第三話 呼び出し
俺がユグレイティの地に来た日は、館の案内を受けるだけで一日が終わってしまった。
俺は、館内に自室を与えられた。自室は風呂も洗面もついていて、しかも一人でこの部屋を使えるなんて、今までで一番の待遇だ。
明日からはまたアシンメトリコについて、仕事を覚えることになっている。
だが、その前に今日の夜はエンダーン様の元を訪れるよう言われていた。
エンダーン様の自室の場所は、今日館の中を案内された時に教えてもらっている。
先方の都合のいい時間になったら、連絡があるらしい。
それまでに、夕食、風呂や着替えを済ませ、自室で待機していると、頭の中で男の声がする。
『アメデ。エンダーン様の自室まで来てください。』
突然聞こえた声に身体を震わせる。声の主はここにはいない。
俺は、右の小指を顔の前に持っていく。小指には金属製の輪がはまっていた。装飾はないが、輪のいたるところに細かく文様が刻まれている。
この輪は魔道具で、この館の魔人たちが各種やり取りを行う通信機の役割を果たすのだそうだ。水などにつけても問題はないそうだが、外そうとしても外れない。もし、この館から逃げた場合、この魔道具は輪を付けた者の位置を知らせてくれる。つまり、事実上逃げられないということだ。
先ほどアシンメトリコが、エンダーン様の居場所を知ったのは、この魔道具を介して、執事のイーヴォとやり取りをしたためだった。
俺も先ほどアシンメトリコから、この魔道具を付けさせられたのだ。
『かしこまりました。これから伺います。』
頭の中で、俺に連絡してきた相手に応える。
正直、自分に声をかけてきたのが、誰だか分からない。
館の案内を受けつつ、何人かとは挨拶を交わしたのだが、全員ではなかったし、相手が声を発したわけでもなかったのだ。
まぁ、エンダーン様の自室に行けば、わかるだろう。
足を運んだ部屋の前で、一人の魔人が立って待っていた。
灰色の髪に、茶色い瞳。アシンメトリコとエンダーン様の中間くらいの年の身なり。20歳前半くらい。彼も色味は地味だったが、顔立ちはとても整っている。
昼間に挨拶を交わした中にはいなかった。
俺は、彼の前で跪いて、挨拶をした。
「立ってください。私に対して跪く必要はありません。」
彼は困惑したように、俺に向かって声をかけた。
「私は、エンダーン様の従者であるハインツと申します。先ほど、貴方に連絡をした者です。中でエンダーン様がお待ちです。」
ハインツは扉を開けると、俺を連れて部屋の中に入っていった。
入った部屋の中に、エンダーン様の姿はない。
机や円卓、椅子などが配置されているところを見ると、ここは寝る以外に過ごすところだろう。
ハインツは向かって、左手にある扉をノックする。
「エンダーン様。アメデを連れてまいりました。」
「入れ。」
許可の言葉を受けて、ハインツは扉を開く。入った先は寝室だった。