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彼女が彼女になる前のこと  作者: 説那


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第十一話 身体

 日々、命の危険に打ち震えながら過ごした4年間。

 エンダーン様も私も、もう少年とは到底呼べなくなった頃、私は昼間にエンダーン様の私室に呼び出された。

 夜を共にするのは定例だったが、昼間に私室に呼ばれたのは、この館に来て初めてのことだと思う。


 私室とは言っても、夜に訪れる寝室の方ではなく、寝室とは反対側にある作業部屋だ。そこでは、自動人形や魔道具の作成をされているのだそうだ。

 部屋の壁には無数の棚が取り付けられており、本や薬品、書類、何に使うか分からない物質が置かれている。


 部屋の中央は、作業するためか物を置かず開けられており、今はそこに白い布がかけられた何かが置いてあった。人が横たわっているようにも見える。自動人形の器だろうか?

 エンダーン様はその何物かの隣に立っていた。

 金色の髪に金色の瞳。その整った容姿はより男性らしさが増して、危うげな様子が減っていた。ここ最近は館にいなかったので、お会いするのは久しぶりだ。


 私は、エンダーン様の足元に跪いて礼を取った。

「久しいな。アメデ。体調は如何か。」

「はい。身体が動かなくなるのは相変わらずですが、それ以外は何事もございません。」

「長く待たせたが、ようやっと、そなたの問題に対応できるようになった。」

 エンダーン様は表情のない面を私に向ける。

「その白い布を取ってみよ。」

 エンダーン様に言われた通りに、何物かにかけられていた白い布を取り外す。


 白い布の下から現れたのは、一人の少女だった。

 足首近くまであるのではないかと思われる長い水色の髪。服は黒の上着に、黒のスカートを履いている。肌の色は白く、手足は長く、容姿も整っている方だと思われた。

「これは・・?」

「そなたの新しい身体だ。」

「どういうことですか?」

「そなたが抱えている問題は、すべてそなたの身体に端を発する。私には、そなたの問題を治すことはできない。以前にも言ったように医者ではないからな。だが、問題がそなたの身体にあるなら、そなたの身体を問題のないものに入れ替えてしまえばいいのだ。」

「この人は死んでいるのですか?」

「死んでいたら、そなたの身体として使えないだろう。生きてはいる。だが、魂は入っていない。」

「この人は誰ですか?」

「・・前に話した我が弟を手に入れるために餌になってもらおうとしたのだが、魂に逃げられた。まったく、気に食わぬ。」

 エンダーン様がその顔を分かりやすくゆがめた。

 なるほど、弟君カミュスヤーナ様の弱点か。


「おかげでそなたの身体として使えるようになった。そなたの魂をこちらに移す。だが・・。」

 エンダーン様が珍しく口ごもった。私は、エンダーン様を振り仰ぐ。

「そなた自身に関する記憶を引き継げない。そなたは、自分がアメデであることを忘れてしまう。」

「忘れる。。教えていただいた宰相の仕事などもですか?」

「いや、そなた自身に関する事のみだ。例えば、そなたがどこで生まれ、どのように過ごして、どのように私と会い、ここで生活してきたかということをだ。」

「エンダーン様のことを忘れないのなら、それでかまいません。」


 エンダーン様は私を見つめて、唇を引き結んだ。

「そんなにあっさりと決断してしまっていいのか?」

「この身体では、どのみち長くは生きられません。記憶をなくしても、エンダーン様の側にあれ、お役に立てるのであれば、迷うことなどありません。」

「・・私はそなたを助ける方法をずっと考えていたが、これ以上の方法を見つけることができなかった。その詫びになるとは思えぬが、記憶がなくなる前に、何か望みなどはあるか?できる限り、叶えよう。」


「エンダーン様。私はそこまでしていただく者ではありません。私が生きていけるのも、貴方様のおかげなのに、詫びなどと。」

 言い募る私に対して、エンダーン様は首を横に振った。

「生きていけるとはいえ、アメデの記憶はなくなるのだ。そなたはそなたではなくなる。」

「・・・そこまでおっしゃられるのであれば。」

 私は立ち上がって、エンダーン様に向き合った。


「私に、エンダーン様へ奉仕する最後の機会をください。」

 エンダーン様は私の言葉に瞳を見開いた。

「エンダーン様は、以前、他の者に奉仕をさせる時も貴方の姿や声が分からないように行わせていたとおっしゃっていました。ですが、私は、貴方様に気持ち良くなっていただきたいのです。そして、浅ましいようですが、その姿を見たい。その声を聞きたいのです。」

 エンダーン様の左手を取って、自分の口元に持っていく。

「アメデ。」

「どうせ、その記憶は私と共に消えてしまうのです。後生ですから、私に最後の思い出をください。・・エンダーン様。私は貴方のことが好きなのです。」

 私は彼の指先に口づけ、微笑んだ。彼は今までになく、目尻を赤くし、視線をそらした。


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