4話
僕の使う【ワヤ】というキャラは樫のような木製で小型の杖を持っている。一見すると地味な装備だが、性能はピカイチ。MP消費軽減やHP自動回復などかなり優秀な追加効果を搭載している。中距離で動き回る「魔法使い」からすれば、「HP自動回復」は嬉しいし、「MP消費軽減」によってMP回復の時間を減らせるのも魅力的だった。
普段は剣を持って戦ったりもするが、こうしてパーティー単位で戦闘する時には「杖」での戦闘が多い。
ジミーさんはGFO内ではかなり希少な「武闘家」の戦闘ジョブなので、軽装で素早さと攻撃力を重視した装備で縦横無尽に戦場を駆け回る。基本的にはおとり役と高火力の物理攻撃が担当だ。
村雨さんは「剣士」のジョブを選択している。村雨さんの装備は着流しに刀を帯刀する、侍のような風貌だった。まだGFOを始めて4か月ほどしか経っていないため装備は完全に整っているわけではなかった。しかし、「鍛冶師」の生産ジョブも相まって、村雨さんの持つ刀はかなりレアリティの高い武器になっている。
そして、チェリーさんは後方で回復やバフを掛ける「僧侶」のジョブを選択していた。チェリーさんはプレイ歴半年ほどで、僕たちと一緒にプレイし始めたのもその頃からだった。ワヤ、ジミー、村雨という三人のキャラは男性なのに対して、チェリーというキャラは女性のキャラクターだった。白ベースの僧侶らしい装備に煌びやかな大杖。そして金色の長い髪をなびかせながら僕たちを後方から支援する。
僕は皆の動きを冷静に見つつ、中距離で攻撃とサポートをバランスよく振っていく。ジミーさんはプレイ歴が長いこともあり基本的にはサポート不要だが、村雨さんはまだ4か月と経験が浅い。そのため、偶に危険な時がある。
ジミーさんが的確にドラゴンの弱点を突くような攻撃を繰り出す。
この黒いドラゴン、名を「黒龍王」という。黒龍王の討伐は木曜日限定のクエストであり、かなり高い経験値がもらえることで有名だった。僕とジミーさんは既にジョブレベルを極めてしまっているので、その恩恵を受けることは叶わないのだが。
そのぶん、僕たちは希少な素材を優先的に貰っている。中でも、錬金術で使える希少素材である「黒龍王の涙」は蘇生アイテムを作る材料の一つで、道具屋で購入しようとすると目が飛び出そうなほど高額であった。そのため、僕達みたいな高レベルのユーザーからしても、このクエストは非常に魅力的だった。
「体力もあと少しか……」
黒龍王の体力ゲージが残り2割ほどに削られてきている。通常時は緑で表示されている体力ゲージも、半分を切るとオレンジに変わり、残り1割になると赤色の表示に変わる。今は2割ほどなので未だオレンジの表示なのだが、あと数分もせずに赤色に変わることだろう。
『ジミーさん、ここからはおとり役に徹してください。村雨さんに最終アタックを』
『分かった』
僕の指示にジミーさんは従う。大体のソシャゲではアイテムは個人分配されるのが基本だが、GFOではパーティー登録しているとパーティーの「ボックス」というものが自動作成され、分配はパーティーの話し合いで決める。そのため、最終アタックボーナスはアイテムではなく経験値となっており、基本的にはレベルの低いユーザーに譲るのが多い。
超高難易度クエストの場合ではそこまでの余裕がない時もあるが、今回は割と余裕がある。
ジミーさんは僕の指示通り、攻撃は牽制程度に抑え、おとり役に徹している。タゲ取りをして黒龍王の意識を自分に向けさせる。高レベルの武闘家のみが使用できるスキルだ。
黒龍王は起死回生のブレスを吐いてジミーさんを倒そうとするが、ジミーさんはそれをいとも簡単に避ける。その間に村雨さんが黒龍王の体力を削っていく。体力バーが赤になった。
『村雨さん、溜め技で決めましょう』
僕はチャット欄にそう打ち込む。村雨さんからのレスポンスは無いが、それはいつものことだ。戦闘中になると村雨さんはチャットを打ち込むことはない。しかし、ちゃんと指示は届いているようで、黒龍王の後方に回り込んで刀身を鞘に戻す。そして、村雨さんの周りに特殊なエフェクトが立ち始める。
それを確認し、僕は最後の体力調整を行う。ジミーさんは何も言わなくても理解しているようで、攻撃を一切やめてタゲ取だけに注力し始める。僕は火属性の中級魔法「炎の渦」を発動させて黒龍王に放つ。黒龍王とは何度も対峙しており、体力の残量をぱっと見ただけでどの攻撃までなら耐えられるかは分かる。
僕の放った魔法は黒龍王を包み込む。そして、魔法の発動時間が終わって黒龍王の姿が露になった。
残り体力は赤色のゲージの半分ほどで、満タン時からすれば5%くらい。魔法の発動時間が終わったのを合図に、村雨さんは鞘から刀を引き抜き刀身を横に払う。すると、時間差で刀身から黄色のエフェクトが飛んでいき、黒龍王を襲う。5%ほど残っていた黒龍王の体力は空っぽになり、黒龍王の表面は青い無数の四角形に変形していき、飛び散っていく。そして画面には「Congratulations!」という文字が映し出される。
『お疲れ様です』
『お疲れ』
『お疲れ様でした!』
『ありがとうございます』
僕のチャットの後に三人のチャットが続く。大体時間にして20分くらいかかってしまっただろうか。
『どうします? もう一周しますか?』
『賛成』
僕の提案にジミーさんは賛同する。チェリーさん達は普段、大体21時くらいまでプレイしている。今日は普段よりも早くログインしているので、まだ20時を少し越えたところ。まだまだ時間的に余裕がある。
『ごめんなさい。今日は村雨に装備を作って貰う約束をしているんです!』
チェリーさんからレスポンスが飛んでくる。確かに、チェリーさんのレベルを考えると今使用している大杖はふさわしくない。クエスト前は僧侶Lv:59だったが、今回のクエストを受けて60の大台に到達した。そろそろ武器を変える頃合いだ。
『そうなんですか。じゃあ、今日はここでお開きにしましょう』
『ありがとうございました。また明日もお願いします!!』
『おねがいします』
そう言ってチェリーさんと村雨さんはチャット欄からいなくなる。さて、これからどうしよう。
『ジミーさん、どうします?』
僕はチャット欄に残っているジミーさんにそう尋ねる。しかし、普段は即レスしてくるジミーさんからの返信がなかなか返ってこない。
──あれ? トイレかな。
僕がそんなことを考えていると、「ピコン」という音と共にチャット欄が更新される。
『今度会わない? 勿論リアルで』
僕はその文字を見て固まった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
さて、もう一話投稿します。
連続投稿ですけど、お付き合いください<(_ _)>