イケメン青年貴族が、霊感トレーニングを希望してきました
「猫が視ているものを、見たいんです」
「は、あ?」
占いの館にやってきたのは、やんごとないご身分の立派な貴族。
しかしその青年の口からは、素っ頓狂な願いが漏れた。
「あの、どういう意味でしょう?」
「実は私、婚約者をなくしまして……」
「それは……ご愁傷様です」
いきなり言葉に詰まる話題だ。
「哀しみの日々を送るうち、気づいたのです。飼い猫が、虚空を目で追っていることに」
「はぁ」
「もしやそこに彼女の霊がいるのでは、と。霊感を鍛えれば、会えるのではないかと思いました」
なぜそうなった。
ツッコミたい気持ちを喉元で抑える。相手は貴族だ。
気持ちひとつで、店が吹き飛ぶ。
こんな場末の占い師を訪ねないで、然るべき教会とかに行って欲しい。
「あの、うちは占いが専門で──」
「前金は、このくらいで」
「!」
じゃらりと置かれた袋が、金貨の重さに撓んで揺れた。
「か、考えさせてください」
私のバカ。いくらパン以外の物も食べたいからといって!
ここはお断り一択でしょう?!
「それに霊感を鍛えるといっても……」
「我が家にトレーニング・ルームを作りました。講師として、お招きしたい」
「は?」
霊感のトレーニング・ルームって何?
それ以前になんで私は、彼に両手を握られてんの?
「可愛い猫もいます」
「ぐっ」
酷い。モフりたくなる誘惑。
「以前彼女が飼いたいと言っていた、ふわっふわの白猫です」
「ふわっふわ……」
やばいわ。意識が猫に飛びかけた。
「僕は彼女に会いたいのです。もう一度」
気がつけば、流れるように手を引かれ、扉近くまで誘導されている。
「で、も、婚約者の方は会いたくないかも」
私の言葉に、彼は苦しげに顔を伏せた。
「ええ。僕がもっとしっかりしていれば。彼女が死を偽装して逃げ出すほど、実家で虐げられていると気づけていれば」
「っ!」
思わず。
胸に大きな痛みが走る。
「結婚を控え、留学先から戻った途端、訃報を聞きました」
握られた手に、力が籠った。
「墓石の前で佇み、僕は彼女を愛していたと気づいたのです。家同士の政略などではなく」
目が合う。
「自分が頼りない婚約者だったことを痛感しています。けれど、今度こそ彼女を。あなたを守りたいのです」
私の居所は、彼にバレていたのね。
「貴族籍を捨てた私にはもう、何の価値もありませんわ」
「そんなことはない。ですが、本来の権利を取り戻しましょう」
彼の用意した霊感トレーニング・ルームは、実家報復・作戦会議室になった。
白猫付きで。
お読みいただき有難うございます!
なろうラジオ大賞、三作品目を投稿です。(そしてなんと今日2作投稿しています)
読者様には彼女の正体に、どこから気づかれましたでしょうか?
ご令嬢は家族に虐げられていた様子! 死を偽装して街の片隅で、占い師をやっていたようです。
やり返すとこも欲しい。しかし"なろラジ"は、1000文字制限なのです。
きっとイイ感じで頑張って、まんまと"ざまぁ"を見舞うと思います!
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猫ちゃんモフりたいです。にゃおーん。 ( ฅ^•ω•)ฅ