチミツ採れたぞー!」という森番の少年レンの声。
アルノアの村では、家々が樹の上にある。
地上には危険も多く、何より湿気がすごい。
だから子どもたちは毎朝、ロープのはしごを登って登校する。
「落ちないようにって言ったでしょー!」
「でもコケが滑ったんだよ〜」
そんな会話をしながら、今日もみんな元気に空中通学。
昼時になると、森の“昼鐘”が鳴る。
といっても鐘はない。
誰かが大きな木の幹を棒で叩く。
「ドーン、ドーン」その響きが森全体に伝わる。
その音を合図に、リス型の精霊たちがぴょんぴょんと枝を渡り、どこかへと消える。
子どもたちは木の上のテラスでお弁当。
「今日はキノコ団子!」「私はドングリペーストパン!」
味の好みはバラバラだけど、木漏れ日の下で食べれば、何でもおいしい。
午後は“かくれんぼ”の時間。
森のかくれんぼはちょっと変わってる。
姿を消す魔法をちょっとだけ使うのが、森の子どもたちの遊び方。
「そこ!そのシダの葉が揺れた!」
「くっ……見つかった〜」
魔法がうまく使えない子には、動物たちがこっそりヒントを出してくれる。
森では、生き物みんなが遊び仲間。
夕暮れ。空が赤くなってきたら、森は急に静かになる。
昼間に騒いでいた鳥たちは眠りにつき、代わりに夜の虫たちがそっと羽音を立て始める。
木の上の家に明かりがともり、夕飯の匂いが風に乗って運ばれる。
「明日も、いっぱい遊ぼうね」
「うん。あの大きい木の上まで、登ってみたいな」
森の夢は、木の数だけある。
アルノアの暮らしは、緑に包まれて、静かでにぎやか。
木漏れ日と、土と、動物たち。
それだけで、毎日はちょっとした冒険になる。