前日譚-4-
雪 瀬奈 (ススギ セナ)
+22歳。
+弥士の双子の兄。
+執行人fünf-5-。
+いつも丁寧な口調で話す。
+長い髪を綺麗に結っている。首に蛇のタトゥーがある。
+好きな物:コーヒー、銀細工
+嫌いな物:ワイン
+瀬奈にはもう1つの人格がある。彼はそれを”影”と称している。
影 (カゲ)
+雪瀬奈のもう1つの人格。
+瀬奈の体が月の光に当てられている時に姿を現す。
+好戦的な性格で、血の気が多い。
+この人格が存在している事はボス以外に打ち明けていない。
+この人格が形成された原因は不明。
弥士と屋敷に入り、シャワーを済ませ食事を取る。
食事中、弥士は今日執行した話を聞かせてくれた。
瀬奈は自身の奥の方から湧き上がる感情を、人格を抑えていた。
(今はダメだ………弥士が居る。
もう少しで全て食べ終わる。もう少しだ……)
夕食として出されたステーキの最後の1切れにフォークを入れる。
しかし、手が震えてなかなか標的に刺す事が出来ない。
プレートとフォークが当たり、カタカタと音を立て続ける。
満足げにステーキを頬張っていた弥士も不思議そうに瀬奈の方を見つめている。
「兄さん?」
弥士の声に我に戻る瀬奈。
「すみません、少し考え事をしていました。」
「ホントに?大丈夫?」
「はい。ご馳走様でした。」
ナイフとフォークをテーブルに置くと、叶色が食器の片づけに入る。
「私は先に部屋へ戻りますね。」
「えぇ、もう?」
口を尖らせて不貞腐れる弥士。
「兄さんに話したい事、もっといっぱいあるのに!」
「朝起きてから、幾らでも話を聞きますよ。
もう3時を過ぎていますし、弥士も執行に行って疲れているでしょう?」
「それもそうかも……じゃあおやすみ、兄さん。また明日!」
「はい、おやすみなさい。」
瀬奈はダイニングルームを出ると、速足で自身の部屋へと向かう。
「はぁ、はぁ、」
胸が苦しくなり、着ていたワイシャツのボタンを乱暴に外していく。
閉められたカーテンの隙間から月光が漏れる。
その光が瀬奈の瞳を照らすと視界が変わり、目の前にまた、”彼”が現れる。
「いくら何でも、出すのが早いんじゃないか?」
「はぁ、はぁ……せ、な………」
影は苦しそうな瀬奈に寄り添い、背中をさする。
「大丈夫か?」
さすられているはずの背中に感触は無い。
だが確実に、瀬奈の動悸は収まっていった。
「ありがとうございます……」
「このままじゃ、お前に負担がかかりすぎる。
俺が出てくるのを我慢し続けたら、これ以上はどうなるか分からない。」
心配をしてくれる影を、横目で見る瀬奈。
いつもなら、優しい言葉を掛けてくれる影に暖かい感情を抱くが、今は違った。
「じゃあ貴方が完璧に私になりきれるとでも言うんですか」
嫌味たらしく言葉を吐き捨てる瀬奈。
「所詮貴方は影でしょう。私が望めば貴方の事なんていつでも潰せる。
何も出来ないくせに、言葉だけ並べるのは簡単でしょうね……」
言い終えた後、瀬奈は恐ろしくなり影から目を背ける。
いつも依存していた自分自身に、初めて伝えた言葉であったからだ。
ーいつでも潰せる
ー何もできないくせに
瀬奈は唇を噛み締める。
自分よりも血の気が多く、好戦的な影の事だ。
たとえ相手がもう1人の自分であってもお構いなしだろう。
光の当たっていないカーペットを見つめていると、影は立ち上がり瀬奈をまた抱きしめた。
「えっ………?」
「ごめん。」
「なんで、謝るん……ですか、」
恐らく影の手が回っているであろう箇所に手を当てる。
「いいよ、俺の事、潰しても。」
「っ………!」
「瀬奈がそんなに苦しんで、辛い思いするなら、俺は消えてもいいよ。」
影の声が震えている。
1番悲しませたくなかった相手に、1番掛けて欲しくなかった言葉をぶつけられて
瀬奈は必死に影を自分の体の中に収めた。
「ごめんっ、違う、違うから……やだ、きえ、ないでよ……」
いつもの丁寧な口調で話す瀬奈とは別人のように、
駄々をこねる小さな子供のように涙を流す瀬奈。
「ごめん、瀬奈………」
はぁ、と溜息をつき、泣きじゃくる瀬奈と顔を見合わせる影。
「そんな事しないよ。俺、意外と執着すげえんだよね。
それに、お前の代わりに執行人達殺さねえといけねえし。
だからお前が消えろっていくら願っても俺は消えない。」
「誰に、似たんですか………」
「多分、今俺の前で泣きじゃくってる誰かさん。」
影は瀬奈の頭をポンとたたくと立ち上がる。
「早く泣き止んでくれる?あと2日しか無いんだ。
真水創を殺りに行こうぜ。」
月の光を後ろから受けている影は、瀬奈の方に手を伸ばす。
その手を受け取ると、まだ終わりが見えない夜の世界へと足を進めた。
暫くして、ボスから執行人eins-1-、真水創が失踪したと執行人全員に伝えられた。




