破壊作戦
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驚いたことに最上階は無数の工場が乱立する階層だった。
街階層にあった工場よりもより高度な製造が可能な、上位工場というらしい。それが数え切れないほどある。強敵だった狙撃兵もここで製造されて出荷されていた形跡があるようだ。
だが……今はどういうわけか、そこから産み出されているのは簡素でみすぼらしい箱人形。地底人時代に飽きるほど相手をしてきた小型マーダーだ。
生産コストが低いせいか、数だけは多い。うじゃうじゃと現れては通路を埋め尽くさんばかりの大群となっている。
どれだけ集まろうと、俺には関係ない。
雑魚だ。
こいつらの習性は知り尽くしている。奴らがどんな状況でどんな判断を下すのか。どう移動してどんな攻撃をするのか。どう蹴飛ばせば機能麻痺し、どう撫でれば蓋が緩むのか。群れの中央数体を潰せばハブ役の交代が遅れて連携速度が2%低下することも、外面は無味無臭だが内装はツンと甘酸っぱい刺激臭がして強烈な苦味があることも知っている。
俺の眼には前方の大群が4つの隊と再編成中の余りによる集団であることが一目瞭然だった。先頭攻撃隊と第二攻撃隊のあいだに飛び込んでしまうのがセオリーだ。
「だから実は襲ってくるときは必ず群れひとつずつが順番に来ようとするんだよ、そこの思考硬直を突いて──」
『ジェイ、正直に言う。きもちわるい』
「……今、真面目な戦闘中だよな?」
『誠実な感想だ。マーダーと仲良く踊りながら解体してしまう人間はふつう、妖怪と呼ばれる。おまえにまたひとつ秘密が増えた。その姿は他人に見られないほうがいいぞ』
スムーズな分解作業を続ける俺から、リンピアは眼をそらしたがる。ひどい。
最上階の入口で俺はアーマーを降りた。生身のほうが小回りが効いて戦いやすいからだ。脇や股の間に潜り込まれると、機体ではやりにくい。それに俺が経験を蓄積しているのは生身での格闘戦だ。
俺は自動迎撃装置に徹した。アーマーに寄り添い、火力を発揮できるように小虫を追い払う。そしてときに離れては前衛として翻弄し、後衛からの砲撃を最大化する回避タンクとなる。
『なんとなく理解はした。つまり奴らは群れでひとつの動物だと考えればいいんだな? 私の仕事は群れの中央を狙って多数を巻き込むことに集中すること……ヤツらにこんな攻略法があったとは』
「な、簡単だろ?」
『おまえ無しでは成立しないがな……』
俺が遭難生活をしていた地下遺跡に巣食っていた箱人形。どうやらかなりの厄介者だったらしい。俺を発見する前のリンピアたちも遭遇していたが、生息数の少ない方向へ避けていくうちに……俺が駆除している方面へ移動することで、俺達は出会った。やつらのおかげなのか? 最低のキューピッドだ。
『とはいえどうする? おまえのアーマーは置いていくのか? 上位権限はおそらく奥だぞ』
「いったん速攻で隊長チームを見つけてくるよ。俺だけで」
『……まあ、おまえなら可能なんだろうな』
最下層から育ててきた俺の相棒。もちろん置き去りにはしたくない。全員が合流できれば、俺がアーマーに乗っていても処理が追いつくようになるだろう。
乱立する工場から次々と現れる箱人形。少しでも中へ踏み込めば包囲されて危険だが、階層入口付近であれば相手取りやすい。
リンピアには待機していてもらう。慣れてきた様子だし、ちょうど大群を処理し終えたところで、余裕ができた。
『ジェーやん、分解するときに断片の回収を頼みますわ。画像送るけど、ココの部品にデータが残ってることがあってな……』
「なるほど。上位権限の場所が?」
『ルーマちゃんに任せなさい』
「オッケー。ついでに流し読みする」
俺がひとっ走りして通信を呼びかけ、警備隊チームを見つける。ダメでもまた戻って再び余裕を稼ぎ、何度か繰り返す。合流したら全員で上位権限へ。それでいけるだろう。
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無事発見した。
無事……と表現するにはややギリギリだったが。袋小路へ追い込まれ、箱人形の残骸に埋まりながら迎撃体勢をとっていた。いくつもの大群にいたぶられたのだろう。
こちらへの応答もぎこちなく、強い混乱がみられた。精神衰弱している。あと少し遅ければ危うかったに違いない。
俺は丁寧に彼等へ寄り添い、手取り足取り戦い方をレクチャーした。久しぶりに戦闘用アーマーと触れ合うことができて、俺も満足。ウィンウィンだ。
『合流できたな警備隊。こちらリン。体勢を整えよう、弾薬の残りは?』
『頼みたい……補給ができるのか?』
「ああ、俺が持ってる。水も食料も解凍できるぞ」
『ありがてェ……』
『お腹すいた……』
警備隊チームの主武装はロングソードライフルと肩部レーザー。実弾兵器のライフル砲弾が尽きかけているようだ。
糧食の圧縮パックは余裕があるはずだが、反応から察するに、解凍の設定時間が来たときは食事どころじゃなかったのだろう。便利だが融通が利かないのが欠点だ。弁当箱に詰め込んだまま数回分が解凍されると、圧力で弾け飛んでしまう。もしかすると、コクピット内には食べ物だったものが散乱しているかもしれない。
『気持ちはわかるが、食事は後だ。弾薬を優先し、速やかに……』
今まで動揺していたマイク隊長が、リーダーらしい言動を取り戻しつつある。
箱が急に通信へ割り込んだのは、そんなときだった。
『──全員、警戒や。階層が活性化した。上位権限が動いとる』
空気が震えたような気がした。
ダイス型の様子がおかしい。何かが変わった。
『ジェイさん! なんかコイツ等……』
『おかしいッス! 急に動きが!』
新たにやってきた大群がおかしい。
攻めてこない。回避に徹している。
急に撃破効率が落ちた。今までのダイス型は動物的だった。集団で狩りをする群生体。自らの強みを押し付ける戦術は知っているが、対策があると弱い。多彩に見えて実質的にはワンパターン。習性を変えることができない。
そのはずが……
『射線を、読まれました!?』
『散開して包囲を……まずくないスか!?』
撃破数が稼げない。
その結果、俺達を取り囲むダイス型はどんどん増えていき、壁のように
立ちはだかり始める。
「これは……」
思い出す。
街階層にもマーダーがいた。数こそ多いが、複数まとまっても蹴散らせる程度の中型マーダー。しかし奴らは戦略的な指示さえ受けると、とたんに難敵となって俺たちを攻め立てた。
集団に戦略を与えるもの。
群れを軍隊に変えるもの。
指揮官機。
『──評価せよ。再度、評価せよ』
通信にノイズが割り込んだ。
それは俺が倒したはずの、あのマーダーの声だった。
どういうことだ? しゃべるマーダーなんてアイツしか知らないが、同じやつなのか? そもそもマーダーに個体という概念はあるのか知らないが……
『君たちどう考える、これはまずいぞ』
『上位権限端末の場所はわかっている。なんとか踏ん張れないか?』
『まず補給をくれよ! 弾がもう無い!』
『逃げましょうよお!』
まずは戦線を立て直すのが先決か。些事は後だ。
「そのまま撃ちまくってくれ。観察したい。残弾は気にするな、俺が装填する」
またアーマーに乗れずに生身作業だ。クソ。
警備隊チームのアーマーへ這い登り、砲撃がバッコンバッコンと鼓膜を震わせる中、ロングソードライフルの圧縮マガジンへ意識を集中する。稼働中なので気配を掴みやすい。
ここだ。
《格納庫》と《解凍》の回路を連結、複合起動──
『なんだ? 残弾が回復した?』
「見間違いじゃないぞ。撃ち続けてくれ」
予備弾薬は圧縮状態で俺の体内に格納されている。そして俺には解凍に関しては自在に行うことのできる回路がある。それを組み合わせた。
圧縮弾薬を直接、弾倉内に出現させたのだ。ぶっつけ本番だが、なんとかなった。
『しかし、弾薬があるからといって……』
「いや、もう分かった。ダイス型は急に強くなったわけじゃない。やつらの中に、別の1隊だけが……エリートグループが混じっているだけだ。」
最初こそ戸惑った。あれほど見慣れた箱人形の群体が、別の行動をとった。そのように見えた。しかし違う、見ればみるほど浮き彫りになっていく。戦列を整理し、攻撃のタイミングを調整する個体。明らかに異常な──戦略的に効果的な行動をとるものがいくつか、居る。
俺の経験は伊達ではない。多頭飼育しているペットの中に、同種が混じってもすぐ気づくようなものだ。愛着などとは真逆の感情だが。
「ルーマちゃん、俺の視認を全員に共有したりとか、そういうことはできないか? マーカーをつけた個体を周知したいんだが」
『うーん、難題でんな』
さすがに、専用機器なしで即興は難しいか。
と思っていたら、謎の通信が入った。
《秘匿通信やで、ナイショにしてや。そのお願いやけどな、できるっちゃできる。でもヒトの情報系に割り込むようなことは、できないことになっとるんや》
《どっちだよ。隠しているということか?》
《せやで。ウチ、可愛い探知機ちゃんやもん》
やもん、じゃねえ。
急に、ルーマという箱が怪しくなってきた。
まず、なんだこの通信は。乗っかるようにして返答すると、俺の言葉も同じく秘匿通信になったが。なぜ隠す必要がある?
通常の暗号通信とも違う。実は今の言葉、時間にして1秒もかかっていない。圧縮言語というやつか? 俺の高性能脳みそだから良かったものの、普通なら機械同士でないと成立しない通信速度だ。
……俺が理解できるとわかってて通信してきたのか?
《やってもいいけどな、条件あんねん》
《条件か》
《うん。あとでな、ウチのお願いを聞いて欲しいの》
《お願いねえ》
《悪い内容じゃないで。ジェーやんも嬉しいことのはずや……きっとな》
《今教えるのは?》
《んもう、それは乙女の秘密やで》
乙女。なに言ってんだコイツ。
しかし、お願いか。条件。こんな土壇場で突きつけられるなんて、危ういことこの上ないが……
些事だ。
生きてさえいれば、なんとかなる。今を打破できれば、それでいい。死んだらおしまい。それが転生を経験した俺の哲学だ。
それに、コイツの願望にも興味がある。なんなんだコイツは。どういう存在なんだ。
《承知した。やってくれ》
《言うたな?》
急に、気になる。
しゃべる箱型探知機。しゃべる箱人形。
自律CPUとマーダーとの違いは、何だ?
確かなのは、秘匿通信の先からは強烈な歓喜のオーラが発生したこと。それだけだった。
《うっふふん、ルーマちゃんに任せなさい! 出血大サービスしたるわ!》
情報が流し込まれてくる。
これは……俺の視覚と認識を読み取り、外部と連携するための仕組み。危険は無い。注文通りのもの。しかし高度に自動化された回路だ。
人に回路を与えるものは『インストーラ』と呼ばれ、アタリの発掘品として扱われている。前世にあったアプリケーションプログラムのような情報処理タイプは軽い回路であるとはいえ……俺が半日がかりで作った顔通信よりも桁違いに複雑。しかもこの一瞬で。こんな簡単に用意できて良いものではないはずだ。
秘匿通信が始まってここまで、数秒も経っていない出来事だった。
『ジェーやんがとっておきのサポートをしてくれるで! みんな、気張りや!』
『サポートだと?』
どうやらルーマは、あくまで自分の力を隠すつもりらしい。
まあいい。乗ってやる。
渡された回路には、他者のアーマー操縦システムへスムーズに認識させる仕組みも備わっていた。
「赤いマーカーをつけた。それが別動隊だ。こいつら以外はさっきまでと同じ戦い方でやれるはずだ」
『こんなサポート回路が……ありがたい!』
『でも、まだキツイっすよ!』
「じゃあ──これでどうだ? 青く光るやつを叩け、最高効率だ」
『おお! これなら!』
連携回路をさらに改良した。俺が観測するダイス型の行動パターンをもとに、リアルタイムで最適な攻撃ポイントを表示する機能。高価なオペレーター設備がないと出来ない芸当のはずだが、顔通信の提供でエンジニアとしての面をみせていたおかげか、抵抗なく受け入れられている様子だ。余裕が無いだけかもしれないが。
対面するダイス型が次々と倒れ、密度が減少していく。指揮の影響を受けた個体は群れを盾に身を隠し、姿をくらましてしまった。一時撤退したか。
『上位権限はわかってるんだよな? これでいけそうか?』
『階層中央にある電波塔やで』
『やってやりますよォ!』
『もう早く終わらせましょう!』
『……よし。目標、中央電波塔。破壊作戦を続行する』
リンピアがレーザー狙撃砲をぶっ放した。オーバーヒートぎりぎりまでチャージした大火力だ。通路のダイス型たちを薙ぎ払い、灼熱の道を作り出す。
『行こう。ケリをつける』
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ロングソードライフルが吠える。
肩部レーザーが光線を描く。
大口径レーザー砲が轟き、大群の壁に風穴をあける。
『ウオオオオラァ!』
『火力は前方へ! 前進だ前進!』
『あははは……撃破スコアすごい、過去最高……』
工場すべてを潰していくには弾も余裕も足りない。とにかく撃ちまくって数を減らし、密度を低めたところへ押し込むように前進していく。上位権限にさえたどり着けばいい。
『──評価せよ、評価せよ』
「うるせえな。黙って道を開けろ」
ダイス型を殴り、蹴り、分解し……そして時折、隙をついてくる別動隊の相手をする。指揮化された個体群はゲリラ戦術をとりはじめた。他のメンバーが襲われると大きな被害が出るので、俺が真っ先に処理しなければならない。
また生身だ。アーマーに乗れない。階層入口に置いてきた相棒とは、再会できるだろうか。
『──評価せよ、評価せよ』
「……評価評価うるさいな」
なぜか、あのマーダーの声は俺にしか聞こえないらしい。正確には、ノイズとしてしか認識できないようだ。俺だけが、奇妙な言葉を受け止めている。
指揮官機は姿を見せない。気配のようなものがチラリと感じられることがあるが、すぐに消えてしまう。大群の中に隠れているのか?
敵の数が減ってきた。こちらの撃破率が高いのか、いや違う、増援が減っている? 違和感がある。なんだこれは。
『──評価せよ。再度、評価せよ』
「……なんなんだ、評価って。そんなにお客様の声が気になるのか?」
数体をまとめて串刺しにしながら聞き返す。
意味のある応答は期待していなかった。だが声は答えた。
『──評価せよ、貴殿は我を評価した、故に我が採用された、我々は評価を求める、評価せよ』
「……何を言ってる?」
『評価せよ、我々にはそれが必要だ』
殺気。兵器の敵対前兆。センサーの動作気配。
遠い。だが多い。
『赤マーク、前方多数! とんでもない数だ!』
『電波塔確認! でも……これは!?』
電波塔が見えた。強大な回路の気配を感じる。高度文明の遺産。地表へ殺人機械を撒き散らす暴走命令、その元凶。そこで上位権限と呼ばれる中枢機能が働いている。それを止めればこの塔も止まる。
だがそれは赤いマーキングに埋め尽くされていた。別動隊……とはもはや呼べない。高知能ダイス型が、数百、数千……万にすら届くかもしれない。電波塔の周囲には、建築物を撤去した跡のような更地が広がっており、その地面が見えないほどの数だ。ここまで隙間なく建っていた工場が消えている……ダイス型を製造するために、工場自身の建材すらも利用されたのかもしれない。
『なんか、太くないか……?』
『ダイス型でびっしり……電波塔が覆われているのか?』
『危険やで、何かしてくる』
電波塔は赤マークのダイス型により覆われ、不規則にうごめく蟻塚のような有り様となっている。
『先手をうつ。カバーしてくれ』
リンピアが、オーバーチャージの砲撃を行った。過負荷と引き換えの絶大な破壊力。これまで何度も敵を薙ぎ払ってきた強力な攻撃だ。
強烈な光の槍が蟻塚のごとき電波塔へ達し──
しかし、阻まれた。
蟻塚から枝のように伸びたものたちが盾になったのだ。しかもレーザーの威力が減衰されている。砲撃は数体のダイス型を爆散させただけだった。
『電磁波で防がれた……連結して能力を高めている?』
『高エネルギー反応! 反撃がくるで!』
蟻塚がうごめく。何らかの形をとろうとしている。何体ものダイス型が連なり、ひとつの目的のための形状をつくりあげる。
それは、雷を纏う筒。
砲塔だ。
ダイス型によって作り上げられた加速レールを通って──ダイス型が射出されてきた。
『レールガンか!?』
『回避!』
箱の警告が無ければ危なかった。自爆砲弾は予想以上の威力で、着弾地点を消し飛ばしていった。
この威力──能力の結合だ。ダイス型には内蔵兵器による個性がある。放電、重力、遮音、湾曲……バラバラな力を発揮することで相手を翻弄するが、今はそれが命令によって画一化され、収束することで絶大な威力を発揮している。
『これは……無理じゃないか?』
恐るべき戦闘力だ。
群れではない。個でもない。
群れにして個。
無数の命と強大な戦闘力。高度な思考。
こんなものが外の世界に溢れ出てしまえば、どれだけの悪夢をもたらすのか。
『──評価せよ。我々を、評価せよ』
声が聞こえる。膨大な数の声が。
評価。
評価のために、アイツはこれを作ったらしい。
俺に評価してもらうために。
そうか。そうなのか。
なら、評価してやる。
「提案していいか」
『策があるのか?』
「ああ。二手に分かれよう。俺と、それ以外だ」
『……馬鹿なのか? 自殺は許可しない』
マイク隊長は困ったように言った。
まあそうなるよな。いい人だなこの人。こんな馬鹿な発言をする奴、俺だったら嬉々として囮役を命じて帰る。
『……待ってくれ作戦隊長。私が保証する。コイツが言うからには、できる。そうだなジェイ?』
リンピアが口添えをしてくれる。嫌々という様子だが。顔通信には乗っていないが、おそらく諦めたような渋面をしているだろう。いい加減、俺の言動に慣れてきたらしい。
「俺はヤツらにとって……脅威度のようなものが高いらしい。派手に突っ込んで撹乱すれば、上位権限のほうが手薄になるはず。その隙に頼む」
『そんな……』
『危険すぎます……』
「全員でまともに戦うほうが危険だ。ここまで来たら無事に帰りたいだろ?」
『……たしかに、正攻法では難しいか』
どうやら納得してくれたらしい。そうだよな。部下を無事に帰してやりたいよな。そういう考えをしてくれる人でよかった。マッスラーチームのような脳筋がいたら面倒くさかったかもしれない。
「俺がダメだったら、そのときは追撃するなり撤退するなり、判断は任せる」
『無理はするなよ、ジェイ』
『……幸運を祈る』
歩き始める。
ダイス型の攻撃は一時停止していた。効率化だろう。最も有効な距離と位置から、最も苛烈な攻撃をしかける。ずいぶんお利口になったことだ。だが今は都合がいい。
俺はひとり歩み寄っていく。
彼らを評価するために。




