前日譚-5-
その夜、瀬奈はまたボスからの招集を受けた。
「ボス。」
瀬奈の声が聞こえると、ボスは立ち上がる。
「よくやってくれたね。紅茶でも淹れようか。」
「いえ。今日は……」
「そうか。」
あっさりと断る瀬奈に驚いた様子を見せるボス。
「今日は手短に話を済ませたいのです。
次は誰を殺せばいいのですか。」
瀬奈の口から紡がれる言葉に驚きを隠せない様子のボス。
「っはは、凄いね瀬奈。
確かに殺せと半ば強引に頼んだのは僕だ。
ただここまで適応が早いと流石にびっくりするね。」
ボスはまた書斎にあるデスクへと腰掛ける。
「後は任せるよ。
誰を先に殺すか、最後に殺すのは誰か好きにしたら良い。
全員を殺したら、また報告においで。
勿論、それ以外の用事で来てくれても構わないよ。」
「ありがとうございます。」
瀬奈はボスへ一礼すると、書斎を後にした。
「誰を先に殺すべきか………」
瀬奈は残る執行人達の顔を思い浮かべた。
自分にとって害となる者から消していくのが最適解だろう。
「となると………」
瀬奈にとって気に食わない言動を繰り返している執行人として真っ先に思いついたのは
稲荷杏、ゲオフ・フィガーの2人だった。
特にゲオフはオプファーに対しても残虐な執行を行っている。
「ゲオフから殺しましょうか。」
そこからゲオフの行動を観察し、殺すのに最適なタイミングを伺っていたが
ゲオフは一切の隙を見せなかった。
ゲオフは執行人の誰にも自身の根城を伝えていなかった。
執行が終わった後にゲオフの行動を見張っていても、瀬奈が瞬きをしたと同時に姿は消えていた。
「気付かれてんのか……」
影は小さく呟く。
だがゲオフは自身が殺される事に勘付いている訳では無かった。
ただ自身の背後に感じる雪瀬奈の気配が不愉快で、一刻も早く離れたいだけだった。
だが彼が自身のプライベートを詮索される事を好まない為に根城を伝えていないのは事実だった。
それはボスにも伝えられていなかった。
「チッ、あいつめんどくせーな」
「ゲオフさんに関しては、もう少しタイミングを見計らって殺しましょう。
かといって杏くんも隙を見せるタイプではありませんし……」
「少し休もう、瀬奈。
最悪次にボスに招集された時に2人纏めて殺そう」
「そうですね、真っ直ぐ家に帰りましょう。」
瀬奈は影と話しながら屋敷へと戻った。
「ゲオフのゲフォルグがまた僕の書斎を荒らしていたよ。」
ボスの書斎では、稲荷とボスがトランプでゲームを行っていた。
「ペットの躾の仕方知らんのとちゃいます?
ボスが直接教えたったらどうですー?」
「僕は人間をペットにする趣味は無いよ。」
「躾自体は好きそうな答え方やなぁ。」
悪戯に笑うと、稲荷はボスの手札から1枚カードを取る。
「そういえばボス、あの話真剣に考えてくれはりました?」
今度はボスが稲荷の手札からカードを取る。
「君が考えたこのゲーム、つまらないな。」
ボスは持っていたカードを机の上に投げ捨てる。
「まぁ俺が勝てるようにイカサマしまくってますから~、
って、話逸らせたつもりなんかな?ボスは相変わらず詰め甘いで。」
稲荷も持っていたカードを置くと、ボスの目の前へと立つ。
「俺をナンバー2にするって話、そろそろオッケーしてくれてもええんちゃいます?」




