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貴方を信じる

「はぁっ、はぁっ、」


瀬奈はゲオフの死体を抱えて少し離れた場所へと身を隠した。


瀬奈の額には汗が浮き上がっている。


「マリア………」


先程までマリアが瀬奈へと向けていた表情を思い出す。


恐怖に染まった、最初に会った時とはまた違った表情。


「ごめん、瀬奈。」


ふと聞こえてくる、耳馴染みのある声ーーーーーー影だ。


「俺があの時、感情を抑えられていれば……、」


いつも好戦的な影の、酷く弱弱しい声。


「ううん、瀬奈のせいじゃないですよ。


 あそこから場所を移さなかった私の自業自得です。


 あのまま場所を移してこれ以上勘付かれる訳にはいきませんでした。


 貴方が出てきてくれて、助かりました。」


影が責任を感じないよう慰める。


屋敷のすぐそばにゲオフが居た事、何か1つでも挙動を間違えると屋敷へと移動されかねない


状況であったし、弥士も離れさせる事が出来ていたからゲオフを殺せた事自体は完璧だった。


唯一の誤算は、屋敷からマリアが出てきてしまった事、ただそれだけだった。


「何で銃をあの子の所に置いてきたの?」


「また戻るという、1つのメッセージです。


 私は彼女に謝らなければいけない、それに……」












「「””彼女は見てしまった”” 」」


言葉が同じタイミングで重なり、お互い顔を見合わせる影と瀬奈。


ボスからの令、執行人を全員殺す事。


その条件はただ1つ、執行人の誰にもそれを見つからないようにする事。


マリアは執行人では無い為、見つかっても条件に反する事は無い。


でも、屋敷には執行人である弥士がいる。


万が一、いや、ほぼ100%マリアは見た事をそのまま弥士に伝えるだろう。


マリアがゲオフの事を知らなくても、弥士は直前まで一緒に居た。


2人が瀬奈がゲオフを殺したという事実に気付くのも時間の問題だ。


瀬奈はとてつもなくまずい状況に立たされていた。


「どうしましょう……」


瀬奈は親指を噛み、この後の挙動を考える。


影はそんな瀬奈を横目に自分も考えようと瀬奈の真似をして親指を噛んでみるが、何も思い浮かばなかった。


「とりあえず屋敷に戻るのは?」


「そうしたいですけど、ゲオフさんの死体はどうするんですか?」


「あっ……あぁ、」


影は頭を抱える。


「どうしよう……」


影と顔を見合わせて笑っていると、遠くから何かの足音が聞こえる。


「瀬奈、隠れて。」


「えっ?」


「誰か来る。」


影は瀬奈の言葉を聞いて急いで身を瀬奈の体に隠す。


瀬奈は物陰から足音の正体を見定める、よりも先に足音の正体は瀬奈に気が付いた。


「瀬奈………?」


「マリア……!?」


想像していなかった正体に、自然と声が大きくなる。


「どうしてここに……、」


「貴方を探していたの。」


「私に、幻滅したのではないのですか……?」


「どうして?」


マリアは物陰にしゃがみ込む瀬奈の隣に腰を下ろす。


「怖かった。瀬奈が、銃を持っていて、いつもと違う瞳をしていて、強い眼差しを向けてきて。


 でも、私は誓ったの。何があっても、何をされても、瀬奈を信じるって。」


マリアは瀬奈の手を握る。


「さっきはごめんなさい。貴方から逃げようとして。」


瀬奈はマリアの手を握り返す。


「私こそ、貴方にあんな姿を見せてしまって、怖がらせてしまって、すみませんでした。」


マリアは瀬奈からの謝罪の言葉を聞くと、胸元から瀬奈が落としていった銃を取り出す。


「これ、返すね。」


瀬奈は銃を受け取らず、マリアの手を押し返した。


「これは貴方が持っていてください。


 何かあった時、この銃の引き金を引いて、貴方自身を守って下さい。


 その銃の音が聞こえた時、私は何処にいても貴方の元へ駆けつけます。


 その合図として、これを使って下さい。」


マリアはそんな瀬奈の思いを受けれて、再び胸元へと銃をしまう。


そして、マリアはそのまま瀬奈の後ろに視線と指先を向ける。


「あの人、どうするの?」


「え、っと………」


瀬奈はマリアからの質問の返答を考えるのではなく、言い訳を考えていた。


マリアは、瀬奈が良い訳を考えている事に勘付いていた。


明らかに焦っている様子の瀬奈を見て、返答が返ってくる前にマリアは言葉を続ける。


「私からは、何も聞かないわ。」


「えっ?」


「その人が誰なのかも、貴方との間に何があったのかも、私からは何も聞かない。


 瀬奈が話したいと思ったときに教えてくれたら良い。


 話したくないのなら、ずっと隠したままでいい。


 でも、これだけは信じて。私はさっき見た事は誰にも言わないから。」


マリアが優しい声色で紡ぐ言葉に、一気に安心感を感じる瀬奈。


「マリア……、」


「早く屋敷に戻らないと、弥士達が余計怪しむわよ?


 さっさとその人をどうにかして、戻りましょ!」


何も無かったかのように、マリアは瀬奈の腕を持ち立ち上がらせる。


2人はゲオフの死体を近くのごみ処理場の焼却炉に投げ入れた。


「屋敷に戻って、弥士達に説明をした後、マリアの部屋に行ってもいいですか?」


「えぇ。」


「その時に、話します。」


「話したくないのなら、急いで話してくれなくてもいいのよ?


 瀬奈のタイミングで……」


「いえ、マリアには伝えたいんです。


 私が抱えている物全てを。」


「分かった。」


「マリアは、私がどんな事をあなたに伝えても、先程話してくれた思いは変えませんか?」


「えぇ。神に誓っても良いわ。」


「ふっ………」


ずっと強張っていた瀬奈の口元が一気に緩む。


「ちょっと、何で笑うのよ!」


「貴方は神なんて非現実的な物信じないでしょう?」


あははと笑いが止まらない様子の瀬奈を見て微笑むマリア。


「良かった。


 貴方が笑ってくれて。」



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