表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/89

世の理とやら

 家族用の大きめの客室で、三人の女性が静かに眠っていた。

 濃淡に違いはあるが、全員ブルー系のネオンカラーの髪をしている。銀麗の話では、瞳も髪と同色らしい。スライム種は髪と瞳がネオンカラーなんだそうだ。

 テラスに出て彼女達を描いた絵を燃やすと、すぐに目を覚ます。

 何が起きたか分からず辺りを見回す三人を見守っていると、私に目を留めた順番に、ベッドから下りて私に平伏した。


「御降臨をお待ち申し上げておりました。闇の女神様」


 御降臨とか言った。どう見ても男の私に闇の「女神」って言った。平伏してる。

 顔が引き攣りそうになる事態が目の前で起きているけど、表面上は不遜なまでに冷静さを保っていると思う。


「古の巫女に伝わる口伝を聞きに来た」


 諸々を見なかったことや聞かなかったことにして、欲しい情報を得ようとする私に、水色のネオンカラーの髪と瞳の女性が答えた。


「はい。闇の女神様のみにお伝えするよう一族に伝えられた、この世の成り立ちと理がございます」


 へぇ、そんなものがあるんだ。闇の女神のみに伝える内容だから、王族とは言え研究者でしかない銀麗は聞くことが出来なかったんだな。

 私以外の仲間達や、眠るスライム種の三人の護衛の為に室内にいた軍人らの人払いを望むような目線で見上げられたので指示を出す。


「銀麗、護衛を下がらせてくれ。夜空、護衛が部屋から出たら密談用の結界。どうせ今知ったことは後で仲間達に全部話すから、私に聞かせていい話ならば彼らも同席させてほしい」

「畏まりました」


 床と同化するほど頭を下げて了承するスライム種の女性達を見て、銀麗は護衛を下げ、夜空は結界を張った。

 密談の場が整ったところで開始された「闇の女神だけに伝える話」は、まとめると以下の感じだ。


 まず、創世神話を聞いて私が思い込んでいた光の蛇と『世界』の関係は恋人同士ではなかった。

 は? と思ったけど、とりあえずスルーしておく。

 光の蛇の妻は闇の女神であり、『世界』は二人の娘である。

 永遠を生きる光の蛇と違い、有限の命の『世界』の寿命が尽きる頃に、世には闇の女神が顕れる。

 光の蛇と新たに顕れた闇の女神が番い、新しい『世界』が生まれる。

 闇の女神とは万物の母であり、光の蛇は万物の父である。

 闇の女神は新しい『世界』を生むと命の終焉を迎える。

 それがこの世の理であり、そうして『世界』は滅び、新しく生まれ続ける。

 光の蛇の命の限り、永遠に。


 うん。色々フザケンナな内容が入っているな。


 闇の女神、つまり黒髪黒瞳の女性は光の蛇の子供を産む為に存在する使い捨ての『世界』製造機ってことだ。

 巫女達は知らないようだけど、『世界』は既に死んでいる。

 光の蛇は、新しい闇の女神をゲットして孕ませる必要があるから、黒髪黒瞳が溢れる地球の日本から私を連れて来たんだろうか。

 だとしたら、何故妙ちきりんな言い訳で私を男性体にしようとしたんだろう。

 当面、光の蛇の腹の中に収めている限りは、一応ワンブックが滅びることは無い。

 でも、創造主が死んだ今、新しい魂を創ることは誰も出来ず、徐々に魂を持つ存在はワンブックから減り続け、やがて消えていくだろう。

 ここは『世界』がそういうルールで創った箱庭だ。


 例えば減りゆく魂の数を補うために、異世界から魂を持つ存在を連れて来たとしても、それらに対しては光の蛇ですら守らなければならない制約があるようだし、そんな存在をワンブックに移住させたら問題多発だろう。

 異世界の魂を持つ存在が何をやらかしても、彼らが罰せられることを嫌がれば、ワンブックにおいて誰より偉い光の蛇は、ワンブック人やワンブックの神々が彼らに対し制裁を加えることを止めなければならないのだから。

 罰せられたくない、裁かれたくない、殺されたくない、と異世界から連れて来た者達が言うなら、悪逆非道な犯罪者に成り果てたとしても、誰も彼らを止められない。

 そんな無謀な手段で魂をワンブックに増やすことは、光の蛇でもやらないだろう。

 異世界の魂を増やす作は取れず、唯一の魂の創り手は死んでしまった。

 詰んでるよね。


 そんな状況でワンブック内でだけ完結する輪廻は、『世界』が自分の好悪の感情だけで作ったルールに沿って、どこまでも歪んで行く。

 創造主がその世界の唯一の存在ということに不都合は無いだろう。

 だが、『世界』が唯一でありたいのは創造主としてよりも、女としてだ。

 しかも相手が不特定多数ときている。

 ワンブックのイイ男は全部自分に惚れて自分を溺愛しなければ許せない。

 そういうルールを理ということにして箱庭にブチ込んでみたものの、心のあるイイ男達には嫌われまくり、ワンブックのイイ女達にはバッドエンドを強制していた。

 そんな『世界』のルールで全人類の人生が営まれるワンブックでは、本家本元の世の理とやらが時間経過と共にグチャグチャに歪むのも、さもありなんだ。

 途中で矯正出来たのは光の蛇だけだっただろうに、恋人ではないにしろ、娘に甘いバカ親だったんだろう。


 腹に収めて生命力を与え、延命したとしても、既に在り様が狂っているワンブックに永い未来は無いだろう。

 ならば、やはり、また創造の力を持つ新しい『世界』を闇の女神に産ませるのが光の蛇の目的か。

 闇の女神が新しい『世界』を産めば、光の蛇は、もう傷んでしまっているワンブックを腹から吐き出して捨ててしまえる。

 巫女の口伝では、『世界』が死ぬ頃に闇の女神が顕れて光の蛇との間に新しい『世界』を産むようだから、光の蛇は『世界』を繋ぎ続ける役割でも持っているのかもしれない。

 ワンブックを創った『世界』は既に死んでいる。役割を果たそうとするなら、光の蛇には新しい闇の女神が必要だ。


 面倒な制約を考えれば、光の蛇が毎回異世界から闇の女神候補を連れて来ていたとは思えない。

 自分の子供が創った世界に闇の女神の資格を持つ者が生まれたら楽で手軽だ。時期的に間に合わなければ異世界から攫って来たかもしれないけど。

 それにしても、口伝の通りの内容が、光の蛇を万物の父とする世の理だとすれば、黒髪黒瞳の女性って、光の蛇への生贄だよね。光の蛇の子供が創った世界に生まれたら、生まれた時から万物の父への生贄と定められそうだ。

 異世界で生まれ育った私なら嫌だし冗談じゃないと思うけど、光の蛇が神より上位の存在として君臨して崇め奉られる世界に生まれ育ったら、生贄になることも喜びであり誇りなのかもしれないな。


 私は絶対に嫌だけど。


 巫女達が闇の女神扱いする私に恭しいのも、信仰の対象と言うより、神聖な生贄だからな気がする。

 古代に闇の女神信仰があり、立派な神殿が建てられていたのも、その身を犠牲にして万物の母となった存在への償いのようだ。

 なのに、『世界』は掃除係を使って命と引き換えに自分を産んだ母の存在をワンブックから駆逐した。

 光の蛇を万物の父とする世の理が、巫女の口伝の内容通りならば、ワンブック以外の、過去に光の蛇の子らが創った世界でも、創世から闇の女神信仰はあっただろう。

 闇の女神の存在さえも駆逐する暴挙を、光の蛇は何故許したんだろう。わざわざ私を異世界から連れて来たんだから、闇の女神を必要とはしているんだよね? 多分。

 何を考えてるんだ? あのキラキラ蛇は。


 巫女達はワンブック以外の世界は知らないし、初代から伝わる口伝の内容は、どうやら最初は光の蛇から聞かされたらしい。

 この世のものとは思えぬ光り輝く美しき存在が顕現し世の理を説いた、と伝わってるらしいから、まだ腹に入れてないワンブックに本体が出張って来たのか立体映像を飛ばしたのか分からないけど、まぁ光の蛇自身の意思で「世の理」とやらを出来立てホヤホヤのワンブックに定着させたかったんだろうな。


 光の蛇が何を考えてるかも分からないし、『世界』のやり方も意味不明だ。

 いや、『世界』がひたすらモテたかったのは疑いようも無いんだけど、どうしてそれでモテると思ったんだろうな、と。

 ライバル排除の思いつきだとしても、創世から人々の心の拠り所となっていた信仰対象を存在ごと駆逐するか?

 しかも、相手は母親だよね。母親が自分のモテのライバルになるかもだから、存在してたことすら抹消しようと思う娘。理解不能だ。

 母親というものに憧憬も愛着も皆無な私でさえ理解不能なんだから、相当おかしくないか?

 そりゃあ、いつまでも「母」ではなく「女」でしかいようとしない母親は一定数いるけど、世の理に従えば、闇の女神は強制的に「母」として存在を広められる。

 女であり続けようとする母はモテのライバルとして邪魔になるかもしれないけど、母でしかない母には、むしろ攻撃したら男達からドン引きされてモテから遠ざかるだろうに。


 とりあえず、古の巫女から得られる情報は、こんなものかな。

 色々思うところはあるけど、考えても分からないことが更に増えた。

 光の蛇に直接聞きに行くのは時間のロスが大きいから避けたいし、死んだ『世界』の理解不能な行動の狙いを掃除係が知っているとは限らないし、知っていたとしても聞き出すのは骨が折れそうだ。


 あ。そうだ。

 シェードの神眼って、どこらへんまで見えて分かってるのかな。

 今なら訊いたら教えてくれるよね?


「俺とお話したいか? 闇月」


 面白げに片眉を上げて問われ、私は頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ