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再び従属の誓い

 唐突に現れたであろう私を即座に腕の中に囲ったシェードは、果樹花王国遺跡から最も近い人族の国の郊外にある、銀麗の別荘の一つに滞在していた。

 私が消えてから四ヶ月近くが過ぎていたらしい。

 答え合わせと要求の会話だけでどうしてそうなるとも思うが、こっちと同じ体感時間で永遠に生きるのは苦痛だろうし、光の蛇の自衛手段なのかな、とも思った。

 シェードの従属の誓いは光の蛇とは無事に切れていたようだけど、折角自由になったのに、今度は私と契約したいと言い出した。


「いや、なんで? 私はシェードを下僕にしようと思わないよ」

「なら、お前が下僕扱いしなきゃいいだけだ。俺はお前を人質に取られたら、また望まない従属の誓いを誰かに立てさせられるかもしれねぇ。それを防ぐ為にもお前と契約させてくれ」


 あぁ、そういう理由なら。確かに危険はあるかも。

 有用な固有能力のある獣種が途絶えた獣人族の歴史を考えれば、シェードがフリーなのは不安要素かもなぁ。

 あれ? シェードって今は名前どうなってるんだ?


「それも問題なんだ。神獣が神になるには、修行により資格を得てから地上での名前を捨てるってぇ過程が必要だ。だから今の俺には名前が無ぇ。相棒が名無しじゃ困るだろーが」

「まぁ、確かに」

「それに従属の誓いで限界突破した影犬の能力が元に戻ってんだよ。神の力も全開まで戻ったが、お前の相棒をやるには影犬の能力の方が使い勝手がいい」


 そうだなぁ。隠密とか変身とか多いもんなぁ。破壊と再生の力を全開で使えると言われても、それって秘密裏に問題解決する手段にならなそうだし。


「それでいいならいいけど。今更他の名前にするのも呼びにくいよ」

「別に変える必要はねぇぞ。同じ文字と音でも別の奴に付けられたら俺にとっては別の名前だ」

「あ、じゃあシェードで」

「礼を言う。闇月、我が主」


 うわ、もう儀式が始まってたのか。腕の中に囲われたままだったから日常会話の延長みたいだ。

 よく分からないけど、誓いの口づけって長いものなんだな。クロのも長くてねちっこかったし。そう言えば、夜空から記憶を貰う時には8時間くらい舌を入れられっぱなしだったんだな。

 あれ、なんか、腕の拘束が強くなった。

 てか、クロより長いよね? シェードの方が強いからなのかな。神獣じゃなくて元神獣の神だからとか?

 まぁ、シェードだし、クロや夜空みたいな腹黒い下心は無いだろう。なんか、気持ち良くて眠くなってきたな。


「・・・・・・。お前、今後何か契約する時は、絶っ対、必ず! 緊急時でも! 俺に言ってからにしろ」

「んあ? あ、うん。分かった。契約終わった?」

「無事に終わった。これで俺を縛れるのはお前だけだ」

「よかった」


 これでシェードを守れる。


「シェード、息ができない」


 絞め技みたいに抱きしめられた。そうか。接触で多幸感が出るんだっけ。


「多幸感は出るがお前を傷付ける暴走はしねぇぞ」

「なら問題は無いかな」

「ああ・・・色々心配だが」

「何が?」

「こっちの話だ。お前はお前で考えることが山ほどあるんだろ?」


 そうだった。塔で答え合わせをしたのは、今の時点で最終解まで立てた仮説だけ。

 大戦以前のワンブックについては、夜空の記憶でしか分かっていない。

 何故あれほど徹底して自分以外の女を蹴落とす箱庭を創造したくせに、大戦前まで闇の女神信仰なんか許していたのか。

 その時まで存在を許していた闇の女神信仰を、あのタイミングで排除した理由は何か。

 そもそも、闇の女神ってなんだ?


「シェードは闇の女神と会ったことがある? 神々の中にいる、またはいた?」

「俺が神になった時にはいなかったな。つか、神々の住居や作業場に女神がいたことは無かった筈だぞ。話題に出たことも無ぇ」

「信仰刷新の時に殺されたとか?」

「信仰刷新以前に神になった奴らからも聞いたこと無ぇ。それに神を殺すのは神以上の存在以外には不可能だぞ」


 この世界で神以上の存在というのは、『世界』か光の蛇だけだよね。

 でも、現存する神々の話題にも出たことが無いってことは、闇の女神信仰は偶像崇拝だったのか?

 夜空の記憶では、ワンブック人の人口が増えて安定し始めて各種族の社会が回り始めた初期に発生した信仰みたいなんだけど。


 自分だけモテたい願望女の『世界』が、その発生を許したのが不思議。

 その後の、人気が出そうな女性を徹底排除するやり方を見れば、そんな信仰が発生した時点で人類滅亡させて箱庭を創り直しそうなのに。

 自分だけモテたい願望女の恋愛脳っぷりは元の世界で何人も見たことがあるから、行動予測はできるんだけど、そいつらが内心で何を考えてるのかはサッパリ理解できないんだよね。

 表面から読み取れる「何を考えてるのか」は分かるんだけど、どうしてそんな考えになるのかが全く理解不能。欲望の分析はできるけど、それ以外の思考の部分が訳わからん。

 全人類の男にチヤホヤされるって重要なの? 面倒じゃないの? 鬱陶しくないの? 上手く操れたら支配はしやすいかもしれないけど、チヤホヤの仕方って人それぞれだから対応を誤ると暴走するよ? ストーカー殺人なんて大抵はチヤホヤからのスタートなんだし、ファンがアンチ化した時が一番困る敵になるんだよ?

 優越感とか脳内麻薬とか承認欲求とか、後から起きそうな面倒事全部と秤にかけてまで求めたいものなんだろうか。


「そこまで考える奴は最初から恋愛脳にはならねぇ」

「あ。・・・なるほど」


 いや、でも『世界』って、それなりに長生きしたんだよね? 

 アイタタタな女子中学生みたいな精神のまま最初から最後まで貫いたのかな。


「俺は直接は知らねぇが、関わった奴らの感想は最悪だからな。晩年まで成長が無かったんじゃねぇか?」

「え? 皆に愛されてたんじゃないの?」

「少なくとも現存する魂を持つ神々で『世界』を良く言う奴はいねぇぞ」

「え、『世界』の計画大失敗じゃない」


 やってきた事を考えれば、まともな男に好かれるとは思えないけど。

 てことは、神々は結構まともなのかな。女の趣味に関しては。


「光の蛇だけで満足しときゃ尊敬はされたんじゃねぇか? 仮にも創造主だからな」

「シェード、今までかなり言論統制されてたんだね」

「まぁな」


 苦虫を噛み潰したような顔。でも、シェードが訊いたら答えてくれるこの状況は嬉しいなぁ。

 ぽすぽす。頭を撫でられる。

 あれ? まだシェードの腕の中だった。違和感が無いから気付かなかった。


「で、神々に『世界』の話を聞きに行くか? それとも地上で闇の女神の情報を集めるか?」

「あ、そうか。神々の間では闇の女神の話題は出たことが無いんだっけ。だったら地上の方が情報を得られるかな。前に銀麗が闇の女神の巫女の子孫から話を聞いたって言ってた」

「じゃあ先にそっち行くか。神々の住居には俺が連れて転移するからいつでも行けるしな」

「うん。今、銀麗は居る? いい加減挨拶に行かなきゃ」


 不法侵入してから結構時間が経った気がする。


「水晶国から来客中らしいぞ。今朝、俺にしばらく部屋に籠もっててくれって言いに来た」


 シェードを会わせちゃマズイ客。銀麗にとって味方と言えない相手かな。

 それなら私も姿を見せない方がいいか。


「あいつが直接呼びに来るまで、俺の昔話に付き合ってくれるか?」


 軽い気持ちで頷くと、シェードのかなりヘビーな過去を聞くことになった。

 窓の外が夕暮れから黄昏になる頃にドアをノックした銀麗は、私が現れていることよりも、私がシェードの膝の上で腕に囲われてお茶を飲んでいることに吃驚していた。

 うん。無意識だった。全然違和感が無くて自然にそうなってた。

 まだシェードと夫婦の身分証を持ってるから、特に問題は無いのかな?

潜在能力が物凄く高いので、本気になればシェードは頭脳戦も得意です。常識人の顔をして主人公から絶対の信頼を得ていますが、本気の執着が始まったので、クロや夜空より腹黒いと思います。

でも内心で主人公のあまりのチョロさに頭を抱えています。

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