新しい名前
雪 弥士 (ススギ ミコト)
+22歳。
+執行人vier-4-。
+瀬奈の双子の弟。
瀬奈に異常な忠誠心を向けている。
+前髪を真ん中で分けている。両耳には多数のピアスを付けている。
+好きな物:瀬奈、スイーツ
+嫌いな物:甘くない物
銀色の髪の双子、雪 瀬奈と雪 弥士。
自らを執行人と名乗る2人が加藤優美の前に現れた。
双子の兄、瀬奈が持ち掛けた取引を受けた優美は
早速非現実的な光景を目の前にしていた。
「これは...........何?」
先程まで会話をしていた優美の家が火の海であった。
「何って、あんたはもう死んだことになってるんだから
あんたが生きている事が分かる物はとりあえず全部消さなきゃなの。」
瀬奈の後ろからひょっこり顔だけを出す弥士。
少し不貞腐れている様子だった。
「だからって、お家まで燃やす必要ないでしょう…」
17年間共に過ごした思い出をいとも簡単に燃やされた優美は悲しい気持ちになった。
「これも、貴方を守る為なのです。
新しいお家は私が手配を致します。安心してください。」
「ていうか兄さん、こいつの名前このままでいいの?
うっかり名前言っちゃってボス大激怒~になっちゃうかもよ?」
「それもそうだね」
すっかり忘れていたよ、と弥士の頭を撫でる瀬奈。
先程まで不貞腐れていた弥士の表情は嬉しそうなものに変わっていた。
(私、名前まで変えられるの?)
家を失い、大好きで大切な友人を失い、
瀬奈のエゴだけで生かされている存在の優美はもう”加藤優美”として生きる事すら許されないのだ。
優美の視界は少し暗くなった。
「どういう名前が良いかな?」
うーん、と顎に手を当てて考えている瀬奈。
「てきとーに花子とかでいいんじゃない?」
「駄目だよ弥士。女の子の名前なんだ、しっかり考えてあげないと。」
双子が新しい優美の名前を考えている一方で、
優美は自分が今まで生きてきた自分を捨てなければいけない現実をまだ受け止められていなかった。
(どうして私がこんなことに...........)
つい先日まで香帆と過ごした日々を思い出す。
”えぇー、何でよぉ。
優美はしあわせになりたくないの?”
”銀色の髪の双子よ!!
昨日、あたしの夢に出てきたの!”
今でも鮮明に思い出すことが出来る、透き通った香帆の声。
(香帆...........私寂しい。会いたいわ...........香帆)
優美の目にじわっと浮かび上がる涙。
鼻をすする音に振り向く瀬奈。
「優美さん...........?」
「何でもないわ...........」
泣いている事を知られたくない優美は顔を両手で隠し、瀬奈が見えない方へ体を向けた。
「優美さん...........」
急いで涙を拭おうと着ていた制服のブレザーで顔を擦る。
その手を弥士が止めて、真新しい白のハンカチを差し出す。
「流石にそれは反則。」
優美の前に現れてから一貫して嫌悪感を露わにしていた弥士が初めて見せた優しさに
優美は不本意ながら胸を熱くした。
だが決してそれを表に出すことはない。
「ありがと。」
弥士のハンカチを受け取り、優しく涙を拭きとる優美。
そして2人を見つめて優美は口を開く。
「新しい名前、マリアが良いわ!」
そう言った声は震えていたが、優美の表情はどこか吹っ切れたように感じられた。
「え?」
きょとんとした顔で優美を見る弥士。
瀬奈も驚いた表情を見せていた。
「ちょっと何それ、ちゃっかりかわいー名前にしてるじゃん!図々しくない?」
「何よ、文句があるなら聞いてあげるわよ?」
「優美さん、どうしてマリアなの?」
理由を尋ねる瀬奈。
「私が1番好きな物語の主人公の名前だから。
私は非現実的な物は好きじゃないし、信じたくない。
大勢の人はそんな考えを持つ私を否定したわ。
夢を見て、非現実的なものを信じないなんてどうかしてる。
現実的な事象は何もワクワクしないってね。
でも、マリアは私と同じ考えの持ち主なの。
現実的な事象を信じている女の子。
私がこの考え方をしていて良いって肯定してくれる存在なの。
物語の主人公こそ、非現実じゃないかって思われるかもしれない。
だから、私がマリアになる事で、マリアを現実にするの。
瀬奈が瀬奈のエゴを私に押し付けてきたんだもの。
私だって、私のエゴを貴方達に押し付けるわ。これは命令よ!」
優美にとって、他人に命令という言葉を使ったのはこれが初めてだった。
「あははは!」
それまでクールに優美に接していた瀬奈が大きな笑い声をあげた。
「兄さんが大笑いしてる...........」
「なんて我儘なお嬢さんなんだろうか、益々気に入ったな」
「まぁ、兄さんがいいならボクは何も言わないよ」
瀬奈は優美、もといマリアの手を取りそっと口づけを落とす。
「ちょっ、兄さん!」
「必ず私達が君を守るよ。弥士も、ね?」
「うん、まぁ。」
マリアは瀬奈に握られた手を握り返した。
言葉には出さないものの、それはマリアにとっての返答であった。
瀬奈は微笑むとパチンと指を鳴らした。
それまで居たマリアの自宅前から、綺麗な屋敷の前へと景色が変わった。
「ここが新しいマリアのお家だよ」




