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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真実の便箋

作者: Pentagon

伏線もあるので、よろしければ最後まで読んでみてください。

楽しんでもらえたら是非感想お聞かせください。



「婆ちゃん!合格したよ!憧れの警察官になったんだ!」



「おやおや、おめでとう。どれ、今日は真ちゃんの好きなものを作らんとね。」




この会話から7年後、婆ちゃんは亡くなった。





俺の名前は藤原 真正。


幼いころに交通事故で両親を亡くした俺は、爺ちゃんと婆ちゃんが引き取ってくれた。


両親がいないことでツライこともあったけど、「私はあなたの味方よ」とずっと言ってくれていた。


爺ちゃんと婆ちゃんのおかげで俺は笑顔で幼少期をおくれたと思う。


そんな爺ちゃんも俺が中学の時に脳梗塞で亡くなった。俺のことを実の息子のように可愛がってくれた爺ちゃん。


婆ちゃんもツラいはずなのに、変わらず俺のことを大切に育ててくれた。反抗期もあったけど笑顔で俺を迎えてくれる


そんな婆ちゃんが俺は大好きだった。そんな俺が子どものころから憧れて目指したのが警察官、そして刑事になることだった。


きっかけは単純、婆ちゃんがみてたドラマの影響だった。婆ちゃんは推理物のドラマが好きで俺と一緒にテレビを見ながら


あいつが怪しいとかこのトリックはこうだと話す時間がとても楽しかった。そして俺は警察官になった。


そんな俺を涙を流して喜んでくれた。俺をここまで育ててくれた爺ちゃん、婆ちゃんには感謝しかない。



そんな婆ちゃんが亡くなった。俺も仕事が忙しくなってなかなか会えていなかったが最後のお別れはすることはできた。


婆ちゃんと俺との最後の言葉は「また謎解きしたかねぇ。」だった。


婆ちゃんもあの時過ごした時間が好きだったんだなと嬉しかった。


その翌日、婆ちゃんは亡くなった。俺は両親を早く亡くしたけど、爺ちゃんに、そして婆ちゃんに育ててもらえて幸せだった。


流れるように葬儀も終わり、バタバタだったが俺は念願の刑事課に4月から異動が決まった。


交番勤務も楽しかったし、勉強にはなった。その経験を大切にしながら刑事として働きたいと心を躍らせながら


4月まで引継ぎ等をこなしていた。婆ちゃん!俺頑張るから見守っててね!!





数週間後。



「婆ちゃぁぁぁぁん、疲れたよぉぉぉ。」




俺は帰宅して婆ちゃんがいる仏壇の前で愚痴っていた。その後ろうそくに火をつけお線香をあげて手を合わせ頭を下げてから


今日あったことを報告する、婆ちゃんが亡くなってから毎日続けている日課だ。主に愚痴が多いのは見逃してくれ。



「武田警部は相変わらず気合いだ気合いだ厳しいし、壇ノ浦先輩はそんなこともできないのって厳しいし、及川さんはうん、可愛い」




俺が所属している戸塚署捜査第一課武田班の警部こと武田勝利。根っからの体育会系で操作は足で稼ぐをモットーに捜査するベテラン刑事だ。


まぁ悪い人ではないのだが、ただただ暑苦しいんだよなぁ。好きな言葉は気合いだし、風邪ひいたことないって噂だし。



同じく武田班所属の先輩刑事の壇ノ浦怜。警部とは真逆の事件はデーターと科学で解決をモットーに捜査するクール系女性刑事だ。


この人も悪い人ではないのだが、頭がよくていいところのお嬢様らしく他人を見下すところがあるんだよなぁ。


ちなみに警部との相性は最悪。でもなんで同じ所属なのか別の部署の人に聞いたら性格は水と油だが捜査になると名コンビになるんだとか。


そして武田班に所属する同期の及川結衣。彼女はいるだけで癒しになる。上司と先輩にいろいろ言われても及川さんと話すとすべてが浄化される


気分になる。そう、まさに女神だ。彼女も俺と一緒に異動して来たので一緒に勉強中だ。




「あ、でも聞いて婆ちゃん!明日から俺も武田班のメンバーで一緒に事件を担当することになったんだよ、明日会議があるんだ。

俺だって刑事になったんだもん、事件を解決できるように頑張るね婆ちゃん!さて、報告終わり!ご飯にしよー!」




俺は婆ちゃんの前から立ち上がりキッチンに向かって買ってきたコンビニ弁当を電子レンジにいれてスイッチを押した。


よーし、明日は捜査会議頑張るぞ!!




翌日の夜。



「婆ちゃんただいま!婆ちゃん捜査会議凄かったよ!婆ちゃんと見たドラマみたいだった!」




捜査会議に出席して事件の詳細を聞いて俺は昔、ドラマを見ながら婆ちゃんと一緒に推理していたときを思いだしていた。




「そういえば、婆ちゃん最後に言ってたもんね。もう一度俺と謎解きがしたいって。じゃあ婆ちゃん!俺と一緒に謎解きしよ!」




俺は仏壇の前で事件の概要を婆ちゃんに説明した。




今から5日前の夜中に1人の男性の刺殺体が発見された。被害者の名前は上大岡 洋一。現在は無職でギャンブル中毒だったそうだ。


ただ、上大岡は借金こそないが大した金は持ってなく強盗の様子もないし怨恨についても特にないとの話だ。1人を除いて。


上大岡 雛。上大岡の奥さんだ。二人の間には子供はいなく、日々の生活代は奥様が昼はスーパーのレジ打ち、夜はスナックで働いて


なんとかなっているのに旦那は働かずにギャンブルに夢中とのことで苦労が絶えず、DVもあったと警察にも相談していたそうだ。


動機は十分にあり怪しいのだが彼女には完璧なアリバイがあるのだ。


洋一さんが亡くなったその時間、奥様の雛さんはスナックで働いていた。従業員も客もそれを証明しており、お店の外にある防犯カメラ


にも彼女はずっと映っており、完全なアリバイがあると断言されたんだ。それで捜査を通り魔事件として捜査するって流れになっている。




「奥さんは凄く怪しいけど、やっぱりアリバイもあるし通り魔殺人なのかなぁ、婆ちゃんはどう思う?」




返事が返ってこない仏壇を見つめ、急に淋しさが押し寄せてきた。ドラマとは違うんだもんな、明日から捜査頑張ろう。


と心の中で改めて誓い、俺は買ってきた弁当を電子レンジに入れるのであった。




翌日の朝。


俺は起床し、顔を洗って、朝ご飯を食べる。朝食は昨日の夜に買ってきてたおにぎり二つ。


婆ちゃんが亡くなってから自炊できなくて非常に困っている。婆ちゃんの作ってた味噌汁が恋しい。


感傷に浸りながらおにぎりを食べながら読むための新聞をドアポストへ取りに行く。刑事たる者情報は命だから毎日読みなさいby壇ノ浦


言いつけを守るために新聞は取り続けているのだ。新聞を取り出すとヒラヒラ1枚の音符模様が入った便箋が落ちてきた。最初はチラシかと思ったが手書きっぽいし


宣伝のある様子もない。俺は便箋に書いてある内容を読みながら部屋に戻った。そして驚いた。







真ちゃんへ


昨晩聞いた事件について

5日前の事件以外の前後に似たような事件があったか


YES  Or  NO


この手紙をどうするかはあなたの自由だけど

私はあなたの味方よ






「婆ちゃん…?」



そんなわけはない。頭ではわかっているのに俺は婆ちゃんからの手紙としか思えなかった。事件の概要は婆ちゃんにしか言ってないし


俺のこと真ちゃんって呼ぶのも婆ちゃんだけだし、それに「私はあなたの味方よ」って婆ちゃんが俺によく言ってくれてた言葉。


そうだ、婆ちゃんが俺と最後の約束を果たそうとしてるんだ。なら俺がすることは一つ。


俺はスーツに着替えるとその手紙を胸ポケットにしまい、仕事へと向かった。


俺は出勤すると上司への挨拶を手短に済ませ、自分の席に座りパソコンを開いた。


普段の俺なら警部や先輩について指示待ちしてることが多いので、警部はちょっと驚き、目には微かに涙が溢れているような(きっと気のせい)


俺は自席でパソコンで直近の事件ファイルを検索した。改めてみるとやっぱり事件って多いんだなって思う。すべてを解決出来たらいいんだろうけど、


まずは自分にできることからコツコツやっていこう。


検索していると一つの事件が似ているなと思った。事件の内容はまったく似ていない、場所もここからかなり離れているが詳細は


似ていると思った。えーと、詳しい詳細はっと。




「お前が出勤してすぐパソコンを触るなんて珍しいな、この事件がどうかしたのか?」




俺がパソコンで検索しているところに壇ノ浦先輩が話しかけてきた。




「あ、先輩。この事件のことなんか知ってるんですか?」




「あぁ、私の警察学校の時の知り合いがこの事件を担当していたからな。」




先輩が机の上に目をやるとそこには写真立てがあり、数人が映っていた。警察学校時代の写真らしい。仲が良さそうで、先輩も若いなぁ。今も綺麗な人ではあるんだけど。


そして俺は先輩がこの事件の詳細を教えてもらった。先輩の知り合いによると2日前に隣の市に流れる露原川に


1人の女性の溺死体が発見された。亡くなったのは主婦の福田 夏夢。鑑識によると頭を強く打ちつけたあとがあったが抵抗のした様子があることから


その後強く水面に頭を押し付けられた可能性が高いとのことだった。


貴重品も取られてなく、世間体も悪くない人だったそうだ。そして容疑者に浮かんだのが旦那の福田 時也。


時也さんは女性遊びが激しい人らしく、不倫をしていたとの情報もあった。だから奥さんが邪魔になったのではないかという動機。


しかし、彼にも完璧なアリバイがあった。奥様が亡くなった死亡推定時刻に彼はなんと留置所にいたのだ。


時也さんが居酒屋で飲んでいた時に酔って店の客を殴り、傷害事件としてたまたまその場に居合わせた警察官に


現行犯逮捕され、そのまま留置所にいた。その時警官が奥様に電話しているからその時はまだ生きていたということだから


そのあとに殺害されたという調べになっている。このあたりが今回の事件と似ている点だと思うんだがなぁ。




「それで、この事件がどうかしたのか?」




んー、なんか引っかかるが手紙のことも先輩に言っても仕方ないしなぁ。今はまだ黙っておこう。


「いえ、何でもないです。それで先輩!今日は何をしたらいいですか?」


そう発言した瞬間、俺の脳天に手刀が落ちてきた、理不尽だ。痛い。。。




「ってな感じだから手紙の答えはYESだったよ婆ちゃん!」




俺は帰宅して早々に仏壇の前に正座し、婆ちゃんに話しかけ今日調べたことを報告した。




「なんか違和感っていうかもやもやするんだけど何なのかわかんないんだよね。なんか関係あるのかなぁ」




ムムムって考えてみたが、わからず俺は疲れていたのかそのまま眠ってしまった。だから俺は気付かなかった。


玄関ポストに入るポトって音に。



翌朝目覚めて新聞を取りに行くと、昨日と同じように音符模様の便箋が入っていた。


俺は急いで仏壇の前に行き、婆ちゃんからの手紙を読んだ。





真ちゃんへ



刺殺事件の容疑者と溺死事件の容疑者の接点はあるか


YES   Or   NO


信じてくれてありがとう。

身体に気を付けてね





身体まで労わってくれる、婆ちゃんはやっぱり優しいな。


それにしても婆ちゃんはやっぱりこの2つの事件が繋がってるって考えなんだな。


容疑者同士の接点か、どうやって調べたらいいか、ん?手紙の最後に絵文字が書いてある


これは、カメラの絵文字。カメラ、カメラ、防犯カメラ!


そうだ、確か上大岡氏の奥さんは昼はレジ打ち、夜はスナックで働いてたってあった。


もしかしたらスタッフと客としての接点があるかもしれない!婆ちゃんありがとうと言いながら俺は家を出た。



勢いよく家から出たところで大家さんに会った。


朝からなにブツブツ言ってるのよ、うるさいわよって怒られてしまった。


俺って結構考えてることとか口に出してしまうとこあるから気をつけないとな。


あと、大家さんから隣の子が引き籠りでなかなか出てこない子だから気にかけていてほしいと言われた。隣のよしみでと。


まぁ、生存確認とか困ってることがあればもちろん協力しますよとだけ伝えておいた。俺は刑事だから不規則生活になりやすいから


頼りになるかは微妙だけど。


大家との会話が終わると、俺は急いで職場へと向かった。




職場に着くと警部がご機嫌だった。鼻歌しながら書類を読んでいる。ご機嫌なのはいいが不気味だ。


先輩は耳栓をして無視している、興味が本当にないようだ。そこで気になったのか及川さんが警部にご機嫌ですねとお茶を出しながら尋ねていた。


すると部長は朝出勤した時に懐かしい顔の人に会い、覚えてもらっていたのが嬉しかったらしい。美人になっちゃっててと鼻の下を伸ばしてる。




「不倫はダメっすよ部長。」





俺がそういうと顔を真っ赤にして俺には愛する妻と子供がいるんだーって怒られてしまった。


こんな暑苦しい人に奥さんと子供がいるんだから世の中不思議だよな、ってそんなことはどうでもいい。




「部長、ちょっと調べたいことがあるので上大岡萌さんが働いていたスナックへ行きたいのですが許可をいただけませんか?」





部長にそう告げると、嬉しそうな表情でやっと気合いが伝わったって意味が分からないことを呟いている。


俺は気合いが伝わった記憶はありません。結果から言うと許可は下りた。しかもパートナー付きで。そのパートナーが





「藤原君、頑張ろうね!」




天使…。いや及川さんが俺の仕事を手伝ってくれることになった。俺たちは車で萌さんが働いていたスナックへと向かった。


車の中で手紙の件を以外のことは説明し、スナックの防犯カメラに時也さんが映っているかを手分けして調べることにした。


俺は一年前から今に向かって、及川さんが今から一年前に遡って調べることに。



一日の営業が八時間のスナック。早送りしながら見ているとはいえかなりの労力をつかう。この作業を始めてもうすぐ2時間になる。


そろそろ休憩をしようかと声をかけようとしたときに




「藤原君!見て!!」




及川さんに言われて画面を見るとそこには店から出てくる時也さんとそれを見送る萌さんが映っていた。


やっぱり二人には繋がりがあったんだ。及川さんにそのシーンの画録をお願いし、俺は自分の調べていたテープを回収しようとしたときに


俺はそこに見覚えがあるが、思い出せない顔をみた。この人誰だったっけ?念のためそこも画録しておいた。



俺たちは署に戻る前に昼食を取ることになった。もちろん及川さんと一緒だ、まるでデートみたいで嬉しいな。


ここは及川さんのオススメの洋食屋みたいで俺はハンバーグ定食、及川さんはオムライスを注文した。


注文を待ってる間、及川さんがこの間友達と旅行に行った話を聞いた、一瞬、え?誰と?って思ったが昔からの女性の友達でまた今度小旅行に行くみたい。仲がいいみたいで羨ましい。


たくさん写真を撮ったみたいなので料理を待ってる間に見せてもらった。及川さんやっぱり可愛いなぁ。


でもさすが及川さんの友達、顔立ちも整ってるしスタイルもいい美人さんだ。


何十枚ある写真をスライドで見ていた時俺はとある写真を見たときに頭が真っ白になった。


そのあとに食べたハンバーグの味は覚えていない。ずっと考えていた、この事件のことを。なんとなく掴んでいたところに新たな疑念が生まれ


頭がグチャグチャだ。どうすればいい、婆ちゃん…。そうだ。





「及川さん!ちょっと寄り道していい?」




俺は及川さんから了承を得ると自宅へと向かった。及川さんから「あれ?ここって」と言われたがここで待っててくださいと伝え


俺は自宅へとドカドカ戻り、仏壇の婆ちゃんに話しかけた。




「婆ちゃん、事件の真相が掴めそうなんだけどなんか引っかかるんだよ、時間はないんだけど力を貸してくれ!」




俺は婆ちゃんに話したふたりの関係、防犯カメラ、及川さんの写真の違和感、全てを話した。


数分後、玄関ポストになにか入る音がして俺は走って行った、ポストを覗くと便箋が1通入っている。玄関を開けて外を見るとそこには


誰もいなかった。俺は便箋を開けて中を確認すると俺の疑念はすべて晴れた。手紙を胸ポケットにしまい、ありがとうと告げて


俺は車へと戻り、署へと戻った。






翌日、上大岡萌と福田時也が逮捕された。


二つの事件の顛末はこうだ。まず時也は萌のスナックへ行き、夫婦関係の悪い話を聞くと萌に交換殺人を持ちかける。


時也が洋一を殺し、萌に夏夢を殺させるという計画だ。まず萌が勤務している時間に時也が洋一を呼び出し殺害する。洋一が死んだことで


萌は夏夢を殺さなければ自分が殺されると思い、時也が居酒屋で客と喧嘩し逮捕されている間に萌は夏夢を川へ突き落とし殺害する。


そのあと終電に乗り自宅に戻った。


こうすることでお互いにアリバイを作り犯行は不可能と思わせることができるってこと。二人は逮捕され犯行を概ね認めている。


そして俺たちは最後の謎を解くためにある場所に向かった。






コツコツコツコツ。

ガラガラガラガラ。




「勤務時間にキャリーケース持って、海外に出張かい。露原署主任の平井彩香さん。」




名前を呼ばれた女性、平井彩香はその声がする方を振り返るとそこには壇ノ浦怜が立っていた。




「あんた、なんでこんなとこにいるのよ。」





平井さんと壇ノ浦先輩は警察学校時代の同期で、ご令嬢の壇ノ浦、エリートの平井とはこの時代有名だったし特に平井さんは上層部からの受けもよかった。


警察学校を卒業後壇ノ浦先輩は戸塚署へ平井さんは露原署へ人事された。それから7年後に主任にスピード出世。さすがはエリートである。




「なんでここにいるかって?今は勤務中よ?仕事に決まってるじゃない、だからこうして…犯人の前に立ってるんでしょ」




壇ノ浦が平井にそう告げても顔色変えることなく、ただただ立ち尽くしていた。そして口を開いた。




「犯人?私がなにをしたって?」





表情一つ変えずに壇ノ浦先輩、そして右側のベンチに座っていた俺へと話しかけてきた。


だから俺は平井さんに伝えた。





「なにをしたか、福田時也と上大岡萌に交換殺人を提案したことです。」




時也さんが萌さんのスナックに行ったのは偶然ではない。平井さんが時也さんに萌さんのスナックに行くように指示したのだ。


スナックの防犯カメラを見たとき、俺が見たのはスナックに入って行く平井さんだった。


俺は壇ノ浦先輩の机の上の写真立てに写っていた平井さんを覚えていたから、すぐに気が付いた。


平井さんは萌さんから夫にDVをされているという情報を得た。それを利用し、時也さんにスナックに通わせ交換殺人をするよう持ちかけた。


そして時也さんが洋一さんを、萌さんが夏夢さんを殺害し交換殺人が成立する。





「私が関わってたって証拠は別にないでしょ?」




相変わらず顔色を変えずに飄々と話す平井さん。




「だから壇ノ浦に電話したり、戸塚署を訪ねて捜査の進展を探ってたんだろ?」




平井さんの後ろから武田警部が話しかける。


そう、同じ管轄で似たような事件が二つ起こってしまうと交換殺人を疑われるリスクがある。だから彼女は隣の市で事件を起こすように計画したのだが


それだと事件がどのように捜査されているのかわからない。だから壇ノ浦先輩に電話をしたり、直接戸塚署を訪れ事件の進展を探っていたのだろう。


あの時警部が久しぶりにあった人って平井さんのことだったんだな。どうやら研修で指導したことがあるらしい。





「それに調べて分かったんだが、時也が傷害事件を起こした時に現行犯逮捕し連行したのもお前なんだってな。」


詳しく調査してわかったのだが、居酒屋で喧嘩をしそれをたまたま居合わせた警察官が平井さんだったのだ。


つまり、アリバイ作りのためにたまたまではなくその場に居合わせたってことになる。そのまま連行されれば時也さんのアリバイは完璧なものになる。


そのあと平井さんが夏夢さんに旦那が逮捕された連絡をして呼び出し、萌さんに連絡し殺害させた。




「あと、平井さんと福井時也さんはとても親密な関係だったんですね。」




彼女の左側から及川さんが話しかける。


及川さんが平井さんに近づき、スマホの写真を彼女に見せつける。一見及川さんとその友達が遊んでいるツーショット写真のように見える。


しかし、その後方に平井さんと時也さんが腕を組んで歩いている姿が映っていた。




「時也さんが不倫していた相手って平井さんだったんですね。」




女遊びが好きで不倫の噂があったが相手はわかっていなかった。その相手が平井さんだったというのが俺たちのだした結論だった。


もちろん証拠はこの写真一枚しかない。だが恐らくだけど。





「えぇ、認めるわ。不倫のことも、交換殺人を提案したことも。」




彼女はここにきてはっきりと自供した。




平井さんと時也さんが出会ったのはとある居酒屋だった。


仕事でちょっとミスをした平井さんが一人でお酒を飲んでいた時に隣に座っていたのが時也さんだったそうだ。


偶然なのか狙ってたのか知らないが声をかけられ、いろいろ話していたら楽しくなってお酒を飲みすぎてしまったそうで


目を覚ました時にはホテルにいたそうだ。私はやってしまったっていう後悔とストレス発散になってよかった気持ちと半々だった。


そんな時時也さんが私をやさしく抱き寄せてくれた。こんな気持ちは生まれて初めてだった。


いけないことだとわかってたけど、既婚者とか世間の目とか私にはどうでもよくなっていた。どんどん私は時也さんに惹かれていった。


惹かれていくとどんどん時也さんを独り占めしたいと思うようになった。だから奥様が邪魔になった。


なんとかしたいと思った時に萌さんのDVの情報が入ってきて、交換殺人の計画を思いついたの。それを時也さんに話して実行した。





「まぁこんな感じね、行きましょ。あ、手錠をかけられるなら怜がいいわ。ほら、早くかけて。」




先ほどから変わらぬクールな表情で壇ノ浦先輩に向かって両手首をくっつけて早く手錠をかけてと合図を送ってくる。


その様子をみていた壇ノ浦先輩が手錠をポケットから取り出して平井さんの手首に当て時計を確認しながら




「8時23分、平井彩香、殺人教唆及び殺人の容疑で逮捕する。」




そこで初めて平井さんの顔から初めて驚きの表情がみえた。




「ちょっと待って、殺人教唆はともかく殺人ですって?私が誰を殺したっていうのよ!」




壇ノ浦先輩に対し息を荒くして問い詰めるが壇ノ浦先輩は何も話さない。なので代わりに俺が話す。




「平井さん、あなたの容疑は時也さんの奥さん夏夢さんの殺害容疑です。」




「あの人を殺したのは上大岡の奥さんでしょ、何で私が!」




そう、確かに萌さんは露原橋の上から夏夢さんを突き落したと証言しました。突き落した後終電で自宅に帰ったと。


しかし、夏夢さんは橋から転落した後に生きて川辺まで戻ってきたのです。夏夢さんはその後どうしたか、着信履歴であなたに電話したんです。


電話を受けたあなたは驚いたでしょう。あなたはその場から動かないように夏夢さんに告げて現場に向かった。



向かった先には息絶えかけている夏夢さんがいる。そこであなたは夏夢さんを水面へつれていき頭を押し付け殺害した。


鑑識の見解はこうでした。頭を強く打ちつけたあとがあったが抵抗のした様子があることから、その後強く水面に頭を押し付けられた可能性が高いと。





「ならあの萌ってのがやったんでしょ。落としてからとどめをさしにいったのよ。」




「残念ながら、それは無理なんです。」





俺らは駅の防犯カメラをチェックし間違いなく、萌さんが終電に乗っていることは確認している。終電に乗るためにはあの橋から30分前に出ないといけない。


彼女は痕跡を隠すためタクシーには乗らなかった、徒歩移動を考えると橋からすぐに移動しないと間に合わない。川辺に言って殺害してる時間はないんだ。




「はぁぁ!?あの子が嘘ついてるかもしれないでしょ!私がやったって証拠どこにも…」




声を荒げる平井さん。その平井さんの声量を上回るトーンで




「いい加減にしてよ!彩香!!」





平井さんもそして俺たちもとっさのことに驚いた。俺たちは壇ノ浦先輩がこんな悔しそうな悲しそうな言葉にならない表情をかつてみたことがない。


付き合いが長い警部や平井さんも驚いてるんだ、誰も見たことがないだろう。





「れ…い?」





驚きながら絞り出した声量で平井さんは告げると壇ノ浦先輩は平井さんの目を見ながら




「あんた私のことバカにしてんの?私が…。私たちがなんの証拠もなくここにいると思ってるの?」




そう、証拠はある。携帯電話の履歴を調べれば最後に誰と話したかわかるし、


とっさに頭を押し付けて殺害したんだ、なにか落としていても不思議じゃないし痕跡も残る。





「あんたはずっと私の同期で、私のライバルで、私の憧れで、私の親友だと思ってたのに…なんでこんなことになってんのよぉ。」





泣き崩れる壇ノ浦先輩、そして一緒になって崩れ落ち「ごめんなさい」と連呼しつづける平井さん。


静かな空港で二人の泣き声が響き渡る、そして微かにパトカーのサイレンが聞こえる中俺たち3人はその光景をみつめていた。






数日後。




「婆ちゃん!やっとあの事件の報告書、書き終わったよぉ。」




俺は結局あの手紙のことは誰にも話さなかった。誰も信じてくれないと思うし、信じられても人に捜査内容を話してるのがバレたらまずいと考えたからだ。


だからあの手紙のことは婆ちゃんと俺との秘密だ。婆ちゃんが最後に手紙で教えてくれた





時也不倫相手=アリバイ警察官=夏夢殺害犯?





って手紙をみて、捜査して事件解決に繋がったからやっぱり婆ちゃんは凄いなぁ。


事件の真相をつかんで壇ノ浦先輩に報告した時は本当に怖かったけど、及川さんの協力もあってなんとかなった。


でも壇ノ浦先輩にはとてもツラい事件になったと思う。あ、ついでに警部にも。




あの後平井さんは殺人及び殺人教唆で犯行を認めている。時也は殺人と余罪で詐欺とかいろいろ出てきているらしい。


萌さんは殺人未遂とはいえかなり精神的に病んでしまっているらしい。自分たちが望んだように事件を起こしたのに誰も幸せになってない。


やっぱり殺人なんてしても誰も得しない世の中なんだ、少しでも幸せになれる未来を創るために俺は刑事として頑張っていきたい。


ん、携帯が鳴ってる。壇ノ浦先輩からだ。俺はもしもしと電話に出ると





「藤原、事件だ。戸塚公園裏の林道で絞殺遺体が発見された。及川は今日休暇でいないからお前は現場に向かってくれ。私も今からむかう。頼りにしてるぞ。」




後半は照れたように電話を切られたが、あの事件で俺の株もあがったらしい。誰かの力になれるって素晴らしいな。っと早くいかなきゃ。




「婆ちゃん、じゃあ事件だから行ってくるね!また謎解きやろうね。」





玄関を開けていざ、現場へと走っていく。うん、今日もいい天気。頑張るぞ!


















彼がここに引っ越してきたとき、誰かにずっと話しかけていた。


話し相手の声がしないから電話かなって思ったけど、途中で電話も鳴ってそのままもしもしって


言ってたことがあったから違うみたい。


興味本位で聞き続けていたら(聞こえてきたが正しい気がするけど)いつも仏壇相手のおばあちゃんと話していたみたい。


彼の声は、私の部屋まで響く。でもそれは不快感ではない。


喜び、悲しみ、怒り、楽しみ。


人生がつまんなくて引き籠っている私にとって、人の声、彼の声が聞こえるのは少しずつ楽しみになっていった。


そして彼は私の友達と同僚だってことを知った。友達からいろいろ聞いてたうちに彼に興味が出てきた。


そんなとき彼が仏壇のおばあちゃんと謎解きをするって事件のことを話し出した。




「まったく、事件内容を他人に話してはダメだと思うぞ?ま、でもいつものお礼だから。ここだけの秘密ね。」




仏壇の壁の裏は私の寝室。いやでも聞こえてきちゃう。


おっと、いまから引き籠りの私を心配して仕事が休みのおせっかいな友達が迎えに来る。


久しぶりの小旅行、どこに行くんだろう、結衣は食べ歩き好きだからなぁ。


あ、お隣さんにお土産でも買ってこようかな。


私は出かける準備をするため寝室を出る。そのとき彼女が通った時に起こった風で


寝室のテーブルの上に置いてあった音符模様の便箋がヒラヒラと床に落ちていった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] クルクルと物語が展開していくのが楽しかったです。 そして、隣人というテーマの使い方もとても上手かったです。面白かったです。
[良い点] 企画から拝読しました。 お隣さんが安楽椅子探偵だったんですね。 [気になる点] 及川さんが気づいているか気になるところです。
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