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前日譚-1-

×月×日


俺の元に、1通のメールが届いた。


そのメールはボスからであった。


ー22時、書斎にて。ー


内容は時間と場所の指定のみであった。


これで5日連続。毎回呼び出される度、ボスのお茶に付き合わされるだけ。


ボスが俺の事を12人いる執行人の中で贔屓にしてくれている事は薄々気付いていた。


だが、こうも頻繁に呼び出されるとストレスも溜まる一方だった。


早く執行したい、早く人を殺したい。


執行は深夜に行う決まりがあるが、ボスが俺を呼び出すのも夜遅くである為執行にも行けずにいた。


「はぁ………」


俺は溜息を溢した。


ボスが指定した時間まで、まだ少しあった為ベッドで仮眠を取る事にした。


その時珍しく俺は夢を見た。


会った事のない女性が立っていて、こちらをじっと見ていた。


(誰だ………)


夢の中の俺は、その女性に近付こうとするが、一向に2人の距離は変わらない。


(待て………!!)


声を荒げてみても、その人に俺の声は聞こえていないようだった。


(兄さん!!)


後ろの方から、弥士の声が聞こえる。


その声に気付いていないふりをしようとするが、彼女との距離はどんどん開いていくのと反対に、


弥士の声はどんどん近くなっていった。


「さん………兄さん、兄さん!」


「あっ……弥士」


どうやら夢の中で聞こえていた声は、俺を起こそうとする弥士の声であったようだ。


「兄さん、もう21時だよ。


 もうすぐボスの所に行かなきゃいけないんでしょう?」


「そう…でしたね。弥士、起こしてくれてありがとうございます」


「ううん!


 兄さんの代わりにしっかり執行してくるね」


「あっ………」


ボスに呼び出されているここ連日の執行は弥士に任せっきりになっていた。


無理に執行に行かなくてもいいと説得しようとしたが、


弥士は少しでも俺の力になりたいと執行に行ってくれていた。


(弥士ばかりずるい)


自分が執行できていない事、ボスのお茶に付き合わされている事など


俺のストレスは溜まっていく一方だった。


「じゃあ、行ってきます」


「うん、行ってらっしゃい」


「気を付けて下さいね。」


屋敷を出て、ボスの書斎へと向かう。


途中、鷹阪茜とすれ違った。


執行を終えて、家に帰る所だという。


そのまま向かおうとしたが、着ていた服の袖を引っ張られた。


「あんた、最近ボスにしょっちゅう招集受けてるの、バカ稲荷が執行人達に言いふらしてたわよ。


 気を付けなさい。ボスに気に入られようとしてる奴は沢山いるし、


 あんたの事を良く思ってない奴がほとんど。


 変な事しない方が良いわよ、すぐ全員に知れ渡っちゃうから。」


鷹阪茜は俺が良く思われていないと注意するよう促してきた。


「ご忠告ありがとうございます。」


と言って別れた。


他の執行人にどう思われていようが、関係無い。


才能の有無も、どうだっていい。


俺はただ、


「来たか、瀬奈」


「こんばんは、ボス。


 少し遅れてしまい申し訳ありません。」


「少しって、たった10秒じゃないか。気にするな」


「ありがとうございます。」


ボスに手招かれて、書斎の横にある小さい部屋へ入る。


少し暗く、その部屋にあるランプはテーブルに置かれたティーカップとティーポットだけを照らしていた。


ボスが座ったのを確認して、自分も向かいの席に座る。


「さぁ。」


華麗な手つきでお茶をカップに注ぐ。


「瀬奈、今日は君に大事な話があるんだ。」



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