畑仕事
三題噺もどき―よんじゅうはち。
お題:野菜・コート・吸血鬼
太陽が、燦々と地上を照らしている夏。
それは、森の奥にある、大きな屋敷にも無事に届いていた。
その屋敷の裏庭で、一つの黒いモノが動いていた。
「ふむ。素晴らしいデキだ!」
トマトやキュウリ、トウモロコシなどの夏野菜が、太陽の光を一心に受けている。
水撒きをしたのか、キラキラと光っていた。
その野菜達を嬉しそうに眺めている、ソレは、夏の日差しに似合わない真っ黒なコートを纏い、畑には不向きなブーツを履き、野菜に愛情を注いでいた。
そんな真黒な状態で、よくこの日の光に居られると、誰もが感心しそうなほど、ソレは黒かった。
「何やってるんですか……」
そんな彼に、屋敷の中から声が掛けられた。
―屋敷に多く存在している、影の中から声がした。
「ん?何って、見ての通りさ!」
その影に向かって、振り向く。
まるで、太陽のような、明るい笑顔。
しかし、その肌は死人のように、青白い。
「アンタ、太陽とかダメでしょ。」
うんざりと、心の底からうんざりと、その声はソレに告げる。
「いや、俺くらいになると、太陽など敵ではないのさ!」
死人のよう、とは言ったが、汗はかいているし、その頬は若干赤らんでいる。
「とか言って、肌焼けていつも痛がってるくせに。」
はぁ、とため息をつきながら現れたのは、カラスほどの大きさの、それでいて一層黒いように見える―蝙蝠だった。
屋敷から声を掛けてきた彼は、主人に仕えている。
その主人は、今目の前で畑仕事に、勤しんでいる―吸血鬼である。
「君もこちらへ来たまえ!」
そんな蝙蝠の気持ちはお構いなしに、キラキラと、農作業を楽しんでいた。
「いや、俺普通に太陽とか無理なんで。普通に死ぬんで。」
影の中から気だるそうに答える。
「しかし、そろそろ収穫をしたいのだが……」
だから人手が欲しいということなのだろうが、そんなこと知ったことではないと、蝙蝠は主人の申し出を無視して。
「だったらさっさと収穫してください。それで、昼メシ作ってあげますから。」
そういいながら、彼は屋敷内にあるキッチンへと向かう。
「本当か!」
吸血鬼は、嬉嬉として野菜を収穫し始め、蝙蝠は溜息をつきながらも、頭の中でそのほかの必要な材料を検討していた。
太陽が彼らの真上に昇ろうとしていた。