表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/89

総員出撃

 私が作ろうと思い浮かべたのは、ワイヤーソーもどきだ。

 たまに小説や漫画で暗殺者が振り回して腕やら首やらスパスパ切り落としてるアレだ。

 まぁ、実際にその辺のホームセンターで買えるキャンプのお供なワイヤーソーには、当然そんな威力は無い。あったら売ってない。実家にいた頃に部屋で試したから確実だ。

 でも、モーションキャプチャーでキャラの動作を再現しているゲームでワイヤーソー使いが活躍してるのを見たから、体をどう動かせばワイヤーがどう動くのかは知っている。

 なんなら、ホームセンターで買ってきた安物のワイヤーソー各種長さを全て自在に操れるようになるまで練習だってした。

 安物は強度が足りないから、スピードをつけて障害物に当てるとすぐ切れる。

 だけどワイヤー部分にダイヤモンドを切れるくらいの強度を持たせられるなら、フィクションを現実に再現できる。

 問題は、そんな危ない糸を直接指に巻くわけにいかないから、糸の強度に耐えうるリングが必要ってことだったんだけど。


「なんでこんな偶然があるんだか・・・」


 ブツブツと不満を漏らすシェードが教えてくれた通り、『無敵の指輪』を取り出そうと考えながらウエストポーチに手を突っ込むと、催淫リングと同じような光と陰を持つ、シンプルなつや消しの銀色の指輪が手の中にあった。

 これは、力の神が調子に乗って加護を付与し過ぎた神具で、装着したら無敵になるというわけではなく、「指輪が」無敵という代物。

 誰が何を使って何をしようが、絶対に傷一つ付けられない強度を誇る、無敵の指輪なんだそうだ。

 力の神が力試し用に作ったらしいけど、本当に誰一人として傷を付けることすら無理だったらしい。

 シェードにも無理なのか訊いてみたら、


「俺が全力で破壊の力を使えばイケるが、その時はワンブック全土が道連れだな」


 と言うくらいの頑丈さだ。

 最早、頑丈という一般的な言葉で表していい物体なのかも謎だ。

 あの温厚そうな熊さんも、意外と変わり者なのかもしれない。

 グズグズと甘えるクロを引き剥がして、橙華に献上させた「あまりに出来が良くて却って使い道が無かった」秘蔵の織蜘蛛種の糸の両端に、シェードの卓越した紐結び技で二度と解けないように『無敵の指輪』を結んでもらい、私専用の特殊武器が完成。


 シェードが不満げに「偶然がおかしい」と溢していたのは、この『無敵の指輪』が二つ一組でセットだからだ。

 力の神は、金属の指輪を指で挟んで潰す力試しが流行した時代に、左右両方の指の力を一度で試せると考えて同じモノを二つ作ったらしいんだけど、ワイヤーソーもどきを作るのに本当にピッタリだったね。

 橙華への敵意や殺意を隠そうともしないクロも、完成した武器を装着して離宮の庭で演武と試し切りをして見せたら、機嫌が直った。クロに投げさせた丸太を次々切り刻んだのがウケたらしい。


 橙華も黄煌も上辺だけじゃなく謝った。

 私が、相手が水晶国の王族だからと言って謝罪をされたら絶対に受け入れなければならない立場ではないことを理解した上での謝罪だから、受け入れた。

 橙華は黄煌に厳しく叱られてシュンとしてたし、黄煌は銀麗に「詰めが甘いと大事な局面で仲間に足元を掬われますよ」と淡々と言われてドン底まで落ち込んでいた。

 セシルがハイライトの消えた目で橙華に、


「今度アンに毒を盛ったら黄煌殿下に私の異常能力を使いますよ。ちなみに私の異常能力は魅了です。うふふ」


 と囁いて震え上がらせていたのはカッコ良かった。自分の異常能力のことは今でも恐ろしいし嫌いだろうに、私のためには使ってもいいと思ってくれるのが、すごく嬉しかった。

 夜空がセシルの言葉で何かを思い付いたのか、


「肉体には罰を与えませんから、5分ほど邪魔をしないでくださいね」


 と、黄煌に穏やかな笑みで告げて橙華を擦りガラスみたいな色の結界で包んだ。

 穏やかな笑みに見えたけど、金の琥珀は穏やかとは対極の悪意が乗って愉しげだった。

 5分後、結界から出された橙華は号泣しながら蹲り、心配して手を差し伸べた黄煌を悲愴に塗れて拒絶した。

 一体何をしたんだ。夜空。


「私は心象風景を結界に映し出して見せただけですよ」


 胡乱げな眼差しに爽やかに答える夜空。異世界の娯楽作品を色々と教えたのは不味かっただろうか。


 良い武器も手に入ったし、銀麗を崇拝する軍部の面々は、見限った王族達を排除しての王宮奪還にやる気満々だ。

 黄煌に必死で宥められて橙華も落ち着いたし、王宮に向かおうかというところで、黄煌直属の諜報員から情報が届いた。

 王族達がおかしくなった原因を早くから見抜いていた黄煌が、大陸の人族の国で調査を行わせていたそうだ。

 届いたのは鷹の足に括り付けられた情報だけで、それを送った本人の生存は絶望的な状況らしい。


 暗号化された短文を解読した黄煌の説明によると、今回水晶国の王宮に現れた異常能力者は、絵の才能に恵まれたばかりに画家の父親に疎まれ、虐待を受けて育ち、18歳で逃げ出すまでは自宅の地下に監禁されて父親の代わりに静物画を描いて生きていたそうだ。

 描いていたのが静物画だったから異常能力が発揮されることもなく、娘の作品を自分の名前で発表して売っていた父親は天才画家として名を馳せ富を得ていた。

 けれど娘は18歳のある日、地下に降りて来た父親を見ながらデッサンを描いて「外に出たい」と願うと暴力を振るわれることもなく逃げることができた。


 無一文に着の身着のまま逃げた娘は、路上娼婦で小銭を稼いで安い画材を買い、街角で似顔絵を描いて「買ってくれ」と客に頼むようになる。

 娘の描いた似顔絵は、常に娘の言い値で売れた。老若男女、客が娘の願いを叶えなかったことはない。

 評判を聞きつけたと言って、他所の国の王子が娘の客として訪ねて来た。

 似顔絵を描いた娘が王子に「私をお嫁さんにしてください」と願うと王子は娘を国に連れて帰った。


 この後、その国で娘を見た者はいない。

 ここまでが、異常能力者の生まれ育った国で得た情報。

 娘を訪ねて来た王子については、何処の国にもそんな王子は存在しなかった。


 水晶国の王宮に現れた自称王子は、ある人族の国の王太子の徽章を持っていたけど、その国の王太子の徽章は二ヶ月ほど前に盗まれ、現在秘密裏に捜索中だった。

 その話を件の国の王太子本人から聞いている最中、創世神話の狂信者らの強襲を受け、諜報員は場を離脱。同席していた目撃者は全滅。最後に自らを囮として鷹だけは飛ばす、と綴られていたそうだ。


 才能を搾取されて虐待監禁されてた娘が18歳で実家から逃亡ねぇ。


 ディティールに凝った胸糞悪い喧嘩を売ってくれる。

 今度の異常能力者は、私に喧嘩を売る為に環境を「整えられた」存在だろう。

 私と、この異常能力者の共通点は偶然の一致なんかじゃない。

 逃亡した娘が性を売り、願い事が王子様との結婚だったのも偶然じゃない。

 同じ立場にあれば、女ができることも願うこともそれしか無いんだという馬鹿にしくさったメッセージだ。


『女なんか金が欲しけりゃ体を売るしかないだろう。若い女は体を売れば楽に稼げるからな。女の望みなんて決まりきっている。王子様に迎えに来てもらうことしか考えてないんだろう?』


 中二病の女子中学生レベルの短絡的な思考と欲望しか無い『世界』が創世から使い続けてきた駒だ。奴らの言いそうな台詞は簡単に想像がつく。

 馬鹿にするついでに脅し文句も込めているんだろう。


『お前も同じだろう。

 お前の末路も同じだろう。

 そうなるように誘導してやる。

 そうなるように追い詰めてやる。

 お前が逆らうほど、

 お前の代わりが増えるぞ。

 お前のせいで。

 お前のせいだ』


「クソ野郎ども・・・。イタイ勘違い女の下僕に過ぎないくせに」


 低く唸るとシェードの気配が近づいた。

 見下ろすアイスブルーに擬態した両眼の奥に本来の赤と緑がちらつく。


「我が主、何を望む?」


 唆すように囁かれて私は瞼を閉じた。


「この手で奴らを殲滅し、勘違い女の遺した誕生システムを破壊して、二度とふざけた人形遊びなど出来ないようにしてやる」


 視界を戻した時、私の瞳の色は本来の黒だ。変化や変色に思考を使う必要は、もう無い。

 周囲が息を呑み、約一名が耳と尻尾をビンビンに立てて狂喜している。


「我が主、闇月の望みのままに」


 シェードが恭しく頭を垂れると、クロも私の前に跪き、夜空は指示を受けずともセシルと自分に守護結界を張り、銀麗は黄煌と視線を交わし鬨の声を上げた。


「総員出撃! 逆賊より王宮を奪還せよ!」


 人族とは違った咆哮のような歓声と共に、魔人族の軍人達がギラついた目で離宮を出立した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ