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水晶国上陸

 水晶国の港に接岸。錨を下ろす。

 大国の大きな港だと言うのに昼間から目の届く範囲には誰もいない。

 けれど物陰からは剣呑な気配がビシバシ多数。舐められてるなぁ。

 乗組員とピンク縦ロールを船上に残して、セシルを囲んで隠すように私達が上陸したところで、気配の元からワラワラと人が出てくる。魔人族だろう。一番偉そうな男は頭にバッファローみたいな角がある。


「陛下を弑して王座を簒奪せんとする逆賊銀麗の一味を捕らえに来た。この場で始末しても構わんが慈悲をくれてやる。大人しく縛につけ」


 バッファロー男が見た目通りに偉そうに言った。

 銀麗は無表情に呆れの溜め息をついた後で淡々と言葉を紡ぐ。


「身に覚えが無い。水晶国の王座など興味も無い。兄上の親衛隊ごときで私に敵うとでもお思いか。相変わらず頭が足りぬことだ」


 兄上、てことは、バッファロー男は王子か。元から仲が悪そうだな。周りが親衛隊ということは、正規の軍は連れて来てないということ。こいつの先走りで言いがかりをつけてるのか?

 バッファロー男を馬鹿にされて親衛隊とやらの殺気が分かりやすく増す。


「私は陛下の命で動いている。私を愚弄するのは陛下を愚弄するも同じ。逆賊に違いない」

「陛下の命ならば私を捕らえるに親衛隊ごときでは足りぬとお分かりにならぬ筈がない」


 勝ち誇って逆賊扱いしたバッファロー男に冷静に言い返す銀麗。図星なのか、言い返されて悔しそうだ。


「陛下の命だというのは真だ! 陛下の命だと言うのに軍部が出動を拒否したのだ! 奴らも逆賊として謹慎を命じてある!」

「逆賊だと言うのに処罰が謹慎か。大方、軍部を捕らえて処刑するには力不足で謹慎だと喚くくらいしか出来なかったのであろう」


 また図星なんだな。ギリギリと歯軋りの音がする。

 でも、陛下の命だというのは本当っぽいな。騙りをしてる表情じゃない。本気でそう思ってるから自信を持ってる顔だ。

 銀麗の話だと、王様とは話がついてる筈だよね。王位についても明文化したと言っていた。なのに今、逆賊扱いは後ろに何かが居そう。


「うるさい黙れ‼ 逆賊の一味を捕らえることは王命だ! 銀麗以下人族三名、獣人族一名、翼人族一名! 神妙に縛につけ‼」

「兄上」


 喚くバッファロー男に銀麗が一言、抑える気の無い威圧を濃密に込めて呼びかけると、魔人族達が硬直した。

 魔力が見える種族だから、ただでさえ銀麗には敵わないことが分かってるだろうし。私も光の蛇の真似でもなければ出せないレベルの威圧だ。これは敵対すればビビる。


「兄上は水晶国及び魔人族の恥を晒し、大戦と同様の種族間戦争を引き起こすつもりか。不当に他種族の人命を扱うことが、そもそも王族としての責を軽んじる愚行だが、彼らは種族の代表だ。兄上ごとき一王子とは身分が違う」


 威圧を込めたままの銀麗の言葉に応じ、夜空が体内に収納していた濃紺の翼をばさりと広げ、クロが漆黒の鱗を煌めかせる大蛇に変化した。

 バッファロー男以下、親衛隊の魔人族達が驚愕に慄く。この反応は、まさか知らなかったのか?

 というか、夜空とクロって偉い人だったのか。里長と神獣はそれぞれ種族の代表者ではあるけど、王と言う呼び名じゃなかったから、高い地位を示すものだと思わなかった。

 他の種族から見たら、種族の代表者は国王と同義なのかな。


「な、ならば、銀麗以下人族の三名だけ、獣人族一名、翼人族一名を捕らえる」


 なんだ? 言葉の接続がおかしいぞ?

 言った本人も自分の口が信じられないようにアワアワしてる。

 私は小声でシェードに訊ねる。身分証上は夫婦という事になっているし、港の不穏な気配を察知して腕を組んでベッタリくっついて下船したから、内緒話の体でヒソヒソと。バッファロー男達に読唇術を使われないように口元を手で隠しているけど、人族より聴覚の鋭い仲間には聞こえる小声。


「もしかして、操られてる?」

「ああ。唆されてるんじゃねぇな。力量以上のことはできねぇようだが、何が何でも命令は遂行するようになってんだろ」

「王様が操ってるの?」

「王なら命じれば済むだろ。王命が真実なら王も操られてる可能性があるな」


 銀麗の背中がピクリと僅かに揺れた。正面にいるバッファロー男達には感づかれなかっただろう。


「精神操作ってことは、背後に異常能力者がいる?」

「ああ。どうする?」

「銀麗」


 呼びかけると、狼狽えるバッファロー男達から視線を外さず威圧をかけたまま銀麗が片手を私に伸べて話を促した。


「発見されてる異常能力者に思い当たるのはいる?」

「いや、危険な異常能力者と判じられている者が地位の高い者に接触することは許可されない。発見された異常能力者の動向は常に監視されている。現在水晶国の王宮に入っている者はいない筈だ」


 ハッキリ何かをやらかすまでは異常能力者と認識されないみたいだしなぁ。

 てことは、未発見の異常能力者か。

 それが、このタイミングで都合良く水晶国の王宮に現れて王族を操るのが偶然なわけない。


「銀麗、水晶国の王宮って人族が簡単に入れるの?」

「簡単ではないが、王族や外交官ならば申請すれば王族への謁見も可能だ」

「じゃあ人族の王族か外交官に異常能力者がいたとか?」


 私の言葉を聞いて、ふむ、と唸った銀麗が、まだアワアワしているバッファロー男に声を張った。


「兄上、最近人族と会ったことは?」

「な、なんだ? 今貴様の連れに会ってるぞ」

「今ではなく。陛下もお会いしたか訊いている」

「き、貴様に答える謂れはな」

「答えよ!」


 狼狽えながら反抗するバッファロー男に最後まで言わせず銀麗が一喝。格が違うなぁ。バッファロー男が「ひっ」ってなった。


「い、五日前に人族の王太子が婚約者だという画家の女を連れて挨拶に来た」

「見知った王族か?」

「いや、だが王太子の徽章を所持していた。女は平民だが絵の才を見出されて正妃として迎えることが決まったと。腕を披露したいから手土産の一つとして国王陛下と王妃殿下の絵を描かせてくれと」

「・・・描かせたのか」

「あ、ああ。なかなかの腕だったぞ。私も陛下に勧められて描いてもらった」


 うん、怪しい。絵を描かれると駄目なやつだ、きっと。


「他に画家が描いた者は?」

「王族は貴様と第二王子以外皆だ。他は勅命で呼び出された古の巫女の一族が」

「古の巫女を何の為に呼び出した?」

「は? あ、王太子が古代史を研究しているからと古い知識を持つ者との面会を希望して」

「古の巫女は無事か?」

「は? 別に奴らを殺すために呼び出したわけじゃ」

「無事なのか?」

「え? ああ、死ぬまで眠り続けるだけだ」


 どこが無事なんだ。

 バッファロー男の言葉をぶった切りながら情報を聞き出す銀麗の表情が、どんどん苦いものに変わっていく。


「絵を描かれた者が、絵を描かれたことで、死ぬまで眠り続けることに疑問を持たなかったのか?」

「え? は? あ? だが、心配無いと。考えるなと」

「心配無い、考えるなと、誰が言った?」

「王太子に言われて、画家が」

「死ぬまで眠り続けることは、寿命以外では死なぬスライム種にとってはどういうことかすら分からなくなったのか?」

「あ・・・? 死と等しく自由を奪われること・・・だが、心配無いと、考えるなと・・・あ、あ? ああああああああああっっ!!!」


 突然頭を抱えて叫び出したバッファロー男を周囲の親衛隊は、心配そうだったり気味悪そうに見ている。忠誠心に温度差があるようだ。


「捕らえろ! 逆賊銀麗以下人族三名獣人族一名翼人族一名全員捕らえろ! 捕らえろ! 捕らえろ!!!」


 どう見ても様子のおかしい上司の命令を聞くのを躊躇う親衛隊。種族の代表者を拘束すれば種族間戦争が起きかねないことも分かってるらしい。

 王宮に入り込んだ異常能力者の能力が、絵を描いた相手を操るものなら、大勢を一気に操ることは出来ない。

 この場で操られているのはバッファロー男だけで、親衛隊は一応正気か。


「銀麗、あいつら拘束しちゃっていい?」

「構わんが、お前の手を煩わせて良いものか」

「時間が惜しいからいいよ。それに、銀麗にはお世話になりっぱなしだから手伝わせて。水晶国を取り戻すの」

「頼んだ。親友殿」


 流し目でニヤリとする銀麗に、こちらもニヤリと返して指示を出す。


「シェード、バッファロー男を拘束して。夜空、仲間を結界で守って。クロ、雑魚どもを無力化」

「任せろ」

「お任せを」

「はーい♡」


 力量差がありすぎて、制圧はあっという間だった。

 何かに守られてる感覚が起きたと同時にシェードと人型に戻ったクロが飛び出し、狂乱中のバッファロー男は引き倒されて本人が持っていた拘束具で縛り上げられて転がされた。

 統率されていない親衛隊は、次々と視認できないスピードのクロに当身を食らわされて昏倒する。体重は軽そうに見えるけど、跳猫のスピードと怪力蛇の力で繰り出される当身は魔人族でも耐えられないようだ。


「クロ、倒した奴らを拘束」

「ご褒美は?」

「終わったら頭ナデナデ」

「はーい♡」


 親衛隊も自分らが持っていた拘束具で縛り上げられて行く。こういうの何て言うんだろう。自給自足? それにしても、シェードと言いクロと言い、縛り上げるの手慣れてるよね。


「銀麗、これで放置しても追って来ない?」

「ああ。拘束具を破壊しなければ無理だな。上手く結ぶものだ。これは仕組みを知る者でも破壊せずに解くことは出来ん」

「破壊は簡単?」

「一般的な魔人族の力では無理だ。拘束された者の手足の一本ずつも切り取って隙間を作れば脱出も不可能ではないが。道具を使えば一日がかりか。拘束された者にも刃物傷は入るだろうがな」


 えげつない拘束したんだね、二人とも。神獣が何のプロなのか、ちょっと疑問が湧いてきたよ。

 ともあれ、一日は放置でこいつらの邪魔は入らないのか。


「夜空、銀麗の船を結界で守ることは出来る?」

「勿論。貴方の望みならば、如何様にも」

「銀麗、乗組員とピンク縦ロールは王宮の安全が確保されるまで船で待機でいい?」

「ああ。私もそのつもりだった」


 銀麗が乗組員に待機命令を下し、夜空が船を丸ごと包む結界を張る。


「王宮までの移動手段は?」

「少し離れた所に馬車を手配している」

「じゃあ、御者はシェードと私。銀麗とセシルは中に乗って。クロと夜空は自力移動。銀麗の配下は王宮に近づかず待機、で行こう」


 私の言葉に全員が了承の返事をくれる。

 青空の下、不気味に静まり返った港を抜けて、銀麗を先頭に移動を開始した。

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