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神々の居場所 1

流血表現があります。苦手な方はご注意ください。

 視認出来る範囲には、白くて長い如何にも神なズルズルの衣を纏った男が四十余体。

 その全員が突如出現した私に対して攻撃態勢で身構えている。

 態勢に相応しい剣呑に歪められた顔面の筋肉。

 それらを瞬時に把握して確信する。


 こいつら全員『掃除係』だな。と。


 夜空の記憶で見た顔も初めて見る顔もある。

 確信した理由は奴らの攻撃態勢なんかじゃない。

 確信した理由は、奴らの眼球だ。

 憎々しげに積極的な殺意を向けて来る「ように見える」表情の中で、どの一体として熱や色を感じる眼球が無い。

 私への燃え滾る憎悪や凍てつく嫌悪という温度も、下等な存在への侮蔑の色も、忠誠を誓う『世界』に心酔する熱狂も、排除する義務が生じた対象への鬱陶しげな情も、見渡す限り、どの眼球にも見当たらない。


 見た目は「人族の目玉」が顔にそれぞれ正しく嵌っているように見える。

 表情は感情があるように顔面が歪んでいる。

 けど、気づいてしまえば奴らは「心」を持っていないことが丸分かりだ。

 いっそ、表情を一切作らせないように「設定」して「創って」おけば気づかなかったかもしれない。任務に忠実なプロは感情など表面には出さないから。自分もそうだったし、この世界で見かけた、生臭坊主を嬲り殺しにしたプロもそうだった。

 そして、プロなら威嚇や心理攻撃目的で表情を作る時には完璧に作れる。本質が違いすぎるから「優しげ」とか「穏やか」なモノは完璧に再現出来ない輩は居ても、負の感情を目の色に載せられないその手のプロは居ない。


 夜空という他人の記憶を介在して見たから把握できなかった違和感を、直接目にすれば得られる。

 水晶国の王宮に居た一体だけじゃない。この数が揃って全員だ。

 これだけの「殺意」は向けられているのに、元の世界でヤバそうな施設に侵入した時に狙われた侵入者撃退システムと、奴らが発するモノは同じだ。

 用心棒とか殺し屋とかヤの字が付くプロとかに狙われた時に感じたモノは、奴らからは感じない。


 本当に、こいつらは「モノ」として創られたんだな。


 わざわざ、表情は作るように「設定」されて。

 まるで「感情」は有るような振る舞いはインプットされて。


 こいつら、『世界』が創った中で一番の道化なんだろうな。


 私はこいつらが『世界』にとって重要じゃないことなんか、もっと早く気づけたはずだ。私はもっと前に、『世界』の願望には気づいていたんだから。


 だって、こいつら、別に美形じゃないから。


 そこそこ整ってはいるけど、創世から自動再生で、壊れてもずっと同じ体で、ワンブック人に埋没しながら「掃除係」の役目をさせる為か、二次元のメインキャラ並の美麗さも個性も持ち合わせていない。

 この程度の顔面の男達は、『世界』にとっては名の有るモブ以下の背景だろう。

 視界の中に並ぶ平凡顔達に、私は『世界』が最も長く使用して来た駒に心を与えなかった理由を悟る。


 下手に心を与えたら、自分とイケメン達のキャッキャウフフを邪魔される可能性があるからだ。


 どれだけ分不相応でも、モブの暴走した恋情がヒロインとヒーローの仲を割く展開が、元の世界の娯楽作品でも数多あった。

 イケメン同士が自分を取り合って傷つけ合うのは大好物な展開でも、地味で平凡顔のモブに纏わりつかれてイケメンとのイチャコラ時間が減るのも、イケメン物色時間が減るのもノーサンキューだったんだろう。


「シェード、『見えた』か?」


 私の背後に立ち私を守る相棒に問う。

 私がわざと垂れ流して「魂を持たない神々」に読ませた思考は、ちゃんと本心だ。


「ああ。思い当たる節があって動揺したお陰で丸っと見えたぜ。感情が無くても動揺はするんだな。有りえねぇ情報を読み取らされた誤作動ってやつかねぇ」


 生前の『世界』の言動に、「思い当たる節」があったんだろうなぁ。

 その思考に大きな影響を及ぼした『世界』の母親が何歳だったのか知らないけど、情けなくて溜め息が出そうだ。

 それとも、光の蛇の犯罪歴に、幼女または女児の性搾取目的誘拐が含まれるんだろうか。


「ぶっ・・・ンンッ、何でもねぇ」


 後ろで吹き出して咳払いで誤魔化したシェードが、私の肩に手を置く。


「お前の思い通りに暴れていいぞ。必要な情報は全部見た。あとは、役目を終えたこいつらを『解放』してやるのがお前の望みだろ? お前に傷は付けさせねぇ。お前が『壊した』こいつらの『再生』は俺が許可しねぇ。今の俺の力なら、それが可能だ」


 そうか。なら、遠慮なく。


「お前らに死を授けてやろう」


 この場に出現して、シェードに欲しい情報を『見て』もらう為にわざと思考を垂れ流し、ここまでの実際の所要時間はニ分。

 すっかり手に馴染んだ私専用の武器と自らの体に、手加減無用で魔力を漲らせる。


「行くぞ」


 誤作動、だろうか。

 シェードが影を縛っているわけでもないのに奴らは動かない。

 創世神話の狂信者っぽい台詞も、傲慢な神々っぽい台詞も、邪魔な異物を排除する掃除係としての通告すら出て来ない。

 そう「設定」されているから作られた顔面の表情めいた歪みだけそのままに、私が糸の刃を振るっても迎撃行動すら起こさない。


 なんだ?

 何が起こった?


 チラとシェードに視線をやれば、厳しく唇を結び冷徹な眼光で奴らを見据えている。

 だが、その眉がどこか痛ましげに顰められている。


 何が『見えて』いるのか、今言う気は無いようだ。


 ならば、私がこの刃を止める必要のあるアクシデントではないのだろう。

 奴らは動かない。

 多分、奴らは痛覚も無いだろう。

 創世から自動再生を繰り返し、数え切れない命を奪って来たこいつらが、惨劇の場で怯えも悦びもしないのは、己のものも他者のものも、「痛み」というものを理解出来ないからだ。

 感情が無いだけでは、そうはなれない。

 痛覚があれば、一万七千年も自動再生を繰り返しながら殺し殺され続けたら機能が狂う。心の問題では無く、防御本能で。

 終わりが無いんだから。

 主である『世界』が死んでも、設定された行動規則の通りに振る舞い、四肢がバラバラになっても再生する体。

 痛みを感じるなら、とっくに『終わり』を選んでいる。


 その「体」の見た目は、本当に、どこまでもリアルに人間と同じに創られているのに。

 触れると体温まであるし、首筋には脈動が感じられ、切り刻めば鮮血が噴き出す。

 だけど魂も心も痛覚も無い「装置」。

 こいつらに、魂も心も痛覚もあったとしても、私は自分が大切なモノを守る為に殺せる。

 だから、こいつらが「装置」である査証が幾ら出ようと、それで良かったと気が楽になることは無い。


 どっちにしろ、私は殺せる存在なのだから。


 魂や心が在ろうが無かろうが、気の遠くなるような時間を酷使された「権力者の道具」を始末するだけだ。

 魂も心も持つ私が。


 魂や心が在っても、権力者の道具になる可能性は誰にでもある。


 やっぱり私は、こいつらと過去の自分が重なる。


 クズ兄の道具だった。

 裏稼業のボスや先輩の道具だった。

 心を取り戻して自分で考えるまで、光の蛇の道具だった。

 命令の遂行に当たり、深く考えることも無かった。

 私とこいつらの違いは、痛覚があり、一度死んだら自動再生しない、魂を持つ存在というだけ。


 魂も心も痛覚も有っても、私は人間にしか見えない相手を躊躇無く切り刻むことも平気だ。

 過去の自分と重なる存在を追い詰め、『壊す』ことに感傷は無い。


 けど、『世界』への怒りは膨らみ続ける。


「せめて、恨む自由くらい与えて創れよ」


 どんな理由の誤作動か分からないけど、最後の一体が細切れになるまで、どの一体も動かず言葉も発せず、呆気なく全滅した『世界』の掃除係。

 その成れの果ての濡れた赤い広場に立ち尽くし、私は独りごちる。


 あの程度の揺さぶりで機能停止レベルの誤作動が起こるなら、こいつら「終わりたかった」んじゃないのか。

 感情なんか無くたって、水晶国の王宮で最初に「終わらせた」一体を、「終わる」直前に心の種が幽かに発生していたあの一体を、自分達の未来の選択肢として見つけてしまったんじゃないのか。

 最初に「設定」されてなかったし、物凄く強かったらしいし、自動再生するしで経験も無くて、自分達が「終わる」という選択肢が発生したことは今まで無かっただろう。

 私とシェードがあの一体に経験させた「終わる」という選択肢が、あの時上から見ていた残った他の装置にもインプットされたのだとしたら。


 その選択肢が用意されていたら全員が選ぶんじゃないか!


 微動だにせず「終わり」を受け入れた奴らが立っていた真っ赤な広場。

 選べるものなら一人残らず「終わり」たかったんじゃないか。

 何なんだ、この世界は!

 何の為に、こんな世界を創ったんだよ!


 こいつらに望んで殺されたワンブック人なんかいないだろう。

 選択肢さえ在ったなら役目を終わりたかったこいつらに、殺された大量のワンブック人。

 そんな世界の創造主の根底にあった揺るがぬ意思は「イケメン全部にモテたい」だけ。


「奴らの終わりは静謐だった。恨みも怒りも無く。心が無いからこそ安らかに終われた」


 凪いだ目のシェードが赤い広場に踏み入って私に手を延べる。


「初めてシェードが神様っぽく見えた」

「お前なぁ」


 いつものように呆れた目で口をへの字に曲げて私の手を引き、腕の中に囲う。

 こいつらには、私が光の蛇の裏切りを知った後のような、嫌う自由も反発する自由も無かった。

 ・・・・・・だけど、だからこそ静かに終われた。


「これで、全滅?」


 発達した胸筋に額をつけて問うと「ああ」と短く返って来る。

 ようやく、ほっと息を吐いた。


「お前を案内したい場所がある。あいつらに一言言ってからな」


 シェードの親指が指す方に目線をやると、見覚えのある力の神と見覚えの無い各種取り揃えられたイケメン達。


「魂を持つ神々だ」


 だろうなぁ。

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