表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/89

神々の会議

 全員が黒いふかふかの大きなラグの上に車座になる。

 私はシェードの膝の上のままだけど。下ろす気は全く無いようだ。筋肉質な腕でガッチリ拘束されている。


 赤い熊さんが力の神なのは知っているけど、他の神々も何の神として教会に祀られているか自己紹介してくれた。

 元俺様魔王キャラが勉学の神。

 元お色気オネエキャラが快楽の神。

 元小悪魔美少年キャラが美の神。

 水晶国にも仙境にも果樹花王国にも教会は無いのに、祀られているのは元魔人族と元獣人族と元妖精人族。

 一応、人族の国に入国した獣人族は大抵が力の神の教会に身分証発行に行くとか、魔人族は勉学の神の教会か快楽の神の教会に身分証発行に行くとかの傾向はあるらしいけど。


 一通り紹介が終わったところで、誕生システムの内側で私が見聞きした内容を話す。

 全員顔色が悪い。嫌悪と吐き気によるものだろう。誰の顔にも怯えの表情は浮かんでいない。


 休ませてもらって回復した頭で考察する。

 私が見た画像では、ファンタジー要素の為に創った魔物以外、最初から創られていた動植物は全て地球にもあったものだ。

 だけど私がワンブックに連れて来られた時には、「こんなの地球にいなかったよね、流石異世界」という生物が存在した。


 例えば、ゼラチンの材料になるやつとか。


 ワンブックが創られてから約一万七千年。

 多分、『世界』が見逃さないように監視していたのはワンブック人だけだ。

 目立つ女が生きていないか、ハイスペックなイケメンに育ちそうな男が生まれてないか。

 動植物は魂も入れていないし放置だったんだろう。


 ワンブックを創った『世界』には生まれつき地球の動植物や建造物の知識があったけど、それらの動植物がどんな気候の場所で生息しているのかや、分布図などの知識は無かった。

 地球より狭い世界で気候は高地以外は同じ。海流も水温も管理されたプールのように一定。

 そんなワンブックに、ごった煮のように生やされた植物と放たれた生物。

 魂は持たないが生殖機能は持たされた生物達は、約一万七千年の間にひっそりと交配を繰り返し、地球には存在しない生物が図鑑に載るほど繁栄するに至った。


 私が見た感じ、『世界』が創った種類よりも、ワンブックオリジナルと言える、地球には存在しない生物の方が生命力が強い気がする。

 繁殖率も高いし、傷も治りやすく病気にもなりにくい。

 そして、自分達が最も暮らしやすい場所に集中的に分布している。生物として自然だ。

 一応、『世界』の目さえ掻い潜れれば、ワンブックでも生命体の進化は有り得たんだ。

 現在、『世界』は死んでいるし、その遺志を強制的に守らせていた装置も全部壊した。

 だったら、もしかしたら。


「ワンブック人も進化出来るかもしれない」


 私の話から似たような考察をしていたのか、沈黙していた他の神々が頷き合っている。

 もう、頭の中に直接指示を出してくる『世界』はいないし、地上に降りてワンブック人を唆し誘導する奴らも消えた。

 進化の邪魔をする存在は、ワンブックにはいない。

 ワンブックには。


「方針が決まったらケリつけような」


 キラキラしい絶世の美貌が脳裏に浮かびかけるが、シェードの大きな手に頬と耳を覆って撫でられキラキラが沈んだ。

 そうだ。

 先に方針を決めなきゃ。


「今、死と誕生の流れってどうなってるの?」


 私が訊ねると、快楽の神が説明した。


「現状把握に向かった神達が、死者の魂を零さぬように回収している筈だ。再度使えるように洗浄までは行っているだろう」

「回収や洗浄は、魂を持つ神々も出来るんだ?」


 その辺の仕事は魂を持たない神々がやってたようだけど。

 次に私の疑問に答えるのは勉学の神。


「神は神眼を持つ。魂を見て触れることが可能だ。故に回収と洗浄は行える。器に魂を送ることも可能だ。ただし、魂にここで保留している力を配分する力を持つ神はいない」


 その辺の権力は『世界』が独占して握ってたわけだ。

 じゃあ、今は死者から魂の回収は出来るけど、誕生する器には力を与えてない弱い魂を送るか、魂を送ることが出来ずに死産になってるかなのか。


 ・・・私のせいで死産か生まれてもすぐ死ぬ弱い赤ん坊が生まれるんだな。


「何暗い顔してんだよ闇月! あんたのせいでもあるまいし」

「え? 私のせいじゃないの?」


 美の神に怒鳴られて目を見開くと、力の神も苦笑して肯定した。


「ただ自分がモテたい、それだけの欲求で全人類の人生を好き勝手に滅茶苦茶にする誕生システムは、壊す力があるなら何が起ころうと壊さなければならなかったんだよ。ワンブック人の為に。その為に犠牲となる人々が居ようとね。それが、ワンブック人を守り導く我々神の務めだろう。それを我々は闇月達にやらせてしまった。力が足りないばかりにね」


 でも、力が足りないのは彼らのせいじゃないよね?

 思ったことが顔に出たのか、美の神が憮然として拳を握る。


「オレらの力が弱いのは確かにあの女がそう創ったからだ。だが、あの女が死んだ後も魂を持たない神々に押さえつけられるのを諦めから甘受してたのはオレらの責任だ。あんたを抱え込んでるそいつを見りゃ分かる。元が規格外の力を持って神になったのを差し引いても、そいつは自ら望んで努力して成長してる。多分、あんたをあの女が遺したものや光の蛇から守る為に」


 シェードを見上げると、無言でこめかみに唇を落とされた。

 次いで、影の膜で覆われる。なんで?


「引く程の独占欲だな。力の神よ、神獣とは番の頬が赤くなる程度の変化も人目に触れさせたくないものなのか?」

「まぁね。気持ちは私も分かるかな。番にしてみようかとボンヤリ考えてるだけの相手を害されても狂うくらいだから、想い合った番なら他の奴が視線を寄越しただけで相手の目玉を抉り出して踏み潰したくなるね」

「神獣やべぇ・・・」

「なるほど。神獣に比べると、目の届く場所に監禁拘束して毒で私しか見えないように視界を奪い、神になる前に喉笛を噛み千切って他の男のモノにならぬようにした私はマトモだったのだな」

「マトモじゃねぇよ。毒蜘蛛やべぇ・・・」


 口元はよく見えないけど、美の神と勉学の神がドン引きみたいな表情になってる。

 見上げると、苦笑したシェードが一瞬掌で私の目を覆い、それを外した時には影の膜が消えていた。

 神様達、顔色が悪いけどどうしたの?

 なんか、怯えてない?


「とにかく、現在の死と誕生の流れで何が起きても闇月が責任感じる必要は無いってこと。けど、このままにしておくことは出来ないからな。オレらから闇月に提案てーか、お願いがある」


 気を取り直したように美の神が膝を叩いて身を乗り出す。


「お願い?」

「ああ。あんたに『死と誕生の神』になって欲しい」


 神?

 私が?

 え? 可能なの?

 というか、どうやってなるの?

 なったら何が出来るの?


 疑問符が飛び交っているだろう私の頭の中が見えているシェードが、落ち着かせるように私の首を撫で下ろしながら目を合わせて言った。


「俺もお前が適任だと思うぞ。お前は内包する力がこいつらより高く、俺のように二つの事象を司ることが可能だ。それに、お前なら妙な欲望で異常能力者を生み出すこともねぇ」


 それは。

 しないだろうな。

 力に振り回されて自滅するのも、過ぎた力で生きづらくなるのも、たくさん見てきたし経験もした。

 それが必要な状況や時代はあるかもしれないが、少なくとも、力を魂に配分することが出来るからと言って、退屈しのぎや個人的欲望で増減することはしない。

 物凄く寝覚めが悪そうだし。


「お前、酷い目に遭って来た割に健全だよな」


 微妙な顔で言うシェードは、すぐに表情を戻して続ける。


「魂を持たない神々を近くで神眼で見て分かったんだが、『世界』の死後にその理念を全うする為に奴らが使ったのは悪霊憑きだった」


 あ・・・そうか。

 誕生システムの中でも聞こえた。キチ○イって便利とか言ってたやつ。

 ・・・本当に、吐き気がする下種だ。


「目立つ女の排除にも、女が幸せに暮らせるような平和な世界を維持させない為にも、美少年や美青年の収集にも、悪霊憑きそのものを扇動したり、その存在を匂わすことで人々を思う方向へ誘導したり、便利だったんだよ。だから誕生システムでは常に一定量の悪霊憑きになる運命持ちが生み出されるようになっていた」


 シェードの目線が、元妖精人族の美の神に移り、定まった。


「一定量の悪霊憑きが発生しても妖精人族の浄化能力で『ただのワンブック人』になっちまう。『世界』が生きていた頃から悪霊憑きは便利だから利用するように命じられていた魂を持たない神々は、悪霊憑きが減少すれば任務遂行に支障が出るだろうと、浄化能力を持つ妖精人族を種族ごと排除することにした」


「は・・・?」


 あらゆる表情が抜け落ち、乾燥した声を吐き出す美の神。


「約一万年生きた翼人族の白霜という男は、魂を持たない神々に長期に渡る唆しを受け洗脳状態になり、同族の女に迫り拒絶され、その女を惨殺して童貞のまま処刑された。『世界』の誕生システムでは次に生まれる時に生涯童貞の年数に比例したチート能力が魂に与えられる。妖精人族を種族丸ごと呪い殺した人族の王子の異常能力者は、元白霜の魂が入っていた。王子を唆したのは魂を持たない神だ。ずっと『世界』に従っていた奴らには簡単だった。王子の望みは、同性にも異性にも己の美を褒め讃えられてチヤホヤとモテることだったからな」


 あぁ、ナルシスト王子の思考回路は、『世界』の寵愛を受けた魂を持って生まれて、『世界』そっくりになっていたのか。


「奴らは主そっくりの考え方の王子に一度囁いただけだ。『貴方が賞賛されないのは貴方のせいではない。その種族に生まれただけでワンブックで最も美しいと評価される、妖精人族というズルい種族が存在するせいです』とな」


 美の神だけではなく、他の神々も表情の抜けた顔で乾いた沈黙を落としている。


「強力な呪いにより一晩で妖精人族は絶滅した。奴らは悪霊憑きを便利に使い、『世界』に与えられた任務を遂行し続けた」


 思えば、『世界』の寵愛を受けた王子の異常能力が『呪い』というのも寵愛の結果なのかもしれないな。

 モテたいという妄執から吐き出された悪意は呪いだ。

 自分以外、誰も幸せにしてなるものかという呪詛だ。

 死後も残り続ける呪い。

 私にそれを解く力はあるだろうか。


「お前なら大丈夫だ」


 シェードの目が再び私を覗き込む。


「魂を持たない神々に死を許したのはお前だ。お前は奴らを苦しめる方法にも気づいていただろ?」


 まぁ、・・・うん。

 時間はかかっても、囚えた奴らに心を生じさせてから、奴らがワンブック人にやったことと同じことをやってやるのが相応しい罰だったかもしれない。

 奴らは自動再生するから、自分達がやったことを全部体験させることが可能だっただろう。

 だけど私は奴らを『終わらせる』ことで、結局は救ってしまった。


「お前が奴らに死を許さなければ俺は実行しなかった」


 だろうね。

 私はシェードに命令できる主であり、お願いを聞いてもらえる恋人だ。


「お前が考えたように、『世界』には創造の力の他に呪いの力がある。奴らの自動再生能力は『世界』が奴らを創造した時に与えた『死ねずの呪い』だ。それを解いたのはお前だ。闇月。お前には『世界』が遺した呪いを解く力がある」


 驚愕に思わず目を見開く。

 他の神々も抜け落ちた表情を戻して驚愕している。


「そんな力があるなら、使いたい。どうすればいい? シェード。私が死と誕生の神になれば何が出来る?」


 肩に縋った私の手に頬を寄せながら、シェードは口元から犬歯を覗かせた。


「お前が死と誕生の神になれば現在の誕生に関わる問題は無くなる」


 とりあえず死産は回避できるのか。


「ああ。それで、お前の裁量次第で異常能力者や不幸になる為に生まれるワンブック人はいなくなる」


 既に死産となったワンブック人は?


「変革に犠牲は付き物だ」


 どうにもならないってことか。

 ならば。


「ぐずぐずしてる暇は無い。私が死と誕生の神になるから方法を教えて」


 シェードの髪を掴んで睨み上げると、暫し変な顔で見下ろされ溜め息を吐かれた。


「いや、俺の思惑通りなんだけどな? 契約前に条件の詳細をきっちり精査しねぇと痛い目見るって光の蛇で学んだろうが。口約束でもその後の人生まるっと変わることもあるんだぞ?」


 相変わらずの保護者っぷりに思わず唇が尖る。


「時間が無いように言ったのはシェードだ」

「そりゃ誘導する為にな? ワンブック人の人口と各人種の出生率を考えろよ。この短時間にそうそう誕生してねぇぞ」

「それでもゼロじゃない。時間が過ぎる程犠牲者が増える」

「慌てるな」


 尖らせた唇を指でつまんで引っ張られた。


「神になるなら裏稼業時代以上に冷酷になれ。神というのは残酷じゃねぇとやってらんねぇ商売なんだ」


 話は理解出来る。

 裏稼業時代の私には心が無かったと思うから、多分冷酷だった。

 心を取り戻して日が浅い今、それ以上に冷酷になり、残酷な存在になる覚悟が必要。

 犠牲者を増やしたくなければ、今すぐ、速やかに。


 そうだ。理解した。

 心が無いから冷酷なのではなく、心を持っているけど公正に残酷になれるのでなければ、生命の鍵を握る死と誕生の神になどなってはいけない。

 その力を得るならば、それを自分の任務だと自らに課すのなら。


「落ち着いた。ありがとう、シェード」


 私が静かに見返すと赤と緑の眼光が和らいだ。


「俺はお前の保護者で相棒でもあるからな」


 そして、和らいだ眼光を鋭く眇めて私を抱えたまま立ち上がる。


「この世界で神となるには神以上の存在からの認定が必要だ。離れていても必ず俺がお前を守る。闇月、光の蛇の所に行って来い」


 どうやって守るのとか、本当に大丈夫なのとか、そんな不安は微塵も無い。

 絶対に言葉を違えず裏切らない私の唯一。

 そう私が思っているから。


「行ってきます」


 望むだけで迎えに来る知った魔力。

 死と誕生の神となり、私は必ずシェードのもとへ戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ