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到達した王宮の奥で

戦闘シーンは切傷が多めです。

 王宮の奥深くに到達するのは呆れるほどに簡単だった。

 正規の軍人は銀麗に心酔し、黄煌を旗印として攻め入る側にいる。

 現在、王宮で警護の任に就いているのは、国ではなく王族個人に忠誠を誓った親衛隊と金で雇われた私兵だけだ。

 その時点で既に力の差は歴然としているのに、剣と攻撃魔法を併用する銀麗は容赦が無いし、黄煌も優美な外見に似合わない戦斧を振り回し牙を剥き笑いながら障害物を蹂躙して先へ進む。

 橙華も毒入魔力を通した鞭で近付く者達をしばき倒すし、夜空とセシルは防御結界の中でわざと囮となって結界のカウンター効果で迎撃。

 クロは私の右側を黒い大蛇に変化してズリズリと這っては強靭な尻尾で薙ぎ払い叩き潰し、シェードは私の左側で影を大鎌の形にして振るっている。


 ちょっと疑問なんだけど、クロは蛇と猫のハーフだから獣化するなら猫にもなれる筈なのに、一度も見たことが無いのは何故だろう。蛇の方が戦闘能力が高いから? 普段は近くで目を見なければ猫にしか見えないのになぁ。

 シェードも擬態を解いて黒髪の赤緑オッドアイに戻っている。服は初対面の時みたいな半裸じゃないけど。本来の姿に戻ると黒い大鎌が似合う。影で他の武器も造れるのかな。双剣なんかも似合いそう。

 こんな感じで、呑気に考え事をしている余裕がある。折角手に入れた自分専用特殊武器が実戦デビューする隙もない。

 何故なら私は、旗印になってる王族や美しい女性達より厳重に守られているから。

 創世神話の狂信者が一番殺したいのは私だろうから、正しいと言えばそうなんだけど。守られる立場に慣れてないからムズムズする。


「王位簒奪とは、交わした約定を違えるか」


 倒れていない配下が誰も居なくなった豪奢な部屋で、多分現国王の銀麗の父親が重低音で言う。角は黄煌と同じタイプだ。

 その隣には、バッファロー男とよく似た角の貴婦人。多分王妃。

 どっちも臨戦態勢だ。


「操られている貴方に言っても意味は無かろうが、先に約定を違えたのはそちらだ。平和な時代であれば賢王として全う出来たであろうに、残念なことだ」


 魔人族とはそういうものなのか、王族だからなのか、銀麗だからなのか、実の父親であり仕えていた王に対するにしては、とても無機質で事務的な声と口調。

 王と王妃の背後に庇われるように寄り添っている一組の男女。

 どちらも若い人族に見えるが、男の方は夜空の記憶で見覚えがある。調査隊であり懲罰隊であり、創世神話の狂信者だ。

 若い人族の女は異常能力者だろう。暗い目をして狂信者に肩を抱かれながら怯えている。その表情から読み取れるのは、恐怖と後悔と諦め。それに、現状が望んでいたものではないという苛立ち。

 異常能力を狂信者の言うままに使わされていたんだろう。自分を迎えに来てくれた、夢の王子様に嫌われないように。逆らったら、閉じ込められて虐待される日常に戻ってしまうかもしれないから。


 女をじっと観察していると、視線の先に邪魔が入る。

 狂信者に強引に目を合わされた。

 奴の意図に気付く。

 マズイ。


「シェード‼」

「クソッ! 間に合わねぇ‼」


 女の首が胴体から離れた。

 ニヤリと歪む狂信者の顔下半分。

 異常能力を持つ女は即死だった。

 効果の解除方法を探る前に・・・・・・私に喧嘩を売る為に造られた道具の立場から、彼女の人生を解放する前に。


「夜空、結界! シェード、手伝え!」


 指示を飛ばして狂信者へと突っ込む。

 夜空の結界が私を包む感覚と、より近く濃密になるシェードの気配。

 狂信者を守るために攻撃対象を私に定めた王と王妃に銀麗と黄煌が飛び掛かり、クロが地上最速の動きで狂信者の足元を尾で払う。

 刃となる糸を操り狂信者の首を刈るつもりが、残像と共に斜めに吹き飛んだのは奴の右の肩から先。なるほど、只者ではない身体能力と戦闘能力だ。今の私は武器とする糸ごと自分にも身体強化をかけているのに。


「そろそろ存在するのに飽きただろう。二度と再生しないようにぶっ壊してやるよ。クソ野郎」


 変化や変色に補助魔法を使わなくていい今、非常識に有り余る魔力を身体強化に使い放題だ。

 今ならクロとの追いかけっこにだって勝てるスピードで動ける。

 速さだけじゃない。パワーも、硬度も強化されている。

 外に出る時には最低でも変色が必要だったから実戦でまともに補助魔法を使ったのは初めてだけど、ここまで戦闘能力が上がるんだな。


「あの方が唯一であることがこの世界の秩序だと言うのに忌々しい! ここまで力をつけているとは!」


 首を落とされることは紙一重で回避しているが、狂信者の両腕と右脚は既に落ちている。

 戻って来てくっついても面倒だから、シェードの力で落とした部品は『破壊』してもらっている。二度と『再生』しないように。


「箱庭の秩序など知るか。心を与えて創ったモノが魅力ゼロの魂レベルのブス女の言いなりになる訳ないだろ。お前らが下僕になってる『世界』は言動も頭の中も救いようのない馬鹿で存在自体がこの上ないブスだと言うのに」


 煽って反論の為に開いた狂信者の口元と覗いた舌を切り裂いた。


「お前ら『世界』の下僕共は心を与えて創られていない、ただの装置だ。『世界』がお前らに与えたのは心ではなく『世界』の欲望を叶える箱庭を維持する行動規則に過ぎない。『世界』が望んだのは心を持つイイ男との相思相愛だ。『世界』はお前らのことなど愛したことはないし、お前らに愛されることも望んでいなかった」


 心が無くてもショックは受けるんだな。

 それもそうか。こいつらは、ワンブックの為ではなく、『世界』の為だけに存在していたんだから。

 魂も心も与えてもらえず、装置としてだけ創世から存在し続け『世界』の為だけに働き続けて、愛されることが無かっただけではなく、愛することさえ望まれていないくらい、『世界』にとって「どうでもいい存在」だったんだから。


 こいつらに魂が無いことは分かっていた。

 心は、盲目的に『世界』を愛しているように行動は見えたから、持って創られたのかと思っていた。

 だけど、直接相対して気付いた。

 こいつらは心を与えられていない。

 行動規則に依り自分自身を操るだけの在り方を、私は識っている。

 あと一歩で、ほんの紙一重で、私自身が陥る筈だった在り方だ。


「胸クソ悪い存在のお前らが私は嫌いだ。売られた喧嘩も買ってやる。だが、お前ら以上に胸クソ悪いのは『世界』だ。だから、お前ら全部、二度と再生しないように壊してやるよ」


 目を見開いた狂信者の首を刈る。それが床に落ちる前に、胴体も残った足も寸断した。

 バラバラになった装置をシェードが再生の無い破壊で終らせる。


 こいつらは、『世界』への愛や忠誠心で、望んでワンブック人の歴史や人生を歪め踏み躙って来たんじゃなかった。

 他に在り方を覚えることが出来なかったから、そう創られた装置だったから、それ以外に在り様が無かったんだ。

 壊されても壊されても自動再生して『世界』が望む箱庭の秩序を維持し続ける。

 心が無いから疑念も抱かず、ただ只管に与えられた行動規則を全うする存在。

 秩序を乱す敵に向ける不敵な表情も、自然に出たものではないことに気付いた。

 自分達の存在が『世界』にとって価値の無いものだと言われた時の衝撃と、私から与えられた憐れみへの驚愕は、行動規則に依るものではなかっただろうけど。


 もう、遅い。


 これから心の種を与えて育てて更生するには、奴らは壊し過ぎた。

 ワンブックの人々の、生活も、人生も、心も。

 今のワンブックで『創世神話の狂信者』と呼ばれる『世界』の装置達は、この先のワンブックには存在させない。殲滅する。

 私が大切だと思う人達が、この『ワンブック』という世界でこの先も生きて行くから。


「王と王妃は正気に戻らないままか」


 異常能力者に命令を下していた狂信者が壊れても、拮抗したまま続く王と王妃対銀麗と黄煌の戦いに目線を移して呟く。

 銀麗は勿論、黄煌も強いけど、防御を一切顧みない王と王妃の戦い方は、彼らでも手こずるようだ。

 同士討ちを避けるために、これ以上接近する味方を増やせないし、四人とも常軌を逸したスピードで動いているから飛び道具もマズイだろう。

 一体、どんな命令で操られているのか。港に出向いたバッファロー男とは違う言葉で操られていそうだ。


 そう言えば、もう一人の王族は道中で倒してないな。最初から眼中に無い扱いをされていた第三王子。他にもそれぞれの正妃や側妃らが操られて同じ敷地内の宮にいる筈だ。

 こういう事を思い浮かべるのはフラグか。フラグなんだな。

 身体強化を解かないままだった私は、感知した飛来する殺意を反射で打ち返した。

 思わず、自分の特殊武器で。

 何が飛来したのか、切れ味鋭い糸の刃が打ち返す役割を果たせるのか、そんなことは考えていなかった。


「あれ?」


 飛来したのは丁度十本の投げナイフ。

 私は反射で十本全てを絡めるように打ち返した。

 打ち返した。つもりで、投げナイフを寸断して飛散させた。

 投げナイフだった金属の欠片が方々へ弾丸のようにスッ飛んで、照明というより装飾のために並べられていた燭台から幾つもの炎を落とした。

 カーテンやらタペストリーやらに燃え広がる炎。

 逃げようとして大蛇に伸される多分第三王子。

 炎を背景にアクション映画のクライマックスのような戦闘を繰り広げる魔人族の王族達。


 うわあ、どうしよう。


「銀・・・麗・・・?」

「黄、煌・・・?」


 その時、狂ったように息子達に攻撃を繰り出していた王と王妃が呆然と動きを止めた。

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