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3話



 告白の現場に遭遇した翌日。僕は、いつものように朝学活の20分前くらいに学校に辿り着いた。教室に入るといつもよりも皆が興奮気味に話しているように感じられた。


 僕は自分の席に荷物を置くと、今日のスケジュールを確認する。これは僕の日課だった。

 すると、いつもの二人が近づいてくる。


「江川おはよう!」

「江川氏、おはようであります」


 いつものようにに元気な三村くんと、今にも死にそうな顔色の渡辺くんが挨拶にやってくる。渡辺くんの顔色が悪いのは、おそらく遅くまで漫画を描いていたからだろう。


「二人ともおはよう。──はい、渡辺くん」


 僕はいつも常備している飴を渡辺くんに渡す。僕が好きなレモン味の飴で、これを舐めるとリラックスできるので常にいくつか鞄に入れてある。


「いつもありがとうであります!」


 渡辺くんは飴を受け取ると袋から取り出して口に放り込む。「酸っぱいであります!」と小さく声を上げているが、これもいつものことだ。


「──それより、あの話聞いたか?」


 三村くんが僕の耳元でそう尋ねる。「あの話」と言われても、何のことか分からない。


「──なんの話?」

「三年の九重(ここのえ)先輩が桜井に告白して振られたって話だよ!」

「小生も聞いたでありますよ」


 「桜井」という名前を聞いて、昨日のあの場面を思い出す。昨日の今日なのに、もう噂話になっているみたいだった。それだけ「桜井」という名前のネームバリューは高いという事だろう。


 それにしても、あの三年生の人、九重(ここのえ)先輩って言うんだ。


「有名な人なの?」


 僕は思ったことを口に出す。すると、三村くんから「嘘だろコイツ」というような表情を向けられる。パッと隣の渡辺くんを見ても、少し呆れた表情だった。


「……まじか、江川。……お前、まじか」

「仕方ないでありますよ、三村氏。えっとですね、江川氏。九重先輩は男子サッカー部の主将でありますよ。かなりモテるらしいであります」


 壊れた人形の様に「マジカ、エガワ」と何度もつぶやく三村くんを(たしな)めながら、渡辺くんが九重先輩について教えてくれる。サッカー部の主将ということで、どうやらかなり有名人だったようだ。


「それにしても、『桜井は面食いだ』って噂だったけど。何となく違うっぽいよな。……ワンチャン俺も……?」


 三村くんはそんな願望剝き出しの未来予想を頭の中で繰り広げる。確かにイケメンを「タイプじゃない」という理由で振っていたので、彼にチャンスがあると言えばあるだろうけど。


「……無いでありますよ」


 渡辺くんは、彼のお腹に視線を向けながらそう呟く。


 ……うん。また増えてそうだね。





 

『──って、こういうことがあったんです』


 GFOの画面に僕たちのチャット欄が映し出されていた。採掘師の生産ジョブを持つ「ジミー」さんに付き合って、レアな鉱石が採掘されるという噂のある採掘所にいるのだ。時間はまだ19時半くらいだったので、僕のキャラクターである【ワヤ】と【ジミー】しかログインはしていない。


 僕は今日あったことをチャット欄で話した。といっても固有名詞を出すのはまずいし、少しぼやけさせて話している。


『ワヤの学校は楽しそうだね』

『ジミーさんの学校はどうなんですか?』


 中学二年生から一緒に遊ぶ仲だが、ジミーさんのことについて知っているのは、学生だということだけだ。中学生なのか高校生なのか、はたまた大学生なのかはっきりとは分からないけど、プレイしている時間などを見れば、ジミーさんが学生であるのはすぐに分かる。


『うちの学校は、普通だよ』


 ジミーさんから返信がある。


『普通ですか?』

『そう、普通』


 そういえば、ジミーさんとはどうでもいいことならよく話しているが、リアルの話となるとあまりしたことがなかった。僕は、そんなことを考えながらマウスを操作して「採掘」を続けている。僕の生産ジョブは「錬金術師」だから頑張ってもB級の鉱石までしか取れない。──あ、C級の鉱石だ。


 僕が鉱石の種類を仕分けていると、「ピコンッ」とチャット欄の着信音が聞こえる。


『ワヤは高校生?』


 ジミーさんから突然そんな質問が飛んできた。僕は思いもよらない質問に少し驚く。ジミーさんはリアルな部分はほとんど追求してこない。キッチリと線引きしているのだ。

 

 しかし、今回の質問は違う。こんな質問が来たのは初めてだった。僕は少し考えてから、キーボードを叩く。


『そうですよ』


 別段隠す必要もないと判断して素直に答えた。ある程度リアルな情報を伝えておいたほうが融通が利く場合が多いと思ったからだ。

 別に勉強面では困っていないが、急に課題が大量に出されたりすれば、勿論ゲームに割ける時間は減る。その時に僕が高校生だと分かっていれば、ある程度理解も早まるだろう。


『ふーん』


 適当な相槌が返ってくる。

 あれ? 思っていたよりも淡白な返答だな。


『ジミーさんも高校生d』


 僕がそんなメッセージを飛ばそうとした時、【チェリー】さんと【村雨】さんがログインしてきた。普段は20時になってからログインしてくるのだが、今日は少し早い。

 僕は書きかけたチャットを消して新しく文章を打ち込んでいく。

 今日は木曜日。木曜日なら、曜日クエストをこなすのが無難だろう。


『チェリーさん、村雨さん、こんばんは。早速ですが、曜日クエストに行きませんか?』

『賛成』

『了解!』


 僕の提案にジミーさんとチェリーさんが瞬時に賛成の旨を送ってくる。


『わかりました』

 

 少し間を置いて村雨さんからも了解を得られた。前から思っていたが、村雨さんはレスポンスが少し遅いし、返ってくるチャットも平仮名ばかりだ。もしかすると、機械音痴なのかもしれない。


「……うん、みんな装備も整え終えたみたい」


 各自、曜日クエストに備えて適性武器を装備している。そして、「まだか!」と言わんばかりに動きまわっていた。


『じゃあ、受けますね』


 僕はそう言って曜日クエストを選択する。すると画面が一度暗転して僕たちのキャラクターは他マップに飛ばされた。

 


 黒いドラゴン。それが今回の敵だった。


 

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


ネトゲっていいですよね。

作者も一時期ネトゲにはまっていたことがあったので、こういう話を書くの、好きです(笑)


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