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子に語る怖い話

【子語り怪談】足屋

作者: 烏屋マイニ
掲載日:2020/12/01

子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。

 それは学校帰りのこと。

「あし〜、足屋~、いい足あるぞ〜」

 健太は、そんな声を耳にします。

 声がする方を見れば、電柱の脇に、折りたたみ椅子を置いて座る、麦わら帽子のおじさんがいました。おじさんの前には、大きな段ボール箱が一つ、置いてあります。

「あし〜、強い足。サッカーやるならオススメだ」

 健太もサッカーは好きですが、もっぱら見る方です。

「あし〜、疲れない足。マラソン大会も楽勝だ」

 マラソンは嫌い。と言うわけで、健太はおじさんの前を通り過ぎようとします。

「あし〜、速い足。かけっこしたなら、無敵さね」

 健太は足を止めます。

 運動会まで、もう十日もありません。今年こそは徒競走で一着になりたいし、なにより学級対抗リレーの選手に選ばれたい。リレーの選手は、体育の時間にやる練習で、一着から四着までの子供がなれます。でも、健太はいつも五番目。

「速い足って?」

 健太がたずねると、麦わらのおじさんはニヤっと笑って、段ボール箱のフタを開け、中から足を一本取り出しました。

「これさ」

 おじさんに足首を掴まれた足は、釣り上げられた魚みたいに、くねくねと暴れています。

「ちょいと元気すぎるけど、毎日へとへとになるまで走っておけば大人しくしてくれるから、まあ問題はない。ああ、最初に言っておくけど、返品はきかないからね。どうだい?」

 健太は気味悪くなり、「やっぱりいいです」と言って立ち去ろうとします。

「もったいない。なかなか手に入らないいい足なんだよ?」

「そんなの、どうやって取って来るの?」

「そりゃあ、交換するのさ。だって、足が三本も四本もあったら困るだろ。だから、おじさんが持ってる足と、足を欲しい人がもともと持っている足を、取り換えるって寸法さ。まあ、他にも色々と、仕入れる方法あるけどね」

「でも、例えば僕が、その速い足と僕の遅い足を交換したら、おじさんは損にならない?」

 するとおじさん、「わはは」と笑って言います。

「バカにしちゃいけないよ。なんと言っても、おじさんは足のプロなんだ。取り換えた足のいいところを見つけて、もっといい足と交換できるようにする。それだけのことださ」

「僕の足にも、いいところがある?」

 気になって、健太はたずねました。

「そりゃあ、見てみないとなんとも言えないね。とりあえず、こっちに座って靴と靴下を脱いでみな」

 おじさんは立ち上がると、自分が座っていた椅子に健太を座らせます。健太は言われた通り、靴と靴下を脱いで、おじさんに足を見せました。すると――

「ほおら、思った通りだ。坊主の足は、練習好きの足だね。練習次第で、どんな足より速くなる」

 それを聞いた健太は靴下と靴を履き、ちょっと考えてから、「やっぱり、いらない」

「ええっ」

 おじさんは、ひどくがっかりして言います。

「だって、練習をがんばったら、その足より速くなるかも知れないってことだもの」

 健太が言うと、おじさんは自分のおでこをぴしゃりと叩きました。

「こいつは、しまった。まったく、余計なことを言うもんじゃないね」

「ごめんなさい」

「いやいや、いいってことよ。けど、もし練習がイヤで、手っ取り早く速く走れるようになりたくなったら、また来ておくれ。まあ、その時まで、この足が売れ残っていればだけど」

 でも、次の日には、もう足屋のおじさんはいなくなっていました。

 健太は、足屋のおじさんに会った日から、毎日学校から帰るなり、走る練習を続けました。そのおかげか、なんとかクラスで二番目に速くなりましたが、どうしても一番にはなれません。

 今、クラスで一番足が速いのは、和也と言う男子。健太も、ちょっとずつ速くなっているのはわかるのですが、その差はなかなか埋まらない。運動会までに、和也に追いつくのは到底、無理そうです。

 健太は、もう練習するだけムダじゃないかと思い始めましたが、それで五番目に戻るのもイヤなので、練習を続けました。

 そして、運動会まであと三日と言う日。和也は学校を休みました。朝の学活で、先生は和也が入院したことを告げます。クラスの子供たちは、理由を聞きますが、先生は何も教えてくれませんでした。

 運動会の日。健太は徒競走で一着になりました。クラス対抗リレーは二着でしたが、それでも一着のクラスとは、本当に鼻の差くらいしかありませんでした。

 運動会が終わり、それから何日かが過ぎました。和也の席は、相変わらず空っぽです。でも、和也と仲の良かった男子が話しているのを、健太は耳にします。

「和也、自分で自分の足を切ろうとしたらしい」

 話を聞いていた他の子供たちが、一斉に「ええっ?」「なんで?」と声を上げます。

「なんか、足が勝手に動いて止まらなくなったそうなんだ。それで、これは俺の足じゃないって叫んで、カッターナイフで切ろうとしたって聞いた」

「誰から?」

「うちの母ちゃん」

 なんとも怪しげな話です。一体、和也の身に何があったのでしょうか?

 しかし、健太には心当たりがあります。もし和也が、あの足屋で自分の足と速い足を交換したのだとしたら。足屋のおじさんは、あの足を「元気すぎる」と言っていました。おそらく和也は、毎日へとへとになるまで走らなかったのでしょう。そのせいで、元気があまった足が勝手に動き出してしまったのです。

 そして、もう一つ。あのおじさんは、返品できないと言っていました。それは、交換した足も返してもらえないと言うことです。

 自分の足を返してもらえないのに、もらった足を切り落としてしまったら、その足はどうなるのでしょう?

 いえ、健太はとっくに答えを知っています。

 足屋のおじさんは、こう言っていたではありませんか。

「まあ、他にも色々と、仕入れる方法あるけどね」

 つまりは、そう言うことなのです。

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