影の中の密談 2
「ここまでの話は光の蛇が過去にやらかしたコトだ。お前にしでかした諸々の話はまだ出してねぇだろ」
そうだった。ここまでで十分うわぁな内容だったからお腹いっぱいになってた。
げんなりしていると、頭をポンポン撫でられる。ちょっと回復した。
「光の蛇は、そんだけ過去にやらかしてきたからな。いくらお前と同じ世界の女達が喜んで光の蛇にヤられてたとは言え、世界を産んだら死ぬだろ。一応、光の蛇も地球の神との約束で、『僕の子供を産むのは命の危険を伴う』ぐらいの事ぁヤる直前に言うんだが、そこで止める帰ると言う女はいなかった」
非常識に綺麗な顔面の悪用か。
「光の蛇も他の異世界は出禁状態で、自分の世界から生贄が用意できねぇ時は地球の日本に狩場を絞っていた。同じ世界の同じ国の同じ時代から出産可能な女ばかりを攫い過ぎたんだ。とうとう地球からも出禁を食らった」
世界単位で出禁を食らうとは。
見た目が異様なほど美麗だけど、やってることは誘拐、強姦、殺人の連続犯だからな。
一応生殖行為は合意を取り付けていたみたいだけど、「確実に死ぬけどヤッていい? 気持ちよすぎて死ぬとかの比喩じゃなく本当に物理的に死ぬから」と正確に事実を伝えたら、いくら夢見る面食いでも「止める」「帰る」と言い出す女性は結構な人数になったと思う。泥酔させて前後不覚にした女性を強姦したのと大差無い。
産んだら確実に死ぬのが分かっているのに騙して産ませるのは、殺人と呼んで構わないだろう。
「だが、光の蛇に困ったことが起きた。『世界』の策略でワンブックでは黒髪黒瞳の女は発生次第掃除係に『掃除』される。黒瞳というだけで悲惨な運命に巻き込まれるように、最も凶暴な種族である獣人族が黒瞳に強い執着を覚えるよう組み込んだしな。それに『世界』はワンブック人を創る時に黒瞳の遺伝子は創らなかった。稀に黒瞳が誕生するのは偶発的に色素が混ざっただけだ」
それでもワンブックでも生贄の条件を満たす子供は生まれていたのか・・・。
「ああ・・・。『世界』には光の蛇の遺伝子も入ってるからな。それだけは『世の理』として必ず遂行される。闇の女神信仰だけは、光の蛇を万物の父とする世界に最初から存在するようにな。通常は、その世界が望んでねぇなら黒髪黒瞳の女児が生まれるのは一人きり一回きりだ。だが、『世界』の母親の性格に思うところがあったんだろう。光の蛇は子種を仕込む時に生贄取得のチャンスが三度来るように設定した」
そんなことが出来るのか・・・。
ていうか、何かもう、うわぁ・・・。
「そこまでヤバい女だと思ったなら元の世界に返して来りゃよかっただろうが、と思うだろ?」
そりゃあもう。全力肯定。
「その女を攫ったのを最後に地球出禁を言い渡されたからな。その時に寿命が尽きることになっていた『世界』の一代前の世界では、取得チャンス一回きりの生贄が凶兆として親に殺されていたんだ。そして光の蛇はその女と番い『世界』が産まれ、女は死んだ。だが『世界』は光の蛇のチャンスを三回とも潰すことに成功。後が無くなった光の蛇は地球の出禁解除を目論み、歪み汚れたワンブック製の魂を地球に投げ捨てる暴挙に出た。その割を食ったのがお前だ」
光の蛇がナルシスト王子の魂を地球に捨てたせいで私の誕生が三年遅れたアレか。
てか、そもそもの目的が地球出禁解除?
出禁食らった店にもう一回入りたいから自分の持ち物を投げ込んでみました的な?
投げ込んだブツは危険物だから自ら視察に行きますよ、みたいな感じか?
え、何その無茶苦茶な巻き込まれた感。
種族滅亡させた大罪とか関係ないのかよ。あ、大罪犯した魂だから投げ込むのに丁度良かったとか?
どっちにしろフザケンナ。
「割を食って地球では生きづらくなっていたお前は、黒髪黒瞳で性別は女だった。光の蛇は地球の神に交渉し、二度と外部からも地球に関わらないことを約束させられ、お前を向こうから貰い受けた」
別に期待はしてなかったけど、神にとって人間て物品なんだな。
粗品くれてやるから二度と来るなよ。汚物の投げ込みも禁止だ。
そんな幻聴が聞こえる。
「次の生贄にするお前を手に入れたはいいが、今後の生贄取得の見通しが全く立たなくなった光の蛇は考えた。お前に産ませた世界で生贄を手に入れることが出来なければ、もう生贄を攫って来れる異世界は何処にも無い。そうなれば世界を産ませる男という役割を果たすことは二度と出来なくなり、永遠の寿命を独りで生きなければならなくなる。だから、お前の体を男に作り変えようとした」
ん?
途中までは勝手なこと並べてるけど光の蛇が考えそう、と思ったけど。何故それが「だから」に繋がるんだ?
「男性体が妊娠出産する異世界もあるが、母体となる可能性のある肉体は見た目に関わらず女性体と定義するぞ。で、そういう意味で光の蛇はお前を男性体に変えようとした。番っても子を産ませない為だ。光の蛇の子を産まなければ番っても死ぬことは無ぇ。また何処かの異世界から生贄を安定供給出来るようになる迄の間、孤独を埋める為にお前を傍に置こうとしたんだ」
・・・光の蛇は否定してたけど、私の扱いは、やっぱりペットじゃないか。
あぁ、番う気もあるみたいだから性行為を含んだペットか。普通の愛玩ペットより質が悪いな。
それで、新たな生贄取得が継続可能な目処が立ったらお払い箱なんだな。
あれ? 私の人権は何処?
「今更そこに気付くのか。お前、怒りの感情が湧いてねぇようだが平気か?」
湧いてないの?
あ、うん。怒りとは違うかも。
酷い話だな。クソ蛇最悪。とは思うんだけど。
えらい巻き込まれ方をした私の人権て、生まれる前から無かったような気がして。
そう言えば、生まれた世界で暮らしていた時を振り返っても、ずっと人権ある扱われ方なんかしなかったなぁと思って。
それで、あっちの世界では最終的に、光の蛇に殺されるのが分かってるのに粗品として進呈されちゃったし。
こっちでは『世界』に目の敵にされる環境で光の蛇に良いように転がされて、性奴隷なペットにする為に改造されるし。
びっくりするほど人権無いなぁと思ったら、いっそ面白くなって来たような。
うん。酷すぎて笑える。
「笑いたいならそれでいいけどよ。お前に落ち度なんか無ぇんだぞ? お前が上手く世渡り出来なかった自分にも責任があるだの、騙された自分が不甲斐無いだの感じるのはおかしいと思わねぇか? 生まれる前からお前の意思と無関係に勝手な思惑で一方的に巻き込まれたんだぞ?」
あー・・・そうか。
生まれる前からなら、確かに私には責任は無いよなぁ。
だったら、全部自分以外の誰かのせいだと思ってもいいのかなぁ。
でも、本当に、あんまり酷すぎて、怒れるところまで心がついて来れないんだ。
「急がなくていい。無理もすんな。お前のスピードで心を取り戻して行けばいい。最初の頃に比べたら随分と変わったのは分かるだろ?」
うん。他人との接触や対話で何かを感じることに抵抗が無くなったし、感情が自分の中から湧き上がる感覚も分かるようになった。
それに、蓄積した知識の検索じゃなくて、自分の考えを出すことが増えた。
「・・・俺も、お前と出逢って一緒に過ごして、初めて覚えた感情が沢山ある」
「え?」
「神獣の頃に持っていた感情は憎しみだけだ。神になって俺を虐げた奴らに復讐してる内に光の蛇に従属させられ、しばらくは美しい存在に執着し、考える必要の無い奴の傀儡でいた。お前に出逢って今まで覚えたことの無い感情に戸惑い、考えるようになった」
シェードが考える?
私という理解不能な行動を取る珍獣についての考察とか?
「違ぇよ。全くは否定しねぇが」
しないんだ。
「最初は苛ついたってのに、すぐにお前から離れたくなくなった。俺は面食いな筈なのにお前が一番可愛く見えるようになった。お前に危害を加えるなら、相手が光の蛇でも腹が立ってしょうがなくなった。外見の美しさに執着するより強く、お前が何より大事になった。誰かを命令でもなく大切にしたい、守りたい気持ちを初めて持った」
保護者の鑑のような・・・あれ?
なんだか保護者と言うには違和感が・・・。
「光の蛇がお前を連れて来た目的が、永い孤独を埋める為の性行為付きのペットだと知った時には気の狂いそうな怒りと焦燥が湧いた。他の男がお前に触れると想像しただけで嫉妬で焼け焦げそうだ」
ここまで言われたら愛の告白に聞こえるんだけど。
「そうだ」
ぎゅっと抱き込む体温が拘束を強めた。
「お前が好きだ。愛してる。初めて得た感情だ。言っとくが黒瞳は関係無ぇからな。俺は元神獣だが虐げられまくったせいで表面的な絶対美以外には不能だったんだ。だから獣人族の本能も出たことが無ぇ」
いきなり不能カミングアウトされた。
やっぱり童貞だったんじゃないか!
「引っかかるのそこか⁉ 悪いか童貞だよ! もう不能じゃねぇぞ! お前限定だがな!」
また凄いカミングアウト来た!
「お前なぁ・・・。まぁいいけどよ。俺がお前に惚れてるのはマジだ。勃つのもお前限定。いくら美人でも光の蛇にももう勃たねぇ。お前だけだ。俺の感情を増やすのも心を揺さぶるのも。お前にとっちゃ酷ぇ目に遭ったとしか思えねぇだろうが、俺はお前に出逢えて、お前を自由に腕の中に抱けて、すげぇ幸せだと思ってる。怒るか?」
痛くはない拘束だけど、また、ぎゅうっと締められた。頭に多分頬ずりしてる。
これが全然嫌じゃないどころか、安心するし、なんだかいい気分なんだよなぁ。すごく居心地がいいんだよ。
目的はともかく、こっちの世界に連れて来られたことには怒ることは今後も無いだろうな。
あっちの世界にあのまま居たと仮定しても、ロクな未来は想像出来ない。
こっちで友人が出来て、背中を預けられる仲間が出来て、誰かに頼ったり甘えることを許されて、助けられたり心配されたりして。
あぁ、私の人権、あったじゃないか。
私の為に怒ってくれる親友がいる。
私の為に教えを授けてくれる師がいる。
主と慕ってくれる仲間がいる。
頼れる共犯者がいる。
例え私の意識が途切れたとしても、絶対に守ってくれていると信じられる相棒がいる。
出逢えてよかったと、私も思う。
こんな風に、私を大切にしてくれる誰かなんて、元の世界にはいなかった。
シェードの腕の中は心地良い。
無条件に安心できる場所を得たのは初めてだったことに気が付いた。
惚れるという感情は、まだよく分からない。
だけど、シェードと同じように他の誰かに触れられるのは拒絶する自信がある。
シェードだけだ。私が完全に身を委ねられる相手は。
「・・・お前、俺が思考読めるの分かってるよな?」
「あ」
「・・・天然かよ。勃っちまったじゃねぇか」
「ごめん」
「いや、まぁ何とか我慢する。今は場合じゃねぇしな。だが、お前の気持ちが追いついたら」
頭の上からしていた声が、耳元に下りて来た。
「もらうぞ」
囁くような低い声。
初めて聞くシェードのエロい声に、抱かれた肩が跳ねる。
「そろそろ戻って掃除係の残党を片付けに行くか?」
くつくつと笑いを洩らしながら訊かれて頷いた。
でも、行くって何処に?
「神々の作業場だ。『世界』の掃除係ってヤツは『魂を持たない神』だからな」




