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復活のロックフェイス

 ↵


 バイト生活のすえ、ついに我が機体の腕と脚を買い替えることができそうだ。

 けっこういろいろなバイトをした。

 キメラ虫をカニのように割って身をほじりまくった。

 重い鋼材をいくつも運んだ。

 巨大ダクトダンジョンを攻略した。

 屑拾いに行ったら、大事になってほぼ回収屋の仕事だった。

 自律CPUの試験協力として近場の屑拾いへ連れて行った。便利だったのでいつか自分でも買いたい。

 クレーンに吊られて人間フックになって荷を運んだ。眺めが良かった。

 人間用パワードスーツのデモで敵役になって宣伝した。うっかり反射的に返り討ちにしてしまって怒られた。

 賭博決闘大会に素手で出ようとしたら舐めるなアホと言われて門前払いされた。仕方ないので警備員として働いた。弾丸やレーザーが飛び交う派手なバトルをタダで見れて楽しかった。

 こうした辛く厳しい苦労のすえ、ようやく実用レベルのアーマーパーツを買うことができたのだった。


 ↵


「ここやで」トントン


 宅配のおっちゃんの指が叩いているところにサインを書く。発掘品ありきな文明のせいか、ところどころ妙にアナログな手続きがあったりするんだよな。


「まいどどうもなー」


 ガレージ前にドスンと大荷物を置いて、宅配アーマーは帰っていった。


 さてさてさて……お楽しみの時間だ。ガレージの前が荷物で占領されているので、はやく処理してさしあげなくては。

 大荷物は茶色いラップのようなものでぐるぐる巻きにされている。中身は注文したアーマーの腕と脚だ。


「うひょヒョヒョヒョ」


 開封にナイフを持ってくる手間も惜しい。ナノメタルで爪をつくりバリバリとプレゼントを引き裂いていく。気分はクリスマス朝の子供だ。サイズ感は桁違いだが。


「じゃじゃーん」


 御開帳されたのは、角ばったゴツい腕と脚の中古パーツ。壊してしまった先代よりちょっと太いかもしれない。数年前に大量発生したマーダーの手脚だったものらしく、量が多く流通していたので安く手に入れることができた。


 腕パーツ『ボクサー』……角張った見た目の腕だ。肩や拳部分の装甲が厚く、関節強度が高い。お値段、30万e。

 脚パーツ『ワークブーツ』……こちらも四角い足だ。とくに特筆するべき点はないが、シンプルに頑丈。お値段、40万e。


 どちらも性能としてはそこそこ。見た目のとおり物理的な強度が高く、運動性や燃費などは低め。とにかく壊れにくいことを重視した。

 本当は『ちょっとお高い良い物もの』が欲しかった。前世では独身貴族だったので、少しでも気晴らしになりそうなものなら気にせずハイグレード品を買っていたものだ。だが今は貧乏だ、高級パーツだと時間がかかる。それよりは今動けるだけの一式をそろえて、それから稼げばいい。あとで買い替える楽しみも増えるし。 

 でもこのパーツも無骨でかなりカッコイイ。あなたが初めて量産機の格好良さに気づいたのは、何歳のときでしたか? そんな感じだ。


「んじゃ、換装させていくか」


 フレーム交換はアーマーの醍醐味。ゲームならメニューで選ぶだけで自由自在だったが、現実世界でやるとなると重労働だ。普通はガレージや工房で吊り下げながらやる作業。2機のアーマーがいればさらに楽。

 だが今回は訓練も兼ねて、地面で、しかも独りでやる。


「フンフンフ~ン」


 装備させる予定の最下級アーマーを通常モードで歩かせてきて、重機として使う。まず腕パーツと脚パーツを四方に離して地面に置く。その中心にアーマーを寝かせる。腕のとなりに腕パーツ、脚のとなりに脚パーツが添い寝している状態だ。


「で、たしかこうして……ああ、これだ」


 コクピットから操作すると、バツン!! と轟音がした。

 最下級の腕と脚が外れ、ゴロンと転がっている。接続解除成功だ。

 最下級はもう要らないのでどけておく。棒みたいで軽量なので俺なら手で運べる。


「で、装着はこれをポチッと……うん? 離れすぎてるか?」


 電磁力みたいなかんじで勝手にくっつくはずなので、ある程度パーツを近づけるだけでいい。しかし距離が足りなかったらしい。


「ちょっと重いな……ふんぬぬぬ」


 俺の力でもちゃんとした腕パーツを動かすのは難しい。ズリズリと地面を滑らせていく。

 アーマーは2脚タイプなら体高7メートル前後。腕はおおよそ4メートル──自動車くらいのサイズ感だが、装甲板や骨があるので非常に重い。


「よいしょ……ウォッ!?」


 バヂン!!!!! といきなり大きく動いて、衝突するようにジョイントが接続した。

 やっべ、危なかった。もし挟まれてたらペシャンコだった。

 あわてて接続命令をオフにする。ヨシ。

 まず先にじゅうぶん近づけておいて、それから接続させるようにしよう。


 ↵


「よし、完了!」


 4つすべてのパーツを接続し、ついにフレームが更新された。

 やっぱり機体構築(アセンブル)は楽しい。自分の機体が少しずつ形作られていくのは本能的な喜びがある。とくに今回は過去の痛い損失を取り戻すものでもあった。

 リンピアから譲り受けたニールさんたちの機体とくらべると、四肢が太くなった。全体的に角ばったデザインはそのままに、やや筋肉的(マッシブ)になった印象だ。


「うん? おまえ、誰かに似ているな。おいおまえ、顔をよく見せてみろ。まさかおまえ、ロックフェイスか? いやまさかな。アイツは死んだはずだ。俺が、殺してしまったんだ……すまなかったロックフェイス、俺のせいで……」


《錬銀術:表面装甲・軽量構造》


「なにっその姿は!? 間違いない……ロックフェイス! おまえ生きていたのか!? なんだその少しブラッシュアップされた装甲は!? まるで過去の失敗の経験を活かして強度はそのままに高度な計算のすえ軽量化を施されたような追加装甲じゃないか! そうか内部の不要な部分は穴抜きされているんだな! これでもう重量に振り回されて折れたりなんかしない、そういうことか! なに?構造線を強化する配置になっているから、むしろ強度は増しているだと!? まったく、おまえってやつは……また俺と戦ってくれるのか? そうか! わかった、ともに行こう!」


「なにやってるんだ、ジェイ……?」


 リンピアが帰ってきていた。俺の一人芝居をすべて見ていたようだ。

 なぜか混乱している様子だ。外出するときにいつも被っている帽子を脱ぎかけた状態で、固まっている。


「なんだろう、とても恥ずかしい。なぜだ、私のことではないのに見ていただけでムズムズする……なんだろう……」

「それは共感性羞恥というものだな。他人の恥ずかしい姿をまるで自分のことのように感じてしまう現象のことだ。リンは共感性の高い優しい子だな」

「今度は腹が立ってきたぞ」

「リンは短気な子だな」


 叩かれた。


 ↵


 そういうわけで、俺のロックフェイスは完全復活した。パーツは半分そのままだし、機体コンセプトも引き続き重装近距離なので、名前もまたロックフェイスと呼ぼうと思う。

 ロボット物アニメだと機体乗り換えは大型イベントとなるものだが、全身自由に組み替えられるアーマーには明確に別の機体という感覚がない。脚部を二脚からタンク型にするだけでもガラリと別物に見えたり、すべて別パーツでも同じ機体に見えたりする。機体の名前は、遠距離狙撃とかブレード特化とか、コンセプトに合わせて変える方針にしよう。所有パーツが増えたら2機べつべつに組めるようにもなるだろうし。


 ↵


「なるほど、機体は間に合ったようだな。タイミングが良かった」


 そういえばリンピアはギルドのほうから緊急招集だとかで呼び出されていた。そこから帰ってきたところだったようだ。


「なんの用だったんだ?」

「デカい仕事の予定が入った。おまえにも手伝ってもらうことになる」

「おっ。ついに俺の出番か」

「そのためにも、早くその機体に慣れてもらう必要がある。盗賊狩りに行くぞ。いくつか座標を見繕ってきた」


 リンピアはピラピラと数枚の紙をみせつけた。いかにも『賞金首(バウンティ)』というかんじのザラついたやつだ。

 このSF世界にはたまに妙にアナログなところがある。ギルド内のこうした様式美もそのひとつだ。ドリフターたちが記憶する前世にあった『冒険者ギルド』の影響らしい。事務所の壁には依頼書がワイルドに貼り付けられている。

 この世界にも盗賊のようなアウトローはいて、比較的安定した地面を根城にして商隊などを襲っている。被害情報からその拠点の漂流コースの予測座標が張り出されて、それを見たディグアウターが金のために狩っていくのだ。

 ディグアウターって、わりとなんでもやるんだよな。


「腕が鳴るな」


 やっとアーマーで本格的に活動できる。盗賊討伐はアセンブルコア的に言うなら『小規模違法武装勢力を襲撃しこれを殲滅せよ』ってところか。


「任務受諾。出撃する」

「はいはい。行くぞ」


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