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前日譚-3-

ボスからの最初の指令は、執行人eins-1-、真水創の殺害であった。


「3日以内であればどんな方法でも、どこで殺しても構わない。


 但し、実行人の誰にも見つかるなよ。」


雪瀬奈は1人で夜遅くの道を歩いていた。


「はぁ……」


どうして自分がこの役を務めなければならないのだろう。


実際、ボスからの呼び出しで執行出来ていなかった事によるストレスは膨大だし、


オプファー達を執行する時に快楽を感じていない訳では無かった。


だが、その標的が執行人達に変わった時、同じように感じるのか。


そんな訳は無い。


かつてより彼らの執行に対する疑問はあったし、何度も敵対した事もあった。


だがそれでも同じ執行人の仲間だ。


瀬奈はまた考えを頭の中で巡らせる。


「全部俺に任せればいいだろ。」


頭の中に響く声。


「そろそろお前も猫被るの疲れたろ?」


「猫なんて被っていませんよ。」


聞こえてきた声と言葉を交わす。


瀬奈は暗い人気の無い路地に入り、しゃがみ込む。


月の光に当てられた瀬奈の体のすぐ前に、もう1つの影が現れる。


「久しぶりですね。」


「おう。」


「貴方があの提案をOKしていなければ、こんなに悩まずに済んだんですよ」


「ならお前は弥士を殺されて良かったのかよ。」


「それは………」


影は瀬奈に近付く。


俯く瀬奈の顔を両手で包み込む。感触は無い。


「何でそんなに悩むんだ。執行人達は俺に任せれば良い。


 お前は今まで通り過ごしていれば良い。」


影は両手を離し、瀬奈を優しく抱きしめる。これもまた、感覚は無かった。


「俺が付いてる。俺がずっとお前を守る。」


「どうして貴方はいつもそんなに優しいんですか。」


「お前はもう1人の俺だ。


 俺はお前みたいに周りに良く振舞えない。人を殺す事が何よりの快楽だ。


 俺は、正直弥士の事はどうでも良い。血の繋がった双子だからって、所詮は他人だ。


 でもせめて、お前だけは失いたくない。」


耳元で鼻を啜る音が聞こえる。瀬奈を抱きしめている影は涙ぐんでいた。


「馬鹿ですね。」


「他の執行人の件、俺に任せてくれないか?


 絶対にばれないようにするし、お前に負担は掛けない。だから………」


「私が駄目だと言っても、貴方は勝手に執行するんでしょう?」


瀬奈は影から身を離し、じっと見つめる。


「1つだけ、約束して下さい。」


「ん?」


「私からは、離れないで下さい。」


「今更なんだよ。当たり前」


瀬奈を照らしていた月の光は面積を増し、影の半分を覆っていた。


「またすぐ会おう、瀬奈。」


「えぇ、いつでも待ってます、瀬奈。」


影はニコッと笑うと、瀬奈が瞬きをした次の瞬間には消えていた。


瀬奈は立ち上がり、路地から出てまた歩き出す。


ふと立ち止まって夜空に浮かぶ月を見上げる。


「兄さん!」


帰りが遅い事を心配した弥士が声を掛ける。


「弥士、」


「遅いよ!」


「すみません、心配させてしまいましたか?」


「当たり前だよ!兄さんが帰ってくるまでご飯食べずに待ってたんだよ!」


「それは、すみません。


 早く食べましょうか」


弥士と一緒に屋敷へと帰っていく。


あと2日。


私が執行人達を殺し始めるまで。

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