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閑話 出発準備

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「ニイちゃん、駆除に行くの? 最近多いよね、ボクの知り合いにも死んじゃってる人いたよ。頑張ってね」


 フラリと来たリンゴがそんなことを言い、オヤツを摘んで去っていった。可愛い顔してヘビーな奴だ。

 徘徊殺人機械(マーダー)の増加は深刻になりつつあるらしい。

 今までバイトしてきた仕事場にたまに顔を出すのだが、そこの顔見知りたちも愚痴っていた。

 食料工場の爺ちゃんいわく、危なっかしくて蟲拾いに出られない。

 解体所のおっちゃんいわく、機械は増えたのに、危険なせいで逆に持ち込まれる量が減っている。

 この世界の暮らしは危険と隣合わせ。改めて思い知らされる。

 生産施設破壊任務……マーダー発生源を駆除してくる仕事の報酬金は驚くほど高額だった。気合を入れて果たしてくるとしよう。


 ↵


 遠出するには準備が必要だ。過酷な環境で長期間活動するための物資、アーマーの整備、流動する大地で迷わず帰ってくるための座標計算……。

 だがこのジャンク街はディグアウトで盛んなだけあって、便利なサービスがたくさんある。それに今回は共同作戦なので省略できる手間も多い。


 特に大事なのは物資を圧縮結晶(カプセルクリスタル)にして持ち運べるようにすることだ。街の圧縮施設では大量の荷物を手のひらサイズにしてしまうことができる。なぜか重量もほぼ無くなる。

 これを元に戻すには設定しておいた時間が経過するか、解凍器という発掘品が必要になる。すぐ解凍したいときは解凍器を使うのだが、携帯型のものは貴重で超高価だ。今回はギルド主導なので携帯型が持ち込まれていて、現場で使わせてくれるらしい。

 まあ俺には指先ひとつで自在に解凍できるスペシャル回路があるのだが、いちおう隠す予定だ。圧縮の方は少量しかできず苦手なので、素直に施設へ頼む。街で物資を買い揃え、使いやすいように小分けにして圧縮依頼した。

 俺は圧縮も人力でできるが、解凍と比べると使い勝手が悪い。『手で包める』サイズという制限があり、しかもナノメタルを同じ体積ぶん積消費する。おにぎりサイズのものを梅干しサイズに圧縮できたところでなんだというのか。まあ賞味期限は伸びるが。

 食料については専門の店があり、日程を伝えるだけでコンテナにまとめてくれて、ガレージに宅配で届いた。1人用1食分ごとに圧縮されていて、食事時になるごとに自動解凍されるように時間設定されていた。とても便利だ。

 ちなみに、武器の弾薬については専用の圧縮がある。フィクションではよく4連装ミサイルランチャーから4発どころではないミサイルが乱射されていたりするが、この世界ではそれが可能だ。弾が圧縮されて装填されているからである。弾薬という規格に限定されるかわりに簡単に解凍できるらしい。武器に内蔵された弾薬専用の小型解凍器で戻す仕組み。ミサイルや爆弾を数発撃ったらそのたびに補給のため帰還……ということなく戦い続けることが出来る。素晴らしいことだ。

 長期の無補給活動用として、ナノメタルから弾薬を精製する特殊パーツも存在するらしい。シンプルな実弾なら俺も似たようなことはできそうだな……いや、弾頭は作れても火薬は無理か? まあ普通に圧縮弾薬を使ったほうが効率的なのでやることは無いだろうが。


 アーマーの整備については、大きな損傷が無いなら、実はそこまで必要ない。ナノメタルでゆっくりと自動修復されるからだ。ただし無理に外付けやDIY改造したものは対象外なので、それには整備が必要になる。アーキテクト回路で改造した追加ブースタなどを一応検査したが、修復対象になっていたので問題なかった。

 ナノメタルと燃料棒を満タンにし、補給分を圧縮して積み込んでおく。


 共同作戦なので、帰還座標の予測計算は不要だ。ギルドでやってくれている。だがこれから先、必ず役立つので自分でもやってみることにした。

 天気予報ならぬ『地殻予報』のデータをもとにして予測。ジャンク街、隣の地殻、目的地の流動方向、そしてそれらが帰還時期にはどう動いているか……なんとなくは理解できるようになったが、正確な計算は俺の脳でも難しかった。前世、数学2Bで絶望したことを思い出す。俺の頭はアーマーを動かすことに特化しているのかもしれない。


 リンピアに教えてもらいながら準備を進めた。ギルドにあるガイドブックも役立った。受付さんが教えてくれることもあった。すべてが初めてなので多少手間取ったが、大きな問題なく済んだ。


 そしてあっというまに出発の日になった。

 遠足みたいでワクワクするなあ。

 


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