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2話 おしゃれ

 あわよくば昨日のお姉さんとお話できるかもしれないと思い、昨日と同じ場所で水平線を眺めながら黄昏ていると、心地よい声音が耳をくすぐった。


「あれ? 今日は魚釣りしないの?」


「……コスパよくないので」


「ごめんごめん、あれは冗談だから。でも、それならどうして今日もこの場所に来たの?」


「なんとなくです。お姉さんこそどうしてここに?」


「私はいつも帰り道にここを通るから。君、えらくシワッシワなシャツを着ているけど、まさかそんな恰好で学校に行ってないよね?」


「む、失礼な。この格好で行ってきましたよ」


「嘘でしょ? 君、羞恥心とかないの?」


「ほっといてください。お姉さんのTシャツだってブカブカじゃないですか」


「これはオシャレ! 今はこーゆーオーバーサイズがカワイイとされる時代なの!」


「はっ。そんな年によってコロコロ変わる謎の価値観に合わせて服を買っていたらお金がいくらあっても足りません。いつの時代でも合う無難な服を大事に大事にすり減るまで着続けるのが僕のポリシーです」


「うん。君の服は小汚くて見苦しいけどね」


「ぐふっ。しかし、流行に合わせて服を買って、流行りが過ぎたら服を捨ててなんて資源を無駄遣いしている気がします」


「それは確かに言えてるかも。ファストファッションとかいうやつね。大量生産で安いから、手軽に買えて手軽に捨てられちゃう。どうしてこんなことが起きちゃうんだろう?」


「きっとこれはファッション業界の陰謀に違いありません。僕たちにお安く服を提供しているように見せて、粗悪品を売りつけて少しずつ少しずつ僕たちから一生お金を搾り取るつもりなのでしょう」


「ええ? 考えすぎだって。きっとお客さんのことを考えて安い服を生産してくれているんだよ。今は不景気なんだし。それに、最近は結構クオリティ高い服多いよ?」


「まあ、お買い求めやすさはそうかもしれません。質も高くてコストパフォーマンスも最高です。しかし! 流行の存在は納得できません! 流行が変わって新しい服を買って得をするのは誰ですか? 服屋さんしかいないでしょう!」


「うーん。確かにファッション業界が儲かるのは間違いないけれど、お客さんに買うことを強制してるわけじゃないし…。お客さんも新しいオシャレを楽しみたいんじゃないかな? そうだったらウィンウィンの関係じゃない?」


「甘いです! おしゃれを楽しみたいから流行ができるのではなく。流行ができるからおしゃれを楽しまざるを得ないのです。やはりファストファッションの陰謀です!」


「でも、おしゃれするような人はあまりファストファッションでは買わないんじゃないかな? ファストファッションは大衆向けの服ばっかりな気がする」


「馬鹿にしないでください! 最近のファストファッション店はいち早く流行を取り入れて、むしろ流行を作っていく勢いです。このまま野放しにしていてはファッション業界は奴らに征服されてしまいます」


「ん? 君、さっきから否定しているようでファストファッションの肩を持っていない? ステマじゃないよね?」


「な、な、なんですと。そんなわけござるまい」


「口調もおかしいし。ちなみに今着てる服はどこで買ったの?」


「全身ユニクロです」


「ちょっと」

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