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影の中の密談 1

 頷くとシェードの影の中に引きずり込まれた。

 真っ暗で何も見えないけど不安は無い。

 シェードの気配に包まれているこの場所で、自分の身に危険が迫ることは無いと確信できるから。


「この中で話すことや考えることは、俺以外の神や光の蛇にも知られることは無ぇ」


 姿は見えないけど、耳元でシェードの声。


「光の蛇からも隠蔽可能なのか。すごいな」

「ああ。光の蛇から解放されてお前に従属した効果だな。神の力を全て取り戻した上での神獣の能力限界突破だからな。今の俺の力は、モノによっては光の蛇を上回るモンもある」


 シェードは神獣二人分の魂を内包して誕生し、神となった。単純計算で二倍と考えていいのか分からないけど、元から他の神よりも強大な力を持っていたんだろう。

 もしかして、光の蛇がシェードを従属させていたのは、破壊の神力を使い過ぎた罰というだけではなく、自分に逆らう力を持つ可能性がある彼を押さえつけ、力を奪っておく為だったのかもしれない。


「お前のお陰で神の力を全力で使えるようになっただろ? 力を使うよう意識しねぇと見えねぇが、光の蛇や『世界』に関する過去も俺の神眼なら見ることが可能になった」


 シェードの言葉に心臓がザワリとする。

 光の蛇が私の認知を歪めて隠した真実に手が届く期待、認知を歪められた気持ちの悪い感覚を払拭できる期待で、僅かに身が震えた。

 包まれる気配そのままに、抱き込まれるシェードの体温を感じる。

 体の力が抜け、ふっと息を吐いた。頭に乗る、安心する大きな手の感触。


「光の蛇は、世界となるモノを対となる女に産ませる永遠の寿命を持つ男だ。この辺りは巫女の口伝と矛盾はしねぇ。まぁ、対となる女は神じゃねぇんだが。お前が思った通り生贄だからな。女神として祀り上げておかねぇと色々マズイんだろ」


 まぁ、女神と祀り上げる部分を省いて、あの「世の理」を広めた世界で生贄の条件を満たす娘が生まれたら、光の蛇に食われて殺されるくらいならと赤子の内に殺す親もいるだろうな。

 それに、花嫁となる女神を召し上げるとの言い訳無しで生贄を要求したら、光の蛇って物語の中で討伐される魔王とか邪神みたいな悪役のラスボスにしか見えない。

 花嫁だろうが女神だろうが、召し上げられたら犯されて死ぬんだから内実は変わらないんだけど、人々の受け止め方が違うとは思う。

 あとは、世界の寿命が尽きる頃に顕れるという口伝のせいで、黒髪黒瞳の女の子が生まれたら「世界が滅びる凶兆」として「無かったことに」される危険を少しでも減らす目的もあるのかな。

 神より上の存在である光の蛇の妻になる為に生まれて来た尊い命で、いずれ女神になる女の子だという認識を刷り込んでおけば、「無かったことに」したい奴らと同じくらいは、嫁入りするまで守ろうとする人達もいるだろう。


「光の蛇の対となる条件は闇を体現していることだ。つまり、黒髪黒瞳の女だな。あとは、光の蛇との生殖行為が可能な肉体を持っていること。人型、もしくはアレと同等のデカさの蛇型だ。黒髪の生えた蛇は過去にいなかったみてぇだから、歴代の光の蛇の妻は全員人型だった」


 歴代。全員。結構な人数がいたような言い方だ。

 今迄に異世界からも生贄を攫って来ていたら、異世界のトップと悶着が起きてそうなんだけど。


「当然起きてるぞ。どの世界も従順に光の蛇の世の理を守ろうとしたワケじゃねぇからな。この『世界』だってそうだろう? お前の読み通り、凶兆として黒髪黒瞳の娘を生まれてすぐに殺されたことも一度や二度じゃねぇ。それで世界の寿命が尽きるのを止められることは無ぇのにな。その度に光の蛇は異世界から条件を満たす女を攫って来た。地球の日本からが一番多い」


 えぇ。地球の日本て光の蛇の生贄の一大生産地だったのか。

 他にどんな異世界があるのか分からないけど、黒髪黒瞳が普通に生まれる世界って珍しいのかな?


「光の蛇のせいで今では珍しいみてぇだな」


 光の蛇のせい?


「自分が支配できる世界で生贄の入手に失敗する度に異世界に手ぇ出してたろ? ほとんどの異世界で神やら管理者やらが光の蛇を警戒して誕生させねぇようにしたんだ」


 じゃあ地球の神やら管理者は、どうして対策を取らなかったんだろう?


「地球の日本から攫われて光の蛇の妻にされた女達は、他の異世界から攫われた女達と違って喜んでいたからだ」


 あー・・・面食いだったのかな。

 確かに、あの顔を晒して「迎えに来た。僕の花嫁になってくれ」と言われたら、喜んで付いて行く女性もいそうだなぁ。私は御免だが。

 出産したら確実に死ぬと知らなければ、目が眩むような美形との生殖行為も喜んでできるんだろう。今の私には任務の一環としてでも無理だが。


「光の蛇は永遠の寿命を持つが故に、己が存在する場の時間をある程度操ることが出来る。まぁ、逆行や未来へ飛ぶような離れ技は出来ねぇが。『時のない塔』の中では己の管理する世界よりもゆっくりと時間を流し、生贄牧場な異世界の直ぐ側で、その異世界の都合のいい時間軸に留まり続けることも可能だ」


 生贄牧場・・・地球のことか。

 都合のいい時間軸って?


「お前が生まれ育ったくらいの時間軸の地球の日本の女が、光の蛇の生贄として最も都合が良かったんだよ」


 どうしてだろう?

 染色やカラコンが一般的になる前の時代の方が選びやすかったりしないんだろうか。


「文化による意識の土壌が、あの時間軸が一番都合がいいんだ。染色やカラコンが一般的になる前の時代に『異世界から来ました。僕に嫁入りしてください』なんて言われてみろ。あの外見でも拒絶しかされねぇだろうが」


 あぁ、そうか。だろうなぁ。

 異世界転生や異世界転移の物語を題材にした娯楽が溢れ、ある日突然異世界から超絶美形が迎えに来て求婚するシチュエーションを容易く受け入れる意識の土壌が形成された時間軸。

 そんな話もあるかもね、と思えるような文化が蔓延していない時代に、人外にしか見えない光の蛇が現れたら、綺麗な化け物に取り憑かれた絶望で世を儚む娘さんが出てしまうかもしれない。

 でも、てことは、私が向こうで暮らしていた頃にも何人も日本人女性が光の蛇の妻として攫われて死んでいたのか?

 気付かなかったけれど、随分とゾッとする話だ。

 そして、私が連れて来られてからワンブックでは百年くらい時間が経過しているようだけど、元の世界は私が生まれ育った辺りと変わらない時間軸?

 どうなってるんだ?


「全く同じ時間に留まってはいねぇぞ。光の蛇に都合のいい文化が蔓延する時間軸に滞在ってことだからな。お前が来た時よりは多少あっちも進んでる。まだあの手の文化が廃れる気配も無ぇしな。まぁ、そんなワケでこの『世界』の産みの親もお前と同じ世界の女だ」

「は?」


 思わず実際に声が出た。

 それは考えてなかった。

 そりゃあ、出産可能な年齢の女性の行方不明者なんて、ニュースに一々出さないくらいゴロゴロいたけど。

 裏稼業に身を置いていたから、行方不明者が戻る確率の低さも知っていたけど。

 まさか、異世界で出産して死んでたなんて話がポロッと出てくるなんて思わなかったよ。


「で、だ。どうやらこの『世界』の意識はかなり母親に影響されているらしい」


 この『世界』の意識って、強烈なモテたい願望のことか?


「そうだ。母親の意識が、まんま乗り移ったみてぇなもんだ。下手すりゃ複製品かもしれねぇレベルだな。光の蛇も攫う相手くらい選べよと思ったぜ」


 シェードの声色が呆れをたっぷり含んでいる。多分、遠い目をしているんだろうな。

 うん。でも、ワンブックに感じていた疑問がかなり解けた。

 いくら「近所の異世界にあるものを真似したから地球と同じものが在るんだよ」と言われたって、古代の地球には存在しなかった動植物が創世から在るのはおかしいと思ってた。

 創世時期からの記憶を夜空に貰うことが無ければ、ワンブックでも進化や品種改良があったんだろうと勝手に納得してただろうけど。

 地球の、と言うより現代日本で馴染みのある表現が通じるのも、この世界における『万物の母』の意識がコピー並みにそっくり乗り移ったような意識を持つ『世界』が創造主だからか。

 そして、その意識の一番強い部分がモテたい願望だったんだな。

 そのモテたい願望のままに理想の箱庭を創造してみたけど、思うようにモテなかった、と。

 光の蛇、やっぱり女の趣味が悪過ぎる。


「で、ここからが本題だ」


 まだ本題じゃなかったの⁉

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