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帰り道

 ↵


 さすがに考えなしに自爆させたのではなかった。箱はちゃんと脱出ルートを用意していた。少々荒っぽいルートだったが。

 塔天頂部ハッチが箱の操作によって開いた。そこが出口だった。

 タワー型遺跡の屋上は、見渡す限り雲が広がる世界。

 宇宙の黒に近い晴天。高すぎて空気が薄い。

 そこから地表まで落下するのは少し度胸が必要だった。俺だけ生身だったからだ。結局、時間が足りなかったために俺のアーマーを回収することは叶わなかった。めぼしい荷物はリンピアに預けていたし、同じパーツは山ほど持っているが……公園階層からの付き合いだった重胴パーツとはお別れになった。

 雲を抜けて地表に近づくと、通信が繋がった。


『キミたち! 無事だったか!』

『カモメチームか! 頼みがある、至急、要塞の障壁を起動してくれ!』

 

 地上には逆ピラミッドの拠点が健在で、『運び屋カモメ』のメンバーがまだ残っていた。街に帰らず待っていてくれたのだ。

 アーマーたちが逆ピラミッドの屋根の下へ転がり込んだのと同時、タワー型遺跡が震えるように動き始めた。


『住民の皆さんは退避してください、本棟はこれより飛翔を開始します。住民の皆さんは退避してください……』

 

 呑気なアナウンス音声が響き、すぐに『飛翔』が始まった。アナウンスを聞いてから動いていたのでは到底間に合わない早さだ。

 ゴゴゴゴと凄まじい低音震動が広がり、遺跡からパラパラと砂が落ちる。

 それから塔はゆっくりと上へ伸びはじめた。

 ……いや、伸びているのではない。浮上している。地中からボコボコと爆炎と煙が噴き上がっている──ロケット噴射だ。とんでもない規模だ。


「なあ、飛翔ってどういうことだ? 自爆させるんだよな?」

『せやで。ミサイルモードを起動したんや。上空を目的地点にして、そこで起爆させる』

「ミサイル……?」

『このタワー型遺跡は大昔の住居……兼、長距離弾道兵器なんや。いろいろぐちゃぐちゃやけど、発射機能は成立しとって助かったわ』


 超巨大ミサイル。たしかに細長い形はしている。こんな質量が飛んでいってぶつかれば目標はタダでは済まないだろう。しかし塔内部には人間が暮らすための階層がいくつもあった。そんなものを兵器に使うとは。


「滅茶苦茶すぎる……」

『ウチに言われても。文句は古代人さんに言ったってや』


 ついに地中に埋まっていた部分が抜けきって、完全に宙へ浮いた。

 同時にものすごい衝撃波が襲ってきた。バリバリとものすごい音、というより衝撃波が響く。ロケット噴射口が地上まで出てきたせいだ。地球のどんな高層ビルよりも巨大な建築物を飛ばす──さすがに重力などは操作されているのだろうが、それでもとんでもないエネルギーだ。

 砂や岩がものすごい勢いで飛び交うが、逆ピラミッドのおかげで無事だった。『障壁』のおかげだ。逆ピラミッドの頂点に備え付けられた装置によって、正ピラミッド型の光の壁が発生し、俺達を守った。

 バリアだ。電磁波みたいなビリビリしたバリアではなく、実体のある透明な壁。音も震動も軽減され、恐怖感がかなり薄まる。


『そろそろ目標座標、か?』

『せやな。安全な高度までは飛ぶはずや』

『ものすごい量の瓦礫が降ってくるんじゃ?』

『しばらく障壁は張りっぱなしだな』


 こんな荒っぽい方法を取るなら箱には事前報告してほしかったが、時間的余裕が無かったらしい。上位権限を弱らせ、指揮官機というアクセスポイントを開通した瞬間だからこそできた芸当。時間をかけると再起動のうえ指揮官機も再生産された可能性が高かったとのこと。ならしょうがないか。

 

 ズドン、とバリア越しでも腹に響く音がした。

 それから、この世の終わりのような光景がはじまった。

 瓦礫の豪雨だ。

 小さなものでも人間大、大きなものは数百メートルもある遺跡の残骸が降り注いだ。大量の土砂が舞い上がって濃霧のように視界が閉ざされ、辺り一帯は夜のような暗闇に落ちた。

 とはいえ、拠点のバリアはびくともしなかった。聞けばこの逆ピラミッドは『ダイアモンド要塞』と呼ばれる最高級の発掘品らしい。専用の対抗兵器を用いなければ障壁を飽和させることは難しく、単純な物理衝突による破壊はほぼ不可能とのこと。


『これが収まるまでは、行動不能だな。各位、いまのうちに休憩をとれ』


 順番に休むことになった。特に警備隊チーム。数日間も敵と交戦しつづけたために疲労が激しい。また、居残りしていたカモメチームも消耗している。彼らは街に『鳩』を飛ばしたうえで現地待機をしていた。タワーの構造調査を続けつつ、ときおり排出されるマーダーの駆除をしてくれていたらしい。遺跡内へ侵入こそしなかったが、拠点を維持しつづけて帰還者を速やかに保護した功労者だ。


 ↵


 バリアは分厚いガラスのような見た目をしている。外の惨状がまるで別世界のような不思議な気分だ。

 内側はザーザーとかすかな音と振動がするだけで、雨のような風情すら漂っていた。夜の雨の日だ。バリア表面を撫でていく砂礫の濁流を眺めていると、深い海に沈んでいるような気分になってくる。

 俺とリンピアはロックフェイスの装甲上に座り込み、軒下からの見張りをしている。つい前日に『島』で休息をとったこともあり、体力に余裕があったからだ。

 ロックフェイスとはついに感動の再会を果たした。遺跡の入口に置き去りになっていたのを、カモメチームが拠点まで運んでくれていたのだ。改めて乗ってみると、やはり苦労して自分の金で手に入れたアーマーは違う。馴染む。遺跡内で作り上げたアーマーも悪くはなかったが、人間用の整備がされていないのでどうしても座り心地が固かった。

 

「少し稼ごうと思ったら……かなりの大事になってしまったな」

「まあ、良い経験にはなったよ……もう一度はやりたくないけど」


 コクピット内に持ち込んだマットレスに寝転がり、身体を休める。バリアはかなり信頼できるようで、臨戦態勢までは必要ないと言われていた。デスワーム退治のときほどではないが、本気を出したので疲れた。……結局、塔での苦楽を共にしたDIYアーマーを置き去りにしてしまったことが悔やまれる。丸い重装胴パーツはスペアも無い一点物だったのに。さみしい。

 リンピアは隣で髪をとかしている。もはや手癖のようなものなのだろう。二人きりのときは、いつも髪をいじっているのを気がする。作戦中は身を整える暇がなかったためか、いつもより念入りだ。俺の鼻先をくすぐるほど近くでやるのはやめてほしい。ムズムズする。

 狙撃軽量アーマーは、現在お休み中だ。ラストバトルで狙撃砲がぶっ壊れ、機体(フレーム)も損傷しまったからである。ダイス型をまとめて薙ぎ払う砲撃は最も有効な攻撃だったために、酷使しすぎてしまったらしい。圧縮庫をもつカモメチームに頼んで、戦利品として持ち帰る予定だ。

 帰り道はロックフェイスに二人乗りすることになる。俺はアーマーと《接続》できないせいでコクピット内を異空間(ドメイン)化できないが、それはナノメタルを充填密閉する構造が必要ないということでもある。無用な部品を撤去しているので、スペースに余裕があり、マットレスのほかクッションや枕も完備。ジャンク街に着くまでの間なら、二人乗りでも支障無い。

 

「楽しいこと考えよう。帰ったら報酬で何買う?」

「そうだな……あいにく『掴み取り』はできないうえに脱落者も出たが、特別報酬は出るだろうし……」


 遺跡攻略でイチバン美味しいのはなんといっても発掘品漁り。特に未確認遺跡となれば手つかずのオタカラがよりどりみどり──『掴み取り』はディグアウターにとっての至福である。が、危険すぎて余裕がなく、まとめて破壊するしか無かった。

 とはいえ今回のはあくまで、ギルド主導による調査・無力化依頼だ。大きな危険を伴うので高い報酬を約束されている。調査だけでなく危険設備の無力化まで完了したので、満額は確定。さらにダイス型という厄介なマーダーの亜種や遺跡の危険な機能のデータが得られたので、特別ボーナスが見込めるだろう。

 リンピアの赤兎(セキト)機が損傷するというハプニングはあったが、少額の修理費で済みそうだ。戦闘でボロボロになったのではなく、空間転移による『ズレ』なので簡単に復元できるとのこと。それに依頼任務中の損傷なので割引もつく。

 アーマーを失ったうえにコア化してしまったマッスラーズチームにも、蘇生費用含めて手厚い補助金が出るらしい。少し心配していたが安心した。すべて自己責任かつ歩合制のディグアウトと違い、必ず黒字にはなるようだ。それだけ、殺人機械(マーダー)生産施設の破壊は人類にとっての優先事項であるということだ。


「もし余裕があったら、探知器を買わないか? すごく活躍したし」

「そうだな……高度な遺跡を攻略するなら必須ではある……」


 計算器や探知器と呼ばれる発掘品。演算や情報収集をこなし、高度なものなら遺跡へアクセスして設備への干渉を可能にする。

 今回最も功績の大きなチームはもちろん俺たち……ではあるが、MVPは(ルーマ)かもしれない。強制転移の情報を外部へ伝え、俺の塔登りを補助し、戦闘オペレータをこなし、上位権限を掌握・自爆させた。異様なほどに強力な箱だった。

 

「あれはおそらく最高級品だな。今の貯金をはたいても足りないし、そもそも市場に出回るかどうかも稀だろう」

「だよな。さすがにアイツほどのは無理でも、もう少し安いやつは?」

「そうだな……ここしばらく地殻流動の様子を見ているが、安定する様子がない……この先遠出をするにあたって、座標計算にも役立つか……」


 リンピアは真剣に眉を寄せる。彼女たちがディグアウト中に遭難して痛い目にあった記憶はまだ新しい。これから里帰りするうえで、長く複雑なルートを強いられることも在るだろう。俺も地殻予報は苦手なので、正確に移動できる道具があると助かる。金があるなら良い武器やパーツを買いたくなる……が、そもそもの快適な活動のためには大きな出費もやむなしだろう。

 そのとき、後ろから声がかかった。


『なになに、ウチの話してるん?』


 箱だ。ピラミッド拠点からアーマーへ伸びるタラップを、コロコロと移動してくる。


「……ルーマか。今回は私達どもども、世話になったな。例を言う」

『えーんやで。ウチもなかなか貴重な経験をした。勉強になったわ』

「ルーマちゃんにとっても変な遺跡だったのか?」

『うーん、うん。まあそうやな。ピチピチではあったな。ウチはそれより、ジェイはんにビックリしたわ』

「びっくり?」

『うん、えーと……最後の階で、すごい怒っとったやん? クソハコクソハコって。ウチの乙女心がちょっと傷付いたわあ』


 あー。そういえば。俺は因縁のダイス型マーダーに対して糞箱と連呼していたが、よく考えれば、ルーマも同じ箱の形ではある。


「ごめん、無神経だったか。あれはルーマちゃんじゃなくて全部ダイス型に向けたものだから」


 なぜ箱に対して気を使っているのか……改めて考えるとおかしな気分だが、慣れてしまった。あまりに人間臭すぎるせいで、機械を相手にしている気がしない。


『なんか嫌な思い出でもあったんか?』

「前にちょっとな。腐れ縁なんだよ」

『ふうん……広域システムにも認知されとるんか』


 小声でよく分からないことを言う。

 かと思いきや、ピカピカと激しく光り始めた。


『ところでな、話があんねやけど。今、探知器が欲しいって話しとらんかったか?』

「ああ。ルーマちゃんが大活躍だったから欲しくなった」

『うふふふんそうでしょそうでしょ。でも探知器ってお高いでっしゃろ?』

「そうだな、悩んでる」

『そんなアナタにオトクなお話があります! ウチ、どない?』


 ビカッ。まぶしい。

 どない、とは?


『せやからあ、ジェイはんがあ、ウチのこと、連れてってくれん?』

「……なんだって?」

『ウチ、役に立つで』

「それは知ってるけど……」


 お得、連れて行く……貰うということか? 警備隊チームから? そんなの、いいのか?

 いいわけが無いらしい。ルーマが眉をひそめている。


「待て。第二警備隊がおまえを手放すはずがない。それに彼らは睡眠治療中のはずだ。それは誰の判断だ?」

『ウチやで』

「論外だ……おまえは自律知性機器か? おまえの作られた時代はどうだか知らないが、所有権は人間にしか認められないぞ。高性能探知器は必ず大金で取引される。それに守秘義務の問題も在る。専属警備契約チームの情報機器が、私達のような流れのディグアウターの手に渡ることは無い」

『ふーん。知っとるけどね』


 箱がビカビカと光る。


『でも関係ないな。ウチはジェーやんのことが気に入ったんやわ』


 俺でもおかしいと分かる。機械のくせに我が強すぎる。なんだこいつ。

 リンピアも悩んでいる。俺と箱を交互に見て、何やら考え込んでいる様子だ。

 困ったな。強引についてこられたらどうしよう。例えば勝手にアーマーの格納スペースへ忍び込まれたりして、誤って持ち去ることになれば、警備隊から泥棒扱いされてしまうだろう。警戒が必要か。

 そういえば最終戦のどさくさにまぎれて『お願い』を聞くという約束をしてしまったような気もするが……大人の事情を無視するのはちょっと違う。義理とかも通ってない気がする。別のものにしたい。

 箱はビカビカとこちらを見つめつづけている。目は無いが。問答無用で所有者(おや)のもとへ送り返したいところだ。


『もしもし紅姫。確認して欲しい反応がある。大丈夫だとは思うんだが、念の為頼みたい』


 ちょうどいい横槍が入った。内部で待機しているカモメチームからだ。

 降り積もる瓦礫の中に、動力反応があるという。ただの設備ならいいが、もし工場の機能などが残っていれば問題だ。

 嵐は曇り程度に明るくなってきている。生身の人間が出歩けばズタズタだろうが、アーマーならもう大丈夫だろう。

 箱から逃げるように、確認に出かける。

 背中から声をかけられた。


《ジェーやん、またな》


 秘匿通信だ。俺の身体に何か残してないだろうな? 悪意の回路気配は感じないが……帰って落ち着いたら、念入りにチェックしておこう。


 ↵


 山ができていた。

 遺跡の残骸が降り積もってできた山だ。爆発は爆薬によるものではなく、塔全体にかけられていた空間縮小や空間屈折を強引に解放することで膨張決壊したものであるとのことだった。まんべんなく粉々になっている。屑拾いや回収屋がここで稼ぐのはかなり難しいだろう。

 同乗しているリンピアに配慮して、普段より丁寧な操縦を心がける。


「動力反応は……」

「あれか?」

  

 小山が動いている。土の中からモグラが顔を出そうとしているかのようだ。塔の中にあった何かが稼働しているのか? マーダーのノイズ反応は無い。アーマーよりも何倍も大きなものが、重い瓦礫を押しのけて現れようとしている。

 ライフル砲を構えて見守る中、姿を現したソイツには見覚えがあった。

 ロードローラーの化け物だ。公園階層でひたすら整地を続けていた、孤独な機械。農業階層でマッスラーズチームを一蹴した焼畑マシンと同じかそれ以上に巨大な鉄の塊。

 そしてその上にはさらに見覚えのあるやつが乗っていた。


『こんにちは、利用者様。ご機嫌はいかがですか』


 ドラム缶の案内ロボット。無事だったのか。

 2体は両方とも全身ボロボロだ。ロードローラーは表層カウルがあちこち剥がれている。ドラム缶のほうはディスプレイが割れいて、女性の顔映像がガビガビ。それでも基本機能には支障なさそうだ。

 

「よく無事だったな」

『ええ、まさに驚天動地、スカイフォールレベルの出来事です。我が社の系列機が協力してくれなければ無事では済まなかったでしょう。我が社の財産たるこの私を、危うく損なってしまうところでした』


 プオーン、とロードローラーが汽笛のような音で鳴いた。

 どうやら『自爆』によって塔内部がバラバラに崩壊していく中、偶然公園階層の残骸に行き着き、ロードローラーと意思疎通することができたらしい。自分の命を守りたくて行動したのではなく、自身という財産を保護するため。それが機械にとっての生存本能なのだろう。


『……なんなんだ、こいつは?』リンピアからの無音通話。

『お土産をたくさんくれた、工場のガイドロボットだ』 

『おまえは……友達を作るのがうまいんだな』


 リンピアは驚きながらも呆れるという器用なことをしている。


『ご利用者様におかれましてはお困りのことはありませんか? お手伝いできることがございましたら、ぜひ我が社をお頼りください……』


 と営業トークを言ったところで、ドラム缶は困ったように首(のように見える上部回転部分)を振った。


『と言いたいところですが、残念ながらご利用者様のお役に立てるような弊社リソースが見つからないようです。設備反応無し。エリア接続無し。広域システム接続……反応無し。困りました。敵対企業圏に来てしまったのでしょうか? ご利用者様、申し訳ございませんが、私に位置情報を与えていただくことはできますでしょうか? もしくは、イシマックコーポレーションに繋がる系列支社をご存知ありませんか?』


 地図って、渡してもいいのか?

 リンピアが無言で首を振った。そりゃそうだろう。位置情報とは地図のことだ。地図はときに戦略級の機密扱いになることもある。マーダー化の気配が無いとはいえ、人間に所有されていない機械相手に渡していいものではない。


「……地図を見ても、無駄だ」リンピアが答えた。「おまえの言う名前は、数百年前の記録に見た覚えがある。その企業圏は、とっくの昔に滅んでて、跡形も存在しない」

『……申し訳ございません、その数百年前とは、正確にはどれくらいかご存知ですか?』

「それは……五百年か六百年、だったはずだ」

『……なるほど、さようでございますか』


 ドラム缶がくるりと頭部を回転し、割れたディスプレイの奥がピカリと光った。


『目標を修正。危険レベルを上昇、敵対企業圏を想定したプロトコルへ変更。ご利用者様、貴重な情報をありがとうございました。これより私は、単独にて、イシマックコーポレーション本社への帰還を目指します』

「おい、だから本社っていうのもきっと、ずっと昔に……」


 俺が言い募ろうとするのを遮るように、ドラム缶ロボットはきっぱりと言い切った。


『いいえ。我が社の恒久的な繁栄と危機管理マニュアルに基づけば、そのような最悪の事態は想定されません。本社は必ずや存続しているはずです。そして、私は本社へ帰還し、この長年にわたる勤務記録を報告する絶対的な義務を負っております』


 きっぱりと言い切るドラム缶ロボット。その姿は、揺るぎない確信に満ちていた。

 プオォォォン……。

 ロードローラーが、再び長く、しかしどこか力強い汽笛を響かせた。まるでドラム缶ロボットの言葉に呼応するかのように、ゆっくりと巨大なローラーを回転させ始める。


「本当に行くのか……? 手がかりも何もないんだぞ?」

『ご心配には及びません、利用者様。我が社の探査アルゴリズムと、この優秀な系列機の踏破能力をもってすれば、必ずや道は開けると信じております。それでは、ごきげんよう』

 

 ゴゴゴゴ……と重低音の地響きを立て、ロードローラーは瓦礫の山をものともせずに割り、前進を始める。その姿は、広大な砂の海に乗り出す、一艘の古びた、頑強な船を思わせた。目指す港が、もはや地図上のどこにも記されていない、幻の港だとしても。

 やがて、ロードローラーとドラム缶ロボットの姿は、瓦礫の山の向こうへと消えていった。


「行ってしまったな」

「……ああ」


 なんだか、不思議な気分になってしまった。あの機械たちは、この崩壊した世界で、ただ純粋に自分たちの信念に従って、存在しない「日常」に帰ろうとしていた。

  

「帰ろう、私達も」リンピアがぽつりと言った。


 嵐の余波で舞い上がっていた粉塵は、徐々にではあるが晴れてきている。

 空が白み始めていた。


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― 新着の感想 ―
不思議ロボがこの世界にまたひとつ生まれてしまった… 塔攻略編もそろそろ終わりだねぇ、感慨深いよ
閉所で退路確保のためってのもあったんだろうけど、チームで戦ってたマッスラーズを再起不能に出来る戦力であるロードローラーさんが生存のために野に解き放たれてもーたw
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