女児向け児童書の世界に転生してダークヒーローに懐かれた私の話
たまにはこういうのもおもしろいかと思い、一気に書きました。
我が輩は転生者である。
我が輩には、前世の記憶というものがある。前世の我が――いや、私は日本で暮らす普通の女性だったが、死んだ。なぜ死んだのかは覚えていないが、二十代の半ばくらいで死んだと思われる。
その後私は、前世生きていた世界とは全く異なる世界で生を受けた。といっても、自分が生まれ変わったということを知ったのはつい最近だ。それまではまたしても、ごく普通の女性として暮らしていた。
私――アシュリー・リッジウェイは、スワイト王国の王都にあるルーハイネス初等学校で教鞭を執っている。先生になる、というのは子どもの頃からの夢で、十八歳で高等学校を卒業した後に今の勤務校に就職して、早くも三年が経っている。
現在、私はルーハイネス初等学校の六年生を担任している。クラスの生徒は、男子十二人に女子九人。前世の小学校と比べると小規模だけれど、この国ではこれくらいの人数で一クラスになるのが普通だった。
可愛い子どもたちを教えながら充実した日々を過ごしていた私だけれど、ある日……教え子の一人であるアリエル・マクナルティが変身する場面を目にしてしまった。
突然何を言っているのかと思われるかもしれないが、クラスのムードメーカーであり男女問わず人気のあるアリエルを休日の街角で見つけて、なんとなくその後ろ姿を見ていたら路地裏に消えていった。変な人に目を付けられたら……と心配になって追いかけると、彼女はまばゆい光を纏った後にシンプルなワンピースから魔法少女チックな衣装に早変わりしたのだ。
それを見ていた私は、思い出した。
私には前世の記憶があること。そして、その記憶によれば……ここが、「マジック☆ガール♡宝石探偵団!」の世界であることを。
「マジック☆ガール♡宝石探偵団!」、略してマジガル。
これは、前世で読んだことのある小説だ。緑宝社チューリップ文庫が刊行している人気シリーズで、この世に散らばる不思議な力を持つ宝石を少女たちが魔の手から守り回収するというお話だ。少女たちは魔法少女であり。探偵団の仕事をするときには謎の力で変身して、悪人を追いかけたりやっつけたりする。
私ことアシュリー・リッジウェイは、主人公であるアリエルたちの担任だ。
おっとりとして優しいお姉さん――ついでに言うと隠れ巨乳――なアシュリーはもちろん探偵団員ではないしアリエルたちの正体も知らないけれど、やたら物語に絡んできて時によっては事件に巻き込まれたりもする。
いや、それはまあいい。ただ……このお話、女児向けなのだ。
対象年齢は、小学生中学年くらい。前世の私も、小学生の頃に図書館にあるマジガルシリーズを熱心に読んでいた。
確かに、十歳くらいの読者からするとだいたい十二歳の主人公たちは格好いい先輩に見えるし、二十一歳のアシュリー先生は素敵なお姉さんに思われるだろう。主人公が同級生の男の子と甘酸っぱい恋愛を繰り広げたりして、乙女たち(約十歳)はとてもときめいた。
うん、それはいいんだ。転生してしまったものは仕方がない。
でも……皆は知っているだろうか。
女児向けの小説や漫画やアニメの登場人物たちは……やたらきらきらしくてどきつい色合いであることが多いのだ。
ある日、いつものように仕事を終えてさあ退勤しよう……と思っていた私は、誘拐された。
そんな馬鹿な、と思ったが誘拐されてしまったものは仕方がない。
「やあ、お目覚めかな、リッジウェイ先生」
薬を嗅がされていたらしく昏倒していた私が目を覚ますと、目の前には若い男がいた。マジガルの登場人物であり……アシュリー先生なんかより登場回数の多い人物なので、私はすぐに彼の名前が分かった。
「ミスター・ジョーカー……?」
「ふふ。お察しの通り、僕はミスター・ジョーカー。巷を騒がせる、宝石泥棒さ」
私のつぶやきにも反応しただけでなくご丁寧に自己紹介をしてくれた彼は、マジガルにおける悪役の一人だ。
主人公・アリエルたちは魔法少女であり、魔力を持つ宝石が悪用される前に回収するという任務を授かっている。彼女らはいろいろな敵と戦うけれど、その常連敵キャラの一人がこのミスター・ジョーカーだ。
粋な感じに整えた金髪に、垂れ目が色っぽい甘いマスク。タキシードとインバネスコートを合体させたようなコートにハンチング帽という出で立ちの彼は、マジガルシリーズでも一番の美形だ。その正体は明かされなかったと思うけれど、年齢は十九歳くらいだったはず。
卑怯な手を使いがちな他の敵キャラとは違い、彼は正々堂々とアリエルたちに戦いを挑み、そして優雅に笑いながら去っていく。宝石を我がものにしようと企むのではなく盗んだ宝石を大切に扱っている描写もあったし、時には主人公たちに協力することもあったため、ダークヒーローとしてすごく人気があった。
私はそんなミスター・ジョーカーに捕まり、やたらおしゃれな部屋のベッドに寝かされていた。監禁……という感じではないけれど、警戒はできない。
「……どうしてこのようなことをするのですか」
なるべく平静を装い大人の余裕を振り絞って問うと、ミスター・ジョーカーはくつくつと色っぽく笑った。
「うん、いいね。そうやって凜として問うてくる姿、とっても素敵だよ、先生」
「お世辞は結構です。それより、あなたは宝石泥棒でしょう? 私は宝石なんて持っていません」
「そうだね。でも……リッジウェイ先生は宝石のようにお美しいから、問題ないんじゃないかな?」
そういって顔を近づけて、バチーン☆とウインクをするイケメン。もし私が前世の記憶を取り戻していないただのアシュリー先生だったら、年下イケメンのウインクにうっかりときめいたかもしれない。
でも……残念ながらここは、女児向け児童書の世界。
キャラの違いや特徴を捉えやすくするよう、キャラはどいつもこいつもどきつい髪や目の色、けばけばしい色合いの服を着ているのだ……!
現に主人公のアリエルはピンクのツインテールで、その仲間たちも緑や青や黄色と、ここはボールプールの中かってくらいカラフルな色をしている。あと、髪型もすごい。重力に逆らっている。
ただ、なぜか私ことアシュリー先生は茶色の髪に茶色の目という普通の色合いで、眼鏡を掛けているため全体的に地味だ。隠れ巨乳だけど。
そして、この目の前の男もご多分に漏れず、すさまじいデザインをしている。
金髪に緑の目はともかく、衣装が……その……前世の記憶を取り戻した私には、ちょっと受け入れるのがきっつい。
コートは表地こそ黒一色だけど、内側は赤と金色のダイヤ模様。体中に使用用途の分からない鎖がじゃらじゃら付いていて、ハンチング帽には馬鹿でかい羽根飾りまで付いている。纏っているマントを簡潔に言い表すと「中二病」そのもの。
このビビッドカラーが当たり前な世界の人からするとそれほど奇抜ではないけれど、今の私にはかなりきつい。なんというか……見ているだけで恥ずかしくなってくる。美形なのは認めるから、せめてそのコートだけでも脱いでほしい。
そんなもんだから、ミスター・ジョーカーに詰め寄られてもときめくどころか直視するのも堪える。思いっきり目をそらす私の反応が気に入ったのか、ミスター・ジョーカーが笑みを深めたのが分かった。
「へえ……僕の顔を見ても冷静でいられるなんて、リッジウェイ先生は目が肥えているんだね」
肥えているのではないが、それを言うつもりはない。
「……とにかく、解放してください」
「うーん……そういうわけにはいかないんだ。僕は、あなたの教え子たちを嵌めるためにあなたを連れ去ったのだからね」
……え? そういうこと、言っちゃうの?
アシュリー先生は、アリエルたちの正体を知らない設定……になっているのに?
「ど、どういうことですか?」
「えーっとね。あなたの教え子のアリエルたちは実は魔法少女で、僕たちが狙う宝石を集めるよう政府から使命を受けているんだよね」
うん、知っている。でもあえてとても驚いた顔をしておいた。
「そ、そんな……マクナルティさんたちが!?」
「ふふ、そうなんだ。それで今回、彼女らが僕より先にとある宝石を手にしようとしたから、それを阻止するために先生を誘拐したんだ。彼女らのもとには今頃、『リッジウェイ先生のことが心配なら、宝石には触らないように』って手紙が届いているはずだ」
さすが児童書の悪役。ちゃんと小学生でも分かりやすい脅迫状にしている。
「……そんなの、やめてください。ええと……もしあなたの話が本当なら、マクナルティさんたちを困らせることはしたくありません!」
「うんうん、優しい先生ならそう言うと思ったよ。でも、そうしないといけない事情があるんだよね」
そこでミスター・ジョーカーは少し悲しそうな顔になった。
……そういえば、彼が悪役でありながら主人公たちの手を貸すような真似もする理由は、小説でも明かされなかった……というか、私はシリーズ最終巻を読むよりも前に小学校を卒業して、読まなくなってしまったんだった。
……よし、私も気になるしこの人は私を害するつもりはなさそうだし……駄目元で聞いてみよう。
「なぜ、あなたは宝石泥棒なんてことをしているのですか?」
「教えてもいいけれど、代わりに先生の唇をもらってもいいかな?」
「無理」
いくらイケメンでも、児童書のダークヒーローのデザインはちょっときつい。
「了解。それじゃあ教えてあげる」
「えっ、いいの!?」
思わず問い返すと、ミスター・ジョーカーは笑った。
「むしろここで簡単にキスを許されたらちょっと萎えていたかもしれないなぁ。いやぁ、本当にあなたはおもしろいねぇ。この僕に口説かれて喜ぶどころか、嫌そうな顔をするなんて!」
「……後払い制度とかじゃないですよね?」
「あはは、先生は面白いね! もちろん、そんな詐欺師みたいなことはしないから安心してね?」
そう言ってミスター・ジョーカーは、バチーン☆と星が飛びそうなウインクを――いや、本当に星が飛んだ。彼の目尻からぴょんっと飛び出た星が部屋の壁にぶつかり、消えた。まじか。すごい。
「まず、アリエルたちが探し求める宝石だけど……あれには膨大な魔力があるのだけど、たまに邪気を孕んでいるものがある」
「邪気……?」
「うん、普通の人が触れたなら邪気にあてられてしまう。たとえ特別な使命を持った魔法少女たちでも、邪気には勝てない可能性がある」
「そ、そんな危険なものを回収するのですか!?」
そこまでは知らなかったので思わず声を上げると、ミスター・ジョーカーはふいに真剣な顔になってうなずいた。
「そう、危険だ。……そんな危険なことを、政府はさせている。でも、政府でも宝石の実態を掴んでいる者は多くない。政府もアリエルたちも、今は少しずつ宝石の真実に迫っているんだ」
「……」
「でも僕はちょっと特殊な才能持ちでね。……僕は、宝石の邪気に勝つことができるんだ」
そう言って彼は、手袋――やたら派手なデザインだ――のはまった右手を見つめた。
「僕が先に宝石に触れて邪気を浄化すれば、アリエルたちは安全に宝石を回収できるんだよ」
「……。……そ、それじゃああなたが脅迫状で、宝石に触れるなと言ったのは……マクナルティさんたちを、邪気から守るため……?」
まさか、と思いつつ尋ねると、ミスター・ジョーカーは柔らかく微笑んだ。
「ご名答。一度触ればもう安全だからね。まず、政府と彼女らに宝石を見つけさせて、もしそれに邪気が含まれているのなら他の者が触れる前に僕が浄化する。たまに間に合わなくて邪気に取り込まれてしまう者もいるけれど……そういうのはアリエルたちに任せる。宝石の邪気そのものはともかく、人間に移った後なら魔法少女でも対処できるからね」
「……」
ええと、何だ……つまり?
「……あなたは本当は、正義の味方なのですか……?」
「あはは、そんなたいそうなものじゃないよ」
「でも、あなたの話が本当なら、マクナルティさんたちが魔法少女として活動できるのはあなたのおかげじゃないですか!」
「ふふ、そうかもね。でも僕はこういうやり方でいいと思っているんだ。……英雄になるのは、彼女らだけでいい。だってほら、影の英雄だって十分格好いいじゃん?」
そう言って、ミスター・ジョーカーは唇に人差し指を当ててバチーン☆とウインクを飛ばした。
私はマジガルシリーズを最後まで読んだわけじゃないから、この物語のエンディングもミスター・ジョーカーの真実も、知らない。今の彼もきっと、もっといろいろなことを隠し持っているんだろう。
でも……見た目こそはちょっとアレだけど、今の彼は十分格好いい、女児向け児童書のダークヒーローにふさわしい人だと思えた。
「……あ、今先生、僕のことをちょっと格好いいって思った?」
「……まあ、そうね。それは認めます」
「え?」
「そうやって陰から誰かの手助けをする人は、素敵だと思います。……あえて味方を名乗らないのにはあなたなりの主義があるのだろうし、それも優しさの一種なのでしょうからね。そういう、自分がやるべきことややりたいことがはっきりしている人は、格好いいと思いますよ」
事実ではあるので一応肯定すると、なぜかミスター・ジョーカーはそれまでの余裕たっぷりの笑みを消し、そっぽを向いてから咳払いをした。
「……なんだよ。反則だろ、こういうの」
「何がですか?」
「ああ、うん、何でもないよ。それより……そろそろ魔法少女たちが来るし、ちょっと先生には人質のお仕事をしてもらおうかな。そのために攫ったんだし」
振り返ったミスター・ジョーカーは、もう元のような笑顔に戻っていた。
「……私、マクナルティさんたちにあなたのことを言ってしまいますよ?」
「ふふ、できるものなら……してもいいと思うのなら、どうぞ?」
ミスター・ジョーカーは妖艶に笑うと、ベッドに座っていた私に近づくとひょいっと持ち上げた。……えっ?
「きゃっ!? ちょ、ちょっと、下ろして!」
「それは無理だね。……リッジウェイ先生って、結構可愛い顔をしているよね。眼鏡、外してみてもいい?」
「殴りますよ!」
「あー、それは勘弁だなぁ」
軽口を叩きながらも、ミスター・ジョーカーは私がじたばた暴れても涼しい顔で部屋を出た。こいつ……見た目はスマートなのに、結構筋肉があるな!
「じゃ、先生にお願い。……魔法少女たちが任務を果たすために、協力してね。といっても先生には別室にいてもらうだけで、アリエルたちに助けてもらっても『今目が覚めたばかりなの』って言えばいいからね」
「……」
「……ね? 魔法少女たちのため、この世界のためだよ?」
そう言われると逆らうことはできない。
うなずきの代わりにじろっとにらんでやったけれど、「怖い顔をしても先生は可愛いねぇ」と言われただけなので、諦めた。
「……なんであなたは、おしゃべりになったり秘密主義になったりするのですか」
ミスター・ジョーカーに抱えられて移動しながらそう尋ねると、ふふ、と頭上で笑う声がした。
「……どうしてだろうね」
「自分でも分からないのですか?」
「うん。こうした方が結果としていいことになりそうだと思ったのもあるけど……多分、あなたになら言ってもいい、言いたい、って思っちゃったからなんだろうね」
そう言うときのミスター・ジョーカーは、少しだけ寂しそうな眼差しをしていた。
その後、私は家具が何もない部屋に寝かされた。
しばらくするとけたたましい音を立ててドアが開き、「先生!」とアリエルたちが部屋に飛び込んできた。私に会うためだからか、髪の色や衣装が元に戻っている。
「アシュリー先生、大丈夫だった!?」
「怪我はありませんか!?」
アリエルたち四人の魔法少女に尋ねられ心配そうに見つめられ抱きつかれたため、私は――ミスター・ジョーカーの言葉を思い出し、困惑の顔を作った。
「ええ、大丈夫ですよ。……でも、ここはどこかしら? 私、ずっと寝ていたみたいでついさっき目を覚まして……」
……もしここで彼女らにミスター・ジョーカーの真意を伝えたら、どうなるだろうか。何か、未来は変わるだろうか。
でも、それを言うにはリスクが大きすぎる。それに……ミスター・ジョーカーもきっと、彼の本意を伝えることは望まないだろう、なんてことを考えてしまうのは……私も結局、彼にほだされてしまったからなのかもしれない。
無事に私は救出されて、家に帰ることができた。幸い誘拐されてからあまり時間が経っていなかったので、捜索願いなどが出されることもなくてよかった。
……なんだかいろいろあったけれど、ミスター・ジョーカーはこれからもアリエルたちと戦い、悪役を演じながら彼女らの使命に協力するんだろう。
大きな秘密を知ることになった私だけれど、これも世のためになるのなら……まずは皆の活躍を陰から見守っていきたい。
……そんなのんきなことを考えていたのだけれど。
「はい、皆注目! 彼が今日から実習生として本校で勤務する、ジョン・クーパー君だ」
「初めまして。ウェリンズ学院一年生の、ジョン・クーパーです。よろしくお願いします」
そう言って、校長先生の隣に立ってにこやかに笑う青年。
本校ではたびたび学院の学生を実習生として臨時雇用しており、ジョン・クーパーはウェリンズ学院でもきっての秀才で教職を志望しているため、アルバイトのような立ち位置で雇うことになったのだ……と説明している。
ジョン・クーパーは、少しもさっとした黒髪に同色の色の目を持つ青年だった。最初は瓶底眼鏡を装着して登場したので分からなかったけれど、挨拶の際に眼鏡を外した姿はなかなかの美形だった。
「それじゃあ、クーパー先生の指導は予定通り、リッジウェイ先生にお願いするな」
「かしこまりました」
今回の実習生の指導担当が私になることは事前に相談されていたけれど……ここまでのイケメンだとは思わなかった。周りの女性同僚たちが「うらやましー」とぼやいている。
ジョン・クーパーを連れて指導室に向かい、改めて挨拶をする。
「改めて。初めまして、クーパー先生。指導係のアシュリー・リッジウェイです」
「うん、久しぶり、リッジウェイ先生」
彼は、やけになれなれしく挨拶を返した……あ、あれ? さっきの挨拶のときと、声が違う……?
しかもこの声、この話し方は……!?
思わずぎょっとした私を見て、再び眼鏡を外したジョン・クーパーがにやりと笑った。
「はは、僕の顔忘れちゃった? あ、そっか、今は変装しているんだっけ」
「……あ、あなたまさか、ミス――」
「だめだめ、ここでの僕はただの実習生のジョン・クーパーだからね?」
とっさに口元を手で覆われたため、彼の名を呼ぶことはできなかった。
私を壁際に追い詰めて口を塞いだジョン――もといミスター・ジョーカーは、目を細めて嬉しそうに笑った。
「なんでここに!? って顔をしているね」
「……まさか、マクナルティさんたちを監視するため……!?」
口を塞ぐ手を剥がして問うけれど、ミスター・ジョーカーは薄く微笑んだ。
「わざわざそんなことする必要はないよ。強いて言うなら……そうだね。仕事ではなくて、本心から手に入れたいと思う宝石を手中に収めるため、かな?」
「……」
「アシュリー・リッジウェイ先生。あなたという宝石を近くで見つめ、振り向かせ、手に入れるために……これからどーぞ、よろしくお願いしますね?」
ミスター・ジョーカーはそう言って微笑み、バチーン☆とウインクを飛ばした。彼の目尻から飛び出た星が、私のこめかみに当たった。痛い。
かくして私、アシュリー・リッジウェイは児童書に登場するダークヒーローに懐かれてしまい、主人公たちを教えながら悪役の指導もするという謎の環境に放り込まれた。
なお、彼の変装自体は完璧なのでアリエルたちは誰もジョン・クーパーの正体に気づかないし、本当に教職に関心があり才能もあるようで授業補助なども完璧にこなす、人気者の実習生になった。
マジガルシリーズのエンディングがどうなるのか、そして年下のダークヒーローにぐいぐい迫られる私がどうなるのか……まだちっとも分からないけれど、なんだかんだ言ってハッピーエンドになると、私は信じている。
☆登場人物紹介☆
アリエル
ルーハイネス初等学校 6年生の 女の子。
じつは 『宝石探偵団』の メンバーで 悪い人から ふしぎな宝石を 守るために 戦っている。
好きな食べ物……カルボナーラ
ミスター・ジョーカー
アリエルたちの 前に あらわれる ナゾの男性。 宝石を ねらっている。
じつは いいところの おぼっちゃんという ウワサも……?
好きな食べ物……いちごのショートケーキ
アシュリー先生
ルーハイネス初等学校 6年A組の 先生で アリエルたちの 担任。
いつも 笑顔で とってもやさしい。
好きな食べ物……たこわさ