各種族の特殊能力
銀麗が手配した「全員分」の夕食は、夜空とクロも来ることを想定していたようだ。
私やシェードの正体を聞かせられる者は少ないので、用意された夕食は給仕のいらないビュッフェスタイルだった。
場を整えた使用人達が礼をして退室すると、家主として銀麗が軽く挨拶し、飲み物や食べ物を各自手にして話し始めた。
部屋ごと夜空が密談用の結界で包んでくれる。
結界を「結界魔法」と呼ばず「結界術」と呼ぶのは何故だろうと訊いてみたら、結界は翼人族の特殊能力で、魔法ではないそうだ。
人族以外の種族は様々な特殊能力を持っている、程度の認識だったけど、かなり細かく定義は分かれていると説明してもらった。
翼人族の特殊能力は、結界術。
結界にどんな効果を持たせることができるかは、個人の知識や研究、発想次第。結界の強度や大きさは、術者の魔力量次第だそうだ。
ただし、結界の強度や大きさが「魔力量に拠る」だけであって、翼人族が結界術を使っても魔力は消費しない。物知りのアイディアマンで魔力量が豊富だと、面白い効果の頑丈で大きな結界が作れるよ、ということみたい。
翼人族は元々魔力量が多い種族だから、防御用の結界を張ったまま攻撃魔法を使うことも可能だけど、魔法を攻撃の手段にしようと考える翼人族がいないそうだ。
魔力量を考えれば、全力で攻撃魔法を放てば小国くらい焼き払うことも計算上は可能と銀麗は言う。夜空は黒い笑顔で否定していたけど。
個体差はあれど、種族的な平均値では翼人族が全種族で最も魔力量が多いんだとか。
種族的な特性で平和主義っぽくて良かったね、なのかな? 見た記憶で違和感を覚えるほどのスルースキルは気になるんだけど。
翼人族の次に魔力量が多いのが魔人族。ただし、個体差と血統差が激しいそうだ。
概ね貴族の方が平民より上だけど、例外も多いから軋轢も生じるらしい。近年の水晶国は、実力主義派が貴族にも増えているそうだ。
で、魔人族の特殊能力は血統別に多種多様。
銀麗みたいに自分で亜種の力を作っちゃう人もいる。
誰がどんな能力を持っているかを把握しているのは、調査機関を抱える立場の人達くらいだそうな。
そして、魔人族は特殊能力を使うのに魔力を消費する。ここが翼人族の特殊能力とは違う。
滅亡した妖精人族も平均的に魔力量の多い種族だったそうだ。
種族の特殊能力として「浄化」を持っていた筈だから、疫病で滅んだことが未だに信じられないと考える人々も長命種族には多いらしい。
妖精人族の浄化は、毒などの有害な不純物の除去の他、悪霊憑きの治療にも効果があったらしい。それもあって、悪霊憑きは「体内に有害物質が発生する病気」として、迫害されず治療や保護の対象になっているそうだ。
もしかしてワンブックにおける妖精人族の役割って、ファンタジー小説の聖女や聖人みたいな感じだったのかな。特殊能力の効果が聖属性ぽい。治癒魔法は魔人族の吸血種に適性が多いらしいんだけどね。
絶滅するまでは、妖精人族の浄化を求めて各国から果樹花王国を訪れる者は絶えなかったと言う。大陸の中央という立地も、訪れる側にしてもありがたかったそうだ。
ん? ちょっと待って。
妖精人族滅亡に人族が慣れたタイミングで悪霊憑き騒動って、何か裏を感じるような。
浄化で悪霊憑きを治せる妖精人族が存在しなくなってから、悪霊憑きが危険だと騒ぎ立てて洗脳した生臭坊主も、この前の悪霊使いも。
悪霊憑きだから子供を暴力的に拉致して目玉を抉り出していいのである、なんて洗脳の台本、ロリコンでショタコンの生臭坊主が本当に自分で発案したんだろうか。
美少女や美少年の綺麗な顔が大好きだったのに?
悪霊使いの、俺の王国を作るぜ計画だって、本気で自分で発案してたら相当のお花畑頭だ。
最初はアホな奴だなーと思ってたけど、本物のアホに売れっ子旅芸人ができるだろうか。少なくとも各地で浮名を流せる話術を繰り出す頭と、トラブルを避ける機転はあった筈だ。それに、私よりよほどワンブックの常識は持っていただろう。
そんな男が、悪霊憑きを操って遺跡となった国に自分の王国を作れると本気で考えるか?
「アン?」
何かが背筋をゾワリとさせ身震いすると、セシルに心配顔で覗き込まれた。
銀麗や夜空に説明を聞きながら思考に沈んでしまっていた。
頭を振ってセシルに笑顔を返す。
「大丈夫。知らないことを聞いてるから頭で整理してただけ」
「そう。こっちの鴨のムースも美味しいよ」
「ありがとう」
セシルからカクテルグラスに繊細に盛り付けられた料理を受け取った。
軽い赤ワインに合いそうな味に舌鼓を打ちながら知識人達の話を聞く。
妖精人族も特殊能力を使うには魔力を消費していたそうだ。
獣人族の特殊能力は獣種により多種多様で、獣人族はそれを獣種の固有能力と呼ぶ。
魔力量の多い種族ではないが、固有能力は魔力消費無しで使用可能。能力差は生まれつきで、どれだけ修練を積もうが覆すことは不可能。ただし、修練で己の限界までは能力を伸ばすことはできる。
人族には種族固有の特殊能力は無いが、強いて言えば繁殖力の高さかもしれない。と繁殖力の低い種族は思っているそうだ。
あれほどまでに同じ種族同士で殺し合っているのに滅びず繁栄しているのは、もはや特殊能力だろう、と。
言われてみればそうかもなぁ。他の種族よりは同族意識は低そうだ。そして、寿命が短いせいか懲りない。
戦争に限らず殺し合いは日夜起きているだろうが、悲惨な結果が齎されることを知っていても反省するには寿命が足りない。
短い人生、反省する暇があるなら利益追求に時間も力も使おうとするのは種族的な特徴かもしれない。
特に、自分の目で見ていない、自分が生まれる前の殺し合いで起きた悲劇や、自分が死んだ後に起こる殺し合いの結末などを材料として反省して行動を変えることは難しいだろう。
目の前で起きていない、調べることも学ぶこともできないものから、何を想像して反省できると言うのか。
過去の資料を図書館やネットで閲覧したり、平民でも当たり前に高等教育を受けることができた元の世界ですら、それができない人間は少なからずいた。
元の世界の「簡単に知識を得られる環境」は、この世界で同じことをすれば「世界が転覆しかねない最重要機密が万人にタレ流されている」ようなものだ。
元の世界でも各時代の権力者に都合よく編纂された歴史は当然あるだろうけど、こっちみたいに銀麗のような特殊な立場の天才しか真実を追求するチャンスが無い世界ではなかったし、研究の成果や自分の考えを発信する手段も平民でも持っていて、発信した情報は瞬時に世界を巡った。
そんな環境でも、自分の身に起きるまでは、争いごとも殺し合いも、どういうもので、どんな被害を後々まで引きずるのか、どれくらいの範囲まで影響を及ぼすのか、何一つ想像ができない人は少なくなかった。
この世界では、焚書で過去を消し去り、年表は史実を操作して、悲惨なニュースが平民まで拡散されることもなく、戦争の無い時代の人族は約80年の寿命を「美しい世界」で生きて死ぬ。
他種族は人族には秘する常識や知識を持ち、それを傍観している。
人族が「自分達はこのままでいいの?」と考えるには人生が足りない。得られる情報も足りない。
各種族の特殊能力の話を聞くだけでも、この世界にとって人族って何なんだろうと思ってしまう。
『世界』にとって、人族って何?




