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並行任務

 ↵ :archivesystem// マイク ↵


 異常だ。

 このタワー型遺跡は異常だった。高度な機能が生きすぎている。まるで新築だ。厄介な防衛機能が多すぎ、手に負えない。

 とても作戦どころではない。


 通常、遺跡とは地殻龍震によって偶然地表に出てくるものであって、人の目に見えるものは膨大な時間を地下で過ごしてきたものばかりだ。新しく見えてもそれは高度な文明技術によって外観を保っているだけであり、ほとんどの場合は不具合を起こしている。比較的活発で地表へ突き出してくる遺跡をタワー型と呼ぶが、それも建築機械が半暴走した結果のものだ。気を抜かなければ問題は無い。


 1ヶ月に発見されたタワー型遺跡の攻略。上位権限奪取もしくは生産機能の破壊。

 編成されたのは、戦闘級パーツで揃えた上等なアーマーの4チーム。

 ほぼ全員がB級以上のディグアウター。実力経験申し分なし。

 ギルドからは移動要塞『ダイアモンド』の貸与も受けた。

 楽とは言わないが、十分に達成可能な作戦のはずだった。命じられた任務の()()()を成し遂げる自信があった。

 そのはずが……侵入して即、出鼻をくじかれた。


 この塔は、生きている機能が多すぎる。まるでつい最近に新しく作り上げられたかのようですらある。

 外殻は次元隔離によって完全遮断。侵入しようとした瞬間に罠のように強制転移され、同時に損傷を受けた。

 内部は次元屈折により広大な階層が横たわり、探索に膨大な時間を食われる。数日同じ景色が続いた貯水槽の水上通路はもう少しで頭がおかしくなりそうだった。

 中途半端に機能が生きていた農業区画は腐った植物で溢れているうえ、通常では考えられないほど強大なマーダーの存在。マッスラーチームと合流することができたが、それでも戦闘を避ける判断をした。劣悪な環境の中を隠れながら進行することを強いられた。

 ついに最上階、上位工場階層。

 そこにもまた、最悪の敵がいた。


『通行止め』──それに会ったら、戦闘せずすぐに逃げ帰らねばならない──そう戒められるほどの厄介なマーダーだ。

 それは強力な殺人機械(マーダー)ではない。

 だが……人間を殺す機械としての能力が高すぎる。


 それは小さく、単純な構造をしている。人間大……小型マーダーに分類されるが、人間用の銃器程度であれば弾く装甲がある。箱2つの体に棒の手足。侮ってはならない。単純な構造ゆえに頑丈で壊れにくく、爆発物による攻撃に強い。電磁妨害にすらある程度の耐性がある。

 それは割に合わない。金にならない。武器弾薬を落とさない。単純な構造に似合わぬ高度な攻撃兵器を内蔵しているが、流体状態のナノメタルにより形成されており、機能停止と同時に崩壊してしまう。得られるのは少量のナノメタルだけ。単純な装甲と手足には鉄屑としての価値しか無い。砲弾一発を撃つごとに赤字に近づく。

 それは集団で狩りを行う。アーマーによる砲撃であれば破壊できるが、群れで襲いかかり圧倒する。機体が行動できない狭い空間から死角を襲う。内蔵兵器によって集中攻撃を受ければアーマーすら容易に破壊されてしまう。人間による対処も、アーマーによる対処も難しい。

 それに出会ったのなら、逃げ帰らねばならない。ディグアウターであれば赤字を恐れて引き返すべきだ。判断が遅れれば取り囲まれ、命の危険もある。都市治安部隊ですら、一時撤退すべきだ。どうしても撃退したいなら、高価で大掛かりな専用対策兵器を引っ張り出してくるしかない。

 それは故に呼ばれる……『通行止め』と。


 それに出くわしたなら、その時点で作戦失敗だ。()()どころではない。

 パッシブソナーに忌まわしき通行止めの反応を検知した瞬間、私は『第二警備隊』隊長として、今回の作戦リーダーとして、タワー型遺跡攻略を断念。脱出への切り替えを判断した。

 合流していたマッスラー隊に逆方向へ……下の農業階層への先行を指示──

 ──しかしその瞬間に、敵もこちらに気づいた。上階の通行止めどもと、下層の焼畑マシンの両方がだ。


 2隊は分断された。

 我々は最上階の隅に追いやられたところでどうにか有利なポジションを確保し、膠着状態に持ち込んだ。

 だがそこで終わりだ。

 その状態からどうすることもできなくなった。


 あろうことか、最上階はその全域が製造工場であった。次元屈折による広大な面積こそ無いが、外観通りの、都市程度の広さはあるだろう。そこに存在する建造物全てから、通行止めが次々と生産されている。

 確保した有利なポジションは、大群を相手取りやすい袋小路──外へ出ると袋叩きに合うどん詰まり。

 敵増援は無限にやってくるのに対し、こちらは他の隊が無事かどうかも分からない。下の大物と戦闘になっていたら余裕は無いだろう。連絡をとるにはここを出るしかない。

 これを打破するには通行止めを排除するしか無い。

 つまり、増援を止めるのだ。やつらは単純構造による大量生産によって押し寄せてくる。それを止めるにはどうするか。

 つまり、製造工場の停止だ。だが最上階は全体が工場だ。すべて潰すことはできない。ならどうするか。

 つまり、上位権限の奪取だ。当初の目的でもあるそれを……どうにかするのだ。

 つまり……そのために袋小路を突破する。どうやるのか。

 つまり……そのためには……

 つまり……

 つまり……

 つまり……脱出することは叶わない。この忌々しい異常な塔で死ぬ。

 

 詰みだ。

 

 そのはずだった。

 異常な男が現れるまでは。


 ↵


『応答求む、応答求む。隊長さん、警備隊チームさん、無事か?』


 顔通信が入り、誰かが……見覚えのない男の顔が目に入った。いや、見覚えはある。もう数ヶ月も前のことに感じる。

 あの『紅姫』のオマケとして作戦にねじ込まれてきた男。《顔通信》の開発者。世話やサポート役の付き人かなにかだと……そう考えていた。


『タイチョぉ……これ……』

『誰か、来たんスかね……?』 


 弱々しい部下の声が……声だけがした。顔通信に最低情報量の画像をのせるだけの力も無いのだ。作戦当初は無駄に凝った編集の顔で遊んでいたのに。

 疲労と不眠、そして恐怖の限界なのだ。キャシーは幼児退行したかのような舌足らずの話し方になってしまった。ニックは顔の半分がひきつり、まぶたが片方ずつ不規則に開閉している。コアカートリッジのトリガーをいつ引かせてやるべきか、ついさっきも悩んで判断できなかった。カートリッジ施術のメリットは生存以外にもある。安楽死だ。


「救助……そうだ、救助が来たんだ。お前たち踏ん張れ、もう少し頑張るんだ」


 私自身ですら、そう理解するのに時間がかかった。ついに助けが来たんだ。

 この4日間……おそらく4日前後の時間、不眠不休で通行止めの侵入を防いだ。

 やつらは波のように押し寄せてはひき……

 引いたかと思えば、わずかな油断を狙って我々の首へかじりつかんと音もなく忍び寄り……

 限界だった。最後に休息したのはいつだ。栄養補給したのはいつだ。頭は重く、空腹も忘れ、ただ恐怖と部下への使命感だけで目を開いている。コクピットの中には汚物が散乱し、戦闘モード機能にエラーが交じるようになった。腰から下の感覚が無い。脳髄が痺れて鈍い塊になっている。指と耳だけが震えて熱をもち生きているように感じる。


「救援が来たのか!? 頼む手を貸してくれ! 通行止めに襲われている! ここだ、座標を送った、応援求む! 応援求む!」

『了解した』


 仲間が来た。助かる。ついに助かるのだ。

 ここが正念場だ。

 最後の《覚醒回路》を使った。急速に意識がクリアになる。頭が回り、息を吹き返したように感じる。

 そこで我に帰った。


 応援?

 救援?

 この異常な塔の、最上階にか? 


 塔に入ったのは、我々とマッスラー隊、そして『紅姫』ひとりきりだ。強制転移されたとき、かろうじて把握していた。転移で孤立してしまった姫様は死んだだろう。下階へ向かったマッスラー隊も無事ではない。

 そもそも助けが来るには早すぎる。街との往復には時間がかかるはずだ。侵入には高度な計算機が必要。予備があったのか?

 いやなぜ、あの男が救援に?

 たしか名前は……ジェイ。

 ディグアウターギルドの情報によれば登録したばかりのE級……いわゆる『F級』。その他情報には日雇いアルバイトの履歴ばかり。顔通信を開発していることから回路の編集能力はあるらしいが、戦闘に使える強度スコアはすべて赤点だ。

 ()()()()()()()? そう思ったのを思い出した。

 ここに来れるわけがない。

 これは幻覚か? 覚醒回路を使ってもついに幻覚を見るようになったのか。

 もし現実だとしても。

 死ぬ。

 彼も。

 我々と同じく。 


「注意されたし! ここには大量の通行止めが……小型マーダーの大群がいる! 引き返せ! 引き返してくれ、お願いだ! 街へ情報を届けてくれ、どうか我々のコアを……」


 ガツン、となにかの残骸が転がった。私のアーマーが砲身をむけて警戒していたはずの空間だ。


『ヒィっ』

『隊長ッ!?』


 なかば意識を失いかけていた部下2機のアーマーがビクリと震動する。


「お待たせしました。帰りましょう」


 通行止めが数体、グシャリと音もなく地面に潰れた。無音の奇妙な光景──暗殺タイプだ。通行止めには個性があるとこの数日で知った。

 最も恐ろしい敵、だったはずのもの。

 その上に男が立っていた。


「先行します。続いてください」

 

 男は生身だった。

 目立った武装も無い。ギルドの酒場に行けばいくらでも見かける普通のディグアウターだ。腰には馬鹿な若者が買うような安物のレーザーソードが挿されている。

 アーマーにすら乗っていない人間が、タワー型遺跡の最上階の、最も危険な場所に立っていた。

 私は自己診断回路を起動した。

 覚醒回路酷使と過度の疲労、栄養と睡眠の大幅な不足、ストレス過多、回路系の損耗。

 至急休息が必要であるというレッドアラート。

 しかし幻覚や妄想の警告は出ていなかった。


 ↵


『ああコイツらね、通行止めなんて大層な呼び名があったんですか。へえ、正式名称はダイス型ボットか。他にも色んな名前が、広く恐れられていると、ふうん。こんなクソ箱どもに名前なんて付けなくていいですよ、クソ箱で十分です。人でもアーマーでも面倒と。大群での波状攻撃と狭所からの奇襲が脅威と。そうですね、得られるものも無いクソ箱ですね。たしかに強そうに見えますけどね、知ってますかね、大群モードと奇襲モードを両方同時には使ってこないから、大群のときは奇襲に警戒しなくていいってこと。逆も然り。ギルドは情報提供してます? 奇襲するときは必ず死角から来るからそこだけ警戒すればいいのは? そうですセンサーと体の向きをわざと偏らせるんです……知らない? 大群モードのときもですね、部隊同士は同士討ち上等ですけど部隊内だと誤射を忌避するっていう……これもか。じゃああれですかね、箱には6種類の内蔵機能があるっていうのは……ああ、ダイス型って名前は偶然なんですね。それ2つの組み合わせで合計36タイプ、それが必ず64体で1つの群れをつくる、で攻撃するときは必ず1隊ずつ順番に来るから、実はあいつら最大でも2000パターン未満の戦術しか無いんですよ。しかもクソアホだからほとんど雑魚パターンなんですよね。だいたい90パターンくらい覚えて対処すればいいんですけど、ああ、そうですか、破壊すると中身も崩れるから分析が難しい、そうでしたね。まああの糞の群れのひとりひとりに名前があるとか個性があるとか知ったことじゃないですよね全部ぶっ潰して潰して潰してやるよ鉄屑ども。じゃあ共有しときますね、覚えたら雑魚ですよアイツら……あ、これギルドから情報料とか出ますかね? まあ今はいいや、じゃまず重力操作機関を内蔵パーツにしてるヤツ、重力箱、そのパーツを生きたままよこせっつう話ですけどね、これの軽量化で機動力上昇してるやつがまず警戒ですね。奇襲モードのときに警戒すべきはこいつと静音箱を含んでるやつですね。でも重力箱と静音箱どうしでくっついてると火力が雑魚なので雑魚ですね。アーマーなら怖くないですよ、せいぜい直接内部を重力でいじられて胃がよじれる程度で死にはしないです。ああそう、静音箱も初見だとビビりますよね、無音。でもほら36タイプのうち1つはもう雑魚。簡単ですねこの調子でいきましょう。重力箱か静音箱との組み合わせで怖いのはやっぱスタン箱ですね。この呼び方で通じます? ああショートスパーク、そういう目撃例が。でもコイツね、なぜか64体のなかに必ず1体しかいないんですよ、なんででしょうね馬鹿ですね。大群モードのときバチバチ光って目立ってるやつが居たら優先処理しましょう。ほら解決。奇襲モードのときの対策はもういいましたよね、必ず死角から。静音箱との組み合わせでも光ってるから視覚でわかるんですよねバカですね。これで分かりましたね、もうスタン箱は怖くない。だからスタン箱との組み合わせも全部怖くない。だから6通り減って、ほらもう36のうちあと29ですよ。あれ、計算これでいいのか? 実際にはもっと減ってるんですけどねていうのもあとは正直雑魚なんですよね、教えるまでもないというか、テレポ箱くらいですかね、でもあれ必ず1メートルで距離固定で音あり硬直ありだからやっぱ雑魚だし。じゃあ壊し方でも? いや、人間の手で壊す方です。斜め45度で叩いたらだいたいの家電直るとかいう技の逆ですね。弱い方向っていうのがあるんですよ。これも何通りかあるんですけど、まず狙うなら2つの箱の接続部から、斜め外方向に、ですね。叩くときはあいつらの手足使うのがいいですよ、壊せば勝手に増えて使い放題ですからね。特に左脚の太腿っぽいのがバールみたいな形状で良いです。普段遣いの工具とか肌触りなら前腕なんですけどね、それはいいか。液体機関の形成維持するところがその辺で、思い切り叩けばそこが壊れるんですよ、外からでも。止まったら連鎖的に強度が緩んでバラせます。シンプルな形だから皿とかに使いやすいですね、テメエの利用価値はそこだけだよ。でもまあ強い力が必要なんで、初めのうちは隙をつくったほうがいいですかね。行動不能にするときは関節部になんかぶっ刺せばいいんですけどね。あ、そのときに前腕棒がかなり良いですね。でも動きを止めるだけなんで、内部機関には注意です。次に気をつけるとしたら……』


「すまないが、ちょっと……ちょっと黙ってくれ!」


 あ、すみません、と男は……ジェイは通信を切って口をパクパクさせた。

 その間も、その体は動き、通行止めを倒し続けている。いや、ダイス型を解体し続けている。2つの箱に棒の手足を生やした機械が、いとも簡単にバラバラにされていく。

 両手にバールのようなものを握ったジェイは、猿か虫のように我々のまわりを跳び跳ね、近づくものを一瞬で分解しつづけた。

 まるで流れ作業だ。

 リラックスすらしている。

 何万回も繰り返したかのように迷いのない動きで、退屈そうにボソボソと理解困難なことを喋り続けながら、戦闘し続けた。


 そして顔だけは微動だにせず、我々を見ている。

 我々を……我々のアーマーを。


 まるで初恋の少年のような瞳で……もしくは女の尻を追うような目で……あるいは巨大ホバー船を見る男児のような……

 私は息子を思い出した。今月5歳になる愛らしいケリィ。我が家で戦闘装甲服を点検するために装備していると、息子はキラキラとした顔で喜んだ。毎日ずっと着ていてくれとせがんだ。それと同じ顔だった。全く違うと言いたいのに、どこかが何故か共通している。大切な思い出を、眼の前の成人男性の顔が上書きしていく……なにか大切なものを失った気がした。


『ジェイさん、大群モード来ます、6時から群れ3つ!』

『了解、砲撃は頼んだ。カバーする』

『お願ッシャすジェイさん!』

『そう、いいよお。いい砲撃音だ。精度重視のカスタムかな? ちょっと高音が交じっている軽やかだ。素敵だね……』


 迎撃に夢中な部下2名は、ジェイの熱を帯びた視線に気づいていない。

 絶望していたキャシーとエレンは生き生きとした顔で戦っている。あれだけ恐れていた敵がいとも簡単に、自分の手で減っていくことに感動しているのだ。

 ジェイの不気味なほど的確なアドバイスのおかげだ。ダイス型ボットたちは彼の言う通りに動いた。彼自身が奴らを操っているのではないかと誤解したほどだった。 

 そして生身とは思えないほどの戦闘力。アーマーでは対処しにくい距離まで接近してくるダイス型はジェイの手で叩き落される。あまりにも無駄なく滑らかに倒してしまうため、目が気持ち悪くなる。

 彼のカバーのおかげで、前方の大群へ集中することができる。敵が密集しているところへ直撃させれば、ロングソードライフルの砲弾一発でも数体のダイス型を破壊できる。撃破効率は劇的に改善していた。

 ジェイは蛇のようにアーマーをスルスルと登り、ゴキブリのように這い回りながら接近するものを迎撃する。ダイス型を排除する一瞬以外、その全神経はアーマーの一挙手一投足に向けられている。


『やりましたよジェイさん!』

『うん、いいよぉ……次は肩レーザー、いけるかな……見たいな……』

『オレもやりますよォ! オラァ!』

『あ、いい……良いよいい動き……でも油差したいね……あでもこのギシギシ感もまた激戦て感じで……ああ……』


 私は部下たち自身のために、この視覚映像を封印処理することを誓った。

 そのとき通信にノイズが混じった。


『ジェイ、なにをしている? 私はおまえを通報したくないぞ』


 この声は『紅姫』……リンと名乗っている女ディグアウターだ。


『リンか? こちらジェイ。そろそろ超大群が来る頃だ。座標へ砲撃を頼む、エネルギーチャージマシマシで』

『ふむ? 了解、巻き込まれるなよ』


 私は混乱した。


「ジェイ、彼女は生きていたのか? この塔で孤立してなお?」

『ああ、最初に最下層で助けたんで。まあリンならひとりでも脱出できたと思いますけどね』

「最下層で? つまり君は……この塔をすべて、生身で!?」

『いや現地調達で……って、それどころじゃないんで、隠れてください。そろそろ混成部隊の超大群が来ます』

『イヤッ!』

『エッ!?』

『それを薙ぎ払うために、D列から横に援護砲撃が来るので、9番通りの影に隠れましょう』


 言う間に曲がり角からキューブ型が湧き出す。

 最上階──全域工業地帯は天高くそびえる製造工場がひしめきあっており、チェス盤のように通路がいくつも直交している。それらは今、ジェイ提供による地図情報で名前付けされていた。

 その通路のうちのひとつが、文字通りの通行止め……膨大な数のダイス型ボットによって埋まっていた。数時間おきに起きる現象(ジェイに解説されると言われてみれば)だ。

 群れが複数合流しての、超大群突撃。

 だが今、ジェイは言った。

 これに砲撃が来ると。


「これを薙ぎ払う砲撃だと!?」

『はい、そこに隠れましょう、9番通りですよ』

『撃つぞ? さん、にい……』


『紅姫』またの名を『血塗れ』によるカウントダウン。

 我々は慌てて身を隠す。

 はるか通路のむこうが明るくなり、そして膨大な光が通り過ぎた。余波で通路全体が灼熱と化し、赤熱している。レーダーが大きく乱れる。

 通信の雑音が静まった頃、通路には残骸だけがあった。


『オーバーヒート気味だ。合流してくれ、休憩したら次で片を付けよう』

『ジェーやん、情報過多やで。回線上限超えるとかゴッツいな。断片情報はもうええわ。おかげで、上位権限の場所もわかったで』


 はぐれたはずの姫がいる。

 どうやら、うちの箱型ディテクターも合流している。転移時に損壊したと思っていたが。それが勝手に喋っている。聞いたこともない上機嫌な声で。


「じゃ終わらせましょう隊長さん。こんな雑魚どもが番人のダンジョンなんて、ぶっ壊してしまって構いませんよね?」


 男が私の機体の肩に乗り、あっさりと言った。


 ↵


 なんでもない作戦と任務のはずだった。行き、戦い、帰り、報告して終わり。しかしそうはならなかった。

 目的の塔は異常だった。

 いや、それだけならまだいい。

 ()()()()も、異常だった。常識の、はるか圏外の存在であった。

 これは……どう()()すればいいのだろうか。


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― 新着の感想 ―
ジェイも確認対象だったのか
何回も発狂するくらい倒した経験則とかそりゃ理性ある常人には理解しがたいだろうなあ…
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