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閑話 蛇の自業自得

光の蛇視点です。年寄りの愚痴は長いです。

 僕が何を間違えたと言うんだろうねぇ?


 遥か昔に『世界』を対となる女に産ませる男として孵化して以来、僕がして来たことが非道だとは思えない。

 様々な世界が点在し浮遊する空間で、他の世界の管理者や支配者がして来たことを僕は見ているし知っている。

 僕が『世界』を産ませた女は、出産と同時に命の全てをその『世界』の糧として死んで消滅する。


 だけど、それが酷いことかねぇ。


 僕が対となる女を生贄にするのなんか『世界』一つにつき一人だけ。

 僕が産ませた『世界』の寿命が尽きる直前までは生贄を求めることも無かった。

 僕のような立場の存在としては驚異的なほどに、殺した数も人生を歪めた数も少ない。

 他の管理者や支配者のように、気まぐれで管理しきれない数の世界を創り出したり、実験で運命を歪めたり、退屈しのぎに災厄を放ったりしたことも無い。

 僕は、比べたら物凄く善良な筈だ。


 と、思っていたんだけどねぇ。


 今でも非道だと責められるのは納得出来ないけれど。

 闇月に嫌われるのだけは、嫌なんだよね。

 僕は僕の役割を果たしただけなんだけど、闇月の持つ常識から見たら僕は非道な犯罪者になってしまう。


 今まで攫った生贄や捧げられた生贄に、僕がどんな存在なのか教えてあげたことなんか無い。

 どうせ産んだら死ぬんだから、教える必要も無いと思っていたしね。

 それでも番う妻への愛着くらいはあったような気はするし、生まれた『世界』は慈しんでいたような気がする。

 気がするだけなのは、あまりに永い時を生きる僕が狂わないように、妻と番ったら『世界』が生まれるまで僕は眠り、目が覚めたら死んだ妻と寿命が尽きた古い『世界』への感情を忘れ去るように、この体はできているから。

 忘れ去るのは感情だけで、記憶が消えるわけじゃないから、生贄の調達に関しては試行錯誤を重ねた。

 基本的に僕が支配できる『世界』で調達していたんだけど、どの『世界』でも黒髪黒瞳は生まれにくいんだよねぇ。


 本当、地球って不思議な世界。


 黒なんて強い色を姿に表す人型の生き物なんか、魔力を認識して行使する世界では生まれる数も少ないけど、それ以上に無事に成人する数が少ない。

 強大な力を持つことになるからと、力を覚醒させる前に殺されたり、世界滅亡を企む輩に拉致洗脳されて廃人になったりする。

 それに、強い力を持つことになるせいか男性体で生まれる方が多い。

 それでも僕が生贄を必要とするタイミングで異世界から攫わなくちゃならなくなったら、全然いないということは無かった。

 何処かの異世界で魔王の娘を攫ったらその世界が滅びちゃって、警戒した他の世界の管理者達が、どの種族にも黒髪黒瞳が生まれないようにしてしまったけれどねぇ。


 できるだけ穏便に僕の支配下から生贄を調達しようとしているのに、僕が静観していれば、珍しい色合いだと成人前に部位をコレクションする為に殺されたり、生殖機能を失うほど犯されたりする。

 試行錯誤の末に、闇の女神信仰を僕の『世界』では浸透させるようにして、事態は多少なりとも改善した。

 それでも、「珍しい」と言うことは多くの他に埋没する人々にとって嫉妬と嫌悪の対象となるようで、僕が妻として迎えるまで生存する娘は少なかった。


 僕が産ませた『世界』で条件を満たす生贄が生まれるのはとても「珍しい」。

 一度きりの出産で死ぬとは思っていなかった妻達が、僕への恨みでそうしている。

 母親の命を糧に生まれた『世界』には、その意思が大きく反映されるからねぇ。もしかしたら、その意識は母親そのものの複製なんじゃないかと時々思うくらい。

 僕の意思なんて、必ず生贄が誕生するようにという一つしか反映されない。父親なのに。


 まったく面倒だねぇ。


 仕方がないから、番う前に時間の許す限り妻に甘い言葉を囁いて口説いて惚れさせたけど、効果は半々。

 半々と言っても大成功と大失敗が半分ずつ。

 僕に何をされても僕の望みを叶えたい生贄が出来上がるか、僕への恋慕のあまり、死ぬことを受け入れられず死産して結局自分も消滅するか。

 生贄が死産して消滅するのは、手間をかけたのに無駄が過ぎて腹立たしいから、必要以上に惚れさせるのは止めた。


 その点でも生贄牧場の女達は簡単で都合が良かった。


 過去に他の異世界から攫った女達も、僕の顔は好きだった。

 僕は別に処女に思い入れは無いし、むしろ面倒だから、生贄は成人後に経験が済んでから迎えに行った。

 夫や恋人がいれば最初は抵抗するし嘆くけど、結局この顔で迫れば番うことを了承するのが女という生き物だ。

 けれど生贄牧場の女達は、夫や恋人や婚約者がいても関係なく、実に簡単に僕に脚を開いた。

 惚れさせる手間も無いし、口説く必要が無いから病的に僕に惚れ込んだりもしない。


 この顔が美しいことは知っている。

 僕の役割を考えれば、それくらいは持っていなければやってられない。

 だけど、美しい顔だけで、ここまで簡単に籠絡できる世界や時代なんか経験が無かった。

 ようやく永きに渡る心配事から解放されて気楽に過ごしていた僕にとって、生贄牧場の管理者からの出禁宣言は青天の霹靂の死活問題だった。


 せめてチェンジで。


 いつものように、目についた中で最も「簡単そうな女」を選んで攫った僕は、出入り禁止の言葉を聞いて真っ先に思った。

 少しでも見目の良い男にはいつでも何処へでもついて行き、貞操観念という言葉すら知らなそうな女だった。

 使い捨てで『世界』を産ませるのに最適な女。

 見目の良い男にチヤホヤされる内容の娯楽物と現実の区別がついておらず、誰にでもヤらせるから声をかけられているだけなのに、他人の夫や恋人も含めて男は皆自分に好意を持っていると思い込み、最後は最高にハイスペックな超絶イケメンが迎えに来てハッピーエンド、という妄想を抱いていた。

 僕は、ある意味その妄想を叶えてあげたんだけど。


 あれは本当に失敗だった・・・。


 物凄く簡単そうだったから攫って生贄牧場から連れ出した途端の出入り禁止宣言。

 他の異世界では条件を満たす娘は生まれないという状況。


 この女が自分で選べる最後の生贄だと言うのか⁉


 せめて交換させてくれと、僕じゃなくても思うよねぇ?

 死産は絶対にさせられないから、積極的に迫ってくる女にこれ幸いと三回分の子種を注いだ。

 一回で孕むし産むのは分かってるけど、三回分注げば少なくとも三回は条件を満たす娘が『世界』に誕生する筈だから。母体の負担なんて知ったことじゃない。一応死にはしないんだから。生きたまま内臓を焼かれる苦痛があるだけで。


 役割を果たす為と言っても、僕も大概、どんな女でも勃たせて発射することができるよねぇ。

 条件を満たす女の絶対数が少ないから、選択肢があったことなんか無いからね。

 僕、絶世の美形なのに不憫じゃない?

 生贄牧場の簡単さに気を緩めていたけど、選択肢が沢山あったあの時に、本当に好きになれるような、愛することができるような女性を探せばよかったのかな。


 ・・・番って産ませたらどうせ死んでしまうんだから、愛せる妻なんか持たない方がいいか。


 危惧した通り、『世界』の出産と同時に死んだ女は恨みを『世界』に反映させた。

 三回分仕込んでおいて正解だった。

 だけど頭の痛いことに、複製レベルで母親そっくりの『世界』は自分以外の女が男にとって特別な存在になることを許さず、それを排除する為の掃除係まで創造していた。

 自分だけが全ての男の心を独占する世界を理想とし、その男の中に僕まで含めたようだ。


 僕が産ませる『世界』が創造の力を持つ意識体であり、肉体を持たないことに心から安堵した。

 こんな意識を持つ女が創造の力と共に肉体まで持っていたら、他の世界から出入り禁止程度じゃ済まないことを確実にやらかしていただろうし。


 妻への感情を忘れても、記憶だけでうんざりしていた僕は、闇の女神信仰を植え付けた後は、生贄が生まれるまで『世界』を放置した。

 その結果、嫌々ながら自分を鼓舞して作っただろう三回のチャンスを、僕は一つも手にすることが出来なかったんだけどね。

 掃除係は『世界』が最初に創った神だから、有り余る力を持っているんだよねぇ。数も多いし。

 今は当初の力を失っているけど、『世界』が生きている間は僕の裏をかけるほどの力があった。


 異世界からの生贄取得の目処も立たず、僕は僅かな可能性に縋り、死んだ『世界』を飲み込んで生命力を与えて維持をした。

 もしかしたら条件を満たす娘が生まれる日が来るかもしれないしね。

 死後に遺された性根の腐った誕生システムのせいで、せっかく『世界』が死んでも、女性は目立つと僕の目につく前に悲惨な最期を迎えるか掃除係に排除されるのは変わらなかったけれど。


 苦し紛れに危険物を生贄牧場に放り込んでみたら、そこに生まれる筈だった魂を一つ、誕生から弾き出してしまった。

 眺めていたら、遅れて誕生したその魂は黒髪黒瞳の娘として生まれて・・・とても生き辛い環境で、生まれた時から居場所を失っていた。

 僕はほくそ笑んだ。


 これは、貰えるんじゃないかな。


 誕生が遅れた分、魂に付けられたオマケのお陰で、あの娘は成長してもあの世界では居場所を作ることは出来ないだろう。

 完全に生きることに絶望してしまう前に貰えないかな。

 僕は生贄牧場の管理者達に交渉した。

 交渉の為に目を離している間に、何度も死にかけていたようだけど、ギリギリ間に合って、僕は殺される運命当日の彼女を貰うことができた。

 交渉が難航して、随分と厳しい条件で契約させられてしまったけれどねぇ。


 まずは、二度と地球の魂を持つ存在に干渉しないこと。外部からちょっかいを出すのも禁止。地球から生贄を攫うことは未来永劫不可能にされてしまった。

 それから、自分達も彼女に負い目があったのか、彼女が望まないことは決してやってはいけないと約束させられた。今まで攫った生贄に対するヤる前の簡単な説明義務とは違う、絶対的な約束。嫌がられたら、僕がどんなに望んでも体を繋げることも出来ない。

 そして、彼女が死ぬまでの間に、彼女の望みを叶え、幸福を味わわせること。


 鬱陶しい文句や嫌味の合間に提示されたこれらの条件で、僕は契約を済ませて彼女を貰って来た。

 死ぬまでの間に望みを叶える。その条件をクリアする為に、彼女に望む報酬を与えるから僕のために働くよう言い渡し、了承を取り付けた。

 幸福を味わわせる為には、死にかけの彼女の心を取り戻す必要がある。

 彼女のことを誰も知らない僕の支配下の『世界』にでも、しばらく放牧すればいいと思った。見張り兼護衛に犬でも付けて。


 まさか、ただ誰かと一緒に暮らすということが、こんなに楽しいものだとは思わなかった。


 退屈も憂鬱も感じる暇が無かった。

 それが「誰か」ではなく「彼女だからだ」と気付くのに、それほど時はかからなかった。

 次の生贄が安定供給される場所を見つけるまでのキープとして生き続けるように、過去の妻達には与えなかった僕の体液を飲ませていたのだけれど。

 僕の体液を飲ませる理由は、その内、キープする為ではなく、僕の永遠の伴侶とする為に変わっていった。


 他の誰かに精神を操られたり隷属させられたりしないように、僕が力ある言葉で直接名前を付けた。

 これで本人が望まない限り、心を取り戻しても僕以外に誰も彼女の心に入り影響を与えることは出来ない。好きとか恋とか愛だって、精神操作みたいなものだからねぇ。

 僕が名前を付けて体液を与え続けた彼女、『闇月』は、精神攻撃も毒も効かない体になった。もう少しで物理攻撃も効かなくなるし、寿命も永遠になる。

 ・・・また僕の体液を飲んでくれたらね。今は難しいだろうね。


 闇月を気に入り始めたら、彼女にだけは嫌われたくないと思うのは当然だった。

 僕自身は僕の過去の行いを非道だとは感じないけど、闇月の常識では心を取り戻すほどに嫌悪されるのが想像できた。

 闇月の常識では僕は重罪人だ。

 隠して丸め込むしかないと思った。

 そうして丸め込みながら、闇月が僕に気を許し、褒めると喜び、僕を頼ることに心の内で歓喜した。

 そんなに賢い娘ではないから、騙し続けるのは簡単だと考えていた。


 偶然の神の加護を甘く見ていた。


 ワンブックに放牧した彼女の、目を疑うほどの自由な暴走。

 次々に現れる、僕にとって不都合な情報や考える力を彼女に与えるワンブック人達。

 僕が誘導した無知ゆえに、無自覚に大物達を味方に引き込む彼女。

 折り重なる偶然に導かれるように心を取り戻し、自らの頭で考え、成長する彼女は、僕の美しさに心酔していた僕の飼い犬まで堕としてしまった。


 ・・・飼い犬の首輪を外すことを報酬に望まれるなんて、欠片も想像しなかったよ。


 アレは『世界』の死後も生命力だけ与えてワンブックを維持したために、間違った生まれ方をした存在だ。

 そのまま力をつけてしまったら、力だけなら僕を凌駕する可能性すらあった。

 だから、若い内から芽を摘み取って管理していたというのに。

 本当に面倒なことになった。

 小賢しい犬は闇月に従属し直して、神獣としての究極の力と神としての全力を身につけてしまった。

 僕からさえ言動も思考も隠蔽する力。

 僕から闇月を隠せる力。


 ・・・僕から闇月を奪える力。


 闇月を連れて来たのは僕だ。

 最初に笑顔を見たのは僕だ。

 最初に居場所を与えたのも僕。

 放牧なんてしなければよかったのかな。

 でも、放牧で少しずつ心を取り戻す闇月は、とても可愛くて魅力的で。

 闇月を成長させているのは僕だと思っていた。

 最終的に帰って来るのは僕の手元なんだと疑いもしなかった。


 ・・・あんなに怒るなんて思わなかったよ。


 嘘の何がいけないの?

 僕は僕なりに闇月を大切にしていたし、幸せにする自信だってある。

 処女には拘らないから、成長に必要な経験の一環として、他所で恋人や夫を持っても僕の元にいずれ帰ればいいという自由まで与えたのに。


 敵を見るような目で見られた。


 彼女が自分自身のために怒ることが出来るようになったのは喜ばしいけど、僕を拒絶するほどの怒りなのは想定外。

 ましてや、僕ではなく僕の飼い犬を「帰る場所」に指定されるようになるなんて!


 嫌がるのに拘束も監禁も出来ないし、合意無く番ってしまうことも出来ない。


 そういう契約だから。


 こんなに僕の顔が効かないなんて思わなかったから、ここまで嫌がられるなんて考えずに条件を飲んだ。

 彼女の心の拠り所を全部消してしまおうかと思ったけど、「完璧な記憶力」を地球の神に与えられている彼女が僕の仕打ちを忘れることは永遠にない。

 彼女の心の拠り所を消して決定的に嫌われたら、挽回のチャンスも潰える。

 彼女が地球の神に与えられた記憶力は、忘却による癒やしを得る機会を奪うものだ。

 僕がこれ以上彼女を傷つけることは本意ではない。


 僕は本当に、彼女を愛してしまったから。


 どうやったら僕の元に帰って来るの?

 諦めることなんか出来るわけないじゃないか。

 何を与えればいいの?

 ・・・何を消せばいいのかなぁ。

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