オオカミ少女の赤面・涙目・困り顔!
「ねぇねぇ、赤須くん!」
「なんだい、大神さん?」
「明日、地球に隕石が降ってくるんだって!」
「…………」
ここは、とある小学校の6年1組の教室。
まだ先生も他の生徒も来ていない、朝早い時間帯。
この時間、この場所で、一人の少年と、一人の少女が雑談を交わすのは、もはや日課となっている。
しかし、今日の話題は、どうやら一筋縄ではいかないようだ。
「ねぇねぇ、聞いてる?」
「あー、うん。聞いてる聞いてる」
「じゃあ、もっと、こう、なんかあるでしょ!」
「うわぁー、大変だぁー、助けて神さまぁー」
「めっちゃ棒読み! だが、しかし! 私は大神! つまり大きな神さま! 助けを求める人を見捨てはしないよっ! 私が迷える赤須くんを救ってしんぜよう!」
「いえ、結構です」
「即答!? なんでさっ、赤須くんは世界が滅んでも構わないの?」
「だって、どうせ、また嘘でしょ?」
「う、嘘じゃないもん!」
「えー、だって大神さん。嘘つくと耳が真っ赤になるし」
「えっ、ほ、ほんとに!?」
「嘘だけど」
「嘘じゃん! 赤須くんの方が嘘つきじゃん!」
「まぁまぁ。それで、あした隕石が降ってくるの?」
「そう! 新聞に書いてあった!」
「へぇー、新聞にねぇ。ちなみに大神さんの家は、どこの新聞を取ってるの?」
「えっ? えーっと、たしか毎朝新聞だったと思う」
「ふーん、実はウチも毎朝新聞なんだよね」
「おっ! やったね、おそろいだよ!」
「でも、隕石のことなんか書いて無かったけどなぁ」
「ぎくっ!?」
「おかしいなぁ、同じ新聞を読んでるはずなのになぁ、不思議だなぁ」
「うぅ……」
ジト目になった赤須くんの遠回しな追及に、冷や汗を流す大神さん。
しかし、大神さんが次第に涙目になり、プルプルしてきたところで、赤須くんは、フッと、表情を緩めた。
「嘘。ウチ、新聞は取ってないんだ」
「また嘘ついたぁぁぁ! イケナイんだよ! 嘘つきは泥棒の始まりなんだよっ」
「うん。だって、僕、泥棒だし」
「えっ!? ……ど、どうせ、また嘘でしょ?」
「いいや、これは本当。僕は、大神さんの大切なものを盗んじゃったんだ」
赤須くんの罪の告白に、何を察したのか、顔が真っ赤になる大神さん。
「そ、それって、もしかして私の……こ、ここ……」
そして、胸の辺りを押さえて、乙女の表情を見せる大神さんに、赤須くんは笑顔で言い放つ!
「そう、大神さんが昨日、最後の楽しみに取っておいた給食の豆乳を!」
「どうでもいいよぉぉぉ!? っていうか、あれは苦手だから手をつけずに残してたんだよ! いつの間にか消えたと思ったら、赤須くんが飲んでくれてたの?」
「へぇー、そうだったんだぁー、苦手だから残してたなんて知らなかったなぁー。まぁ、でも、それなら結果オーライってことで、僕はムザイホウメンだね!」
「ムザイホウメンって、なに?」
「いや、僕も良く知らないけど。たぶん悪くないよって意味だと思う」
「自分でも良く知らない言葉を使わないでよ……。っていうか、人のものを取るのはダメでしょ!」
「でも、大神さんも助かったんでしょ?」
「それは、そうだけど……。わ、悪いことは悪いことなので、赤須くんには罰を言い渡します!」
「えー、別にいいけど、軽いのにしてね?」
「うーんと、えーっと……」
「いや、無理に罰を考えなくてもいいよ? 無いなら無いで良いじゃない」
「思い付かないから保留! 赤須くんには、シッコウユウヨを与えます!」
「シッコウユウヨが何かは知らないけど、絶対、大神さんも分かってないよね?」
「うっ……」
「自分でも良く知らない言葉を使っちゃダメなんじゃなかったっけ?」
「そ、それより! 話が脱線してるよ! あした隕石が降ってくるけど、赤須くんはどうするの?」
「その話、まだ続くんだ……。そうだなぁ、大神さんは、どうするの? 参考にするから聞かせてよ」
「えっ、私? うーん、そうだなぁ。もし、隕石が降ってくるなら……」
「…………」
あした、隕石が降ってくるから、どうするという話だったのに、いつの間にか仮定の話になっていて、完全に嘘だとバレバレだ。
しかし、赤須くんは気付かないフリを続けた。
たぶん、その方が面白いと思ったのだろう。
「お父さんと、お母さんに会いたいなぁ。いつも、仕事で忙しいから、ゆっくり話せないんだ。でも、隕石が降ってくるなら、きっと仕事も無くなるから、早く帰ってきてくれるよね?」
「そうだね。それで、二人と何を話したいの?」
「お父さんも、お母さんも、大好きだよっ! って、言いたい。会えなくて寂しい時もあるけど、いつも優しくしてくれて、育ててくれて、ありがとうって。普段は恥ずかしくて言えないけど、最後なら勇気を出せるかも」
「……そっか。大神さんは本当に良い子だよね」
赤須くんが穏やかに大神さんを見つめ、大神さんは、そんな赤須くんの視線を遮るように、パタパタと手を振って慌て始める。
「な、なにさ急に! 褒めても何もでないよ!?」
「普段は恥ずかしくて言えないことが、僕にもあるんだ。けど最後なら、勇気を出せそうだから、言ってもいいよね」
「ほ、ほんとに何、急に!?」
テンパる大神さんとの距離を、赤須くんは一歩だけ詰める。
そして、普段は見せない真剣な表情で、さらに一歩、近づいた。
「大神さん……僕は今まで、ずっと……」
「そ、そんな……。急に言われても……」
困ったような、戸惑ったような顔を見せつつも、満更ではない様子の大神さん。
赤須くんは、そんな大神さんに、またしても笑顔で言い放つ!
「大神さんが、お転婆な動きをして、パンツが見えても黙ってたんだ。……本当に、ごめん」
「…………ん? えっ……。えぇぇぇ!?」
「ふぅー! いやぁ、ずっと胸に抱えてたものを吐き出すと、すっきりするね!」
「こっちが、すっきりしないよ!? え、なに、私って、ちょこちょこパンツ丸出しだったの!?」
「丸出しって程じゃないよ。チラッと見えるくらい。普段から大神さんに注目してないと分からないほど、些細な光景だから、他の人に見られてる心配はないと思う」
「赤須くんに見られてる時点でアウトだよぉ!」
穴があったら入りたいとはこの事か。
大神さんは自分の机に突っ伏して、うーうーと、唸ってしまう。
「……ところで、大神さん、オオカミ少年の話を知ってる?」
そんな大神さんの姿が、さすがに可哀想だと思ったのか、赤須くんは気分を紛らわすように話題を変えた。
「……うん、『オオカミが出たー!』って、嘘を吐いて誰からも信じてもらえなくなる男の子の話だよね?」
大神さんも、さっさと黒歴史を忘れたかったのか、赤須くんの話に素直に乗っかる。
「そう、嘘を吐き続けた人は、人から信じてもらえなくなる。だから、大神さんも他の人に吐く嘘は、ほどほどにね」
「……そうだよね。……ん? 他の人?」
「うん、僕は大神さんに、どんなに嘘を吐かれても、ちゃんと信じてるから。安心して嘘を吐いて良いよ。それに、その方が僕も楽しいし」
「大神くん……」
先程までの暗いテンションはどこへやら。
二人の間には色っぽい空気が漂い始め、赤須くんを見つめる大神さんの頬が少しずつ朱に染まっていく。
そして、高鳴る鼓動を抑えるように、胸の辺りに手を当てる大神さん。
しかし、突然、何かに気付いたようにハッとして、漂っていた空気は霧散してしまう。
「そういえば、私が隕石が降ってくるって言ったとき、普通に嘘だって言ってたじゃん! 信じてるんじゃないの!?」
「あっ、バレた?」
「もー! 赤須くん!」
先程とは別の理由で顔を赤くしている様子の大神さんが、赤須くんに詰め寄るが、そこで時間切れとなってしまう、
ガラリ! と勢い良く教室のドアが開いて、他の生徒たちが入って来たのだ。
「おはようー。あれっ、大神さん、どうかしたの?」
「えっ!? な、なんでもないよ! おはよー!」
毎朝、赤須くんと雑談している大神さんだが、その様子を他の人に見られるのは恥ずかしいらしく、二人の交流は他の生徒が来た時点で終わってしまう。
そして、授業が終わると、赤須くんは家の都合で、すぐに帰ってしまうため、二人が話すのは誰もいない朝の時間帯に限られているのだ。
こうして、二人の密かな交流は、今日も大神さんの不完全燃焼で幕を閉じたのだった。
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