【子語り怪談】足屋
子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。
それは学校帰りのこと。
「あし〜、足屋~、いい足あるぞ〜」
健太は、そんな声を耳にします。
声がする方を見れば、電柱の脇に、折りたたみ椅子を置いて座る、麦わら帽子のおじさんがいました。おじさんの前には、大きな段ボール箱が一つ、置いてあります。
「あし〜、強い足。サッカーやるならオススメだ」
健太もサッカーは好きですが、もっぱら見る方です。
「あし〜、疲れない足。マラソン大会も楽勝だ」
マラソンは嫌い。と言うわけで、健太はおじさんの前を通り過ぎようとします。
「あし〜、速い足。かけっこしたなら、無敵さね」
健太は足を止めます。
運動会まで、もう十日もありません。今年こそは徒競走で一着になりたいし、なにより学級対抗リレーの選手に選ばれたい。リレーの選手は、体育の時間にやる練習で、一着から四着までの子供がなれます。でも、健太はいつも五番目。
「速い足って?」
健太がたずねると、麦わらのおじさんはニヤっと笑って、段ボール箱のフタを開け、中から足を一本取り出しました。
「これさ」
おじさんに足首を掴まれた足は、釣り上げられた魚みたいに、くねくねと暴れています。
「ちょいと元気すぎるけど、毎日へとへとになるまで走っておけば大人しくしてくれるから、まあ問題はない。ああ、最初に言っておくけど、返品はきかないからね。どうだい?」
健太は気味悪くなり、「やっぱりいいです」と言って立ち去ろうとします。
「もったいない。なかなか手に入らないいい足なんだよ?」
「そんなの、どうやって取って来るの?」
「そりゃあ、交換するのさ。だって、足が三本も四本もあったら困るだろ。だから、おじさんが持ってる足と、足を欲しい人がもともと持っている足を、取り換えるって寸法さ。まあ、他にも色々と、仕入れる方法あるけどね」
「でも、例えば僕が、その速い足と僕の遅い足を交換したら、おじさんは損にならない?」
するとおじさん、「わはは」と笑って言います。
「バカにしちゃいけないよ。なんと言っても、おじさんは足のプロなんだ。取り換えた足のいいところを見つけて、もっといい足と交換できるようにする。それだけのことださ」
「僕の足にも、いいところがある?」
気になって、健太はたずねました。
「そりゃあ、見てみないとなんとも言えないね。とりあえず、こっちに座って靴と靴下を脱いでみな」
おじさんは立ち上がると、自分が座っていた椅子に健太を座らせます。健太は言われた通り、靴と靴下を脱いで、おじさんに足を見せました。すると――
「ほおら、思った通りだ。坊主の足は、練習好きの足だね。練習次第で、どんな足より速くなる」
それを聞いた健太は靴下と靴を履き、ちょっと考えてから、「やっぱり、いらない」
「ええっ」
おじさんは、ひどくがっかりして言います。
「だって、練習をがんばったら、その足より速くなるかも知れないってことだもの」
健太が言うと、おじさんは自分のおでこをぴしゃりと叩きました。
「こいつは、しまった。まったく、余計なことを言うもんじゃないね」
「ごめんなさい」
「いやいや、いいってことよ。けど、もし練習がイヤで、手っ取り早く速く走れるようになりたくなったら、また来ておくれ。まあ、その時まで、この足が売れ残っていればだけど」
でも、次の日には、もう足屋のおじさんはいなくなっていました。
健太は、足屋のおじさんに会った日から、毎日学校から帰るなり、走る練習を続けました。そのおかげか、なんとかクラスで二番目に速くなりましたが、どうしても一番にはなれません。
今、クラスで一番足が速いのは、和也と言う男子。健太も、ちょっとずつ速くなっているのはわかるのですが、その差はなかなか埋まらない。運動会までに、和也に追いつくのは到底、無理そうです。
健太は、もう練習するだけムダじゃないかと思い始めましたが、それで五番目に戻るのもイヤなので、練習を続けました。
そして、運動会まであと三日と言う日。和也は学校を休みました。朝の学活で、先生は和也が入院したことを告げます。クラスの子供たちは、理由を聞きますが、先生は何も教えてくれませんでした。
運動会の日。健太は徒競走で一着になりました。クラス対抗リレーは二着でしたが、それでも一着のクラスとは、本当に鼻の差くらいしかありませんでした。
運動会が終わり、それから何日かが過ぎました。和也の席は、相変わらず空っぽです。でも、和也と仲の良かった男子が話しているのを、健太は耳にします。
「和也、自分で自分の足を切ろうとしたらしい」
話を聞いていた他の子供たちが、一斉に「ええっ?」「なんで?」と声を上げます。
「なんか、足が勝手に動いて止まらなくなったそうなんだ。それで、これは俺の足じゃないって叫んで、カッターナイフで切ろうとしたって聞いた」
「誰から?」
「うちの母ちゃん」
なんとも怪しげな話です。一体、和也の身に何があったのでしょうか?
しかし、健太には心当たりがあります。もし和也が、あの足屋で自分の足と速い足を交換したのだとしたら。足屋のおじさんは、あの足を「元気すぎる」と言っていました。おそらく和也は、毎日へとへとになるまで走らなかったのでしょう。そのせいで、元気があまった足が勝手に動き出してしまったのです。
そして、もう一つ。あのおじさんは、返品できないと言っていました。それは、交換した足も返してもらえないと言うことです。
自分の足を返してもらえないのに、もらった足を切り落としてしまったら、その足はどうなるのでしょう?
いえ、健太はとっくに答えを知っています。
足屋のおじさんは、こう言っていたではありませんか。
「まあ、他にも色々と、仕入れる方法あるけどね」
つまりは、そう言うことなのです。




